2010-11-27

團十郎切腹事件 : 戸板康二

『團十郎切腹事件』 戸板康二

 歌舞伎の老俳優・中村雅楽を探偵役とした推理小説シリーズ。「車引殺人事件」「立女形失踪事件」「等々力座殺人事件」「松王丸変死事件」「團十郎切腹事件」・・・他。

 ケレンで読者を脅かす類のミステリーとは違い、シンプルに事件の謎解き=パズルを解く刺激を提供してくれる作品。読者をミスリードするような仕掛けもなく、事件を解くヒントは判りやすくあちこちに提示してあるので、雅楽探偵より先に謎を解いて、ちょっと得意な気分を味わってみるのも良かろう。

 事件関係者の心理を生々しく描き出したり、ことさらに奇怪な状況をつくりだしてみせたりしない、すらりとして鷹揚な語り口・・・余裕ある趣味人の遊びといった雰囲気を漂わせる。

 もちろん歌舞伎好きにとっては、演目についてのあれこれの記述や、芝居の裏舞台の息遣いがうかがえる描写も嬉しい。



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genre : 本・雑誌

2010-11-24

童話迷宮 : 釣巻和

『童話迷宮』 釣巻和

 小川未明の童話は甘くない。・・・と言っても、非情だとか、残酷だとかいうのではなく・・・何だろう、“厳格”とでもいうのだろうか。全てのものがそれぞれの摂理に則って運行される厳然たる世界。

 「赤いろうそくと人魚」「月夜と眼鏡」「野ばら」「金の輪」「飴チョコの天使」・・・他、小川未明の童話を元に描かれる迷宮世界であるが・・・小川未明の童話に感じた“世界を動かす摂理の厳格さ”よりも、“日常の外側にも、世界を動かしている別な摂理が存在する”というロマンティシズムを前面に打ち出した作品であるように感じた。

 各話を構成するアイテム、キーワードは原作から抽出されているけれども、ストーリーはまったくオリジナルと言って良いほどに作者独自に想いに引き寄せられているように感じられるので、“原案・小川未明”とうたうにはギリギリのところではないか?

 さて、作者オリジナルの作品として読もうとすると、絵柄に慣れていないせいもあるのか、どの人物も同じに見えるし、また、全てが別人にも見える(つまり、人物の判別が覚束ない)。まあ、何と言うか・・・そういう頼りなさも、迷宮っぽいか・・・。

 

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genre : 本・雑誌

2010-11-20

奇想と微笑-太宰治傑作選 : 森見登美彦編

『奇想と微笑―太宰治傑作選』 森見登美彦編

 以前もこちらのブログに書いたことがあると思うが、学生の頃から、夏休みが来る度に「『人間失格』を読もう。」と思い、文庫を買う→ひと夏読まずじまい→古本屋に売る、という一連の行動を何度も何度も何度も繰り返した末、遂に3年前の夏、『人間失格』を読んだ。3年前・・・ということでバレてしまうかもしれないが、小畑健描く表紙につられたクチである。

 そうして読んだ『人間失格』は私には如何ともし難い小説で、あまりの後味の悪さを何とかしたくて、『太宰治 滑稽小説集』を中和剤のようなつもりで読み・・・、世間と自分とのズレを冷徹かつ滑稽に描きつくした上で、困惑と羞恥に気を揉み、身を揉み、気弱に笑いながらも手には剃刀を握っているような男の面倒臭さを、“う~ん、遠巻きになら・・・”と、ちょっと眺めてみる気になったのである。

 太宰治が才気とユーモアとサービス精神に溢れる人であることも、太宰の滑稽の先に森見氏がいるらしいことも、先の『太宰治 滑稽小説集』で、何となく知らされていたわけで、森見氏が『特に若い読者のために』編んだこの作品集を、若くない私がわざわざ読む必要も無かったのかもしれないが、森見氏の作品は好きであるので・・・

 森見氏の作品のオモシロさに影響を及ぼしたのがはっきりとわかる太宰治のユーモア、サービス精神 ~ 最初の三分の一くらいは、ニコニコしながら読んだのだが、中盤に差し掛かった頃から少し・・・アレ? ・・・ヘンテコな小説がギュウギュウと詰め込まれたこの作品集がちょっと気味悪くなってくる。

 サービス精神の暴走、エスカレートする自虐行為。ニコニコ笑顔を血まみれにしてズイと寄せられたようで・・・ わ、わかった、まあ落ち着け、ちょっと待て、な、何もそこまで・・・。

 「服装に就いて」「畜犬談」のような、自虐がネタになっているものなら、まだしも安心して“アハハ”と笑えるけど、世間を見つめる目・自分を見る世間の目・自分自身を見つめる目・見つめる目を見つめ返す目が渦を巻いて襲い掛かってくるような「猿面冠者」「女の決闘」なんて、なんかもう・・・“うわぁぁぁあ~”って・・・

 “自分”というものに鈍感な私のような者が、“他人事”として読んですら、何かボディーブローのように効いてくる痛みがあるのに、鋭敏な自意識を持つ人たちがこの作品集を最後まで読んだら、相当に疲弊してしまうんではなかろうか?

 徹底して書く太宰も偏執的なら、それを編む森見氏も何か偏執的。『胸がキリキリして、居たたまれなくなり、~略~ワーッと叫びたくなる。』『これはもう恐怖小説である』とか言いながら、これらの作品を前にして、『世にもめずらしい宝石を一つ一つ置き並べるような気持ち』だなんて、・・・ちょっと・・・大丈夫ですか?


 

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2010-11-17

花狂ひ : 下村富美

『花狂ひ』 下村富美

 三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』の扉絵で気になっていた下村富美の作品集。“むさくるしいおっさんを素敵に見せる”というマジックを使う方です(笑)。

 平安後期から中世~死者が蘇り、骸骨が踊り、生首がしゃべり、人と鬼、精霊、物の怪たちが行き会う混沌がまだあちこちに残された世界。混沌の中に渾々と湛えられた生命力 ~ 生、笑い、悲しみ、死・・・全ての方向に開かれたパワー ~ そんな生命力に満ちた世界観を感じさせる。中でも「鬼舞」は10pという短さながら、とても広がりを感じさせる作品で、収録作中一番好き。



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2010-11-13

抒情的恐怖群 : 高原英理

『抒情的恐怖群』 高原英理

 禁忌、残酷、呪い、官能、悪夢、幻想・・・

 「抒情的恐怖」というよりも、これは「内向的恐怖」であると、私には思えた。

 易々とした理解・共感を拒むかのような、決して読みやすくはないいびつな語り口、修飾を凝らした、感覚的なものに依るところの大きい文体。綴られた恐怖の物語は、それ自身の内に閉じ、さらに深く深く内向していく。

 薄暗い予感、日常的な理解を超えた事態、人外の想念、惨劇・・・内に向かって沈んでいく「恐怖」を追いかけ、自分の中にその「恐怖」の感覚を再現するには、読み手にも色々なセンス? 心理的傾向? 素養? が不可欠であるような・・・(実のところ、作者自身、自分の「恐怖」をそんなに簡単に読者に手渡そうとは思っていないんじゃないだろうか。)

 そうして、「恐怖」の領域に触れ得ない場合、生肉系、内臓系、腐乱系、ブツブツ系・・・といった「恐怖」ならぬ「生理的嫌悪」との闘いに終始することになってしまう。私は後者だった。


 読み終えて思うのだけど・・・この本の中で最も万人向けな「恐怖」は、後頭部にも顔を持つ、表紙のこの彫像なんじゃないだろうか?



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2010-11-10

肝心の子供 : 磯崎憲一郎

『肝心の子供』 磯崎憲一郎

 ブッダ(シッダールタ)、その息子ラーフラ、ラーフラの子ティッサ・メッテイヤ。

 それぞれに、世界の真実に触れ、世界の在り様を体感した父子三代のお話。それぞれの姿を持って世界に遍く存在し、つながっていく生命。

 目に映り、心に浮かぶ情景をありのままに描き出す外国語の直訳めいた語り口は、淡々と遠いお伽話を紡ぐようだが、時に息苦しくなるほどに生々しく、鮮やかな衝撃をもたらす。ふと気付くと、周囲は瑞々しい輝きに満たされている。



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2010-11-06

アウトドア般若心経 : みうらじゅん

『アウトドア般若心経』 みうらじゅん

 一文字ずつ撮影された般若心経を見て感じるのは、みうらさんは心底救いを求めたんだなぁということと、お経として完成した一文字一文字に、苦しみだけでなく、やはりどこか可笑しさが漂っているなぁということ、そして仏教には、藁にも縋る思いを掬い上げる色々なアイテム・ノウハウが沢山用意されているのだなぁということ。

 苦しみのあまりみうらさんがとった行動が、般若心経の一文字一文字を街の看板から写し取るという、傍から見れば強烈にみうらさんを感じさせる、みうらさんならではの可笑しさに溢れる旅で、でも、みうらさんにとっては、そのひたすら文字を追う旅がいつしか“無心”をもたらす“修行”になっていたなんて・・・  ああ・・・ 

 仏教は本来とても個人的な体験、個人的な思索なのだろうと考えると、みうらさんは現代における本当に素朴な仏教の実践者ではないか。



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2010-11-03

からっぽ男の休暇 : いとうせいこう

『からっぽ男の休暇』 いとうせいこう

 都会で次々に舞い込む仕事を軽やかにこなし、眠らない日々を楽しんできた才能豊かな男に突然“それ”はやってきた。疲れたわけではない。才能が枯れた訳でもない。うまく説明できないが仕事はやめた。そのまま南の島へ長い休暇に・・・。

 海と太陽とぬるいビール。ある時は椰子の木につるしたハンモックの上で、ある時は波にゆられる小船の上で、ゆるゆるの思考をめぐらす。ゆるんだ記憶の中からは曖昧な童話の記憶がこぼれてくるけど、何かが違う、どこかずれてる。なんだっけ? 思い出さなきゃ。

 無理やりに思い出した結果・・・一寸法師は桶に乗って川を下るし、「鶴の恩返し」は「鶏の恩返し」にすりかわって、男はコッコッコッコッと首を振りながらビーチを駆ける。赤頭巾ちゃんを待ち受ける狼は小麦粉で腕を白く塗りたくっていて、側では子ヤギたちが震えており、あまつさえ豚の姿までが脳裏にちらつく~「豚はすっこんでろ!」


 実はこのお話を読んだのは数年前~南国・宮崎で暮らしていた頃のこと。

 南の島で男が体験するような“忘却”と“ずれ”を快感として味わうには、ずれる前のきっちりと充実して、合理的でちゃんとした形をした日常がないといけないわけですが・・・ 良くも悪くも全てが「てげてげ」、明らかに都会とは時間の流れ方が違う南国・宮崎でのゆるい日常~しかも失業中という終わらない休暇の真っ只中。太陽と緑と海と牛と蛙の鳴き声への倦怠が憎しみに変わってしまいそうな・・・ つまり、このお話を読むには最悪のシチュエーションで読んでしまったわけです。


 休暇が終わって東京に帰る男がただ羨ましいばかりだった。

 

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