2009-10-31

黒衣の守護天使 ~ 夢幻紳士 幻想篇 : 高橋葉介

 怪奇と幻想の漫画雑誌「メディウム」をリアルタイムで読んで、怪しげな力を持つ美青年・夢幻魔実也に夢中だった者にとっては、やはり嬉しい二十数年ぶりの復活。

 復活・・・とは言っても、ここに登場するのは夢幻魔実也の“影”。悪者の“毒電波”で精神を閉じ込められた主人公の“僕”の脳内に生まれた存在。次々と奇怪な事件に巻き込まれる“僕”に影のように寄り添い、絶体絶命の危機から魔法のように鮮やかに救ってくれる黒衣の守護天使。

 “いつも自分を守ってくれる危険で美しい万能の騎士”なんて、乙女にとってはいつまでも覚めたくない怖ろしくも蠱惑的な夢のようなもの。それでもいつか夢は覚める。夢幻魔実也本体の登場とともに“僕”にかかった呪いは解けて、恐怖と冒険と予感をはらんだ夢が終わる。

 幸せで、ちょっと切ないエンディング。

FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

theme : 漫画の感想
genre : 本・雑誌

2009-10-28

刺星 : 中野シズカ

 奇跡的と言って良いほど超絶なトーン使い。絵の中からキラキラ・サラサラと涼やかな音が聞こえてくるような硬質な美しさ。それは、この世とあの世の間を仕切る薄硝子といった風情。この感触は・・・例えば中原中也の「一つのメルヘン」。

 細かく切り出されたスクリーントーンで構築された、この稀有な鉱物のような画面の中には、そこはかとない色っぽさと残酷さ、男たちの間の仄かに妖しい心持ちと衝動が、少しの湿り気も帯びないままに含有されている。

 POPでカラリとしていながら、同時に情緒的で艶かしい。

FC2 Blog Ranking

theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2009-10-24

朱鱗の家―絵双紙妖綺譚 : 皆川博子・岡田嘉夫

 絵双紙という名の通り、墨で囲った頁の中、絢爛たる絵に行書体の活字で綴った文字を配した凝った作り。

 頁を繰ってすぐに、不思議な既視感に囚われる。「・・・読んだことある?」

 同じものを、昔読んだという覚えはないのだけど(こんな印象的な本、読んでいたなら忘れるはずがないと思うんだけど)、第弐話「崖楼の珠」に出てくる象牙の珠だけは ~透彫を施した象牙の珠の内部にさらに透彫を刻んだ珠が七重に重なっているという~ 妙にはっきりと記憶の中にあるような気がしてならない。 
 
 現実のものなのか、夢の類なのか判然としない既視感。それだけで、もう、ずぶりと物語の中に足を引っ張りこまれそうになる。

 
 桜、牡丹、藤、菖蒲、芥子、変化朝顔、睡蓮、曼珠沙華、百合、錦鯉、鸚鵡、蟹、蜘蛛、孔雀、蝶・・・色鮮やかな花や生き物たちを描く、岡田嘉夫の不吉に艶やかな絵。その花や生き物たちに絡め取られたような男、女、王、王妃、姫、若君・・・ずっしりと重みを持つかと思えるほどに飾り立てられた言葉で、皆川博子が語る残酷で美しい物語。

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-10-21

現代マンガの冒険者たち : 南信長

 「ビジュアルの変革者たち」「Jコミック」「ギャグマンガ」「ストーリーテリング」「少女マンガ」という章立てで、60年代後半・70年代あたりから現在までのマンガの系譜をわかりやすくまとめてある。

 各系統の中で目覚しい仕事をしている作家やエポックメイキングな作品についての解説とあわせて、その周辺につらなる作家・作品が紹介される。

 作品の傾向別に各系統の中での作家たちの位置取りをマッピングした図なんてのは、ちょっと乱暴な気もするけど、とてもじゃないが出版されるすべてのマンガを読めるわけじゃないモンにとっては、一つの資料として参考になる。

 著者の言うとおり、これはマンガ評論とかマンガ研究といったものではなくて、どの辺を探せば自分が「面白い!」と思うものが見つかるか~そんなところをナビゲートしてくれるマンガ好きの為のマンガガイド。

 この本読んだ後、高野文子の作品が読み返したくなり、中野シズカの「刺星」が「読みたい漫画リスト」に加わり、気になっていた浅野いにおは“ん~ 読まなくてもいいかなぁ~”なんて思っている。

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-10-17

見えない世界の覗き方 - 文化としての怪異

 2003年佛教大学文学部主催で行われたシンポジウム「見えない世界の覗き方-文化としての怪異」を元に編集されたもの。

 執筆者の中に京極夏彦氏の名前があったので、エンターテイメント寄りな話を期待していたんだけども、内容はタイトル通り「見えない世界の『覗き方』」・・・人間が文化として持つ「怪異」~目には見えない世界を覗く=研究するための手法や、その為に必要だと思われる技術的な問題などについて、民俗学、人類学、宗教学、文学の各方面から色々な示唆がなされている。

 「異界体験」ということのとらえ方についての話が興味深い。「異界」「怪異」は必ずしも日常の外側にあるものではない。私たちが「ありのままの現実」だと思っているものでさえ、本当は雑多な音や色からなる混沌に或るフィルターをかけて便宜上の形を与えたものに過ぎない。「混沌」に規則性を与え「日常」に変えるフィルターの役割をするのが、人の持つ文化や言語であり、混沌に被せるフィルターがちょっと変化、変質しただけで、「異界」や「怪異」は思わぬところに出現する。

 「怪異」研究のためだけでなく、文芸作品を楽しむ上でも刺激となることが様々に書かれていたが、私にとって、この本を読んでの一番の収穫は、京極夏彦氏の作品はある種の「呪い」であるということがとても良く納得できたことだなぁ。

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-10-14

光 : 三浦しをん

 三浦しをんさんの小説を、こんなに何も感じないままに読み終えたのは初めてのことで、愕然としてしまう。

 突然、謂れのない暴力、悪意に薙ぎ払われた者。日常的な悪意、暴力にさらされ続ける者。善悪も意味も持たない暴力によって損なわれ、回復することのない傷を負った者達の生。

 人が負った傷について、又、人を取り囲む悪意、暴力、誤解、無自覚、無関心ということについて・・・そういうものを書くことに気負い過ぎたのではないかと思わせる程、この小説は頑なで、広がりと豊かさが感じられない。どうも、机上でひねり出されたお話を読まされている気してしまうのだ。

 理不尽な悪意に対して、悪意で応えるということを、私は決して悪いことだとは思わないけれど、登場人物の一人が語る『暴力で傷つけられたものは、暴力によってしか恢復しない。』などという言葉は、「ペーパークラフト」「きみはポラリス」収録)で語られた『復讐なんて、だれにもできない。』という言葉の切実さに比べ、どうしても虚しく、空々しく思えてしまう。

・・・そう感じてしまうのは、彼らに刻まれた傷を思う心が私に欠けているからなのか? それとも、彼らのとる言動が私の嗜好に合わないという、個人的好みのせいなんだろうか?

 求めたものに求められず、求めてもいないものに求められる。よくある、だけどときとして取り返しのつかない、不幸だ。


 「他者は自分に応えてくれず、自分は他者に応えることができない」という不幸。これだけは、作中の人物達の根本的な悲しみとして、辛うじて感じることができた。

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-10-10

後宮小説 : 酒見賢一

 第1回日本ファンタジーノベル大賞受賞作

 素乾国最後の皇帝・槐宗の後宮を舞台に語られる、槐宗の正妃となった少女・銀河の波乱の物語。

 銀河ら官女候補に施される“皇帝に愛され、子をなす為”の特殊な教育。妍を競い、友情?を育む女達。若く聡明で美貌の皇帝・双槐樹。宮廷内の権力闘争。反乱軍の蜂起~王位の簒奪。官女軍を編成して反乱軍に抵抗する銀河。その中で生まれる銀河と双槐樹のロマンス。

 際限なく豪華に重厚に~ドラマティックにも、陰惨にも、ロマンティックにもなり得るのに、あえてそれをしない軽やかさ。お話しが盛り上がってくる度に、飄々と物語の筆者が表に出てきは茶々をいれ、薀蓄を語る。銀河の姿が物語の中で煌めきを発すると、すかさず筆者がその高揚感に冷水を浴びせ、たっぷりと思わせぶりに登場した若く気高き美貌の皇帝は、大した活躍もしないままに物語の舞台から降りる。

 夢のようにゴージャスで、現実のようにクール。大掛かりな世界の仕掛けに、ウェットなドラマと乾いたユーモアの配合具合が絶妙な、とびきりの偽史。


 ところで、「ファンタジー」というと、妖精さんや怪物が棲む世界で、謎と魔法と剣と冒険っていうような、ガッチガチのイメージしか持っていなかったため、第15回の同大賞受賞作である森見登美彦「太陽の塔 」を読んだ時、「これのどのあたりがファンタジー?」と、解せない気持ちになったのだった。しかし、本大賞選評の中で、「ファンタジー」に「幻想」でも「夢想」でもなく「奇想」という言葉があてられているのを見て、何かちょっと“あぁ!”と思った。

 人間や世界を、常とは違う場所から見る。そうすることで現れる、固定した観念に縛られない異次元の世界。独創的な視点を持つことで日常との間に生じる「ズレ」が「奇想」=「ファンタジー」ということか・・・?

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-10-07

ちくま日本文学12 中島敦

 何かもう・・・キュンときた。

 自分という人間が何事かを考えながら生きているということへの、何に対してとも知れぬ恥じらい。そういうものが作品の中に濃く、薄く漂っている。

 私はてっきり、そういう恥じらいめいたものの落とす影が暗さと苛立ちを帯びている『巡査の居る風景』や『かめれおん日記』は後期の作品であり、素直で瑞々しい文体の中に恥じらいを含んだ『山月記』『弟子』『李陵』などが初期の作品なんだろうと思いながら読んだのだが、巻末の年譜を見るとまったくその逆。『巡査の居る風景』『かめれおん日記』は20歳から20代後半の作品であり、『山月記』『弟子』『李陵』は30歳を過ぎてからの作品だった。

 歳を経る毎に、あんなに瑞々しく透明になっていくとは! ああ、もう・・・。胸の「キューン」が倍増!

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-10-03

ビロウな話で恐縮です日記 : 三浦しをん

 まぁ、日記っちゃあ日記なんですが、他人が読んでも面白いように、たっぷりのサービス精神で盛られております。

 この日記が書かれた2007年、しをんさんはちょこちょこNHK大河ドラマ「風林火山」を見ておられたらしく、その話題も2,3度登場する。

 で、

 『ところで殿の顔って、いつも魚眼レンズで映してるみたいに見えないか。』

 という、遠慮会釈もなくズバリな感想に、頭をゴイーンと殴られ脳震盪をおこした私。(殿=武田信玄=亀治郎さん。「お屋形さま」と呼ぶ人が多いように思うが、しをんさんは「殿」と呼ぶ。)あまりの衝撃に、文字の背景に“ドギャーン!!!!”という効果音が見えた。

 曰く、殿は「迫力あるのっぺり顔」なので、勘助・殿・勘助・殿・・・とカットが切り替わる時、殿だけ魚眼レンズで映しているように見えると・・・。うくっ。否定できない・・・むしろ、私もそう思う。しかし、私には・・・しをんさんのように無邪気にその事実を書くことはできない。(もちろん、しをんさんは殿ののっぺり顔と、たっぷりすぎな演技を好ましく思っているのである。)

 う~ん~ それにしても、「風林火山」放送時、私は亀治郎さんの「迫力あるのっぺり顔」を、「好きな顔じゃねぇな~」と思って完全にスルーしていたのだよ。それが今じゃこの体たらく。生身の舞台で見るカメ様は恐ろしいほど素敵なのでしたわぁ。


 その他、ちょっと硬い話も。『性別に基づいて社会が要求する役割』に違和感と反発を感じるらしいしをんさん。性別に起因する問題とか、男女の役割、特性について何度か考察がなされているんだけど・・・

たぶん多くの女性が男性に求めることは、実行は難しくとも、たぶん性別にかかわらず多くのひとにとっての理想の「人間像」だと思えるのだが、たぶん多くの男性が女性に求めること(=家事や育児を完璧にこなし、笑顔をたやさず、いつも美しく、相手を立てる、など)は、いざ自分が求められると、たぶん性別にかかわらず多くの人が「けっ」と思うようなことだというのは、どういうことなんだろう。


という考えは、ちょっと一面的すぎやしないかなぁ。しをんさんの周囲には「男性と食事に行った時、奢ってくれなかったらちょっと憤慨する女性」はいないのかなぁ。それとも、「二人で食事をした時に奢ってくれる人」というのは、性別にかかわらず理想の人間像なんだろうか?

 それに、誰かと一緒に生活するとなると、一人でいたときの主義主張って、生活実態にあわせてかなりなし崩し的に変化しちゃうもんじゃないかと思いますよぅ。実生活に即して考えるなら、問題にすべきは、その人が持ってる主義主張じゃなくて、相手&自分自身が“実態に合わせて主義主張を変える柔軟性を持っているか”もしくは、“主義主張に合わせて生活を律するストイックさを持っているか”の見極めをすることなんだと思うんだけど。ついでに、「育児(家事)を手伝う夫」っていうあり方も問題にされてるけど、そういう言葉で表されていることの何割かは、実態としては「状況に応じてそれぞれが出来ることをしている」であるとも思う。

 でも多分、しをんさんが問題にしてるのは実生活に即してのことじゃないと思うので・・・

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

プロフィール

やぶからねこ

Author:やぶからねこ

FC2ブログランキング

FC2ブログランキング

ブログランキング
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村 漫画ブログへ
カテゴリー
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
検索フォーム
カレンダー
09 | 2009/10 | 11
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
魂に喰い込んでます
月別アーカイブ
Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ