2010-12-29

小川洋子の偏愛短篇箱 : 小川洋子編

『小川洋子の偏愛短篇箱』 小川洋子 編

 小川洋子氏の小説・・・何か得体の知れない気味悪いものとして遠ざけたいという気持ちがありながらも、つい目がひきよせられてしまうのは、その小説世界のアンバランスさが気にかかってしかたがないから。

 その小川洋子氏が、偏愛するものたちを収めた箱から取り出し、編んだ、アンバランスな空気と鉱物のような絶対性を持つ短篇のアンソロジー。内田百けん、江戸川乱歩、金井美恵子、牧野新一、川端康成、横光利一、森茉莉、宮本輝、田辺聖子、吉田知子、他・・・十六篇。


 日常の整然とした世界に隣接していながらも、全く独立して存在している、ひんやりと、ひっそりと、静かに何かが狂っているような世界。その短篇の中の住人らの目は、騒々しく、生命力に満ちた世界の人たちが見ているもの ~安全で、穏当で、整然としたもの~ それらの何処をも見ていない。ただ自分に見えるものを真っ直ぐにひっそりと見詰める目。

 収められたそれぞれの短篇の最後の1行を読み終え、乗り物酔いのような吐き気とふらふらと眩暈のする頭を上げる。元の、健全で安全な世界の平衡感覚を取り戻したくて、それぞれの作品に添えられた小川氏の解説エッセイにすがりつくが、その小川氏の視線の向かう先に目をやって、またとんでもなくうろたえさせられてしまう。

 乱歩の「押絵と旅する男」に添えられた解説エッセイ「押絵と機関車トーマス」で語られること~

 もしかするとトーマスがテレビ画面に押し付けられたのも、不運な手違いからだったのではないだろうか。本当はこの世界で、元気よく煙を吐き出しながら客車を引っ張りたかったのに、気付いた時にははぜか、テレビ画面の中を走っていた。


 こんな言葉が、読後感をさらに不安で怪しいものにする。



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2010-12-25

ラインマーカーズ―The Best of Homura Hiroshi : 穂村弘

『ラインマーカーズ―The Best of Homura Hiroshi』 穂村弘

 沢山の沢山の沢山の沢山の「普通」の中で、何故だか…でも、それはもう明らかに(良くも悪しくも)「特別」であった街の景色、恋人のしぐさ・言葉、妄想の類かもしれない幻。

 ほんの一瞬の「特別」が、時とともにどこかへ流されて消えてしまわないように、その瞬間の心臓の音と一緒に永遠にピン留めする三十一文字。

 ひとつひとつ丁寧に執拗に切り取られピンで留められた「特別」。

 「普通」の中に紛れ込んだ「特別」につけられた印 ~ ラインマーカーのポップさだけでなく、ピンで刺して留める偏執ぶりを何だか感じちゃうんだけども・・・



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genre : 本・雑誌

2010-12-22

いろんな気持ちが本当の気持ち : 長嶋有

『いろんな気持ちが本当の気持ち』 長嶋有

 世代的に近いせいか、それとも著者の持ち味なのか、すご~く自然体で読める。書かれている内容にふと顔がほころんだりする。思春期に私も体験したものたちがちょくちょく文中に登場するのだ。「サボテンとバントライン」なんて言葉をみつけると、ちっちゃくじたばたしてしまう程度にテンションが上がる。他にも出てくるのは「ドラゴンボール」だったり「吉田戦車」だったり「高野文子」だったり、「もしもピアノが弾けたなら」だったり「パタリロ」「バトルランナー」「パイロット HI-TEC-C」・・・。

 自分の身近にあったモノや作品がこうしてエッセイの中で語られているのを見ると、自分がよく見ていて、しかもそんなに昔のことじゃないと思っているアニメが「懐かしの~」とかいうタイトルをつけられてテレビ特番で放映されているのを見るような、ちょっと“あれ?”というような嬉しいような、くすぐったいような気分だ。

 何しろ語られているものが今や絶版になっていたり、“知る人ぞ知る”といったマニアックなものでなく、割と気軽に手にとれるものなのがいい。

 身辺雑記を綴ったエッセイを読んでいても、その書き手への親しみよりもむしろ距離や異質さの方を意識させられることが多いのだけど、その点で長嶋氏のエッセイは何かフラットで・・・ふと、“長嶋氏って読者的な体質を多分に持った人なのではないか?”と思ったりする。



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2010-12-18

こどもの体温/彼は花園で夢を見る : よしながふみ

『こどもの体温/彼は花園で夢を見る』 よしながふみ

 妻亡き後、残された父と“中々うまく育った”息子。亡き妻の両親と、それぞれに事情のあるクラスメイトと、痛ましい事故に見舞われた後輩たちと・・・喪ったものの空白を感じながら、日々過ぎていく日常。 「こどもの体温」

 不幸な出来事で婚約者を亡くし、その後愛した妻を自らの猜疑心から死なせ、失ったものへの想いを埋めるように育ててきた少女は彼を残して去り・・・妻が丹精した美しい花園のある屋敷に残された男爵。
 戦で両親を失い、旅の楽師に拾われた少年。しかし、兄とも慕う楽師は、訪れた男爵の屋敷から少女とともに姿を消し・・・。 「彼は花園で夢を見る」

 
 とても大切な人を喪って、人は受け止めきれないほどの痛みとともに、それでも、いつまで続くとも知れない“生きるべき生”の中に残される。

 願わくは、少しでも痛みのやわらぐ時がありますように。寄り添うことのできる人がいますように。再び、幸せを感じる時に恵まれますように。



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2010-12-15

四谷怪談は面白い : 横山泰子

『四谷怪談は面白い』 横山泰子

 日本の夏にはお馴染みの「四谷怪談」は、日本の冬の風物詩「忠臣蔵」のダークサイドを描いた外伝でもある。その「四谷怪談」をより深く、面白く観賞するためのナビ的一冊。

 お岩、伊右衛門、お袖らのキャラクター分析。お岩が醜い女になること、伊右衛門が美しい男であることの意味。この怪談の怖さの質について。「忠臣蔵」とセットで見ることで浮かび上がってくる“義士になれなかった人たち”のドラマ。・・・様々な面からの見方、楽しみ方を提示してくれる。

 じっくりと原作を読んでみれば、お岩は残酷で理不尽な夫に嬲り殺しにされたわけではなく、伊右衛門は確信犯的・自覚的な悪人ではなく、お袖は健気で幸薄い娘なばかりでもなく・・・ 彼らの関係、キャラクターだけを抜き出して見ていると、南北が書いたのとはまた別なドラマも蠢き出す。

 そして、やっぱり私は・・・直助が好きだぁ!



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2010-12-11

忠臣蔵心中 : 火坂雅志

『忠臣蔵心中』 火坂雅志

 近松門左衛門と赤穂浪士・堀部安兵衛のつながりを軸に描かれる、浪士たちの吉良邸討ち入りの陰に息づいていたドラマ。

 国という自分の生きていく世界を突然失った赤穂の浪人たち。窮屈な世間を強く生きていく人。不器用に世間からこぼれていく人。近松のさびしく、しかし強く冴えた目が、巷の人々の生死を見つめ、書く。

 安兵衛の悲壮な生き様、近松が見つめるやるせない世間のありように、釣道楽の殿様津軽采女の静かに強い戦いが清々しさを添える。



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2010-12-08

吉原御免状 : 隆慶一郎

『吉原御免状』 隆慶一郎

 赤子の頃より肥後の山中で宮本武蔵に育てられた剣士松永誠一郎。二十六になった年、養父武蔵の遺言に従い、江戸・吉原に辿り着いた誠一郎を、身に覚えの無い無数の殺気が取り囲む。

 「吉原御免状」なるものを巡る、吉原者と裏柳生の暗闘。奇抜な着想のもとに描き出された驚くべき吉原の姿もさることながら、何と言っても、二天一流の誠一郎と柳生義仙率いる裏柳生の一団との剣戟に興奮する。どんな手を使っても相手を斃す柳生の暗殺剣、人を斬っても陰りを帯びることのない誠一郎の清々しい剣、黒白はっきりとしたぶつかり合いに加えて、吉原で誠一郎を導く不思議な老人・幻斎の異形の刀術。豪華である。

 次に目を瞠るのは、世間の全ての縁から放れ、死と隣り合わせの自由を生きる「無縁」の徒、世俗の権力の及ばぬところで、かつては国々を自由に往来した漂白の民、諸芸に秀で、遊びに馴染んだ傀儡子族によって作られた、遊興の街にして、いざというときには戦闘も辞さない城塞となる異様な吉原の姿。  

 ところで、その吉原での数々のしきたりや、風俗、生活の様子などが語られる中で、男とのコトにあたっての、吉原の女たちの努力・工夫・技が礼賛されるのはいいとして、吉原の外の地女(素人)や現代の女たちの無造作・無頓着ぶりが苦々しげに書かれているのは余計なことではないか?

 話がずれかけたが・・・ その吉原の女たちに悉く惚れられる誠一郎・・・姿がよく、心は純粋で、しかも天才的な剣士であるが、“女”に対する“男”だという感じがしない。いや、“男”であるどころか、未だ“人”になっていないという気すらする。幼い頃より獣を相手に山中で育ち、寂しさ、辛さ、痛みや、自然の快さは知っていても、恨み、憎しみ、怒り、喜びといったものを未だ知らぬ、あまりににも無垢な童子。

 この童子の如き誠一郎の“きれいさ”を守るかのように、身を擲って誠一郎に尽くし、闘う吉原者。敵役の義仙ですら、物語の中で、誠一郎をあくまでもきれいなままに保つ為に、全ての悪と醜さを一身に背負わされてしまったようにも見えて、何だか気の毒である。

 柳生の手から「吉原御免状」を守った誠一郎は、この先も吉原を守り続ける為、自ら修羅に落ちる決心をする。修羅に落ちた無垢な童子は、どのように“人”になっていくのだろうか。続編『かくれさと苦界行』で味わえるだろうか。



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2010-12-04

数えずの井戸 : 京極夏彦

『数えずの井戸』 京極夏彦

 バラバラなのだ。こんなにもバラバラなものたちが、一体どう作用し合ってあの惨劇をもたらしたというのだろう? このバラバラな者達が呑込まれていく先は、なぜ同じ一つの闇の中だったのだろう? とても観念的な前衛芝居でも見ているようだ。


 「これで本当に全部なのだろうか」・・・常に「足りていない」という思いに苛まれる青山播磨。

 勘定をすることができず、「そこにあるもので全てなのだ」と思う菊。

 全て壊れてしまえば欠けなど無くなると言う遠山主膳。

 常に増え続けることを欲し、数えることで限りを知ることを嫌う吉羅。

 十まで数えることも出来ぬのに、一つ二つと数えていなければ何も出来ぬ米搗き三平。

 探さなければ“在る”ものを、探すから無くなる・・・ 数えなければ揃っているものを、数えるから欠ける家宝の皿。


 数えることなどできぬ全体と、数えることで生まれる細部。一旦数え始めた細部は、どんなに集まっても全部になることははい・・・・・

 彼らは“全部”もしくは“無”になろうとしたんだろうか? 似たようなものに囚われていながら、それぞれバラバラに散らばっている者たちが、暗い井戸の周りに集まってくる。バラバラだった彼らは数えることも出来ないくらい完全に壊れることで、一つのおはなしになったのだろうか?

 いや、もともと・・・おはなしは一つではなかったのか。



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2010-12-01

神無き月十番目の夜 : 飯嶋和一

『神無き月十番目の夜』 飯嶋和一

 慶長七年十月、徳川の支配が各地に及ぼうとする中、新しい領主による検地に抵抗し、一村ことごとくなで斬りの惨劇に見舞われた村。

 水戸城からの呼び出しに応じ常陸国小生瀬の村を訪れた旧月居軍の騎馬衆・大藤嘉衛門の眼前に広がる異様な光景から ~ ほんの数日前までの生々しい暮らしの跡をそのままに留めながら、人々が忽然と消えてしまった村に漂う血生臭い野戦場の匂い。村の奥に隠された谷間に累々とその無惨な姿を曝す夥しい数の屍。 ~ この悪夢のような出来事の顛末が語り起こされる。

 日々の暮らしとは関わりなく人々を襲う運命の変転。支配する者と支配を拒む者の間の激しい軋み。作者は硬派な筆致で権力を持つ者の理不尽さ、己の保身のみを考える者たちの醜さ、そして“無辜の民”である人々の限界~純粋であるが故の始末に負えない身勝手さや愚かさまでをも容赦なく描きながら、最悪の結末へと自ら走っていく人々の姿にそれぞれの人の持つ誇りや美しさを重ね合わせていく。

 悲惨な物語である。しかしその惨劇の顛末を書き上げるダイナミックな構成、強靭な筆の運びは、事態の陰惨さを描くだけでなく、単に善悪では割り切れない混沌の中にある人々の営み、荒々しく野性的な生命力を際立たせる。



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