2009-04-29

累 : 田邊剛

これ、怖い。かなり怖い。

巻之壱

 円朝の「真景累ケ淵」をもとにした漫画ですが、見開きにドーンと描かれた女の崩れた顔・・・とかは、まぁそんなに怖くない。何が怖いのかって・・・一言では言いづらいんだけども、一つ一つのコマの積み重ねが・・・物凄く圧迫感あって怖い。

 この漫画、頁の上下左右の余白がないの。全ての頁、断ち切りいっぱいにコマが割ってある。それだけで、なんかもう息苦しくて脈拍が上がってしまう。

 で、胸から上~顔だけが描かれるコマが異常に多いんだけど、それがキョロキョロと落ち着き無くあちこちに向けられる新吉の目線、精神的なバランスがどこかおかしい目の配りを感じさせて怖い。誇張された遠近感、魚眼レンズで覘いたような少し歪んだアングルが怖い。こちらも神経の具合がおかしくなってしまう。


巻之弐

 いよいよ物語後半。円朝の話に語られる、ありえないほどの因縁がからんでの惨劇に次ぐ惨劇 ~ 悪縁に引かれて、「ダメな男」から「悪い男」に落ちていく新吉の転落人生を楽しみにしていたんだけど・・・。豊志賀の死の後のごたごたや、怖ろしさから逃げるように新吉とお久が手に手をとって下総・羽生村へと逃げる。その途中、妄念に取り付かれた新吉がお久を手に掛けてしまうところで幕です。

 全ての恐怖、怪異の元である、新吉、豊志賀にからむ親の代からの因縁話の代わりに、羽生村に伝わる累(かさね)の物語が豊志賀、新吉、お久の間で繰り返す悪夢のような関係に重ねられる。

 奇抜な演出、意表を突くような見せ方というのはないけれど、一つ一つじっくり書き込まれたコマの積み重ねが、じわりじわりと怖さを濃縮し、滲み出させる漫画。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2009-04-25

秘密の花園 : 三浦しをん

 キリスト教系中高一貫女学校に通う女子がみんな、性的な匂いのするトラウマを抱えている訳では無いし、教師と恋愛してる訳でも無ければ、同性のクラスメイトに淡い、友情以上の想いを抱いている訳でもない。

 だから、公開されている紹介文やレビューを眺めながら、“「幻想の少女性」みたいなもので無理やり作られた女の子の話だったら嫌だなぁ・・・”という危惧をちょびっと抱いた。

 しかし、描かれていたのは、しっかりと自分の現実を見つめる女の子たちで・・・彼女達は年相応に賢くて、年相応に無知で、年相応に多感で、年相応に無神経で、年相応に純粋で、年相応に計算高くて・・・。そういう少女たちの内面を、吟味した言葉で、注意深く書いたしをんさんは誠実だなぁと思う。

 
 私の個人的体験に照らして、一番のリアルを感じられたのは、那由多の章「洪水のあとで」。

 私はその人が好きで、その人も私が好きで、互いに近くにいて・・・ それでも私の気持ちは、その人に伝わることは無いのだ、ということを、7歳で知ってしまった那由多。そのことを知って負った傷はどんなに深かったことか。


 少女達はしばしば、自分だけを相手にした思索の中に籠る。それは決して閉ざされた夢の空間に生きているということではなくて、いかに真剣に彼女達が自分の現実を引き受けようとしているか・・・ということなのだ。

 それなのに、時に私たちが「少女」という言葉に抱く、夢のように儚く美しく、そして一方でグロテスクでもあるイメージって何なんだろう?と思う。

 穂村弘氏による文庫版解説に、ひとつの答えが書かれていた。

 あまりにも純粋で切実な想いは現実社会のなかでは夢のように見える、という逆説がここにはある。



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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-04-22

リンダリンダラバーソール : 大槻ケンヂ

 “思い出話を本にして売るなんてズルいよなぁ~”とか、“「この物語は一部フィクションです」って~、な~んか、かなり脚色してんじゃん”とか思うけど・・・やっぱり私、「もう二度とこの手の中には戻ってこない愛しき日々」っていうのには猛烈に弱いんだってば~。

 バンドブームの頃に遅めの青春を迎えた、というか、ちょうどその頃に初めての一人暮らしを開始して、親元では完全に封印されていた自分の自然体を自覚し始めたんだなぁ~、私。

 親の下でぴっちりと嵌められていた枠を少しずつはみ出し始めた私の耳に流れ込んできた、大槻ケンヂのしゃべる言葉、筋肉少女帯の歌。猟奇的だけど切なくて、胸をかきむしるような憧れに似た気持ちを掻き立てるその世界に、誘われるままに私はついて行ってしまった。

 陳腐な話だけど、ライブ会場の高揚感に包まれている時は、「本当の自分」が解放されるような気がした。というより、普通に日常生活をしている自分が「本当の自分」だとは思いたくなかった。

 今では、ここで生活してる自分がまぎれもない「自分」だという自覚はあるし、それがつまらないとも思っていないけど、“何か熱に浮かされて、夢を見ていたようだった、確かに今より熱いあの気持ちは何処にいっちゃったのかなぁ。もう、無くしてしまったのかなぁ。ホントは無くしちゃいけなかったんじゃないかなぁ~”なんて寒いような、哀しいような、懐かしいような、怖いような、泣き笑いの気持ちになることもある。

 自分で筋少をみつけて、自分でついて行ったような気になってるけど、熱に浮かされるように私が筋肉少女帯を追いかけた時期っていうのは、ほぼバンドブームと呼ばれた時期と一致しちゃう。私って・・・「見る側、お金払う側」として単にブームに乗せられちゃっただけだったんだろうか? それとも偶然、私の遅めの青春とブームが重なっちゃったってことなんだろうか? どちらにしても、あの時期、筋少に会えて良かった。

 「リンダリンダラバーソール」読んで、ブームの熱狂と渦の中に身を投じていた人と、それを外から見ていた者の目に映っていた風景はこんなにも違ったかと、少しばかり愕然としちゃうし、私がすがったのは、もしかしたら、オーケンがただ苦し紛れに吐き散らかしていた言葉だったかもしれないと思ったりもする。でも確かにオーケンの言葉はあの頃の私を満たしてくれた。多分、少し私の目を開いてくれた。あの日々がなければ、今の私はない。


 ああ、やっぱりあの「愛しき日々」のことを思うと、感傷的になっちゃうなぁ。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-04-18

吉原手引草 : 松井今朝子

 吉原でも一二を争った名妓・舞鶴屋の葛城花魁に関る、ある事件についてお話は進みます。

 一体、葛城花魁がどんな人だったのか、その「事件」とはどういうものなのか・・・まったく分からないままに、読者は舞台である吉原の町に立たされます。

 吉原の町では、ふらりと現れたちょっと様子のいい男が、どうやらちょうど葛城花魁の話を聞いて回っているところ。この男の正体も、目的もわかりませんが、とりあえず読者はこの男の後にくっついて、次々と現れる事件の関係者たちの話を聞いていくという趣向。


 この小説の面白さは、この「話を聞く」ことの楽しさに尽きますね。

 「葛城花魁の事件」の謎を探る筋立てにはなっていますが、謎解きが物語りの主眼ではないでしょう。謎の真相は物語中盤で大体わかるようになってますし・・・。

 茶屋の内儀、妓楼の遣手、幇間に女芸者、船宿の船頭に吉原に通いつめた江戸や在郷の商人たち・・・様々な人たちが現れて、吉原の出来事と自分の暮らしを男に語って聞かせます。小気味よく、それがすでに一つの芸であるような、作られた街・吉原に暮らす人たちの語り。

 色んな視点、色んな言葉で語られる話から、多面的で多層的な吉原という街が、読者の目の前に組み上がっていく面白さ。複雑怪奇な街の息づかいが感じられるようで、スリリングです。

 最後に、話を聞き歩いていた男の正体が分かり、描き上がった絵にポンと目が入ったような清々しさで物語は終わります。読後感の良いお話でした。

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genre : 本・雑誌

2009-04-15

狐の剃刀

 京都を舞台に描かれる、耽美、魔的、狂おしく怖ろしい短編集。粘度の高い、濃く匂う言葉。読み手を追い立て、巻き込む独特のリズム。これぞ赤江節。

 「いさま まいる」と記された絵に、二条城の杉戸絵に描かれた鷺に、阿修羅像の姿に、象牙細工の扇に、十二星座を彫り込んだ緑青をふく銅の水鉢に、京の町に潜む幻めいたものに・・・ 深く、深く込められ、絡みついた人の想いが、その姿を現す出口を探すように蠢く。


 赤江氏の筆は、人の心に忍び込み、とり付いた魔をじりじりと描いてみせるが、人の深い深い部分に秘された鬼の姿を、顕かにはしない。長く心の中に守り、閉じ込めてきたモノは、また深く、深く、沈み、秘される。

 徹底して隠された情念、奥底に沈む真実の感触は、いつまでも離れない余韻として纏わり続ける。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-04-11

GENTE~リストランテの人々 : オノ・ナツメ

 「リストランテ・パラディーゾ」の外伝シリーズ。

 老眼鏡紳士がおもてなし ~ 訪れる人を優しくもてなしてくれるリストランテ。幸せの源。そこに行けば、いつも“それ”があると思える安心感。「カゼッタ・デッロルソ」で働く紳士たちと、リストランテを訪れる人たちのお話。

 ストレートに人を愛し、人生を楽しむ人。不器用で、自分の望むことをなかなか伝えられない人。想いはいつも簡単に伝わるわけではないけど、人との関係を作りつづけることをあきらめない。そんな、長い人生を経てきた「大人」の横顔、背中、眼差し、涙。

 不運も、失敗も、苦い思いもあったけど、人生に対しては肯定的で、今を楽しんで、大切に思うものがあって。堂々と、そしてひっそりと恋をして・・・。

 大人であることをこんなに素敵にみせてくれるコミック作品があって嬉しい。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2009-04-08

少年少女漂流記 : 古屋兎丸・乙一

 現実と理想、心と外見、実力と願望、自分と自分以外・・・すべてが上手く折り合わない。絶対何かが間違ってる、自分以外の何かが・・・。妄想の中でしか自分を保てない10代の暗黒。

 私の10代ってどんなだったっけ? ここに描かれた少年少女たちほどには暗黒ではなかった気もするし、私が幸いにも?鈍感だっただけで、彼らと同じくらいに無自覚に失敗だらけの日々だった気もする。


 古屋兎丸・乙一のコンビは、妄想の中にいるイタい少年少女を繰り返し描いた最後に、彼らへの救いの言葉を用意している。その救いの言葉のお陰で、少年少女たちの妄想や、イタい言動は、“傷つきながらも乗越えてきた戦いで得た勲章”だとか、“強い自分に変わるための試練”的なトーンを帯びる。

 妄想少年少女たちに訪れる、救いの場面のあまりの清々しさ、暖かさに、「これは何かの罠? 皮肉?」と勘繰ってしまったほどだったのだけど、巻末の対談で「『大丈夫だよ。嵐は通り過ぎるから。』と言ってあげたくてこの作品が生まれた。」と語られているところを見ると、作者の中には、暗黒の中にいる少年少女たちに光の在り処を示そうという気持ちが本当にあった・・・の・・・か? 

 確かに、大体において嵐はいつか通り過ぎる。“憑き物が落ちた”とか“ホルモンバランスが変わった”としか言いようのない不思議なあっけなさで。

 だからと言って、10代の暗黒って、『僕たちは忘れないよ 10代の吹き荒れる大風にのみこまれたことを』なんて誇らしげな顔をして語れるようなもんじゃなかった気がする。そんな言葉が作品の最後に記されていることに対しては、ちょっとしっくりこない気持ちが残る。自分自身の過去の弱さ、醜さ、哀しさ、惨めさ、悲惨さ、失敗は、そんなに優しく肯定・容認されていいものかなぁ・・・と。

 誰にも言えない、言いたくない、隠し通したい傷として残るからこそ、まぎれもなく自分の一部だと言えることってあると思うんだけども。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2009-04-04

スーパー歌舞伎~ものづくりノート : 市川猿之助

 「ヤマトタケル」から「新・三国志」シリーズまで、スーパー歌舞伎創出の舞台裏を記録したノート。「現代」に「歌舞伎」たり得る作品を創造する現場の熱気とともに、その生みの苦しみの一端を見るようだ。

 新しい脚本、ドラマ、舞台セット、照明、衣裳、音楽・・・どれだけ現代的な機構を利用し、現代的な要素を注ぎ込もうと、それらを見事に「歌舞伎」としてまとめ上げる。それを可能にした、理屈を超えたインスピレーション、天啓のような閃きを受け取るアンテナと、イメージを現実のものにするため、妥協を許さず、緻密に、論理的に舞台を構築していくクールな理性~その両輪を兼ね備えた、猿之助という才能の凄さ!!!

 猿之助がスーパー歌舞伎を創り上げる中で見つけ出し、蓄積していったテクニカルな部分での記述が多い本書だが、エモーショナルな高まりが見える、第一作「ヤマトタケル」についての記述 ~ ヤマトタケルというキャラクターを得た興奮・自分の分身に出会ったかのような感激を語るくだりはジーンとくる!

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2009-04-01

絵本 夢の江戸歌舞伎 : 服部幸雄・一ノ関圭

 江戸時代 ~ 大衆に愛された娯楽であった歌舞伎。そしてその祝祭の場であった芝居小屋。

 作者部屋に弟子入りした少年を水先案内にして、江戸三座の一つ中村座での興行の様子を、生き生きと再現した絵本。

 役者・裏方・観客のエネルギーがぶつかり合い、みっしりと熱気のこもる色彩溢れる空間。立ち現れる夢の世界。表情豊かに、今にも動き出しそうな臨場感。ふぅわっと画面の中にひきこまれそうです。

 「江戸の人たちが体感した歌舞伎を、芝居小屋の空間を、何とか現代の人にも“感じて”もらいたい!」という心意気で、詳細に資料をあたり、検証と試行錯誤を重ね、8年の歳月をかけて完成されたというこの絵本。

 小屋の内部まで詳細に書き込まれた画面は、ただ過去を正確に再現した図ではない。江戸の人が見たかもしれない幻まで一緒につれてくる、「夢」という名の魔法がかけられている。

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