2009-06-27

よもつひらさか往還 : 倉橋由美子

 表紙は文庫よりも単行本の方が好きだなぁ。

 謎めいた一族入江家の御曹司らしき青年・慧君。入江家所有の秘密めいたクラブで、バーテンダー・九鬼氏によって供される様々な色のカクテルは、深い酩酊とともに慧君を異郷・魔境へ攫う。

 静かに降り積もる白い雪。萌える緑。海に映える夕日の黄色。暗紫の黄泉。皓々と輝く月。~夢のような景色の中で慧君が出会う女たち ~ 妖しく儚げな少女、美しい鬼女、佳人の髑髏、ふくろうの姿をした女神。

 異郷での女たちとの交歓。痺れるような快感と、死と非常に近いような怖ろしさがとろとろと混ざり合った恍惚。人ならぬものの棲む異郷に遊び、またこの世へと連れ戻される慧君の「往還の記」。

 いつか旅の途中で、見知らぬ風景を見ながら、深い酔いとともに読みたいような物語。

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2009-06-24

去勢訓練 : いとうせいこう

 それぞれのやり方で、それぞれの形のセックスに耽る男女。それは限りなくエロティックで、忘我の快楽をもたらす行為。

 しかし・・・。最上の快楽を得るための「奮闘ぶり」は、悲しいほどに珍妙でもある。

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2009-06-20

夢みるちから - スーパー歌舞伎という未来 : 横内謙介・市川猿之助

横内 : 動かない。つまり敢えて表現しないことによって得るものは何なのでしょう?

猿之助 : 究極の存在感と美しさです。


 痺れる!

 演出家と脚本家としてスーパー歌舞伎「八犬伝」「カグヤ」「新・三国志」を生み出した市川猿之助丈と横内謙介氏の対談。上記は、振幅の激しい動と静 ~ 一見荒唐無稽にしか見えない誇張された歌舞伎表現の中にあるリアルについて語る中で出てきた、静の演技・・・所謂「ハラ」についての言葉。

 はっきりと言い切った猿之助の言葉に、横内氏も一瞬打たれたようだが、私の体にも電気が走った。

 動も静も、究極まで誇張された、または削ぎ落とされた歌舞伎の動きには一つの無駄もない。 究極の動作で究極のものを伝えるために、歌舞伎役者の体にプログラミングされている「型」の力・凄み ・・・ それは決して形骸化した様式であるはずがない。

 横内氏は歌舞伎役者と仕事をすることで、その凄みをひしひしと感じられたようだ。

決まることで、何かが見えてしまう。それはもう意味とか理屈を超えている。


 そう! 歌舞伎を見ていると、ある瞬間 本当に! 「何か」が! 「見えてしまう」! これは、私自身劇場で何度か体験した。 


 スーパー歌舞伎の創造は「型やぶり」であって「型なし」ではないと言う。歌舞伎の財産はしっかりと生かされている。スーパー歌舞伎製作のノウハウについては、「スーパー歌舞伎―ものづくりノート」でも、猿之助丈によってたっぷりと語られていたが、ここでは、現代演劇の考え方をベースに持つ横内氏との対談の形をとることで、歌舞伎が蓄積し、築いてきた哲学がくっきりと浮き彫りになる。

 歌舞伎役者の肉体を持ち、その肉体で理解した歌舞伎の哲学・方法論を、歌舞伎以外の言葉で語る知性を持った猿之助は最強だ。

 猿之助が「創造者」として歌舞伎の歴史に名前を残すことは間違いない。が、これから先のことを思った時、やはり気がかりなのは、猿之助を超えて行く人がまだ現れていないように思えること。

 私が今最も期待しているのは、猿之助劇団に学び、そこから飛び立っていった亀治郎と、昨年の「ヤマトタケル」再演で、師匠とは全く違う、そしてストーリー自体がリニューアルしたかと思うほどに新しく、かつ飛びきり魅力的なタケルを生み出してみせた段治郎なのだけど・・・。

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2009-06-17

春のわかれ : 文 槇佐知子 ・絵 赤羽末吉

 20年くらい前にこの絵本のことを聞いて以来、ずっと探してた。


 村上帝の御世。主人である大臣が家宝とする硯を割ってしまった侍を庇い、自ら罪を被った大臣の若君。そのため、若君は父である大臣に憎み疎まれ、嘆きの中で寂しい死を迎える。


 自らを責めた侍は出家し、真実を知った大臣や奥方は「あの子は仏さまの生まれ変わりであったのだ。」と胸もはりさけんばかりに泣くのだった。


 元服する歳になっても、美しい稚児姿を愛でられ、童形のままにとめおかれていた若君。

 清らかな童子の死。人々は、死せる童子の美しさに胸を突かれ、いっそう悲しみを深める。

 自己犠牲、親子の慈しみ、侍の深い悔恨・・・すべてが、若君の美しい姿に集約されていく。

 美しいもの=善なるものの受難と、その受難によって人に与えられるもの・・・。宗教的でありながら、どこか倒錯的なゾクゾク感が皮膚を撫でる。

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2009-06-13

もうおうちへかえりましょう : 穂村弘

別れてしまった彼女について、漫画家・吉野朔実氏と穂村氏の会話。

吉 「そのひとと、きちんとつき合ってたの?」
穂 「うーん、なんとなく」
吉 「体が目当てだったの?」
穂 「いや、そういうわけでもなかった」
吉 「何か、割り切った関係という以上のこと、相手の心に触れて、揺さぶるようなことを云ったりやったりしたんじゃないの」
穂 「・・・うん」
吉 「何故そんなことをしたの」
穂 「体だけでなく、心も自由にした方が楽しいから」



 ・・・・・・黒い。

 しかし、穂村氏の黒さにひくよりも、女性とつきあおうとしている時の自分の心理をきっちり見切って言葉にできるその明晰さに舌を巻く。

 こんな明晰な人とは、私は怖くてとてもお付き合いなんてできないぞ~。「何故そんなことをしたの?」と詰め寄られても、“う~ん”と考え込んだ挙句「好きだったから」っていうのが精一杯なくらいのユルい人じゃないと無理。


 「人生の経験値が極端に低い」などと言って、震える子犬のようなふりをしている穂村氏って、したたかで面白そうな人だなぁと思ってたけど、やっぱりこの人・・・相当・・・だ。


 子供の名前について・・・ 祖母世代のある女性の名前「う」を前にして穂村氏は恐怖する。

 同世代の女の子たちの「幸子」「優子」には「幸せであってほしい」「優しい子であってほしい」という親たちの素朴な願いが感じられる。最近の子供たちの「怜央」「美佑」には、ただ幸せで優しくというだけでなく、世界でただ一人のヒーローやヒロインに・・・という親の願いのインフレ化を感じる。

 しかし、「う」は・・・

 私は「う」という名前に対しては得体の知れない怖さを感じる。名前に込められた願いがわからないということは、世界に対する働きかけの感覚が掴めないということであり、つまりはその時代の人間の心がみえないということだ。


 ほんの些細なことから世界に触れてしまう。そして、それに触れた自分の心持ちを、冷静に正確に言語化できてしまう。そういうことのできる人は、私にはちょっと怖い。


 でも、80年代・・・バブルの追い風の中で肥大するイメージ、自意識、「素敵さ」にがんじがらめにされて身動きが出来なくなっていたところを、ザ・ブルーハーツの「リンダ・リンダ」が救ってくれた・・・なんていううぶな告白には、“やっぱり可愛い人かも”と思ってしまう。・・・危ない。

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2009-06-10

サイゴン・タンゴ・カフェ : 中山可穂

 恋しいものたちを狂おしく追い求めて、棘で傷ついた体が血を流していることも知らぬげに、荊の道を脇目もふらずつき進んでいく・・・。激しくて切実な中山可穂の小説を読んだ後は、涙と鼻水にぬれて、ぐったりと疲れきってしまうのが常のことだったが、この短編集は少ぅし肌触りが違う・・・か?

 平穏に生活するために、心で求めているものとはほんの少し違う生き方をしている人たち・・・ここに描かれている人たちの感情には、現実の生活を滅茶苦茶にしながらも、心が求めるものに真摯に、忠実であろうとした激しすぎる女達よりも、はるかに共感できる部分が多いはずなのに、何かフィクションめいた、遠いお話のように思えるのは何故だろう?

 ・・・しかし・・・ここに収められた5つの短編にはどれも、タンゴがからむのだ。

 激しすぎる情熱に自分の生活と魂を捧げ尽くすのではなく、しっかりと生きていく為に、自分の情熱・心の一部に蓋をした男・女。哀しみと、情熱と、諦念と、生きていく力と・・・語られず、現実の行動としては現れなかった、彼、彼女らの秘められた感情は、すべてタンゴという音楽に、ダンスに託されてそこに描かれたはず。

 タンゴという音楽も踊りも知らない私は、そこに託されたものを、その感触を読みつくすことができない。悔しい。

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2009-06-06

蟹塚縁起 : 梨木香歩・木内達朗

 暗い色調の中にぼうっと浮かぶ蟹の群れ、彷徨う魂。幻想的な中に、しんとした厳しさ、怖ろしさすら漂わせる絵本。

 善良に暮らす農夫の、自分でも気付かぬ心の奥底に眠る前世の魂。囚われの家臣を救うため、敵の只中に斬り込んでいった情愛深い武将。多くの家臣をむざむざ死なせ、自らも無惨に倒れた武将の深い恨み。

 
 真夜中、眠る農夫の足下から、ざわざわと群れをなし仇を目指して進む蟹。折り重なる蟹の屍骸 ~ 誘われるように、眠っていた武将の無念の魂が、男の中に妖しく甦る。


 色っぽい要素は無いはずなのに、濃い情念の色気のようなものにあてられて、読後かすかに熱っぽい気分になる。

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2009-06-03

丹生都比売 : 梨木香歩

 水と銀の神・丹生都比売と天武帝の御子・草壁皇子の、吉野の地での、清らかで寂しく、ひっそりとした交感。

 壬申の乱前後を題材にした作品はいくつか読んだことがあるけれど、このように静かな物語は初めて。この時代を舞台にした作品で、主役になることが多いのはやはり中大兄皇子、大海人皇子、大津皇子 ・・・ 中大兄皇子・大海人皇子の活躍や、鵜野讃良皇女(持統帝)の女傑ぶり、大津皇子の悲劇が語られることは多くても、母の激しすぎる愛と期待も虚しく若死にした草壁皇子を中心に描いたものって、目にした覚えが無い。

 梨木氏によると、歴史に大きな跡を残した天智帝、持統帝は言うまでも無く、大津皇子も悲劇的ではあるにしても、その生き方は「主役の器」~激しく、熱く、輝かしい金色の光を放って生きた者たちなのだと。それと比べて、諦めに満たされたかのような草壁皇子の生き方は・・・。

 苦悩しながらも、眩い光の照らす道を歩いた王者たちの陰で、ひっそりとすべてを諦めて生きた人。そういう人の生を、そっとすくいあげるような物語。

 自分に向かって天が微笑むことは無いと知って、静寂の中で、かそけき銀色の光と戯れた皇子。それを思うと、草壁のすぐに熱を出してしまう体を、弓を握るとかぶれてしまう手を、ぎゅっと抱きしめたくなる。

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