2008-05-31

神様のボート : 江國香織

 「昔、あたしのママは、骨ごと溶けるような恋をした。その結果あたしが生まれたのだ。」


 「必ず戻ってくる。」と言って消えたあのひとを、ママは待ち続けている。

 「私はあのひとに慣れちゃったんだもの。他のものにはなじめないわ。」 


 「神様のボート」に乗った母娘は、馴染める土地を作らず、引越しを繰り返す。

 「パパの約束はね、それが口にだされた瞬間に、もうかなえられているの。」
 「ママはイカレている。パパに関して、あの人は完全にイカレている。」



 「恋はするものじゃなく、おちるもの」とは言うけれど、あることに関して、完全にダメになってしまう・・・自らのコントロールを手放してしまうことは、気持ちの良いことだろうか?

 「ダメになる」・・・決して否定的な意味で言っているのではなくて・・・あることに関して、全く何の妥協も、疑問も、折衷案も受け入れられなくなる ~ ただ、その“あること”は完全に美しく、完全に間違いのないことなのだと信じていられる、というのは幸せなことなのか、不幸せなことなのか? ・・・やっぱり幸せ・・・なのかなぁ。

 私はそういう・・・なんというか・・・恋愛に限らず、自分が自分のコントロールを離れてしまうっていうことが漠然と怖いので、そういう事態からはなるべく遠いところに自分を置いているようなとこがあります。(そんなことしなくても、恋におちるとか、おちられるとか・・・そんな事態が私を襲うとは思えませんが・・・)


 「神様のボート」に乗ってしまった母と、産まれた時から乗らされてしまっていた娘。二人の時間は静かに過ぎ、いつか別々の流れへと分かれていく。先へと流れて行く時間と、他に交わることなく閉じて充足した時間。別々の時間を刻むようになっても、互いに想いをかけあう母娘の情愛は少し切ない。

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2008-05-28

カメ流 : 市川亀治郎

 私、実は歌舞伎が好きなんである。役者では市川亀治郎が好きなんである。

 とは言っても、昨年のNHK大河ドラマ「風林火山」に出演されていた頃は全く興味なぞ無く、1回も放送を見ることはなかったのである。それが・・・今年二月、博多座花形歌舞伎で初めて彼の舞台を拝見して、圧倒されたのである。恋におちてしまったのである。

 生で亀治郎の舞台を観てしまったら、否が応でも彼が只者ではないのが解ってしまう。とんでもないものを身に帯びているのが“見えて”しまうのである。気魄、オーラ・・・そんな言葉だけでは片付けられない“何か”が彼には憑いている。

 その亀治郎の現時点での言葉。亀治郎流『人生の啖呵』。


 思えば、私を歌舞伎の世界に誘ったのは、亀治郎の伯父・猿之助が興したスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」だった。歌舞伎の更なる面白さを体験させてくれるのは亀治郎だろうと信じている。

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2008-05-24

百日紅 : 杉浦日向子

 浮世絵の巨人・葛飾北斎と娘・お栄、居候の善次郎(浮世絵師・渓斎英泉)たちが過ごしたであろう江戸の日々を、江戸の記憶を持って生まれてきたとしか思えない杉浦日向子氏が描く。

 ボロくて汚いが、住み慣れた感溢れる長屋の様子。橋を渡る人の往来、湯屋の賑わい。火事・酒・喧嘩。夏の金魚、行水に冬の火鉢、かいまき布団。したたかに生きる人のすぐ側に、摩訶不思議な怪異だって息づいている江戸。風の音、砂埃、うだるような空気に木陰の涼しさ、虫の声、雪の手触りまで感じられるような街の暮らしの点描。

 日向子さんの愛しい相手・善次郎は、ここではまだ名が売れる前のハンパな若者(と言っても23歳ですから、もういい大人?)ですが、これが実に可愛らしく描かれてます。鬢がバサバサにほつれた汚い頭で、ペラペラの単を尻っ端折り。負けん気は強いものの、下手な絵描きといわれてしょっちゅうくさってる。それでも女の子にはよくモテるし、何となく色気もあって・・・。ホントに日向子さんは善ちゃんが好きなんだなぁ。

 通して読むと、北斎たちを見る日向子さんの視点が少しずつ変わっていくのが感じられる。

 最初、日向子さんの視線は、北斎父娘とそこに集まるバイタリティー溢れる人たちのすぐ側にあって、彼らが関わるあれこれの出来事を、見ていたように生き生きと面白く、時にしんみりと描くのだけど、そのうち彼女の視点はす~と江戸の上空へひいて行く。そうやって見ると、江戸という雑多な人・モノが暮らす場所の一角に北斎やお栄という変わりモンで面白い人たちがいるんだなぁ・・・って感じられる。


 この「百日紅」、先日読んだ皆川博子の「みだら英泉」とはホントに裏表というか、姉妹のような作品だなぁと思う。片方しか読んでいない方は、ぜひ合わせて読んでみてください。両方の世界がより一層生き生きと楽しめます。

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2008-05-21

みだら英泉 : 皆川博子

 渓斎英泉という浮世絵師の描く絵がどんなものなのか、まったく知識はないのだけど、確か杉浦日向子さんが、「洒落で読んでもらわなくちゃ困るけど、全部が洒落ってわけでもないんだ・・・」と言いながら恋文を書いた相手が、この英泉~本名・池田善次郎~だったなぁ。

 江戸文化の爛熟期、英泉の描く女は、前衛的とも言える奇妙なプロポーションの中に崩れた色気、退廃美を湛えているという。そういう風に英泉を紹介する文章を見たこともあるから、狂ったように女と絵にのめりこみ、凄絶に破滅的に生きた英泉が描かれるのかと思いながらページを開いたが、意外にも・・・というか、そこに描かれる英泉は負けず嫌いで気持ちの良い若者と私には感じられた。

 女との色っぽいことが好きで、そういう意味できわどいことは多々あるけれど、世間に対してしっかり意地を張り、真摯に一途に絵の道を進む。誠実なところもちょっと見せたりする。

 猥雑な中にも逞しく、いっそ清々しいほどのエネルギーを漲らせた英泉。北斎とその娘お栄を描いた、杉浦日向子さんの『百日紅』を、英泉の側から描いたようだな、なんて思う。

 冒頭のシーンに出てくる大円寺の変化朝顔。妖しい姿で咲き乱れるこの朝顔のイメージがところどころに顔を出す。この朝顔のイメージに結びついている英泉の三人の異母妹~三者三様に英泉にからんでくるこの女達が、彼の周囲に情念的な色を添える。

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2008-05-17

ひらひらひゅ~ん : 西炯子

 弓道の道着っていいなぁ~ 男子も女子も凛々しさ、可愛さが三割増し。

 県立開開高校(ひらひらこうこう)弓道部の男子たちが、むやみにじゃれあい、阿呆な妄想とどうすりゃいいの?な欲望に悶えまくる、恋と変と恥と純粋と自負と自爆の青春漫画。

 うんうん、高校時代ってそうだよね~。本人はけっこう大人なつもりで、色々真剣にやってるんだけど、後から振り返ってみると“い~~~~や~~~~っっっ!!!”って叫びながら走りまわっちゃう(心の中でね)ほど恥ずかしい。

 ・・・って! ちょっと待て!  ホントにこれは私も経験したあの高校時代か? いやそんな訳ないだろう。だって私の高校生活に男子なんていなかったんだから(ついでに言うなら、中学生活にも、大学生活にも!)。現実の男子高校生の質感がどんなもんで、どんなことに身悶えしてるのかなんてちっともわかんないんだから。

 男子高校生なんて私にとっちゃ異星人。その異星人が漫画という妄想のなかで、なんとな~く自分も経験したような気がする“い~~~~や~~~~っっっ!!!”ってな青春を演じてくれるんだから、現実のしょっぱさ八割減で、遠い日の甘酸っぱさ五割増し。

 ああ、なんだかみんなキラキラ・モワモワしちゃってコマの中から匂いまで漂ってきそうだけど、最近は青春の汗だって、ちゃんとデオドラントスプレーでニオイを抑えてあるのだ!

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2008-05-14

仲蔵狂乱 : 松井今朝子

 芝居の唄うたいの家に拾われた孤児・・・稲荷町と呼ばれる下っ端から、江戸三座で座頭をつとめる人気役者まで上りつめた初代中村仲蔵の生涯。

 芝居という特異な世界の中で、仲蔵が嘗める辛苦が、そして芸の道を登っていく華々しい姿が、単に苦難と成功の物語として描かれるのではなく、大きく振れる人の人生の振幅の中に丁寧に描かれ、肌触りの暖かい話になっている。

 仲蔵といえば、『仮名手本忠臣蔵』の定九郎の扮装をどてらのむさくるしい山賊姿から、黒紋付の裾を端折った浪人の姿に変える工夫をした役者。これが大当たりとなって、端役であった定九郎の役が現在のような格好よく色気のある人気の悪役になったという。歌舞伎のガイド本などで目にした事のあるこのエピソードが出てくる件は、読んでてちょっと嬉しくなった。

 歌舞伎の世界の闇の部分も見せながら、著者の筆には芝居をめぐる人々への夢見るような愛情が溢れている。

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2008-05-10

ヤマトタケル : 山岸凉子・梅原猛

 先日、念願かなってスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」を観ることができ、あまりの素晴らしさに中々感動さめやらず・・・。少しでも長くその余韻に浸りたいと思っていたところ、梅原猛氏の原作戯曲を山岸凉子さんが漫画化されていたということを知り、早速ネットで入手。

 戯曲・歌舞伎とは、かなり設定やヤマトタケル=小碓命の人物像が異なっている部分があり、話としては別ものと思った方が良いかもしれない。

 山岸氏による漫画版のヤマトタケル=小碓命は、気は優しくて力持ち、胸板厚く、肩や腕の筋肉も隆々とした男性として描かれていて、“これじゃ女装は無理だろう・・・”と気をもむ。案の定、熊襲襲撃の時は従者タケヒコが女装役。命様の女装姿は拝むことができなかった(厩戸ばりの女装姿を期待していたのだが・・・)。

 双子の兄とは違い、父に顧みられる事の少なかった小碓命の父恋いがキーになっていて、悲劇の英雄譚として感動的にまとまっているんだけど、歌舞伎の舞台のスペクタクルや、梅原氏の戯曲で描かれる濃く、荒々しく、小さくまとまることの無く、文字の中からはみ出してきそうなキャラクターのパワーを体験した後では少し物足らなくも感じられる。

 小碓命、弟橘姫、倭姫、タケヒコ、ヘタルベ・・・このあたりの主要キャラクターたちに、戯曲や歌舞伎の舞台で感じられた複合的な魅力が少々欠けるんだよなぁ。ストレートに好青年だったり、ひたすら純真で可愛い姫であったり、物分りの良いやさしい叔母だったり・・・。

 でもね、華やかな衣装をまとって繰り広げられた歌舞伎の舞台上の夢見心地とも、梅原戯曲から強烈にたちこめた土と人の臭いとも違いはするけれど、山岸氏の描く小碓にしか無い魅力もあって・・・。それが、若き皇子の健やかな心と、その心をくもらせる悲しみの対比。数々の戦いを勝ち抜いてきた頑強で美しい肉体がついに破れ滅びる時の衝撃。肉体派の命様だっただけに、その美しい肉体が失われる=死の悲しみはひとしお。


 余談ですが・・・私、ヤマトタケルのキャラクターっていうと、ゆうきまさみ「ヤマトタケルの冒険」の小碓が好きなんだよなぁ。自由奔放な少年皇子。政治的な謀に無縁でさっぱりしているが、少々性格破綻気味。女好きで女にモテる。自分の都合次第で暴力に訴えたり、卑怯な手を使うことも厭わない。こういう奴が英雄譚の主役ってとこが何とも。


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2008-05-07

暗野(ブラックフィールド) : 橋本治

 漠然と満たされない想いをかこち、正体の解らない恐れにうっすらと脅かされる大学生・伸生に訪れる夢。夢は不可思議で凶暴な現象を伴い、日常を侵食していく。

 ごく普通の若者である伸生の夢と、眠り続ける一人の少女の夢が出会い、大いなる“開放”が起こる。街に開放され感染する伸生の夢。

 
 伸生は物語の冒頭から日常を侵す夢に襲われており、普通の大学生だという彼の人となりや普段の生活ぶりは、わずかに描かれる彼の大学での言動や独白から推測するしかないのだけど、彼が抱える正体のよくわからない不機嫌は、すぅ~っと冷たいものが肌を撫でるような感覚として解るような気がする。

 自分の身体の中に封じている「夢」を閉じ込めておく力が自分に無くなってしまったら・・・、何かの拍子に「夢」が檻を破り流れ出してしまったら・・・と考えるとかなり怖い。


 1981年に発表されたものに加筆を施したというこの小説、分類としてはサイコ系ということにになるんだろうか? どんどん先鋭化するこの分野においてはすでに古めかしい感じがする。

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2008-05-03

アラビアの夜の種族 : 古川日出男

 ナポレオン・ボナパルトの軍勢がエジプトの地を侵そうとしていた。“破壊する機械”としての近代的な戦法・兵器を備えた数万の侵略軍は、瞬く間にアレクサンドリアを征服、蹂躙し、刻一刻とカイロへと迫っている。

 迫り来る敗北とエジプト終焉の予感の中、カイロの実力者・イスマーイール・ベイの奸智に長けた美しい奴隷・アイユーブが一つの秘策を語る。

 侵略軍の将・ナポレオンに贈る「美しい献上品」~美しく装飾された稀代の物語集・・・物語は読む者を魅了し、読む者は全てを擲って物語に耽り、その書物と「特別な関係」を結んだものは地上から忽然と姿を消すという・・・「災厄の書」を創り出すため、カイロの夜の片隅で物語は語られ始める。

 語られ、書物に書き留められる物語。
 書物に封じられた物語を読み、解き放つ者。
 語られる物語の内部でさらに綴られる物語とそれを読む者。
 物語の外側にありながら、読むことで物語そのものへと変貌する者。
 読む者は、ある時には物語の主体であり、同時に語られる者でもある。

 複雑に絡み合う物語と書物と読む者の関係。その一部にいる我々。

 
 「災厄の書」に収められる物語は、長く因縁に満ちた恐るべき年代記であるが、それ単体で「災厄の書」と成り得る程魔的なものとは思えない。そこに、その書物を「災厄の書」たらしめるだけの背景を持った、まさに千載一遇の読み手がいなければ・・・。

 それを求める読み手の前で物語は力を振るい、また新たに物語は語られ始める。

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