2008-03-29

見仏記-仏友編・親孝行編 : みうらじゅん・いとうせいこう

「見仏記2-仏友篇」「見仏記4- 親孝行篇」 : みうらじゅん・いとうせいこう

 いつもの旅の出発地点「東京駅銀の鈴」に二人がやってくると、私も無性に旅支度を整えたくなる。この「見仏記」シリーズは私の旅情を今一番そそる読み物なのだ!

 まず、目的地が(「海外篇」を除いては)ちょっと思い立ったら行けちゃう所なのがいい。みうら氏が直感的一言とイラストで、いとう氏がひねりぬいた描写で見せてくれる仏(ブツ)たちのヴィジュアルが脳内を彩ってくれて楽しい。タクシーを利用しての忙しい旅であるにもかかわらず、広がる妄想と浮遊する思索、深いリラックス状態に落ち込んでいく二人がいい。仏たちが見てきた長い長い時間の前に、人間の孤独を見ちゃってちょっぴり無口になったりするのがいい。二人のアツい友情にたまにホロリとさせられるのがいい。

 シリーズ4冊目まで読んできて、最近気になるのが十一面観音。十一面観音について語るときには決まって、みうら・いとう両氏が、色っぽいだの、フェロモンだの、悩ましいだのといった言葉を吐くのだ。宝冠や胸元に装身具を垂らし、腰を心持ちひねり右手を下に垂らし、左手に蓮の花を差した宝瓶を持つ独特のポーズには、確かにドギマギさせられるような色気が漂っている。いずれ両氏にならって、十一面が密集しているという琵琶湖・湖北を訪れたいものである。

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2008-03-26

甘い蜜の部屋 : 森茉莉

 藻羅という女には不思議な、心の中の部屋がある


 あまりに印象的な冒頭の一文。少女・モイラと父・林作の、何人も入り込めない精神的密室での交わりは香り高く、ねっとりと蠱惑的な肌触りを持つが、並の精神しか持たない人には少々毒気がきつく悪酔いしてしまう。


 魔的な美を持った少女・モイラと、思慮深く穏当な人柄の陰に悪魔の知性を持ったその父・林作。二人の悪魔が思うさまその力を振るい、善良な人々を引き裂き、踏みにじり、貪り尽くす。

 何ものにも傷つけられない、一点の曇りもなく無垢な悪魔・モイラの無邪気な眼差しが、心のままの言動が周囲の人間を苦悩に落としいれ、破滅させていく様。そうして一人の人間を屠る度にさらにその力を強大にしていく悪魔・モイラのおぞましくも抗い難い美しさをもった姿。悪魔の誘惑と薄々はわかっていながら身を差し出し、蹂躙されることに苦しみと共に倒錯した喜びを感じる男達。悪魔の絶対的な力に魅せられ、額づく僕たちの心理。

 繰り返し、執拗に描かれる、道徳や良心が何ほどの価値もなく悪魔の前に跪いてしまう世界は、ちょっとしたダーク・ファンタジーにも匹敵する。 


 ・・・実はアジアン・ダーク・ファンタジーコミック「新暗行御史」と同時進行で読んでいたため、感想がかなり影響受けてしまってます。恐るべし「新暗行御史」

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2008-03-22

象られた力 : 飛浩隆

 『デュオ』『呪界のほとり』『夜と泥の』『象られた力』四篇の中・短編を収録。そのいずれもが生物の形をとらないところで発現する「生命」を、ヒリヒリする緊迫感で描き出している。

 情報がやりとりされる場の中で、あたかもその流れにつけられた傷のように現れる「意識」。遺伝情報を元に空間に繰り返し再生される「生命」。図形に備わるウィルスにも似た「力」。

 ばらばらに存在していた小さな組織が徐々に寄り集まり、収斂してゆき、ついに生命としての姿を現す様を、私たちはじりじりした感覚と共に目の当たりにすることになる。

緊迫感は、急ぎすぎない絶妙のテンポコントロールによってさらに増幅される。



 『デュオ』作中の言葉である。

 著者の筆致は正にこの言葉の如く絶妙にコントロールされている。決して私たちに、逸る心のまま読みとばすということをさせない。ほんの少し集中力を欠いただけで、形を成し始めていた「生命」は、またバラバラに拡散してしまう。私たちが正しくこの驚くべき「生命」の発現を見る為に必要なコントロールを、著者は与えてくれる。

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2008-03-19

少し変わった子あります : 森博嗣

 名前も無い、決まった場所も無い、毎回違う場所で、看板も出さずひっそりと営業する不思議な店(その店のことを「私」に教えた男は一月程前から行方不明だ)。

 全てに於いて感じが良いが、全てに於いて何の印象も残さないこの店で、「私」は正面に座る一人の女性(名前も素性も不明。料理を食べる仕草が美しいという他は特別な点のない、ただ普通の女性である。「私」の正面に座る女性は、「私」が店を訪れる度に変わり、二度と同じ人に会うことは無い。)と一緒に料理を食べ、ひと時と過ごす。

 何にも邪魔されない、煩わされないこの不思議な店で、「私」は私だけの世界、純粋な思考の中に沈んでいく。

 たった一度、ほんの短い時間だけ共に過ごす女性と交わす言葉は(二人とも何もしゃべらず過ごすこともあるが、その時はその沈黙が)「私」の「孤独」を起動するスイッチになり、「私」の中に次々と現れる記憶、様々な考察、名づけようのない抽象的な思考・・・。

 「私」の頭がそういうとりとめのない活動をする様は、保坂和志の「カンバセイション・ピース」にも似た感じ。

 ところで、この本を読んでいると、「私」に現れたのと似たような作用が、読者であるこちら側にも現れる。目は本の文字を読みながら、頭の中では別の個人的でとりとめのない考えが回り始める。本の中で、「私」の正面に座る女性の役を、この本がしてくれるということか・・・。

 本の中の「私」が心地良い一室で美味しい料理を口にしているのに比べ、読者である私は電車待ちのホームの上とか、ランチ客でざわざわするカフェとか、隣で家族がテレビを見ている騒がしい自宅リビングにいるというのは、あまりに待遇が違いすぎるじゃないか! とは思うけど・・・。

 さて、この不思議な店にしげしげと通った「私」は(そして「私」にこの店を教えた男は)その後どうしているのか? この不思議な店は何なのか? 孤独を愛する人の為に良質な孤独を実現させる空間? はたまた、孤独に浸りたがる人間を、社会から間引いてしまう装置?

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2008-03-15

熱帯感傷紀行-アジア・センチメンタル・ロード : 中山可穂

 貧乏・スランプ・失恋の三重苦と、リュックを背負って、タイ~マレーシア~インドネシア~シンガポールと流れ流れていく旅の記録。

 活気溢れる街、綺麗なビーチ、歴史ある遺跡、寺院・・・ゆっくり滞在して観光すべきところはいくらでもあるのに、著者は安宿に一晩泊まったきりで次々と街から街への移動を繰り返す。列車、長距離バス(時には地獄のような夜行バスも)、そして貧乏旅行では禁じ手としていたはずの飛行機まで乗り継ぎながら。 

 ただただ移動していくその流れの中に、自分の身と心をさらして、こすりつけて・・・そうすることで自分の中でざらざら、とげとげと荒れ果ててしまったものを削り落とし、ぼんやりと磨耗していたものを再び研ぎ出そうとしているよう。

 旅の途中、ひと時出会い言葉を交わした人たち、ふと目をひかれた人たち・・・車窓の風景のようにかりそめに触れ合い過ぎ去った人たちの面影~みやげ物屋の美しい店員、しつこいけど愛嬌のあるナンパ男、金に汚い小役人、毅然として気品すら漂わせる美しい女物乞い、見返りを求めない親切心を発揮してくれた人たち~がこの旅の記憶となって、この後の作品に現れてきたりするんだろうか?

 せつなくてせつなくて、胸がちぎれてしまいそうだった。
 なぜわたしはこんなところで、ひとりっきりで、こんなにも美しいものを見なければならないのか?


 小説と同じ文体で、こんなに感傷的に自分の姿を書かれては・・・嫌でも小説の登場人物の姿がだぶって見えてきちゃうじゃないか。まあタイトルにも「センチメンタル」とあることだし、失恋直後だし、このくらいどっぷりと感傷的なのもいいかな。 

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2008-03-12

ラギッド・ガール-廃園の天使Ⅱ : 飛浩隆

 ネットワーク上の仮想リゾート<数値海岸> - ゲスト(現実世界の人間)の訪問が途絶えて久しいその一区画<夏の区界>を突然襲った崩壊の恐怖を描いた「グラン・ヴァカンス―廃園の天使Ⅰ」に続く、シリーズ第2章。

 <数値海岸>創生の技術的背景、そこに関わる人たちの秘められた欲望。ゲストの訪問が途絶えたまま、<数値海岸>が存在し続けている理由、その真相。<夏の区界>に恐怖と苦痛と崩壊をもたらした<蜘蛛の王>ランゴーニの過去。

 「グラン・ヴァカンス」で<夏の区界>に現れたモノ、事象につながるできごとが、異なる視点から・・・現実世界の側から、また異なる時点・異なる区界でのできごととして語られる。広大な物語のピースが少しずつ嵌っていく。<数値海岸>創生期の精神的、技術的模索の影で顕わになり膨らんでいくグロテスクな欲望。

 どこかいびつな女性のイメージが作品全体に漂っている。

 傷だらけの少女のモチーフ。傷、もしくは苦痛として記録される世界。抗い難い力に自分が分解、解体されのみ込まれていく悪夢のような恐怖。

 <数値海岸>の内外で起こる、胸が悪くなるような禍々しく、異様で忌むべき出来事を描きながら、残酷でグロテスクな描写が下品にならない。どこか詩的で、独特の哀しさと倒錯した美しさを湛えている。

 5篇の中・短篇に圧縮された作品の中に、膨大な情報量がつまっており、数々のイメージが埋め込まれている。読者がその情報をどのように読み解き、受け取ったイメージから何を想起するかは、それぞれに異なるだろう。そこにもう一つの広がりが生まれるように思う。



まったくの蛇足ですが・・・

「傷だらけの少女」、区界から別の区界へと送られる郵便物に貼られた「切手」・・・筋肉少女帯の曲「何処へでも行ける切手」を連想してしまった。ここまで私の中に筋少の曲がくい込んでいるかと・・・

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2008-03-08

村田エフェンディ滞土録 : 梨木香歩

 百年前の日本人留学生・・・土耳古の地で歴史文化研究に勤しむ村田氏の青春記。

 村田氏が身を寄せる、英国人のディクソン夫人が営む下宿屋の壁や中庭の敷石(古代遺跡からの発掘物が建築資材に使われている)からは、時折ビザンティンの衛兵や古代の神がぼんやりと姿を見せ、使用人ムハンマドが拾ってきた鸚鵡は「友よ」「いよいよ革命だ」「繁殖期に入ったのだな」「失敗だ」・・・と住人達の会話にけたたましくクチバシを挟む。


 大きな転換を経験したばかりの日本の国の人間として、多くの民族が交わる土耳古の地の異なる文化、異なる信仰、異なる暮らしがからみあう中で、時に自信を無くし、屈折した思いを味わいながらも、見聞を重ねていく村田氏。

 国、文化、信仰というものをどう受け止めるか?というメッセージの色も濃いが、百年前の青年の、少し幻想的でもある異国体験記としてわくわくしながら読める。

 同じくディクソン夫人の下宿に暮らす独逸人考古学者オットーのいかつい顔、理に勝った熱弁。遺跡を研究する希臘人ディミィトリスの何を考えているのか解らない物憂げな眼差しと、深い知性、思いやり。下宿の使用人ムハンマドのムスリムとしての誇り、やさしさ。

 居間でお茶を囲んで皆とおしゃべりをする他愛ないひと時。中庭で雪遊びをした日。遺跡で大きな発見をした喜び。馬での遠出。長旅で寝付いてしまった同朋の為に、鯵の塩焼きを作って食べさせたこと。

 国も育ちも、思考も、性質も異にする友人、隣人たちとの交流の中で、村田氏の中に積もり、育っていったもの。

 大きな時の流れの前に、進む道が変わってしまったとしても、日常の雑事にただ追われるだけの日々に埋もれるとしても、最後まで自分の芯となり、自分を養い、支えてくれるもの・・・大切な体験、大切な思い出・・・。

 思い返す毎にじわじわと胸が熱くなる。

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2008-03-05

風の古道 : 恒川光太郎

風の古道 : 恒川光太郎(『夜市』収録

 「夜市」と同じく、異界に踏み込んでしまった少年のお話ですが、「夜市」よりもさらに不思議な・・・、この結末を何処にどう収めればいいのか?という気持になる、何とも言えない読後感。

 十二歳の夏の日、ある少年が親友と共に、この世とは別に存在する秘密の道-古道を旅し、元の世界に帰ってくるまでの出来事。

 ~こう書くと、よくある「少年の冒険と成長の物語」を思い浮かべてしまいそうになるけど、これはまったくそんな冒険の物語ではない。

 古道を旅する少年を、怪異や事件や困難が襲う ~数ある冒険譚の少年達が経験するのと同じように。異界で途方に暮れる少年に味方してくれるものも現れる。しかし、この物語が所謂少年の冒険譚と異なるのは、少年が経験する古道での出来事が、“少年の為に”“少年を中心に”起こっているのではないという事。少年の存在に関係なく、古道ではいろいろな出来事があり、少年は偶然その出来事の一端に行き当たっただけ・・・。

 冒険譚の少年達が、降りかかってくる事件の中心にあり、それによって良くも悪くも変化していくのに対して、古道を旅する少年には、そんな変化のきっかけは与えられない。少年側の事情は、古道の大きな営みに対してあまりにちっぽけで相手にもされない。

 少年に何の変化ももたらさないまま、少年の意志ではなく、どちらかというと古道の世界の都合で、少年の旅は終わる。この旅が後年大きなトラウマとなって少年の心に残らなければ良いが・・・

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2008-03-01

夜市 : 恒川光太郎

 ある日、ある時、この世のどこかに現れてひっそりと開かれる「夜市」。いくつもの世界につながり、この世ならぬものたちが、ありとあらゆるものを売り買いするその市に迷い込んだ一夜のお話。

 高校時代の同級生・裕司に誘われ、何も知らないまま「夜市」に連れて行かれた大学生・いずみ。

 「夜市」ではありとあらゆるものが売られているが、そこで何も買わない者、何も欲しいものが見つからない者は「夜市」から出ることが出来ず、「夜市」の一部になってしまう。


 なぜ裕司は、いずみに何も知らせないまま「夜市」に誘ったのか・・・?

 自分たちが「夜市」から出られなくなっていることに気付いたいずみに裕司が語り始める。

 少年の頃、弟と共に迷い込んだ「夜市」で、自分が元の世界に戻るために、幼い弟を売って「野球」の才能を買ったこと、そして今、その時売った弟を買い戻すために「夜市」にやってきたこと。


 なぜ裕司は、いずみに何も知らせないまま「夜市」に連れてきたのか・・・?


 自分が暮らす世界のすぐ地続きに口を開けている異界の不気味さもさることながら、自分とともに異界を行く、すぐそこにいる人の心の量れなさ、正体のわからなさ・・・そのことの方が胡乱な闇を生み怖ろしい。

 裕司の心は「夜市」に飲み込まれてしまったのか・・・。裕司が抱えていた罪の意識、この世で生きる価値を信じられない苦しさ、虚しさ、自分をつなぎとめておけない弱さ・・・。その心には量りきれない闇がある。

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