2010-05-29

纐纈城綺譚 : 田中芳樹

 唐の都・長安の外、人間の生血を絞って布を染め、人肉を喰らう者たちの城がある。

 『宇治拾遺物語』~「一六九 慈覚大師纐纈城に入り給ふ事」の後日譚を、歴史上の人物たちを配して、ホラー活劇風に仕立てた物語!

 忌まわしい所業で人々を脅かす悪鬼たちの根城・纐纈城の存在を知り、その討伐に向かう義侠心に燃える好漢たち。~皇帝の血をひく凛々しい剣豪。正義感厚い剛力の棒術つかい。戦闘力としてはあまり役に立たない文系青年。その一味に加わる女軽業師に、すばしっこくて目端の利く“使える”子供。彼らを脇でサポートする渋く有能な朝廷の役人。

 お約束なキャラ配置に、お約束な展開・・・ホラーなテイストもありつつも、万全の安心感で読める、『水戸黄門』的におおらかで痛快なお話。あまり難しく考えないで、中国の歴史書にもその名を残す英傑たちの若き日の活躍をザックリと楽しみたいアツい冒険譚。

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2010-05-26

ぶらんこ乗り : いしいしんじ

 “この世”と“あちら側”のちょうど間にぶらんこは立っている。庭の木の上に作ったぶらんこの上に座り、一晩中動物たちから聞いたお話をノートに書き続けていた男の子。

 あちら側とこちら側の境界で揺れるぶらんこの上で、この世の中の「本当のこと」を囁かれ続けた男の子の孤独と恐怖は誰の耳にも聞こえない。

 無条件の愛情とともに、無理解や不寛容にも満ちた世界で、揺れるぶらんこに乗った男の子は、誰かの手をずっと握っていることはできない。でも、この世が壊れてしまいそうな嵐の中で、ぶらんこを大きく揺すって男の子は大切な人の手を握った。


 男の子が乗っていた「この世とあっちがわとのあいだでゆらゆらとゆれている、くうちゅうぶらんこ」・・・何だか“曇天にはためく黒い旗”みたいに恐ろしい。このぶらんこ、私の目には見えないものであって欲しい・・・と思ったりして・・・。そう思うことこそが、この世の無理解と不寛容なのだと思いながら・・・。

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2010-05-22

みうらじゅん対談集 正論。 : みうらじゅん

人はそれぞれだっていうけど、そんなのつまらない。


 出会い頭に、心臓を“ぎゅうぅっ”と掴まれちゃう・・・そんなことがあるのだ、みうらさんから漏れてくる言葉には。

 “人それぞれ”・・・それはそれで間違っちゃいないし、“人はそれぞれ”だってことを分かってもらえないと、もの凄く嫌だけど、“人それぞれ”って全てを許容した振りなんかして・・・もしかしたらものすごく面白くて魅惑的かもしれない面倒ごとから逃げてるだけじゃないの?

 人それぞれな中にも、似ていたり、分かり合えたり、違ってて喧嘩になっちゃったりする“あるとこ”。

で、あるとこって、どこだといえばうまく言えない。何だかとってもうれしいとこなんだろうけど、目に見えないとこだから“ここだ!”って、示せない。


 みうらじゅん氏の“あるとこ”確認作業でもあるような、36人との対談集。親密な雑談を交わす二人の間の空気にまでは、なかなか入って行けないとこもあるのだけど、関係を作ろうと努力するみうらさんの姿勢や、みうらさんとそれぞれの人がナニで繋がっているのかほんのりと感じられたりして、少しばかり気持ちが暖かくなる。

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2010-05-19

さよならジュリエット : 西炯子

 '90年代後半頃の短編集。

 食品メーカー勤務の会社員・中野重彦が、生きていく為のあれやこれやを得る為に手放してきたもの・・・失ってきたものの愛しさを教えてくれたのは、上司の送別会で繰り出したゲイバーで会った“ジュリエット”=中島賢蔵だった。

 “ジュリエット”は、高校時代の中野を知っていて、その頃から好きだったと言うが・・・。

 その他収録作もピュアで不器用な男女たちの、少し滑稽で切ないお話。想い合う気持ちは少しずつすれ違い、埋らない溝を刻みながらも、大切なものの回りを優しく巡る。

 表題作「さよならジュリエット」ラストシーンの余韻は極上。

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2010-05-15

虚無への供物 : 中井英夫

 高校に入学したばかりの頃、兄の薦めで読んでいるのだが、色の名を持つ兄弟の話だったこと以外印象にないのは、私に中井英夫を読む資質が薄いからなのだろうなぁ。


 洞爺丸の事故で両親を失った蒼司、紅司兄弟と従兄弟の藍司、叔父橙二郎・・・氷沼家を覆う暗い噂と悲劇の影。影が一つずつ実体となっていくかのように現れる密室と横たわる死体。次々と氷沼家にふりかかる悲劇は、ただ“無意味な死”なのか? それとも何者かによる殺人なのか? 
  
 舞台は洞爺丸沈没事故のあった昭和二十九年から三十年。さすがに今読むと古めかしい感じがするだろうと思ったが、意外にもモダンな質感。(「モダン」という言葉を思い浮かべてしまうのが、すでに古めかしいっつったら古めかしいし、昭和の風景に古さを感じないのは、私が昭和の女だからかもしれないが・・・)

 探偵小説談義、呪い、予言、薔薇や不動をめぐって囁かれる因縁譚。現実の事件は非現実の領域に引き込まれ、夢幻の類の想念の中から現れた人物たちが現実の事件に姿を見せる。

 この現実は果たして本当の現実か・・・ 非現実の側に自分の現実を打ち立てようとする青年の暗い心。

 虚無・・・現実と非現実が平気で入れ替わってしまう世界・・・この作品には、大量に人が死んだ戦争の落とす影が濃い。しかし、現実が多層化する、非現実が現実となる・・・そんな危うさは今もある、と思うと、やはりモダンな作品。


新装版もあるけれど、『虚無への供物』といえば、やっぱりこの↓表紙。

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2010-05-12

黄土の旗幟のもと : 皇なつき

 言わずもがなではあるのだけど、皇なつきさんの絵の美麗なことにはまいってしまう。登場人物たちの細やかな表情、細部まで描きこまれた衣装や装身具、それが身体の動きにしたがって作るしわ、フォルム・・・美しすぎて溜息がでる。

 「黄土の~」は明末、李自成の乱を題材にしたお話。悪政と貧窮に耐えかねて各地で起きた農民蜂起の軍の中でも大きな力を持った李自成の軍。その反乱軍の中にあった文系男・李信(李巌)を中心にしたドラマ。

 粗野だが抜群の行動力とカリスマ性を持つ李自成。大量に殺すことで新しい国づくりをしようとする李自成に対し、誰も殺さずに平和な世の中をと、うじうじ悩み続ける李信は、日本人好みのヒーローかも。悩み、迷いながらも時代の流れに押されるように、李自成の反乱軍に身を投じる李信。最初は李信贔屓で読んでいたんだけど、広大な大陸の風景や、街、城郭の中を騎馬で駆け戦う李自成のとても絵になる男ぶりに、だんだんと惹きつけられてしまった。

 明の武将を父に持つ凛々しい女将軍、李自成とはまた別の信念に生きる明の役人・李信の親友でもある郭鵬樹ら魅力的な人物も揃い、いよいよ物語は佳境に! というところで尻切れトンボ気味にお話が終わってしまったのはちょっと残念。

 
 その他、日本の平安~鎌倉を舞台にした小品を収録。鎧武者・束帯・水干・狩衣・直垂・裲襠・・どれもこれも美しくて、“くうぅぅぅぅうっ”てなってしまいます。

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2010-05-08

修善寺物語 : 皇なつき

「修善寺物語」 : 皇なつき(『李朝・暗行記』)

【修善寺物語】

 岡本綺堂の戯曲を原作とした凄艶な絵巻。

 政争に破れ、修善寺に幽閉された鎌倉二代将軍・頼家。その頼家の面を打つことを命じられた稀代の面作師・夜叉王と、貧しい暮らしに倦み、貴人の側に侍ることを夢見る夜叉王の姉娘・かつら。

 ただ貴人の豪華な暮らしを求めただけのかつらには、骨肉の争いに病み疲れた頼家の心など思いやることはできなかったが、頼家の流す涙の悲しく寂しい光を見たとき、二人の心に初めて通じ合うものが生まれる。


 毒薬によって崩れた頼家の顔。
 北条方に攻め寄せられる頼家の館。
 夜叉王が打った頼家の面をつけ身代わりをつとめる武者姿のかつら。

 凄惨な運命に翻弄される二人の悲しく、激しく、美しい姿・・・。


 小さな世俗の幸福にのみ価値を見出す夜叉王の妹娘・かえでと夫・春彦。愚かにも、憐れにも見えようとも、内なる誇りと喜びに殉じるかつら。鬼神の域に入ろうとする自らの技こそを至上のものとし、断末魔の娘の顔を写す夜叉王。それぞれの想いに生きた人々の濃密な物語。


【李朝・暗行記】

 消えることの無い「恨」を胸に諸国を廻る暗行御史(身分を隠して地方をめぐり官吏の不正監視や視察を行う国王直属の官)の物語。美しい民族衣装が彩る画面を見るのも楽しいドラマチックな韓流時代劇。

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2010-05-05

天の果て地の限り : 大和和紀

 初めて読んだのは、まだ子どもの頃だったなぁ。文庫版になっているのを見つけて再読。

 日本が国家としての形を整えようとしている時代・・・多くの血を流し、悲劇を生みながらも激しく駆けた中大兄皇子と大海人皇子兄弟。二人の皇子の心をとらえ、また自らも皇子たちの激しい愛に、生き方に心乱される美しき巫女にして歌人・額田女王。

 才能と力に溢れた美しい男から、熱い熱い想いを込めて抱きしめられる華奢で美しい乙女・・・。そんな強い想いの迸るシーンが目に焼きついているせいか、私はこのお話を皇子たちと額田女王のラブロマンスとして記憶していたのだけど、読み返してみると、これは古代を舞台にした熱く切ない青春群像を描いているのだった。

 炎のような兄・中大兄と豊かな水のような弟・大海人、中大兄を信じ、愛し支え続けた鎌足、皇子たちと共にあり愛し、愛された額田女王。激しく揺れる時代の中であるいは燃え、あるいは駆け、あるいは悲しく散った命。生まれたばかりの、若い日本の国とともにあった「青春」。 


 ところで、最近、古代史に萌えているらしい母からTELがあり、「中大兄と大海人、どっちが好き?」と訊ねられた。未だに乙女心を失わない母には参る。

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2010-05-01

虎と月 : 柳広司

 父は虎になった―。中島敦『山月記』に想を得たミステリー。

 なぜ父は虎になってしまったのか? その謎の答を見つけるために少年は一人旅に出る。

 答を得るために選ばれるべき正しい問い。名付ける、または名を知るということ。言葉によって認識される世界。世界を規定する言葉。虎になった父の謎を探る少年の旅は、そんな言葉をめぐる旅でもある。

 不思議な体験に満ちた旅の終わり、虎となった父・李徴が遺した一篇の漢詩は、少年の前にそれまでと全く違う姿を現す。

 
 『山月記』を出発点としているが、そのことを意識しすぎると、互いの世界を損いかねない。当たり前のことではあるけれど、全く別の独立した作品としてその結末を楽しむべきでしょう。


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