2008-12-31

三国志 : 吉川英治

 私の先入観を次から次へとぶっ潰してくれた物凄い物語。今年の終盤、3ヶ月にわたり読んできた「三国志」、年内に何とか読み終えました。

 劉備、即ち仁君。清き心と高い志を持ったヒーロー劉備像を期待する思いは、読み進めるほどに「!?!?!?!?!?!?」に埋め尽くされていく。予想を超えすぎてる劉備の言動に、まさに口あんぐり。結局、劉備とは三国志一胡乱な男であった。

 「俺はいつか大きなことをする男だ!」っていう根拠の無い夢を見て、地道な仕事を放り出しちゃった割りには、智もない勇もない、夢の実現も人まかせ。危機に際しては、「とりあえず俺さえ無事なら後はどうにでもなる」とばかりに、妻子も部下もうっちゃって一人すたこらさっさと逃げ落ちる(義兄弟でさえ置き去りですよ!)。意外と簡単に掌返しちゃうし、面倒臭そ~うなことには謙遜を装って頑なに関わろうとしない・・・事なかれ主義の凡庸な男にしか思えないんだけど。しかも、この乱世、戦乱の世に「ぽっちゃり体型」ってどういうこと?

 どうなの? これ? 私はものすごく・・・なんと言うか、意外っていうか・・・裏切られた感でいっぱいだったりしたんだけど・・・三国志好きの諸先輩方はどう感じておられるんだろうか?


 それでもあれだけの英傑たちを心酔させたってことは、かなりエキセントリックなオヤジ ~ 何らかのカリスマ性はあったってことなんだろうな。関羽や張飛は思い込み激しそうだから、劉備にハマっちゃったのも何となく納得できるんだけど、なんであの思慮分別のある爽やか青年・趙雲子龍までが・・・。なぜ。

 しかし、劉備のカリスマも諸葛亮孔明の登場とともに徐々に薄れていく。孔明 ~ 劉備の遥か上を行く曲者。彼の登場以来、劉備はただ王の冠を被せられ、奉られ、政からも、有能な部下たちからも遠ざけられ・・・。膨大な脳の容量を持つ腹黒い孔明に上手く利用されてる感じが・・・するよねぇ。関羽なんて、彼を煙たく思ってた孔明に見殺しにされたとしか思えない。生体コンピュータみたいな孔明に、関羽が窮地に陥ることが予測できなかったとは思えないものねぇ。

 何か・・・蜀の国は・・・得体が知れなくて・・・コワイよ。

 蜀の気味悪さに比べたら、魏の曹操は「乱世の奸雄」とは言いながら、やはり才能も人間的魅力もある紛れも無い英雄だし、呉の孫家三代なんて堅実に国づくりをしたすっごく真っ当な人たち・・・だと思ってしまうなぁ。

 でも・・・劉備が本当に清く正しいヒーローだったら、大して面白い話とは思わなかったかも。あんまり劉備が変だから、ついつりこまれて心の中でつっこみ入れながら楽しく読んだんだよなぁ。劉備周辺の胡散臭さ、登場人物たちの豪快で予想を超えすぎてる言動にはかなり引いたし、呆れたりもしたけど、蜀・呉・魏がそれぞれに終わりを迎え、綺羅星の如く乱世を彩った英雄達が皆去ってしまった後には、何だか一人置き去りにされたような寂しさがあって、どうしようもないすきま風が胸を吹きすぎていくのだ。

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2008-12-27

始皇帝暗殺 : 皇なつき

 陳凱歌監督の映画「始皇帝暗殺」のコミカライズ。映画や舞台のノベライズ・コミカライズ作品では何度か痛い思いをしたことがあるけど、(独立した作品性がまったく感じられない、「あらすじをなぞっただけ」なものがあったりして、がっかりさせられてしまう。)これは皇なつきさんが描かれているということで、絶対の安心感をもって手に取った。

 絵が美しいのは言うまでもないのだけど、今作では、他の皇作品で見られる衣装の緻密な描き込みとか、繊細で柔らかな質感というのとは異なる硬質なタッチが感じられる。


 後に始皇帝となる秦王・政、政と相愛の仲である趙姫、政を憎む燕の太子・燕丹、そして暗殺者・荊軻。政治的思惑と愛憎がからむドラマ。弱さと激しさを持った登場人物たちが硬く鋭い描線で描かれる。特に燕丹の器の小ささっぷりは見事に表情なんかに表れてて素晴らしい! とびきりの美男なのに、とびきり魅力の無い男っていうのをあんなに活写できるなんて!


 私は元になった映画を見ていないので、それと比較してどうこう・・・ということは言えないけれど、中国大陸のドラマを皇なつきさんが描くことで、どこか和風なテイストを持つ話になっているのではないかと感じる。(なんてことを感じながら読んでいたのだが、あとがきに『国民性の違いか、あるいは男女の感性の違いか、人物像が、どうも感情移入しにくく、また細かな矛盾点も気になったので、それらを私なりに補正するようなつもりで、単行本一冊分のストーリーに、仕上げた。』ということ書いておられて、“なるほど”と思う。)

 日本人には納得しやすい“情”のドラマとなった感じがあるが、一方で大陸的なダイナミックさというのは減じた部分があるんじゃないかな、と思ったりもする。映画見てないから何とも言えないけどね。

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2008-12-24

仏果を得ず : 三浦しをん

 “端正な顔立ちに確かな芸の腕・・・でありながら、無愛想で言動が変”な兎一郎という三味線弾きが、主人公・健の前に現れた時、“お、来たかっ?!”って思わずニヤリとしてしまったんだけど・・・その“ニヤリ”は私の邪推のしすぎでした。ま、二人は互いにかけがえの無いパートナーになっていくのではあるんですが・・・。

 文楽の若き太夫・健が芸に恋にと七転八倒。個性あるキャラクターが過不足無く配置されているし、健がクリアすべき試練も程好く彼の前に立ちふさがってくるし・・・読みやすく練られた話です。

 芸を極める道とプライベートの諸問題が都合よくリンクしすぎ! とか、天啓ってそんなにしょっちゅう降りてくるもんじゃないだろ?! とか、思ったりもしますが、これは現実じゃないんだし、そこんとこはスパッと楽しんでしまおうと思います。

 
 ソフトなお話なんだけど、健の芸に対する「欲」だけは、基本的には好青年な健の中の黒いものも見せつつ、ギラリとこちらに迫ってくるのです。

 何かを強烈に求める人の切実さというのは、それだけでこちらの胸を打つ。例えばそれがお金や名誉なんてものだったとしても、その人が本当に色んなものを犠牲にしても、必死にそれを求めているのだとしたら、私は心動かされてしまうかもしれない。

 況や、健が求めているのは深くて暗くて先も見えない芸の道。それを“欲しい”と悶えてる健を見ると、胸がぎゅっとなってしまう。

 穏やかで清々しいストーリーのトーンには不似合いな程、激しく生々しく黒いものも秘めた、健をはじめ芸に生きる人たちの欲。その不穏さが、甘い味わいの中にもピリッと舌を痺れさす刺激として、読後の後味の中に残っている。

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2008-12-20

処刑御使 : 荒山徹

 無茶苦茶でごじゃりますがな。

 ・・・良い意味で、ですよ。いや、もう何か凄すぎて・・・腰が砕けることこの上ないんだけど、憎めない。興奮するやら脱力するやら・・・よく分からないんだけど楽しみました、とにかく。

 一言で言うならアジアを舞台にした「ターミネーター」といったとこでしょうか。江戸末期の日本と朝鮮を舞台に、将来大きな歴史の鍵を握ることになる少年を巡っての、未来からの刺客と少年を守るため同じく未来からやってきたボディーガードとの壮烈な戦い!

 その戦いが・・・最初こそ真剣勝負の斬り合いだったりするんだけど、中盤から妙な方向にエスカレートしちゃって・・・。放電する巨大百足に、巨大化してのっしのっしと歩き出す仏像。

 それを迎え撃つ女ボディーガードの技も凄い。ある意味ベタな技なんだけど、それが最後の決戦での大技に、そういうふうに繋がっていくとは! ガクンとアゴが落ちてしまって・・・あいた口がふさがらないとはまさにこのこと! いいんですか、それで?(大笑)

 これ、映像化したら一大B級娯楽映画になると思うんだけど、最後の戦いだけは映像にはできないだろうなぁ・・・マヌケすぎて。

 守られる少年~将来の大物~に華が無いのも、B級臭さを増して○。くどいですが、良い意味で、ですよ、これ。

 ストーリーにあまり関係ないとこに笑いどころがあったりして ~ 未来からの刺客の大技・化物百足の餌食になる長州の美形藩士・雪之丞(ネーミングがすごいよ)と彼に懸想していたらしき同輩(こちらもあっけなく百足の犠牲に)とか・・・わざわざページ数割いて書くほどのことでもあるまいに、あえてそんなこと書いてくるサービス精神(なのか?)に、個人的にクスクスしてしまった。

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2008-12-17

おぼろ探偵帖 : 山田章博

 『いかにも俺は化け物の先遣(さきやり)夜雀だよ』

 1999年12月26日初版発行。この季節にはちょっと不似合いな、納涼テイストな漫画です。

 怪しげな稼業の不細工な爺とそのアシスタントで一筋縄じゃいかない美少女。そんな人間離れした二人に心ならずも巻き込まれちゃってる化け物の先遣・夜雀 ~ 「紅色魔術探偵団」と似たような三人組がどったんばったんやってる内に事件が一つ解決してしまう、ナンセンスと言えばナンセンスなお話。(「紅色~」はどこか大陸的なお話。「おぼろ~」は和風、明治の東京が舞台です。)

 何と言っても「キモノ」が美しい。それを眺めるだけで大変満足。大胆で洒落たデザインの着物を粋に着流した夜雀。日本髪の姐さん方の奇麗に抜けた衣紋、ゆるりと結んだ帯、流れるような姿態。

 そういう、うっとりな着物姿が、“江戸の面影残る明治の東京”なんていう見た事もない幻のくせに懐かしくもあるような景色の中に描かれる。

 夜の川風、その辺に蹲ってる正体不明のもの・・・そんな風情を眺めて、感じて、楽しむ。これは怪談だから、夏の蒸し暑い夜に読めば良かった。

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2008-12-13

見仏記3 海外編 : みうらじゅん・いとうせいこう

 このシリーズを読むと旅に出たくてうずうずしてしまう。いつも二人の後について一緒に歩いているような錯覚におちいってしまう。

 でも、海の外に出て行かれてしまってはお手上げなのだ。私の想像力が及ばない。置いて行かれたようでかなり寂しい。でも、私には「海の外の仏を見たい」という欲求は・・・無い。

 「ああ、遠くへ行っちゃったなぁ・・・」と旅人の背中を遥か彼方に眺める。

 高所恐怖・閉所恐怖と戦いながら。見知らぬ土地で夜行列車に揺られる不安に震えながら。小さな車で10時間以上の道のりを運ばれる苦痛にさすがにどんよりしながら。どうして二人は行くのか、そんなにしてまで?

  ハードで不安な長旅のせいか、たまに情緒不安定になったりする。もはやこの度は苦行なのか? 脳内から何かしら化学物質が出始めてるんじゃないかと思われる男二人。辛い旅にあって確かめ合う互いのかけがえなさ。めぐり合えてホント良かったね、いとうさん、みうらさん。

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2008-12-10

よしながふみ対談集~あのひととここだけのおしゃべり

 この対談中には、少女漫画のことが頻繁に出てくる訳ですが、これはちょっと、少女漫画体験の貧弱な私にはシンクロしづらかったですね。ただ、皆さんの漫画を読む目の確かさには舌を巻きます。


 表紙イラストのイメージからは、とても親密でリラックスしたおしゃべりを想像していましたが、収録された対談は、盛り上がりと共感の中にも相当な「真剣勝負」が見えるものでした。

「適当なことをTPOに合わせてしゃべってたら、この人の心のドアは開かない・・・って思って。」

「また会えるかどうか、1回で決まっちゃうんですよ、何となく。~少しでも分かり合えないようなことが起きたら、二度と人生では巡り会えないんだなあ、って。」


 羽海野チカさんがよしながふみさんに初めて会った時に感じたというこの感覚。大切だと思う人に対するとき一瞬も気を抜かない。コミュニケーションに手を抜かない。そうやって丁寧に関係を紡いでこそ、通じ合う仲間って得られるものなのね。

 “同じ言葉”で話せる仲間と、いつまでもいつまでもおしゃべりしていたい。そのためには自分自身が常に相手に対して誠実かつ魅力的でなくてはいけない・・・なんて、かなりハードルの高い事実を見せつけられました。

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2008-12-06

秋の牢獄 : 恒川光太郎

 際限なく繰り返す11月7日に閉じ込められた者たちの苦闘と、それでもそれなりに過ごす日々『秋の牢獄』は、自分の力と思惑の及ばない世界でも、仲間を作り、考え、悲しみ、楽しみを見つけ、感情を揺らめかせる人たちの姿と、それとは全く関係無く自らのルールを刻む異界との対比が痛い。


 日本各地を移動しながら、ある場所に決められた時間にだけ現れる「家」。神域のようなその「家」に取りこまれた青年の話『神家没落』は、その穏やかな青年の「家」での不思議で静かな体験が、グルリと醜悪なものに姿を変える。その瞬間の嫌ぁな味わいがいつまでも皮膚から離れない。


 描いた幻を現実として見せることのできる能力を持った少女・リオの数奇でグロテスクな境遇を語る『幻は夜に成長する』は、額面どおりに読んでも、やるせなさと膨らんでいく恐怖に満ちた話なのだが、“やはりこれは、リオの心の中だけの闇の物語なのではないか?”とも読めて怖ろしい。


 日常を踏み外してしまった先の異世界。その異世界に捕まった人たちの異様な体験、苦悩、恐怖とも高揚感とも言えぬ心のあり様・・・。ストーリーにはまっていくうち、無意識に求め始めているラストでのカタルシス。・・・そいいう意識していなかったところでの欲求はことごとく裏切られる。
 
 恒川光太郎氏の描く異界は、どこか懐かしげな風景を持ち、時に日常からこぼれた者をその内に引き込みながら、その世界の理は人間界とはまったく関係の無いところにある。その「関係の無さ」が、私をざっくりと傷つける。

 その“傷つけられた感じ”が忘れられなくて、私は恒川光太郎の新作を心待ちにする・・・そういうことになりそうだなぁ。

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2008-12-03

江戸にフランス革命を!〈下〉-江戸のその後 : 橋本治

 寄りの目線で、「江戸」という怪物をがっちり組み止めた上巻。

 押さえ込んだ怪物「江戸」を腑分けして、その細部を明らかにした中巻。

 そして下巻・・・「江戸」という怪物が倒れた時何が起こったのかを、浮世絵が辿った道に象徴させて語る。俎上にのる「明治の浮世絵師」たちの内面・ドラマ・人生が、橋本氏の眼力であぶり出されて生々しく、読み物としてとても面白い。

 しかし、それでは私はそこから何を理解しないといけないのか、ということになると・・・「え~っと、わかんない。私にはまだ早いかな?」っていうのが正直なところ。「まだ早い」で勘弁してもらえるようなトシではないのだけど・・・実際は、ね・・・まだ力不足です。ただ、「わからない」の元が、『橋本氏がいらだちや怒りを感じている事柄・状態が、私には腹立たしくも、嫌だなぁとも感じられていない』というところにあるような気もして・・・。

 また、何年か後に読み返してみようと思うのです。

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