2010-09-29

光堂 : 赤江瀑

 燃えるような紅葉の美しい庭に潜むもの。現と幻の間を行き来する漆黒の馬。遠くへ去った者たちが一時その姿を垣間見せる、見知らぬ街の夜市。都会のビル群のただ中、一人の女にだけ見える黄泉平坂。恨み呪う相手が死に絶えても、尽きない瞋恚の炎に焼かれ続ける痩せさらばえた青き鬼。

 自らの内に、静かにその暗い口を開いていた闇へと落ちていく男女。


 赤江瀑の小説を読んでいると、ぐにゃりと世界が歪む瞬間がある。なす術も無くその空間に囚われている。暗く、重く、香気に満ちたその空間は、際限なく人を誘い、呑み込むかに見えて、しかし他者と溶け合うことを厳然と拒む。

 突然断ち切られた妖しい夢の切れ端を手に、しばし茫然とする。

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2010-09-25

鳳凰の黙示録 : 荒山徹

 以前読んだ、同じ作者の『処刑御使』にはド胆を抜かれたのだ。歴史の鍵を握る一人の少年をめぐって繰り広げられる、超絶すぎる戦い ~ 奇想天外、荒唐無稽な面白さ、息もつかせぬ怒涛の展開の中にも、こみ上げる可笑しさを止められない、いやもう“そんな無茶な!”と言うしかない恐るべきお話でありました。

 同じ作家の作品ならば面白いに違いない! という期待通り、本作も何やら色々と山盛りです。

 李氏朝鮮 ~ 王位をめぐる骨肉の争い。代々、王の暗殺部隊として働く七人の女剣士「琴七剣」は幼い王子の殺害を命じられ任務に就くが、いたいけな王子を殺すに忍びず、苦悩の末、王命に叛き反逆者となる。王子を守り逃げる「琴七剣」を抹殺すべく召集される「魔別抄」の刺客たち!

 妖獣・妖術を操る「魔別抄」の怪人たちとの壮絶な戦いの末、美しい女剣士たちは、次々と無残な屍をさらしていく。この作者の描く殺し合いのありさまは、凄まじく、酸鼻を極めるのだが、不思議とそこには暗く陰惨な感じはなく、どこか白々、さばさばとした妙な明るさが漂う。・・・というか、暗くなりようが無いマヌケ要素が多すぎるのだ!

 蝦蟇を呼び出さない蝦蟇使いとか、一撃必殺の居合勝負の場面で虎頭の剣士が抜かなかった訳が「に、肉球?!」だとか、あれだけの死闘を繰り返した挙句、最強はふらりと登場した日本の剣術使いですか?!とか・・・ ツッこんで下さい!と言わんばかりで、もう、身悶えしてしまう。無駄に美形が多いのも満腹感を増してくれて○。

 義賊・洪吉童一味も戦いにからみ、家康の大坂城攻めが迫る日本に舞台を移してからは、アジアに生まれた二つの文明を継ぐ「龍族」と「鳳凰族」の長い闘争の歴史へとドラマが拡大。そして生まれるロマンス! あくまでもマイペースな「魔別抄」。未来へと飛び立つ不死鳥! ああ、腹イッパイ。


『処刑御使』感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-258.html

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2010-09-22

人魚は空に還る・世界記憶コンクール : 三木笙子

 心がバテ気味な時は、しばし逃避先を提供してくれる本を探す。

 ページを開いた途端にストンと物語に落ちていけるような魅惑の世界、あまり難しいこと考えなくても良くて、読んでる途中で醒めてしまう心配なく身を委ねることができて、適度にドキドキ、ハラハラしつつも、悪意なんて一切無い世界に安らげて、ちょっと甘い気分に胸を疼かせることができて、読み終えたら少し気持ちが澄んでいるような本はないものか。

 そんな所に、訪問先のブログで目にしたのがこの作品。“これは・・・よさそうだ”


 貧乏暇なし弱小雑誌社の好青年記者・里見高広と、そのワガママな友人~描く絵も本人も超美麗、帝都一の腕と人気を誇る絵師・有村礼が遭遇する帝都の不思議。

 友情というにはウブ過ぎて、若干甘い香りすらする絆で結ばれた、見栄えのいい男二人にどっぷりハマるつもりで読み始めたのだが、気が付いてみると、何故か高広のお義父上・里見基博卿に夢中であった(笑)。だって、若い主役二人に比べて余裕のある大人の魅力。それでいて、養子の高広に対する若干ゴリ押し気味な執心ぶり。・・・何かイイんだもの。

 舞台は、江戸も遠くなりつつある帝都・東京。「帝都」・・・そう聞くだけで、もう気分は勝手にうっとりしてしまう。華やかで、猥雑で、色んな人の想いを呑込んだ、もう決して届かない過去の街。

 帝都に起こる不思議な事件。謎解きに乗り出す高広と礼 ~ 事件発生に嬉々としているのは“高飛車なワトソン”礼であり、“腰の低いホームズ”高広は、礼に尻を叩かれ走り回らされているのである。探偵・高広と相棒・礼に窮地を救われる天才少年。可憐で強い少女たち。探偵・高広のライバル? 美意識の高い怪盗登場(これも、探偵にライバルの怪盗はつきものだとワクワクしているのは礼である)。そして、若者二人の活躍を見守る、懐の深いオジサマたち。

 多少誤解を恐れながら言えば(汗)・・・その世界観や読後感は、本仁戻氏の『探偵青猫』(6巻はまだか?!)と似てる・・・かも。


 不思議の裏に隠された人の想いを、高広が暖かく、澄んだ目で解きほぐしていく・・・

 “美しいもの”を愛し、“美しいもの”を心に灯し続けようとする高広と、高広のその心意気を愛する礼の友情が清々しく、読後、少し背筋を伸ばしてみようか、という気持ちになれる。

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2010-09-18

宗次郎 : 義澄了

 義澄了作品をコンプリートしたい一心で買ったのだけど、新撰組には大して興味も思い入れも無いのであった。近藤・土方・沖田以外は、名前もろくにわかりゃしねぇ(苦笑)。

 試衛館の猛者たちのドタバタと騒がしくも、ちょっとしんみりさせる一時を描いた掌編4編と、中岡慎太郎から竜馬への密書を持って2人の若者が京の町を走る『志士走る』。話の筋というほどのものは無く、幕末の若者たちへの愛と思い入れありきのお遊びといったところか・・・。

 こういうお遊びにのっかるには、キャラクターへの思い入れをどこか作者と共有できていないとキビシイ。こと新撰組に関しては、私は完全に置いてけぼりである。

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2010-09-15

以蔵の夏 : 義澄了

 幕末を彩る人物たちの中で、どうしても汚れたイメージと暗い影がつきまとう岡田以蔵。でも以蔵の愚直さを愛する作者は、何とか彼に穏やかな時間をプレゼントしたいんだなぁ。武市先生、竜馬、久坂、稔麿・・・豪華メンバー出演の、他愛ないといえば他愛ない、以蔵の夏の一日 ~ 『以蔵の夏』。

 その他、松下村塾の面々、蘭丸と信長(ちょっと意外だった)などを描いた小品を収録。

 作者の“好き”が先行しすぎて、自己完結しちゃってるきらいもあるけど、その“好き”の溢れ具合はやっぱり微笑ましい。

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2010-09-11

気分はもう長州 : 義澄了

 ひきつづき、高杉晋作モノ。かなり古い漫画です。

 圧倒的劣勢の中、紋服姿で鉄扇を手に、シバ舟オテントを操り、幕府軍との海戦に臨む晋作の胸には、師・松陰、先に逝った同志たちの姿が。「三田尻回想」

 池田屋で多くの同志が散る。吉田松陰の下で共に学んだ吉田稔麿も・・・。「一人酒」

 「美女か醜女か見定めずにはおられん性質じゃ」・・・晋作とおうのの出会い。「おうの」

 久坂玄瑞、吉田稔麿、入江杉蔵、高杉晋作・・・萩の御城下で明日を夢見る若者たち。騒々しいことこの上ない松下村塾での日々。「気分はもう長州」

 「勝たずして何の戦じゃ」 「なんの、戦えば皆勝つ!」 散っていく同志たちを見送りながら、疾風の如く駆け、戦った高杉晋作の青春を想う。

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2010-09-08

三千世界の烏を殺し―高杉晋作と妻政子 : 竹田真砂子

 高杉晋作とその妻お政 ~ 一つ家に暮らす時間こそ、ほんの僅かしか与えられなかったけれども、彼らなりの形で、細やかで固い絆を結んでいたこの夫婦への著者の静かな感動が込められた、手向けの花のような物語。

 逃亡中の高杉を匿い最期を看取った野村望東尼、愛妾うの、高杉らの為に尽力した下関の商人白石正一郎、木戸孝允夫人松子、伊藤博文、そして晋作と政子自身 ~ 七人の男女が語る言葉の中から、時代の風雲の中に生きた者の心持ち、そして晋作、政子の姿がそっと浮かび上がってくる。

 高杉の評伝(海原徹『高杉晋作―動けば雷電のごとく』)の中で、晋作から政子やうのへ宛てた手紙が一部紹介されていたのだが・・・ その文面に綴られた、優しさと愛情、細やかな気配りの滲む言葉、そこに漂う、精一杯気張った男の可愛さと純粋さには、「この、どこかはにかみすら感じられる愛情深い手紙を、あの“動けば雷電の如く”忙しい過激な爆裂男・高杉晋作が書いたのか!」と、女心がぐらぐらする思いがしたことであるよ。

 “木戸を支えた女”であることをガッツリ鼻にかけてる松子夫人、謙遜を装いながら、維新の志士たちと交流し、志を語り合った自分も大した女であるということをチラチラとアピールする望東尼、晋作と命がけの逃避行を共にしたうの ~ 彼女たちにくらべて、あくまでもひっそりとした政子の姿。

 滅茶苦茶すぎる言動の一方で、武士であることを背負い続けた晋作。武士の妻であることを守り通した政子。妻として晋作を愛し、彼に代わって家と家族に尽くした政子と、政子が大切で大切で仕方のない晋作。政子が大切なあまり、どうして良いか分からず奇矯な振る舞いに出てしまう晋作の姿が切なくて、身をしぼられるような思いがする。

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2010-09-04

高杉晋作―動けば雷電のごとく : 海原徹

 涼しくなったら、下関・長府あたりを旅してこようかと思っているのである。


 「(番人は)抜刀した晋作の剣幕に驚いて逃走」
 「怒った晋作が突然刀を抜き~云々」
 「あっという間に刀を振り回していた」
 「怒り狂った晋作は ~略~ そのまま脱藩」
 「鼻輪のない離れ牛」「暴発」「暴走」「無頼」「暴狂」「狂暴頑愚」「傍若無人」

 ・・・こんなんばっかりで、ちょっと笑ってしまう。高杉の近くにいた友人・知人・同志たちの証言、高杉自身の自己反省、高杉を評する著者の言葉ですけどね。

 以前読んだ幕末4コマ『サカモト』に登場する高杉のキャラ ~負けず嫌いでナルシスト。常に額に青筋を立て、事あるごとに目を吊り上げ刀を振り回し、そこいら中に火を放つ ~が、ギャグ漫画的デフォルメというよりも、むしろ真実!とまで思えてくる。


 これだ!と思ったら飛びつくのも早いが、ダメだ!と思ったら見切るのも早い。何せ飽きっぽくて日記が続かない(熱望した軍艦に乗組んでの江戸への航海日記も、一念発起したらしい諸国遊学の旅日記も半ばで放棄している模様)。“雷電の如き”行動力は凄まじいが、ヤバいとなったら逃げ足も速い。

 長州から江戸、京都、上海、四国、長崎・・・目まぐるしく駆け回る高杉の生涯は、早回しにしたフィルムのようで、そのスピードについていけない者の目には狂躁的とも見えてしまう・・・二十七年余の奇才の一生。

 ところで、妻や愛人には、本心からの気遣いなのかリップサービスのつもりなのか、細やかな情愛の感じられる言葉を手紙に書き送ったりしている。「狂暴頑愚傍若無人」という男が、一方で女性に対するそんなデリカシーを持っていたと思うと、俄かに・・・こう・・・ 何だ、晋作フェロモンにやられた感じで・・・ゾクゾクしますな。

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2010-09-01

小説・江戸歌舞伎秘話 : 戸板康二

 「仮名手本忠臣蔵」五段目の定九郎をじじむさい山賊姿から、すっきりした浪人の姿に工夫した初代中村仲蔵。仲蔵の前に姿を見せた黒羽二重の浪人とは何者だったのか? (「夕立と浪人」)

 同じく「忠臣蔵」の四段目、判官との別れの場面、力弥が悲しそうに首を振ったのは・・・ (「美しい前髪」) 

 梅王丸、桜丸、松王丸、揃って赤の襦袢を着るのが慣わしの「車引」の場で、五代目団十郎が松王丸に白い襦袢で出た訳は? (「座頭の襦袢」)

 南北や黙阿弥の描くような毒婦誕生のきっかけは? (「振袖と刃物」)


 江戸の芝居の演技、演出の上に生まれた大小の変化 ~ どのような想いが、どのような行動が、人と人とのどのようなめぐり合わせが、その変化をもたらしたのか・・・。表に顕れた変化から、その裏に秘められた逸話を推理し、創造、創作する洒落たゲームのようでもある歌舞伎ミステリー。

 芝居町の活気を思わせる、さっぱりとして洒落た言葉遣い、語り口は、こちらまで芝居通になったようで気分がいい。「て、に、を、は」の区切り、言葉のリズムが小気味良く、読んでいると、頭の中で鳴る言葉の流れが新鮮で、心地良い。心地良いばかりじゃなく、『紋蔵が、たまらなく、憎かった。』なんて一行にはゾクッとさせられる。


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