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2008-01-19

懐手して宇宙見物 : 寺田寅彦/池内了 編

 私の中の寺田寅彦像というと、映画「帝都物語」で“帝都改造計画や日本初の地下鉄工事で活躍している寺泉憲”っていうのが全てなんですが・・・

 本書はその寺田寅彦氏の随筆の中から、文学味の豊かな作品を中心に集めたもの。物理学者であり俳人でもあった氏に似つかわしく、理系と文系が感じよく融合したこのタイトルがとても心地良く感じられたので、手にとってみました。

 編者の言葉として「これらの文章を読めば、今なぜ寺田寅彦なの? という疑問に素直に答えられるだろう。」とあるるのですが、読み終えて“なるほど”と思います。

 語られることが至極真っ当で、その言葉が喚起するものはとても豊か。何がどう豊かなのか・・・なかなか一言では表すことができないのですが、とにかく色々な方向に向いて開いていて、閉塞感を感じさせるものがないのです。

 五感への刺激によって思い起こされる記憶、植物や自然界の現象に向ける細やかな視線と、その先にあるものへと広がる想像力、これから明らかにされて行くであろう科学的世界への興味、期待、希望・・・豊かな広がりを感じる氏の目線が、本書全体に満ちています。

 本書に溢れているような真っ当さが、そういえば最近触れるものの中には中々見当たらないような気がします。

 現在、個々人としては寺田寅彦の見識にははるかに及ばないかもしれませんが、社会としては、彼の時代には“これから”だった物事が明らかになり、発明、発見され、豊かな広がりを持ったはずなのに・・・伸びやかさを感じるものが少ないのはどうしてなんでしょう?

 どこかで何かがおかしくなっていたんだとしても、時間は先に進むことしかできなくて、来た道をもどることはできませんが、進む道が直線ではなくループ状になっていて、寺田寅彦が感じたようなものを近しく感じられるような場所に行けるといいなぁと感じます。


 ところで、本書の中の一編「珈琲哲学序説」に、氏の好む珈琲について、久しぶりに飲むと、「常住的なものがひどく美しく明るく愉快なもののように思われ、~この世の中全外がすべて祝福と希望に満ち輝いているように思われた。」という記述があります。

 寺田先生、コーヒー一杯でラリリすぎなんですが、続いて

 「人間というものが実にわずかな薬物によって勝手に支配される哀れな存在であるとも思ったことである。」

 さらに

 「宗教は往々人を酩酊させ、官能と理性を麻痺させる点で酒に似ている。そうして、コーヒーの効果は官能を鋭敏にし、洞察と認識を透明にする点でいくらか哲学に似ているとも考えられる。」

 「芸術という料理の美味も時に人を酔わす、その酔わせる成分には前記の酒もあり、ニコチン、アトロピン、コカイン、モルフィン、いろいろのものがあるようである。この成分によって芸術の分類ができるかもしれない。」

 と展開します。

 同じような事を、後年、中島らも氏も『アマニタ・パンセリナ』で書いているなぁ・・・と。

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