2008-04-30

ポーの話 : いしいしんじ

 人は誰でも幸せを願って、良いことが起ることを祈っているけれど、酷い出来事は降って湧いたように彼らを襲うことがある。そして、たとえ酷い出来事が起きたとしても人は生き続ける。それぞれに良い出来事を引き寄せようとしながら、身体の深い深いところにそれぞれの大切なものと、泥のような罪悪感と、それぞれの優しさを抱いて。

 泥川の流れる街で、うなぎ女から生まれたポー。泥の川に潜り、流れに流されながら色々な人に出会い、色々な出来事に遭遇し・・・。

 それぞれの場所で、それぞれの事情の中で暮らす人たちと出会い、ポーは知っていく。生きることを、大切なものを持つことを、償うということを。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2008-04-26

シュミじゃないんだ : 三浦しをん

 はぁ~っ お腹いっぱい。ちょっと胸焼け気味?


「趣味」じゃないんだ! 私にとって漫画を読むというのは、すでに「生きる」というのと同義語だ!


 魂の咆哮とともに、(ボーイズラブ)漫画について熱く(暑苦しく?)語ったエッセイ集。

 朝食のメニューが、ごはん、味噌汁、漬物、塩鯖・・なんていうラインナップだった時、塩分の取りすぎのせいか頭がクラッとすることがある。しおんさんも、ボーイズラブへの愛が血中にまわり過ぎたためクラッとしている頭の状態でこの文章を書き綴ってるんじゃないだろうか? 唾を飛ばし、熱に浮かされたように語るその言葉は、どこかもうまともな平衡感覚を保ったアタマではないことを感じさせるのだ(笑)。

 大層なボリューム、味のしっかりした素材、こってり手の込んだ味付けで、次々と並べられるシェフの思いいれたっぷりの料理・・・。「そろそろ、お口直しの柚子風味のシャーベットを・・・」などと思う私の前に、「まだまだぁっ」とメイン級の料理が。・・・なんだか酸っぱいものがこみ上げてきた。

 ああ、やっとデザートか・・・と思ったその矢先、おまけの書き下ろしボーイズラブ小説「夏の思い出」は、デザートどころか、トドメのフォアグラソテー(と言っても、ちゃんとしたものは食べたことの無い私だが)だった。しをんさん・・・短編の中に好みの設定、シチュエーションを詰め込みすぎだよ~! それに漫画の中の還暦より、小説における還暦は圧倒的にリアルです! いくらオヤジ好きといっても、乙女の幻想を粉々に粉砕しては・・・。

 私は、このエッセイ集で俎上に上ったBL作品・BL作家どれも馴染みはなかったのだけど、多分しをんさんは、その作品、作家の魅力を、残念ながらご自分の文章で表現しきれなかったんじゃないだろうか? 書ききれないもどかしさに身悶えする彼女の姿がそこここにある。

 しをんさんの熱い愛と推薦の言葉に背中を押され、ボーイズラブの大海原へと旅立つ人、荒すぎる鼻息に恐れをなして遠巻きにする人・・・もしかしたら後者の方が多いんじゃないか?という危惧まで抱かせるアツ(クルシ)イ一冊。


 ・・・ところで・・・

 しをんさん、このエッセイの連載を始めるにあたっての第一章冒頭で、BLANKEY JET CITYの「ライラック」という曲に触れられていて・・・そのことが一番私のツボを刺激したんですな。

 「C.B.Jim」というアルバムに収録されていたこの曲

 日差しは明るい真冬の日、僕は友達と二人で道を歩いてる。僕たちの吐く息は真っ白。僕は嬉しすぎて、時々道路標識を蹴飛ばしちゃったり・・・

 「僕」が繊細でクールでちょっとひねくれた10代の少年なのか、それとも、しをんさんの言うように、今まさに人を殺してきた28歳のヤクザなのか・・・それはわからないけど、とにかく、僕の隣を歩く友達はとてもきれいな心を持っていて、僕はもともと花になんて興味なかったんだけど、「ライラックってどんな花だろう? 多分、赤くて5センチくらいの冬に咲く花・・・」なんて思ったりするのだ。

 
 とにかく物凄い名曲で聴くたびに鼻の奥がツンとする。

 「ライラック」の「僕」と「ともだち」の姿が冒頭に据えられているということ、「僕」の純粋さ思うたび、しをんさんの目が涙に濡れるのだということを知ったこと・・・それだけで、私にとってはこのエッセイ集を読んだ価値がある。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2008-04-23

でかい月だな : 水森サトリ

 13歳の僕・沢村幸彦と綾瀬涼平は、海に行った帰りの峠道、雲間から姿を見せた大きな満月を二人で見た。「でかい月だな」・・・ぽつりと言った直後、綾瀬は僕を崖下へ蹴落とした。綾瀬はなぜあんなことをしたのか・・・。その答えを知る為に、綾瀬を待ち続ける幸彦。


 13,4の子供がいっちょまえに悩んだり、主張したり、絶望したりしやがって!などと、最初は苦々しく思ったのだけど、読み進めるうちに印象が変わった。一見傲慢・なげやり・粗暴に見える態度の裏に隠された、“世界”と接してふるふると震える心。未完成ながら、自分なりの正しさを侵されないように守ろうとする頑ななまでの幸彦たちの姿はピンと張りつめていてきれいだ。

 想いが伝わりあわない事に苦しみながらも、皆と同じ気持、同じ幸せを共有することには違和感と苛立ちを感じる。そんな中で、幸彦が興味を持ち、そばに居ることを心地良く感じたのは二人の変人・・・クラスで完全な無言を貫く邪眼の少女・横山かごめと、錬金術師を自称する天才・中川京一。

 幸彦の目には二人は超然としてゆるぎないものに見えたが、幸彦が恐れるかごめの無言も、幸彦を何度も助けた中川の錬金術も、本当は幸彦の「死のう」という決意と同じように、彼らなりの戦う術だったのだ。理不尽で大きな自分の外の世界に抗うための。

 世慣れた大人たちに勝るとも劣らない真剣さ、大人よりもどうしても経験の数で劣ってしまう痛々しさをまとった悲壮な覚悟で、戦うように生きる幸彦たちが清冽で、大人である私は衝撃を受ける。こちらがドキリとするようなクールな目と悲壮感を持っているくせに、少年期の甘ったるい感じがあるのも良い。

 SF的状況もからみつつ、綾瀬と共有できるものを確かめる為、行動を起こす幸彦。結末は・・・。


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theme : オススメの本
genre : 本・雑誌

2008-04-19

夏と夜と : 鈴木清剛

 登場人物たちはそれぞれに困難なことを抱えていて、色々に事件も起こる。物理的にも心理的にも大きな動きがあるのに、そこに発する熱は極力抑えて描かれている。全体的にひんやりとした感触で、登場人物たちは皆、体温低めの人なんじゃないか?・・・なんて感じる。


 僕たち三人は時計の針のように、三人で一つの世界にいた。何でも率先して行動し、体の細い和泉みゆきは秒針。背が小さくてのんびりしてるスウちゃんは時針。二人の間で心地良いバランスを感じていた僕は分針。

 三人の間で循環する気持ち・・・愛で満たされた世界は僕たち三人の楽園だった。でも、スウちゃんの死によって、心地良いバランスは崩れてしまった・・・時計の三本の針は重なったままもう先に進めない。

 三人の世界を離れて長い時間が経った。僕は今では妻のゆきと二人の世界を築きつつあるのだけど、時折“心持ちの具合が悪くなる”。その発作はランダムに僕を襲う。そんなある日、僕は和泉みゆきと再会する。和泉はスウちゃんの幽霊が現れるのだと僕に告げる。

 確かな存在を感じさせるスウちゃんの幽霊と和泉と僕・・・三人の楽園を再生させることができるのか。僕が求めている楽園は何なのか・・・。

 自分にとって必要なことを、静かに、しっかりと確かめる時間。もどかしいけど大切な時間が、静かでひんやりとしたトーンで描かれていて・・・こういう感触は好きです。ただ、私はこの話を読みながら、僕でも、和泉みゆきでも、スウちゃんでもなく、僕の妻・ゆきに近い立ち位置で出来事を眺めていたので、そういう意味で少し苦しい気持になってしまった。 

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2008-04-16

おはなしの知恵 : 河合隼雄

 「おはなし」は役に立つ薬であり、同時に危険な毒でもある。

 人々に好んで語られる物語には、心に強く訴え、虜にする魅力がある。我々に色んなことを教えてくれているようにも見える。しかし、その物語に打たれ、そのまま「おはなし」に身を投じるということは、とても危険な事態を招いてしまうこともある。

 「おはなし」を生きるのではなく、「おはなし」を自分の生に役立つものとして利用する。著者は読者に寄り添いながら世界の神話、民話、昔話をひき、そのために必要な視点、心の持ちようを示してくれる。

 心理療法の現場にも立つ著者ならではの実用的な書と言えるだろう。また同時に「おはなし」を色々な角度から眺めて見る雑学的な楽しみを提供してくれるエンターテイメントの書でもある。


 ところで、本書とは関係ないが、「おはなし」と聞いて私の頭から離れないのは、『ノーライフキング』のあとがきでいとうせいこう氏が書いた「僕は呪われ続けたのだ。『小説を書くな。お話を書け。~略』と。」という言葉。では小説とは何なのか?
 
 いとう氏は続けて、次は小説を書くつもりでいること、それが『ワールズ・エンド・ガーデン』であることを書いているのだが・・・

 私には未だに理解しきれない言葉なのだ~。 

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2008-04-12

ぼっけえ、きょうてえ : 岩井志麻子

 明治時代、岡山の貧しく小さな集落を舞台に、独特の泥臭さを持つ土地の言葉で語られる怖ろしい話。

 “ぎゃ~っ”と絶叫するという類のものとも、背筋がすぅ~っと寒くなる類のものとも違う、嫌~な感じの怖ろしさ。

 恐怖の種はあちこちに周到に撒いてある。貧しい村での悲惨な暮らし、閉じられた集落での妬み、嫉み、そこから起こる陰惨な事件、禍々しいものの影。しかし、それらの恐怖の種は他の物語などでもしばしば見聞きするもので、それだけではこの4つの話が放つ嫌~な感じは出てこない。

 このお話を嫌~な感じに怖ろしくしているものは何かって、怖ろしい思いをしている当事者たちが“逃げ出す”ということをしないことだ。ちょっと現代的な感覚で考えれば、“嫌だ”と思ったことから彼らが逃げ出してさえいれば回避された恐怖もあるのだ。

 怖ろしさに身を強張らせ、慄いた青黒い顔をしながら、それでも怖ろしいものを振り払って逃げるなんてことを思いつきもしないで、怖ろしいものをじ~っと背に、肩にのせたまま生きている。“逃げる”ことを思いつかずに生き続ける人間と、“逃げる”ということを思いつかせないほどに彼らを縛っている、彼らの住む集落という世界が怖ろしい。

 そういう“逃げない”(“逃げられない”)ことで恐怖が増幅しているという意味では、私は『密告函』が一番怖かった。


 表紙の日本画は甲斐庄楠音の『横櫛』。久世光彦氏の「怖い絵」に、この画家について書かれた一節がある。こちらも怖ろしいといえば怖ろしいお話。未読の方には強くお奨めします。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2008-04-09

猫だましい : 河合隼雄

 「たましい」というものを改めて考えてみても良いのではないだろうか、と河合隼雄氏は私たちに語る。「たましい」は「魂」とはちょっと違う。「スピリチュアルなんとか・・・」というアレとも違う。


 世界創生の神話が、天と地を分かつことから始まるという例に見られるように、混沌の中から何かを分離し取り出す、境界の判然としないものをはっきり切り離し、区別し、把握するという所から人間の意識は生まれた。

 近代になって人がついに「心」と「体」を切断して、強固な自我を獲得するに到って、一方で分離、切断によって生まれる影の部分が現れるようになってきた。

 人間という連続した存在を、ひとたび「心」と「体」に分けてしまうと、その途端に全体性は失われてしまう。もう一度、切断した「心」と「体」をくっつけたところで、元通りには戻らない。人間を「心」と「体」に分けた途端に失われるもの・・・言うなればそれが「たましい」ではないかと河合氏は考える。

 「無いもの」「失われるもの」を思い描くのは難しい。そのため河合氏は、私たちの身近な日常に、また物語に登場する猫を方便として使う。(「猫だましい」というタイトルには、「たましい」と「騙し」がかかっているのです。)


 平和に眠る炬燵猫。古代エジプトの神であった猫。虎やライオンに通じる、獰猛な狩猟者の本能を持つ猫。束縛を嫌い自由気ままに振舞うかと思えば、身をすり寄せて愛好者の心をとろかす猫。知恵と策略で主人に大きな富をもたらす一方で、恩を受けた主人を残忍に食い殺すこともあるおとぎ話の猫。化ける猫。

 変幻自在で、矛盾する属性をも平然と同居させる猫のありようを「たましい」の顕現と見て、古今東西の物語に登場する猫たちのふるまいを観察する。

 河合氏がひいてくる物語はどれも魅力的なのだけど、一番好奇心を刺激されたのは「長靴をはいた猫」の読み方。猫はなぜ長靴を履いたのか? 長靴をはいた猫が手袋までつけたらどうなるか?

 
 マンガ界からは大島弓子の「綿の国星」が代表選手として選ばれているが、「綿の国星」ってほんとよく評論に取り上げられるマンガだよなぁ。マンガで言えば・・・内田善美の「草迷宮・草空間」に出てくる日本人形の女の子(いつか人間になると思ってる)も“ねこ”と呼ばれ、これはもうはっきりと作中に「魂」というテーマが現れる。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」もアニメ化の際、登場人物たちが猫の姿で描かれた。

 猫をからめて語られる物語をこれだけ続けざまに見ていると、猫が「たましい」を語る方便だったことを忘れて、“なぜ「猫」なのか?”というところにまた興味が向かってしまう。これはまた違う分野の仕事になるんだろうけど・・・。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2008-04-05

葉桜の季節に君を想うということ : 歌野晶午

 ある老人の死の真相を一人の男が追う。度胸も行動力もある、摺れているようで多分にロマンチスト・・・この男のキャラクターがストーリーをぐいぐい引っ張っていく。

 夢の中に現れる過去の風景や、過去に男が関わったヤクザの変死事件が挿入されながら話は進む。主人公の男の活躍ぶりにどこか愛すべきところがあって、どんどん先へ先へと読めてしまうのだけど、事件自体は割とありきたりな展開。読者をハラハラ・ドキドキさせる謎が裏に隠されているとも思えない。

 では、この作品におけるミステリーはどこにあったの? というと、作中の事件の中にというよりも、作品全体に施されていた仕掛けの中に・・・ということになるんだろうけど・・・。

 種が明かされる段になって、その仕掛けの無理やり感にイラっとしてしまう。ストーリーに謎をちりばめるのではなく、その外側の設定に謎を施すというのはどうも卑怯な手を使って謀られたようで、不快感を持ってしまうのは、私がミステリーを読みなれていないから?

 それにしても、その仕掛けで著者が一体何をしたかったのか? その仕掛けがストーリーにより深い味わいを加えることになっているか? 私には解らん。ただ単に“びっくり箱を開けた”というだけでは納得できない。

 意味もなく欺かれたという気分だけが残って後味が悪い。主人公の男の感触が良かっただけに、何だか残念な気持になる。

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2008-04-02

ジェラールとジャック : よしながふみ

 三浦しをんさんのエッセイで絶賛されていたので興味持ったのですが・・・噂に違わぬ名作。

 顔と心に傷を持つインテリ平民(エロ小説家)ジェラールと、純粋できかん気な落ちぶれ貴族ジャック。娼館での(客と男娼としての)出会い、ジェラールの屋敷での主従としての日々、ジェラールの過去、そして革命の波に追われるように変転する運命 ~ 二人の結びつき、心の変遷が十三のエピソードで描かれる。

 かつて愛した人からつけられた手ひどい傷。受け止めてもらうべきところを持たなかったジェラールとジャックそれぞれの“愛したい”という気持ちが互いに満たされていく過程はしみじみと心に沁みる。一度壊れてしまったものが再び満たされ再生してゆく幸福な余韻を持ったラストシーン。

 “愛したい”という気持ちとともに、募っていく“愛されたい”という願望・欲望。そういう切羽詰った欲望を感じ始めた二人は可愛くて官能的。で、それがともに満たされていく幸福感 ~ これが格別なんだ。

 成長の物語、癒しの物語としても良い話だと思うけど、やはり恋愛ものとしてとても良い。

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