2009-03-28

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない : 桜庭一樹

 『生き抜けば大人になれたのに・・・・・・』


 この小説を読んで、「生き残った子ども」が発することの出来る言葉は、主人公の少女達の担任教師が呻くように吐き出したこの一言と同じ言葉だけだろう。 

 大人がいいものか、そうでもないものかは置いといて・・・生き残った子どもは、大人というまったく別の生き物になるという事実だけ。


 現実の生活に効く「実弾」を手に入れるべく奮戦した子。とりあえず手元にある砂糖菓子の弾丸をやたらに撃ちまくった子。両手だらりん戦法で世界とわたりあおうとした子どももいたかもしれない。

 生き残って別の生き物になってしまった子どもは、自分が戦ってきた戦争のことを、うすぼんやりと、甘ったるくしか思い出せないから、誰かがその悲惨な戦争のことを書きとめておかないといけない。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-03-25

からくりからくさ : 梨木香歩

 祖母の遺した古い家で暮らし始めた蓉子と、3人の女性下宿人~マーガレット、紀久、与希子。庭の草を摘んで食べ、心を持った人形「りかさん」を囲み、糸を染め、機を織る ~ 巡る時間の中での女たちの日々の営み。

 女たちの何事もない日々の生活はもちろん、そこに訪れる葛藤も、共感も、温もりも、小さな波乱も、あくまでゆるりと、荒ぶらない穏やかなトーンで描かれるのだけど、決して彼女らの世界が優しく穏やかだというのではない ~ そこには常に、何か容赦のない目が注がれているのが感じられるのだ。

 何処がどう“容赦ない”のか? と言われるとちょっと困ってしまうのだけど・・・、例えばそれは、時に女たちが見せる鼻持ちならなさや、ちょっとした醜さをさらりと書いてのける筆致。 ~ そこに、彼女たちの欠点をあげつらうような意地悪さは微塵もない。女たちが見せる色んな顔、色んな感情に対して、それを彼女らの美点・欠点と区別することなく、其処に何らの感情移入をするでもなく、全てを「女たちが持つ一面」として同一の平面上にさらりと見てしまう目が“容赦ない”なぁ・・・と。

 4人の女たちの生と日常の底に流れる、一人一人の人間とどこかで接点を作っていながらも、一人の個人の力など及ぶべくも無い、大きな大きな人の世の流れというのも容赦がない。

 容赦のない世の流れの中に一人一人の人が遺す跡。名も無い人の営みの中で連綿と伝えられていくもの。長い長い連続の中に生まれる、時に劇的な、時に小さな変化。機を織るという行為にからめて描かれる、長い時間繰り返されてきた人の営み。

 蓉子たち4人の女たちも、古い家の結界に包まれ、先に生きた人たちによって紡がれた縁に導かれるように、「自分の仕事」を探り、自分の織物を織っていくのだろう。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-03-21

弄月記 : 赤江瀑

 ああ! 赤江瀑だ! この妖しさ! 狂おしさ! 説明のつかなさ!

 人の行く道と一瞬交叉する、目に見えぬ魔の道。心の内に静かに醸される魔。

 いつ何時、人をとらえてしまうのか、そこに立ち現れてくるのか・・・計り知れない、日常を生きる目には決して見えないはずの妖しい逢魔の時を、目の前に現出せしめる十二編の短編。

 冒頭の情景だけで、いきなりこの世ならぬ世界へと攫い、続く言葉で更に深く深く・・・深淵へと導く。そして・・・引いていた手をいきなり離すかのような不意の幕切れ、身動きすらかなわない崖の突端に、あるいは真っ暗な闇の只中に立たされる。赤江瀑独特のリズム・うねりに思うさま翻弄される。

 中でも表題作『弄月記』 ~ 亡き妻の言葉に従い、廃村の山に照る美しい月を訪ねた画家の懊悩と、死に場所を求めて月の美しい山を彷徨う老女形の姿- 月の光の印象があざやかで、その月の光の照らす世界が妖しい。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2009-03-18

すべてがFになる : 浅田寅ヲ ・ 森博嗣

 面白かった。人気小説のコミカライズというだけにとどまらず、独立した作品としても楽しめるのは、浅田寅ヲ氏の作家としての力量の成せるとこだろう。文字で書かれた視覚的イメージを実際に“目で見る”絵で表現してしまう腕前、漫画で描くにふさわしくストーリーを再構築するセンス、どちらも素晴らしい。

 原作で印象的だったあれやこれやの台詞はきっちりちりばめられつつも、森ミステリの醍醐味(であろう)、ミステリ+αのα部分が多少削り落とされているので、謎解きの部分が強調されシンプルなミステリ作品に仕上がった感じがする。

 シリーズでずっと読んでいくなら、人物・物語の裏、ストーリー以外の部分にもボリュームのある小説の方が面白いのだろうけども、単独で読むならこのくらいシンプルでスピーディなのがいい。ただ、場面転換がちょっと荒々しい部分があるので、原作読んでいない方は戸惑うこともあるかも。

 犀川先生・・・アゴ下のちょっとした“たるみ”が愛しい。小説を読んでる時の私のイメージではホントにさえないオッサン(見た目はね♪)だったんだけど、・・・うん、うん、浅田氏の描く犀川先生・・・うん、うん、このイメージの方が断然しっくりくるね。これなら萌絵との微妙な関係もすんなりのみこめるぞ。私のイメージしてた先生ではどうも気持ち悪くてな~

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theme : 漫画の感想
genre : 本・雑誌

2009-03-14

水が氷になるとき : 西炯子

 小学館文庫版。 ~年齢不詳。一本に結んだ、柔らかくウェーブする長い髪。まぁるい眼鏡。西炯子さんが一時期よく描いていた「嶽野義人」という魅力的なキャラクター。彼が登場する作品がまとめて読める。少年時代から30代まで、いろんな年齢の「嶽野義人」が登場。嬉しい。

 「嶽野義人」に出合ったのは、私もまだ結構多感な娘だった頃のことで、「寂しいから一人でいる。」 「本を読むのは自分の中に何もないからだ。」・・・彼が口にする言葉は、当時の私にはとても印象的だった。

 寂しさを不器用に滲ませる人たちの側にふわりと現れ、ひとときの温もりのように寄り添う「嶽野義人」 ~ 平気を装った外見の中で、震える心が周囲の寂しさと共鳴し惹かれあった少年時代の嶽野くん。孤独の中からおずおずと伸ばされる手をそっけなくも、大きく包みこむ大人なおタケさん。・・・彼自身も内に大きな欠落を抱えているのだ。 

 “忘れられない人、嶽野義人”・・・或るひとときを嶽野と共にすごした人たちにとって、彼が忘れられない想い人であるのと同じように、私にとっても、嶽野義人は恩人であり、想い人であり、忘れられない人なのだ。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2009-03-11

女形の運命 : 渡辺保

 女形を運命として生きた六代目歌右衛門に焦点をあてた役者論であり、近代に生きるということを論じた文化批評であると同時に、歌右衛門の芸に魅せられた著者自身の内面への問いかけでもある。

 近世から前近代までの歌舞伎がどういうものであったのか。女形を運命とした歌右衛門が世界をどのように捉え、どのように生きようとしたのか。近代人である歌右衛門が女形として舞台に上がった時、そこに何が起こったのか。

 ここに書かれていることを「解る」ためには、歌舞伎とはどういうものなのかということを体験的に知らなければいけないし、近世~近代の文化批評というものも理解しなければいけないし、現代人としての自分がどのように生きているかという意識がなくてはいけないだろう。そういう事への知識と、理解と、自覚をもっと深めてから再読したいと思う。

 
 異様な迫力・緊迫感に満ちた「歌右衛門論」。この迫力・緊迫感の源は、序章に語られるように、本論が著者自身の「個人的な事情」から発しているというところにあるのだろう。女形を運命として生きた歌右衛門を対象とする本論は、歌右衛門を客観的に観察し、一般的な役者論として書かれているのではなく、歌舞伎に人生を支配され、歌右衛門を観てしまったことを自らの運命とする著者が、自らの内の歌右衛門に目を凝らして書いたという印象が強い。

 妖しく美しい姿で舞台に現れ、著者を陶酔させた歌右衛門。その美しさに魅了されながら、何か不穏な予感を感じていた著者。「自分が観たものは何だったか?」と問い、その答えを追う著者自身の切迫感がこちらを息苦しくさえさせる。

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theme : 読書メモ
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2009-03-07

有頂天家族 : 森見登美彦

 この話、何か感覚的に物凄くかぶる。若い頃、私の支えであったあの曲と。
 
 ♪ 人~生~は 大~はしゃ~ぎ 子~犬のように~ 無力~ ♪(筋肉少女帯『人生は大車輪』)

 何か哀しいんだけど、ポカンと明るい。

 
 「狸であったらだめですか」

 狸に生まれたとて、人間の娘に恋をすることもあり、狸に生まれた以上、鍋の具材となることもある。まさに狸生は大はしゃぎ、毛玉のように無力・・・。

 狸界を束ねてきた偉大な父・下鴨総一郎の想いと、母の大きな愛に包まれ、天狗を師匠として育った、矢一郎・矢二郎・矢三郎・矢四郎の下鴨四兄弟。責任感が強く真面目だが土壇場になるとメンタル面の弱さを露呈する長兄。引きこもりで蛙に化けたきり元に戻れなくなった次兄。史上未曾有に化け力がお粗末な「尻尾丸出し君」である末弟。「高杉晋作ばりのオモシロ主義者」である私・矢三郎。

 父の偉大さを受け継ぎ損ねた、ちょっと無念な四兄弟。無念だとて、無力だとて、今日も都の空の下でコロコロと生きている。

 この世は、人間と狸と天狗の三つ巴でグルグル回る大車輪。思うに任せぬ浮世だけれど、身体に流れる阿呆の血の欲するところに従って、面白おかしく生きるに如かない。目の端に困難を捕まえていたって、僕らはブーツをピカリと磨いて、笑って行くしかないのだ。

 ちょっと哀しい。ポカンと明るい。何だか泣き笑い。

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2009-03-04

真実真正日記 : 町田康

 ぅわぅ! ドンデン返されてしまった。

 文章を書くことを生業とし、傍らバンドを組んでライブをしたりもする男。我と我が嘘に疲れ果てて書き始めた、垂れ流すように日常を綴る日記。

 日常には面白く愉快なこともあれば、理屈で割り切れぬこともあり、他人とはよく分からないものであり、自分も何だかよくわからないものである。

 日常の小さな混乱に巻き込まれ ~ ぐるぐると思考をめぐらし ~ 何とか納得いく答えを引き出して ~ または答えの出ない疑問のままに ~ 自分の中の小箪笥にしまう。その一々の描写が何だか滑稽で情けなく、力なく笑ってしまう。

 世の納得いかぬ事柄にに対する作家氏の考察は、実に理路整然と良識的であり、読みながら小さく胸のすくような思いをするが、日頃の鬱憤を、他人の言葉を取り込んでちょこっと解消している自分自身の醜さに気付かされて嫌な気分にもなる。

 それにしても・・・ 確かに希望に満ちて明るい内容・・・ではないにしても、力が抜けて愉快でもある日記なのに、なぜこの本はこんなにも真っ黒な装丁なんだろうかと気にかかる。

 そして・・・


 もう一度ラストの部分を読み返し、改めてどろっとした気分になる。

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