2009-12-30

草祭 : 恒川光太郎

 団地の奥の用水路の先に現れる見知らぬ野原。中庭から迷路のように繋がる古い家々。屋根の上の獅子舞。打ち棄てられた線路の先の民家。朧な町。ふと視界を横切る姿の曖昧な獣。

 『わけがわからないけど、少し心魅かれる』不思議なもの、この世の外にある何ものかを隠した土地・美奥。美奥に時折姿を現すこの世の外のモノは、いつもの見慣れた世界と緩やかに繋がっている。複雑なバランスの上に立ち、互いに微かに影響しあうこの世の日常と異界のできごと。


 どこか懐かしく慕わしげな様子をした異界の、しかし徹底した厳格さ、非情さ、人間界との無縁さが恒川光太郎の魅力だと思っていた。だが、『草祭』では、異界が(そこで起こることがどれほど不可思議で怖ろしいことであろうと)人間に寄り添うものになっていて、少しだけ、何だか・・・違和感というか・・・がっかり・・・した。

 
 それでも・・・『夜市』『風の古道』に比べるとやや薄まってはいるが、恒川光太郎の描く異界の香気は魅惑的で、これからも吸い寄せられてしまうだろうなぁ・・・と思う。 

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2009-12-26

赤い星 : 高野史緒

 通俗的な意匠に埋め尽くされた荘厳で神聖なものを追う物語。

 歪んだ歴史上のロシアと日本。ソ連崩壊後、皇帝を戴くロシアと、その属領となり、ロシアの傀儡・江戸幕府が治める日本。現実世界での人々の移動は厳しく制限され、高度に発達したネット上には虚実入り混じった情報が飛び交い、仮想空間がいびつに広がる。

 秋葉原に皇子ドミトリーを名乗る男が現れ、吉原の花魁・真理奈太夫は皇后の座を狙ってロシアを目指す。雲と雪に閉ざされたロシアの大地で、極東の島国日本で、帝都ペテルブルグを夢見る人々。


 刺激的な設定、重なり合っていく謎に引き込まれ、幻に見る都ペテルブルグへ辿り着こうと追い立てられるように読むが、狂信的ですらある話のテンションに途中からついていけなくなる。冒頭の口上とあとがきで、作者により「この作品が何であるか」が語られるのだが、その言葉に囚われずに作品自体を読むということが難しかった。いっそ口上やあとがきも作品(フィクション)の一部として読めば良かったのかもしれない。

 沢山の要素をつぎ込んで複雑に織り上げられた物語であるのに、いくつかの話のパーツに関しては、「えっと・・・ここんところは、夢オチで・・・処理するのかな・・・?」と考えざるを得ないとこが残念。

 或いは、この物語は読者自身の見る幻によって完成されるんだろうか?

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2009-12-23

ちくま日本文学1 内田百けん

 『波止場』『花火』『流木』『豹』等の短編の持つ、とにかく凄まじい破壊力にド胆をぬかれた。百けん先生といえば、『ノラや』を読んだきりで、“多少面倒臭いけれど人の好いおじさん”という油断があったので、まさに不意の一撃。現実を一筆で無力化してしまう豪腕、その巨大な怪人ぶりにゾ~っと背筋が凍る。

 そんじょそこいらの恐怖小説よりも遥かに怖ろしい、怪人がさらりと描くシュール。そして、現実を打ち壊したそのシュールの中にある一人の人間の現実。

 一方、随筆では、穏やかにしているかと思えば我侭、負けず嫌いで理屈屋 ~ 非常に面倒臭くも味のあるおじさんぶりが堪能できる。

 借金の大家と言われるだけあって、お金を借りることについては一言も二言もある。

 無目的な鉄道旅行の費用のために知人に借金をして・・・

 このお金は私が返した時に初めて私のお金であった事を実証するので、今は私のお金ではない。~略~私の金でなければ人の金かと云うに、そうでもない。貸してくれる方からは既に出発しているのでその人のお金でもない。丁度私の手で私の旅行に消費する様になっている宙に浮かんだお金である。


 何と斬新な理屈かと感動させられた。

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2009-12-19

鬼会 : 赤江瀑

 人の心に密かに棲みつき身を潜めているモノ。その姿を見てしまえば、その獰猛な力に巻かれ、絶望的なまでに強烈な官能に身を捧げつくさずにはいられない。

 そういうモノの出現を、眩暈のするような墜落感とともに描く短篇集。心の内に広がる濃密な幻に、ひととき翻弄される。

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2009-12-16

もえない Incombustibles : 森博嗣

 ・・・ミステリーじゃなく、ある種の青春小説として読めば納得のいく話だったのかな。

 たいして親しくもなかった杉山という少年が死んだ。杉山は淵田に「S.FUCHITA」の名前が刻まれた金属プレートと、「山岸小夜子」という少女の名前を記した手紙を遺していた。山岸小夜子も数ヶ月前に死んでいることがわかり・・・ 

 ・・・この辺りで私はいよいよミステリーを読む体勢を固めたんだが・・・。

 私の興味はもちろん、杉山と小夜子の死、そして、その後に起こる事件の真相という所にしか無い訳だけれど、主人公・淵田にとっては、杉山や小夜子の死そのものは問題ではなく、それによって自分の中に起こった変化が気にかかるだけなのだ。だから、淵田の関心は、それらの人たちの死よりも、自分自身の思考、そしてもっと日常的な友人や周囲の人たちとの関係に向けられる。

 淵田の個人的事情や関心事に、私は興味が無く、私が興味を持っている、所謂謎の多い死のことは、淵田個人の興味と必要の範囲内でしか問題にされない。

 謎解きを期待する私と、淵田の主観でしか進まないストーリー。最後まで解消するはずのなかったこのズレを、「ハズレを引いちまった」フォルダと「またしても森博嗣にしてやられた」フォルダのどちらに収めようか・・・。

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2009-12-12

チュウは忠臣蔵のチュウ : 田中啓文

 先日読んだ正統派忠臣蔵とは一転、こちらはちょいハチャメチャな忠臣蔵。

 魚顔でコンプレックスの塊である内匠頭。いいかげんなことこの上ない大石。ウンチク狂にして稀覯本マニア上野介。いずれも難ありな赤穂浪士たち。
 
 何で刃傷? 何で切腹? 真相はうやむやなままに事態は急を告げる。やる気あり過ぎな者、やる気なさ過ぎな者、ただの酒乱・・・内情のメチャクチャぶりにも関らず、外見だけは粛々と進む赤穂浪士討ち入りの陰で発動する天下を覆す大計画。暗躍する謎の老人・・・というか、日本を漫遊するあまりに有名なあのご隠居。

 オチは何だかムニャムニャした感じではあるけれど、一通り忠臣蔵のストーリーも楽しめて、ちょこっとお得感あり。

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2009-12-09

忠臣蔵傑作コレクション(本伝篇) : 縄田一男編

 内匠頭は短気で短慮な田舎大名などではなく、癇は強いが潔癖でプライドの高い殿様じゃないといけないし、浪士たちも何らかの損得勘定や思惑があって討ち入りに加わったのではなく、ただひたすら亡君を慕い武士の本懐を遂げようとしたのでなくてはいけない。そして内蔵助は浪士たちを纏め上げ、義挙を成し遂げる胆力を備えた大人物。浪士たちと取り巻く町人や他家の侍達は、意気に感じる熱い人たちで、清水一学だって一瞬で切り殺されるんじゃなくて、不破数右衛門と華々しく切り結んでくれなくちゃ。

 赤穂事件の史実は、もちろん違うとこにあるんだろうし、杉浦日向子さんが「吉良供養」で描かれたように、『赤穂浪士の討ち入りは“まぎれもない惨事”である。』ということは間違いないと思うのだけど、十二月だけは、この美しく完成された物語世界にどっぷり浸りたい。

 雪の吉良邸に響く山鹿流の陣太鼓。隣家・土屋邸より掲げられる高張提灯。くおぉぉぉぉぅ、胸が熱く震えるんである。


 本書は、松の廊下から四十七士の切腹までを10の作品でつないだアンソロジー。
 
「弥生十四日」 山手樹一郎 (松の廊下刃傷~内匠頭切腹)  
「さむらい魂 ―三村次郎左衛門―」 海音寺潮五郎 (江戸から赤穂へ)
「赤穂城最後の日」 木村毅 (赤穂城明け渡し)   
「撞木町」 船橋聖一 (山科での日々)
「内蔵助道中」 平山蘆江 (内蔵助東下り)
「浪士慕情」 南條範夫 (討ち入り前夜の浪士たち)
「女間者」 邦枝完二 ( 〃 )
「雪の子別れ」 笹本寅 ( 〃 )
「元禄義挙の翌日」 鷲尾雨工 (討ち入り翌日)
「べんがら炬燵」 吉川英治 (討ち入り~四十七士切腹)

 討ち入り後、細川家にお預けになった内蔵助ら十七名と接伴役堀内伝右衛門の交流を描いた吉川英治「べんがら炬燵」では、死を前にした義士達の清々しさと秘められたドラマに涙ボロボロ。ただ、討ち入り当夜の模様を書いた作品が収録されていなかったのが不満といえば不満か。

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2009-12-05

近代日本と「忠臣蔵」幻想 : 宮澤誠一

『近代日本と「忠臣蔵」幻想』 宮澤誠一

 明治以降の日本近代社会において「忠臣蔵」はどのように捉えられ、語られ、扱われてきたか。文芸・評論・講談・演劇・映画・教科書・史学等、国内、海外の各分野にわたって書かれた「忠臣蔵」関連の書物を紹介し、それぞれの著者、作者の思惑、思想的な傾向、立場およびそれぞれの著作、作品の中で新たに示された視点やその功績を述べていく。

 明治維新・文明開化~自由民権運動期~日清・日露戦争前後~大正デモクラシー~日中・太平洋戦争~戦後の各時代、色々な立場の色々な人物が、それぞれの思惑、思想、ファンタジーを仮託し、またそれらを限りなく飲み込んでいった「忠臣蔵」。

 もっと日本近代史を勉強してから読むべきだった。それぞれの作品、論評が生まれた背景にある社会情勢について、どうもピンとこないところがあったのは完全に私の勉強不足。反省。しかし、本書の内容自体に不満が無いわけでもない。200ページ超にわたって書かれていたことは、結局、巻末につけられた表「近代『忠臣蔵』の系譜」に数ページの解説を加えれば良い内容であるような気もする。人が幻想を託し、それを引き受けてきた「忠臣蔵」って何なのか。そこんとこにもっと踏み込んだものを読みたいなぁ。

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2009-12-02

近代つくりかえ忠臣蔵 : 日高昭二編

 十二月といえば忠臣蔵である! と、いうことで今月は忠臣蔵がらみのものをいくつか。


 北原白秋の「おかる勘平」が・・なんかもう物凄い・・・エロいことになってる。

 勘平さんが死んだ、勘平さんが死んだ、
 わかい奇麗な勘平さんが腹切った・・・・・・

 おかるはうらわかい男のにほひを忍んで泣く、


 「色にふけったばっかりに」とは・・・うぅむ、なるほど、、こういうこと。勘平を亡くし虚脱した目で、お軽は過去の記憶に浸る。若い男女の理性をふっとばし蕩かした甘く強烈な官能の記憶に・・・。殿の一大事の最中に、ああ・・・こんなことに“耽って”いたのか・・・。

 恋に目が眩んだ二人には全く予想もできなかったこと。事件は坂道を転がる雪玉のように二人を呑込み・・・、ああ、勘平さん、腹切るしかないよなぁ。

(余談ながら、「あやつられ文楽鑑賞」での、三浦しをんさんの「お軽勘平」の心理分析は的確で面白かったです。)


 本書は、「仮名手本忠臣蔵」の大序から十一段目までに、「忠臣蔵」を素材とした近代の文芸作品を配して「つくりかえ」たもの。近代において「忠臣蔵」がどのように読まれ、語り直されたのかを眺めることのできるアンソロジーになっている。収録作品は以下の通り。

大序  武者小路実篤「木龍忠臣蔵」
    谷崎潤一郎「顔世」
二段目 林不忘「刃傷未遂」
三段目 桃中軒雲右衛門「雪の曙義士銘々伝」
四段目 木村毅「赤穂城最後の日」
五段目 大町桂月「四十七士」
六段目 北原白秋「おかる勘平」
    塚原渋柿「大石良雄」
七段目 井上剣花坊「赤裸々の大石良雄」
八段目 森田草平「四十八人目」
    幸田露伴「奇男児」
九段目 野上弥生子「大石良雄」
十段目 吉田奈良丸「大和桜義士の面影」
十一段目 芥川龍之介「或日の大石内蔵之助」

 幸田露伴の「奇男児」・・・己が信ずる武士道を邁進するため国を出奔した奇男児・村上某。祇園で遊興に耽る内蔵之助に因縁をつけまくり、罵り倒したものの、後日彼の本意を知り、泉岳寺・大石の墓前で腹を切ったという極端な男。忠臣蔵外伝的なお話。極端に「。」の少ない文章でびっくりしたが、読んでいると独特なリズムがあって面白い。

 最後を締めくくるのは芥川龍之介の「或日の大石内蔵之助」。仇討ちを終えた内蔵之助 ~ 細川邸の座敷に射すうららかな日差しの如く、おだやかな満足感に満たされていた心は、仇討ちに対する世間の評判を耳にするうち、小さな違和感と不快を生じ、やがて言いようの無い寂しさに苛まれる。

 世間に触れて孤独を深める大石の繊細な男心。嗚呼、龍之介・・・ナイーブすぎる男・・・と嘆息せずにはおられない。

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