2009-08-29

塩の街 : 有川浩

 街中にぽつぽつと立つ塩の柱~風雨に晒され崩れかけたそれらは、かつて生きた人間だったものだ。巨大な塩の結晶が東京湾に飛来して以降、人体が次々と塩と化す怪現象~「塩害」によりかなりの人口が失われていた。「塩害」により両親を失った行き場の無い少女と、少女を拾った元自衛隊員の男。世界の終わりを前にした二人の恋。

 「自衛隊三部作」とか言うから、硬派なものを想像してたんだけども・・・あ、甘い。餡子にチョコレートソースかけたくらい甘い。うぇ。

 「世界の終わりってそういう軽い扱いなのか?!」という驚きも、二人の甘すぎる恋も、まぁ、それはそれで良いとしよう。でも、甘ったるさの中にあまりに直球な少女の願望が見えて気持ち悪い。

 発展途上の私の良いところを、誰かに見つけて欲しい。で、私の美点を見つけ、自分では気付かなかったその魅力を私に気付かせてくれるのは、能力も容姿も優れた男であって欲しい。そして、あわよくばその男に愛されたい。さらに! その有能で容姿もまずくない彼は、何故か人間関係に不器用で、私以外の人には素直に心をひらくことができないのよ!!!(=私だけの男!!!)

 ・・・これだけ少女の欲望を丸出しにされると、さすがにひきます。(作品として欲望丸出しって意味であって、物語の中の女の子が欲望むき出しなわけじゃないですよ。)

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2009-08-26

スカイ・イクリプス : 森博嗣

 空でだけ笑う子供・・・空で生きる戦闘機乗りたちの、地上での物語を綴る短編集。

 クサナギ、クリタ、カンナミ、ティーチャ、ササクラ、カイ、フーコ・・・戦争を仕事とし戦闘機を操り、軽々と空へ飛び上がって行く者たち、空へ上がっていく彼らを、地上から見ていた者たち・・・それぞれの、地上の姿。

 空に上がる為に、極限まで削り落とされた軽さ、空にだけある完全な自由、真実・・・彼らが空の上で見る完璧な美しさは地上には無い。地上にあるのは、彼らが空に持っては行けない重さを持つもの・・・願い、繋がり、想い。しかし、それは、空に帰りたいと願って止まなかった者たちが、一方で持っていた、彼ら自身を地上に繋ぐ重さに違いない。

 あまりにも周囲との摩擦が小さく、いつでも空に上がって行くことができた者たちの、地上に在る姿は少し痛々しい。空に上がるにしても、地上に生きるにしても、何かを失わなくてはいけない。

 願いと、優しさと、諦めと・・・空の上での純粋さ、美しさとは違うものを背負わされた地上での生。それでも消えない、目に見えない何かへの・・・憧れとでもいうもの。悲しくて、幸せなもの。

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2009-08-22

持統天皇―日本古代帝王の呪術 : 吉野裕子

 草壁皇子の静かな悲しみを描いた、梨木香歩の「丹生都比売」あとがきに、「母帝に殺される皇子」という着想を与えてくれた書として本書が紹介されていた。


 天智・天武・持統らが活躍した時代の日本は、陰陽五行の思想を政の原理とする世界だったいう古代史観の下に、壬申の乱前後~持統天皇の治世までを考察した本書。

 強烈な権力への志向を持ち、夫の後を継いで皇位につくことにこだわった鵜野讃良皇女=持統天皇の性質、人格形成についての記述には多分にロマンティックなところもあり(過酷な生い立ちや、額田王をめぐる父・天智、夫・天武の関係など・・・)、“何か、少女漫画みたいなんですけどぉ・・・”と思わなくも無い。

 しかし、全体的には淡々とした筆致で、鵜野讃良皇女=持統天皇が、政治的に重要な局面のことごとくに施した呪術的な策を明かしながら、そこからの必然的な結論として「母・鵜野讃良皇女による、子・草壁皇子の殺害」を説く。

 古代社会を成り立たせていた世界観と、その世界観を巧みに操って自らを輝かせた女帝の存在感に圧倒される。

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2009-08-19

美女と竹林 : 森見登美彦

 いったい、この人は・・・臆病で繊細な兎ちゃんなのか、大胆で人を食った狸なのか・・・。両者ミックス・・・なんだろうな。ふるふると震えているかと思うと、意外に狡賢い手で打って出る兎。楽しげに浮世を渡っているかに見せかけて、自分で自分の首を絞めたりしてる狸。


 机上で事件を起こし続けた妄想家・登美彦氏は、遂に現実世界に事件を起こし人気文士となる。妄想家の人気文士は、自らの将来を見据えた「多角的経営」~「竹林経営+美女」のあらましをエッセイにしたためることを計画。

 しかし、氏が現実世界に起こした事件の数々およびその余波 ~ 文学賞受賞、マスコミの取材、サイン会、テレビ出演、締切、締切、締切・・・ ~ は、ご本人の管理能力をはるかに超えた荒々しさで襲ってくる。なす術もなく押し流される登美彦氏。

 竹林経営どころか、まったくもって、大好きな竹林に赴く暇も無い始末。(それでも、美女にはちゃっかり会ってる人気文士。意図したのとは違う形だったかも知れないけど。)

 「美女と竹林」がテーマであったはずのエッセイは、早々と行き詰まり&破綻寸前の様相を呈してくるが、人気文士はそこを何とか妄想と詭弁でカバーしようとじたばたしてみる。

 汗をかきかき奮闘する痩せぎすな文士の姿が見えるようだが、既に破綻が見えている「竹」テーマで、あくまでも話を続けようとする(「美女」テーマは早い段階で放棄されている。もしくは巧妙にすり替えられている。)依怙地さは、文士精一杯の誠意なのか?

 それとも、この“あきらかに行き詰まってる風な感じ”すらフェイクであって、自虐的トーンで読者を魅了する文士の術中にまんまとはめられているんだろうか?


 ま、いずれにしても面白かったからいいか・・・と思う。

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2009-08-15

虐殺器官 : 伊藤計劃

 9.11以降~個人情報の徹底した管理・監視により、社会からはテロが一掃されたかに見えたが、それと代わるように世界の各地域、民族間では凄まじい内戦や虐殺が勃発していた。米情報軍で暗殺を任務とするクラヴィスは、それらの虐殺の陰に必ずジョン・ポールなる人物の存在が囁かれていることを知る。ジョン・ポールの目的は? 彼が操る「虐殺する器官」とは?


 現在よりほんの少し先の未来を見つめたSF小説。人間の肉体にとってのリアルは、テクノロジーによってかなりの部分が変更可能となり、意識・認識の分野でも現実は多面化、多層化し、シンプルにリアルを感じることが難しくなっている社会。

 ジョン・ポールと「虐殺器官」をめぐるホラーもしくはミステリーとして話が展開していくのかと思っていたが・・・。虐殺の陰にちらりとその姿を見せては消える、ホラー的化け物のような人物かと想像していたジョン・ポールは、早い段階であっさりと、その有能ではあるが普通の社会人である正体を現す。

 その普通の社会人であるジョン・ポールが、世界各地で次々と凄惨な虐殺の引きがねを引きながら、そのことを紛れも無いシンプルな現実として、正気のまま受け止めていることが、自分にとっての現実を選べないでいるクラヴィスを追い込んでいく。

 人間が、自分の生死の境さえ認識することが難しくなった社会のグロテスクさ・・・。

 自分にとってリアルだと認識できる「現実」を設定するために、クラヴィスが行った選択はとてもグロテスクで悲しい。こんな現実がやってこないことを祈る。

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2009-08-12

カブキの日 : 小林恭二

 大阪の蓮華座、京都の祇園座、東京の江戸座、その上にさらなる隆盛を誇る、琵琶湖湖畔に立つ大劇場・世界座。今日は一年に一日きりの世界座での「顔見世」の日。

 両親に連れられ、世界座の顔見世にやってきたカブキ好きの少女~かつて立作者として人気を博した河井世之介の孫娘・蕪は芝居茶屋の若衆・月彦から「準備はいいか?」と記した紙片を受け取る。

 世界座では、カブキ改革派の旗手・坂東京右衛門と、守旧派の首領・水木あやめの暗闘が繰り広げられている。

 顔見世の切狂言を任された京右衛門と同志たちは、あやめの思惑をいぶかしみながらも、乾坤一擲の覚悟を決め、あやめ一派は晴れの舞台で京右衛門を完全に破滅させるための策を進める。

 さあ、舞台の幕が開く。

 
 世界座の楽屋三階は迂闊に踏み込めば二度と抜け出すことのできない迷宮。大きな力に導かれ、蕪と月彦は三階の迷宮を行く。

 京右衛門のもとに届く、世之介からの謎の手紙。カブキの至宝・名古屋丸の消失。京右衛門たちが必死に演じる世之介の狂言「山三郎浮世別離(なごやどのこのよのわかれ)」。あやめが放つ数々の罠。

 ファンタジーとサスペンス~からまりあって進む物語の合間に挿入される、「船舞台」の伝説や、阿国と名古屋山三の逸話。

 物語は走りながら、くるくるとその様相を変えていく。

 迷宮に棲む老人の台詞

 「物事にはなんだって表と裏がある」
 「表ってのは着たきり雀の着物みたいなもので、はぐってしまえばそれっきりだが、裏ってのにはどこまでいっても裏がある。それでもって、その裏のどん詰まりはいつだって表のどん詰まりにつながっているのさ、ひーひひひ」

 

「芸とは実と虚の皮膜にある」

 表と裏、実と虚 ~ 何が実で何が虚かなんて予め決まってるわけではない。つねにくるくると入れ替わりつづける物事のその皮膜に立ち上がってくる何かを見せる、それがカブキの魂。

 蕪と月彦、京右衛門とあやめ、舞台の上で進む芝居、三階の迷宮に棲むという世之介 ~ どこに向かっているか分からない事態の中で、それぞれがそれぞれに疾走する。この物語の進行自体が、くるくると自在に姿を変える怪物的なカブキという芸の世界に重なってくる。


 作中、カブキを語る言葉が色々な場面で何気なく折り込まれる。


 「その動きがまるで自由で、インスピレーションに満ちているんです。しかもそのインスピレーションがおしつけがましくないんです」
 「彼が踊れば、たとえ手にしているものが二本の細い棒でも、人はそこにまるく灯った光の輪を見ることでしょう」

 

 心中の道行を踊る蕪と月彦 

 曲がクライマックスに近づいても蕪と月彦は、そんなことは知らぬげに楽々と踊り続けている。
 だがどうしたことだろう。
 いつのまにかその場にひたひたと死の影が差し始めているではないか。



 名優・坂田山左衛門の懐述

 ひたすら大団円に向けて形式を積み上げてゆく、予定調和の物語があるのみだ。ここにはどこにも生まれでようとする美意識の輝きは見られない。-だとしたらわしはカブキに見放されたことになる。



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2009-08-08

非道、行ずべからず : 松井今朝子

この道に至らんと思はん者は、非道を行ずべからず (風姿花伝)

 「一つの道を極めようとする者は、決して他の道に迷ってはいけない。」・・・芸道を行く者を戒めるこの言葉が、ストーリーの進行につれ、徐々に重く響きだす。


 文化六年正月、炎上した中村座の焼け跡で、一人の男の死体が見つかった。火事で死んだのではないらしいこの男の死以降、中村座では陰惨な人死にが続き、小屋を支える者たちの間にも不穏な軋みが生まれ始める。

 事態を憂う太夫元中村勘三郎。老いて尚の美しさに、圧倒的な芸の力で、一座の中でも絶大な発言力を持つ立女形・沢之丞。沢之丞の二人の息子~大人しく芸にそつのない兄・市之介に、華やかだが我侭勝手な弟・宇源次。金主、帳元、狂言作者、桟敷番に楽屋頭取、道具方に下っ端役者・・・。歌舞伎の世界に生きる人々の、窺い知れぬ心の奥底には、何が蠢き絡まりあうのか・・・。

 一つ道を定めた者の恐ろしいまでの覚悟と、そこに纏わりつく無惨な悲しみが炙り出される。

 ・・・無惨ではあっても、定めた道を外すことなく歩んだ者は美しく在ることもできた。作者の目は、そういう、道を極めんと進んだ者たちだけでなく、美しく在れなかった者、非道に迷った者の心にも静かに注がれる。その愛情に溢れた視線に、じんと胸を打たれる。

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2009-08-05

明治劇談 ランプの下にて : 岡本綺堂

 芝居好きの少年として、新聞社の劇評記者として、劇作家として、明治の歌舞伎を見てきた綺堂翁の思い出話。

 表の通り、裏の露地からは長唄や常磐津の稽古が聞こえ、近所の男たちは集まっては素人芝居をしている。そんな少年時代の風景や、大人の腰巾着で、または小遣いをやりくりして見た歌舞伎の舞台。朝暗いうちに起きて、歩いて劇場に向かう長い道々~草深い野っぱらが広がり、雨降りにはぬかるみだらけになる東京の町。劇場で会った団十郎や菊五郎、守田勘弥らのことなど。

 どれも綺堂翁の身の回りにあった日常であり、実際にそれを見聞きしていた生の空気感が感じられる一方で、九代目団十郎が生きて喋って演じているなんて、私の感覚ではフィクションとしか思えない不思議な非現実感。

 ずっと昔の、今となっては夢とも現実とも分かちがたくなったお話は、ぼぅっと灯ったランプの下の風情、もしくは、四季折々の陽射しと風が心地良い座敷で~春はうららかに薫る風、夏は団扇を使いながら、秋は落ちかける夕日に、冬はキリっと冷たい空気と冴えた光~懐かしい物語に耳を傾けている気分。

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2009-08-01

猫舌男爵 : 皆川博子

 “短編集だし、「猫舌男爵」なんてちょっと可愛らしいタイトルだし・・・ピリっとシニカルで、ユーモアいっぱいなお話なんじゃないかしらん”なんて勝手に想像し、気軽に手に取ってしまったんですが、あに図らんや、どれも“ズゥン...”と重みのある作品でした。

『水葬楽』
 死の匂いに満ちた場所で、兄妹が聴く音、目にするもの。

『猫舌男爵』
 何か、上手くわかりあえないよねぇ。
 
『オムレツ少年の儀式』
 よいことをすれば、神様がよい報いをあたえてくださる。少年はよいことをしたのか? 少年にあたえられたのはよい報いだったのか?

『睡蓮』
 時を遡りながら明かされていく、病院に幽閉された老婆~才能を煌かした天才画家~の真実

『太陽馬』
 人の尊厳が無惨に踏みにじられていく戦闘、闘争の只中で、身を潜める兵士の内に去来するもの。


 表層に現れる“無惨”の奥に、触れようとすると形を無くしてしまうような、淡く漂う光を抱いた・・・とでも言えば良いか・・・。濃く、重く、ページを捲る指先に纏わりついてくるような物語群。

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