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2010-12-08

吉原御免状 : 隆慶一郎

『吉原御免状』 隆慶一郎

 赤子の頃より肥後の山中で宮本武蔵に育てられた剣士松永誠一郎。二十六になった年、養父武蔵の遺言に従い、江戸・吉原に辿り着いた誠一郎を、身に覚えの無い無数の殺気が取り囲む。

 「吉原御免状」なるものを巡る、吉原者と裏柳生の暗闘。奇抜な着想のもとに描き出された驚くべき吉原の姿もさることながら、何と言っても、二天一流の誠一郎と柳生義仙率いる裏柳生の一団との剣戟に興奮する。どんな手を使っても相手を斃す柳生の暗殺剣、人を斬っても陰りを帯びることのない誠一郎の清々しい剣、黒白はっきりとしたぶつかり合いに加えて、吉原で誠一郎を導く不思議な老人・幻斎の異形の刀術。豪華である。

 次に目を瞠るのは、世間の全ての縁から放れ、死と隣り合わせの自由を生きる「無縁」の徒、世俗の権力の及ばぬところで、かつては国々を自由に往来した漂白の民、諸芸に秀で、遊びに馴染んだ傀儡子族によって作られた、遊興の街にして、いざというときには戦闘も辞さない城塞となる異様な吉原の姿。  

 ところで、その吉原での数々のしきたりや、風俗、生活の様子などが語られる中で、男とのコトにあたっての、吉原の女たちの努力・工夫・技が礼賛されるのはいいとして、吉原の外の地女(素人)や現代の女たちの無造作・無頓着ぶりが苦々しげに書かれているのは余計なことではないか?

 話がずれかけたが・・・ その吉原の女たちに悉く惚れられる誠一郎・・・姿がよく、心は純粋で、しかも天才的な剣士であるが、“女”に対する“男”だという感じがしない。いや、“男”であるどころか、未だ“人”になっていないという気すらする。幼い頃より獣を相手に山中で育ち、寂しさ、辛さ、痛みや、自然の快さは知っていても、恨み、憎しみ、怒り、喜びといったものを未だ知らぬ、あまりににも無垢な童子。

 この童子の如き誠一郎の“きれいさ”を守るかのように、身を擲って誠一郎に尽くし、闘う吉原者。敵役の義仙ですら、物語の中で、誠一郎をあくまでもきれいなままに保つ為に、全ての悪と醜さを一身に背負わされてしまったようにも見えて、何だか気の毒である。

 柳生の手から「吉原御免状」を守った誠一郎は、この先も吉原を守り続ける為、自ら修羅に落ちる決心をする。修羅に落ちた無垢な童子は、どのように“人”になっていくのだろうか。続編『かくれさと苦界行』で味わえるだろうか。



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