2008-01-30

少女七竈と七人の可愛そうな大人 : 桜庭一樹

 川村優奈・・・厳しい母の信念にしたがって、気付くと平凡で感じの良い「白っぽい丸」のような女になっていた。自分の心のかたちを変えるべく、「辻斬りのような男遊び」を決行し、父親のわからぬ娘を産んだ後も、一人出奔してしまうことの多い「旅人」。

 川村七竈・・・母・優奈の辻斬りのような男遊びのせいで、「たいへん遺憾ながら」地方の小さな町では悪目立ちする、たいへんな美貌に生まれてしまった少女。同じ美しい顔をした少年・桂雪風と2人で鉄道模型の世界を作ることに没頭。


 叶わない恋のあわれさと、なかなか触れ合わず、かさかさとすれちがう滑稽にも哀しい大人たちの姿が、少々芝居がかった言葉で語られる。

 町を覆う白い雪と七竈の真っ赤な実という印象的な色の対比、美しすぎるかんばせをした少女と少年、小さな町のふつうの世界にとけこめない異形の2人の淡い恋・・・ともすると浮世ばなれした情緒的な世界に誘われるが、語られているのは、とても現実的な母娘の関係を中心にした成長の物語。

 自分の中にある母の影をどうすればいいのか?

 どうやって私は「私」を受け入れていくのか・・・。

 自分たちが変わっていくこと、今の世界が終わることを予感して怯える17、18歳の少年少女たちの姿には、少し胸が震える。晩熟・・・というより少々鈍い私がそんな不安な気持になったのは、彼女らの年頃よりも数年後だったか・・・。


 「少女七竈~」も含めて、母娘が登場する作品というと、これまで私は娘の視点・心情から書かれたものにしか当たらなかったような気がするが、そろそろ母親の側からの作品も読んでみたいなと思う。それに父と息子という関係もどんなものか興味あるな。少女七竈~」の裏バージョンとして、雪風と父・桂くんの物語があれば読んでみたいけど・・・。でも、男同士の関係は、やはり男性が書いた方が良いのだろうか?

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2008-01-26

うつくしく、やさしく、おろかなり-私の惚れた「江戸」 : 杉浦日向子

 「江戸」を深く愛した身ではあるが、「江戸に住みたかったろう」という問いかけに対しては、「自分は今が良い。昨日でも明日でもない、今日この日の、ここが良い。」と答える、杉浦日向子氏のはっきりと、強く「現在」を肯定する言葉が綴られた一編の文章からこの本は始まる。この“今が一番いい”と言える姿勢、大好きです。自分も胸を張ってそう言いたい。

 少し硬めの刊行物やシンポジウムなどで発表されたものが多いのか、他のエッセイ集などで見れる、つい今見てきた江戸の路地や長屋の様子を語ってくれるようなはずむ口調とは違い、この本に収められた言葉はちょっと硬め。

 「『江戸』の知恵に学ぶ」などということが言われるが、現代人のほうが余程つよくて、ゆたかでかしこいんですよ、ということを前提においた上で、江戸のスリムで合理的な生活様式とか、用をなさない「無駄」を楽しむ精神的な幅といったことなどに、今改めて目を向けてみるのも面白いですよ、と噛んで含めるように語ってくれる。

 「江戸」はうつくしく、やさしいばかりの世界じゃない。芯のある言葉で、ことさらに江戸を美化した「江戸ブーム」への違和感を表明し、封建で未開でおろかな「江戸」という情夫に、“死なばもろとも”と惚れてしまったと心中立て。熱い熱い日向子氏の恋文を読ませてもらった。

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genre : 本・雑誌

2008-01-23

Danza : オノ・ナツメ

 閉じていた心を開いて、これから緊密で、暖かく、幸せな関係を作っていくには、抱えている屈託が大きすぎる。心に抱えている屈託は、もう私の大事な一部だから。

 でも、“憎んでいるのではないよ”と、大切な人へ指先をさし伸ばし、わずかにつなぐ。

 
 多くを語られないけれど、眼差しに込められる心からの親愛と信頼。


 器用ではない男たちの心の揺れ、交流、交感。オノ・ナツメさんの絵でなかったら、こんな感じで伝わることはないと思う。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2008-01-19

懐手して宇宙見物 : 寺田寅彦/池内了 編

 私の中の寺田寅彦像というと、映画「帝都物語」で“帝都改造計画や日本初の地下鉄工事で活躍している寺泉憲”っていうのが全てなんですが・・・

 本書はその寺田寅彦氏の随筆の中から、文学味の豊かな作品を中心に集めたもの。物理学者であり俳人でもあった氏に似つかわしく、理系と文系が感じよく融合したこのタイトルがとても心地良く感じられたので、手にとってみました。

 編者の言葉として「これらの文章を読めば、今なぜ寺田寅彦なの? という疑問に素直に答えられるだろう。」とあるるのですが、読み終えて“なるほど”と思います。

 語られることが至極真っ当で、その言葉が喚起するものはとても豊か。何がどう豊かなのか・・・なかなか一言では表すことができないのですが、とにかく色々な方向に向いて開いていて、閉塞感を感じさせるものがないのです。

 五感への刺激によって思い起こされる記憶、植物や自然界の現象に向ける細やかな視線と、その先にあるものへと広がる想像力、これから明らかにされて行くであろう科学的世界への興味、期待、希望・・・豊かな広がりを感じる氏の目線が、本書全体に満ちています。

 本書に溢れているような真っ当さが、そういえば最近触れるものの中には中々見当たらないような気がします。

 現在、個々人としては寺田寅彦の見識にははるかに及ばないかもしれませんが、社会としては、彼の時代には“これから”だった物事が明らかになり、発明、発見され、豊かな広がりを持ったはずなのに・・・伸びやかさを感じるものが少ないのはどうしてなんでしょう?

 どこかで何かがおかしくなっていたんだとしても、時間は先に進むことしかできなくて、来た道をもどることはできませんが、進む道が直線ではなくループ状になっていて、寺田寅彦が感じたようなものを近しく感じられるような場所に行けるといいなぁと感じます。


 ところで、本書の中の一編「珈琲哲学序説」に、氏の好む珈琲について、久しぶりに飲むと、「常住的なものがひどく美しく明るく愉快なもののように思われ、~この世の中全外がすべて祝福と希望に満ち輝いているように思われた。」という記述があります。

 寺田先生、コーヒー一杯でラリリすぎなんですが、続いて

 「人間というものが実にわずかな薬物によって勝手に支配される哀れな存在であるとも思ったことである。」

 さらに

 「宗教は往々人を酩酊させ、官能と理性を麻痺させる点で酒に似ている。そうして、コーヒーの効果は官能を鋭敏にし、洞察と認識を透明にする点でいくらか哲学に似ているとも考えられる。」

 「芸術という料理の美味も時に人を酔わす、その酔わせる成分には前記の酒もあり、ニコチン、アトロピン、コカイン、モルフィン、いろいろのものがあるようである。この成分によって芸術の分類ができるかもしれない。」

 と展開します。

 同じような事を、後年、中島らも氏も『アマニタ・パンセリナ』で書いているなぁ・・・と。

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2008-01-16

ドニー・ダーコ : D[di:]

 銀色ドクロの着ぐるみウサギが僕の前に現れて告げる。

 「終末だ、ドニー。
  あと28日と 6時間と 42分と 12秒。」


 同名映画のノベルコミック版ということで、文章とイラスト、コマを割ったマンガが混在する。要所要所に配された、マンガで表現される部分が効果的。ギアチェンジをする感じで、物語の臨場感、緊迫感、スピード感が変わる。

 少年ドニーとその周辺って、パンクで破壊的で病んでいて無秩序。

 ドニーの前に度々現れるドクロウサギの正体。 精神科医の診療を受け続けているドニー。 ドニーがたどり着いた「タイム・トラベル」の概念って? 

 ・・・それらのことがどうであれ、ドニーが生きたのは、切ない希望と純粋な欲望とにごりのない愛情に満ちた世界だった。物語のラストは“やはりそうなるのか”と微かに予感していたことでありながらも、世界が一転する衝撃に満ちている。
 
 色々とひっかかりの多い作品だけど、やっぱりいちばん気になるのは「ドクロウサギ」のモチーフ。妙に気にかかる・・・表紙にこの絵がなければ、手にとって無かった、多分。何かこう・・・人の潜在意識に働きかけるものがあるのかなぁ。

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2008-01-12

ハヅキさんのこと : 川上弘美

 あとがきによると・・・はじめは、エッセイを・・・という約束だったのだが、原稿用紙3枚分以上のエッセイはどうしても書けなくて、エッセイのような小説を書いた・・・のだそうだ。そんな10ページ程度の掌編が沢山つまってます。

 それぞれの作品で、それぞれの登場人物が、それぞれのことを想うわけですが、それがどれも“何ということもないこと”で・・・。

 随分昔のことや、ちょっと前のことや、つい最近のことや、今のことを想いながら(それは過去の恋愛だったり、子供の頃や青春時代の思い出だったり、割と最近の人とのふれあいだったり)、どことなく気持のゆらめくようなものを感じるのだけど、それは取り立てて、何か行動を起こそうと思わせるようなものではなく、昔を懐かしんでいるのでも、過去を悔やんでいるのでもなく・・・。

 どういう気持なのかはっきりと分別できない心の揺れ。別に不満もなく、順調でそれなりに忙しい日々の中では、殆ど気付くことも無い微かなゆらめき。

 こんな“何というのでもない”想いに、ほよんと覆われてるような時間が、時々はあるといいなぁ。

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2008-01-09

L change the WorLd 小説版

 映画「DEATH NOTE」からのスピンオフ作品 - Lを中心に描く今作では、Lが屋外に出て肉体的によく動き回ります。肉体的に人と接します。

 今回のストーリーはLの変化を強く意識して作られている・・・ということらしいですね。考えようは色々あるのでしょうが、Lという稀有なキャラクターが、世間並みのヒーローに矯正されていくのを見ているようで、私はやるせなくなってしまったよ。

 「the Last name」でのLの選択は、原作Lではあり得ないけれど、Lという非凡で異色の名探偵がとる行動としてはギリギリ成立するものだったと思う。原作とは違う結末を提示することで、映画独自の、きちんと『L』として納得できる人物像を成立させ、ストーリーとしても完結させていた。

 しかるに!今作の描き方は、LがLとして存在する為に超えちゃいけないラインを安易に破りすぎちゃったと思う。(松山ケンイチ氏のインタビューでは、「『Lはこんなことしない』っていうことだけをすごく意識して」演じた・・・というようなことが語られているけど、少なくとも小説版ではその辺りが意識されたとは思えない。) いくら「change the WorLd」だと言っても、LをLたらしめてる世界をあんまり安易に破壊しちゃってはいかんだろう?

 作中人物の悲しさで、いかにキャラクターを変えられてしまおうと、抵抗することもできず、作者の書くままに行動するしかないLが憐れに思えてくる。

 Lという非凡で変態的で欠陥もいっぱいだけど愛すべきキャラクターを消さないでくれよ。人の人格をそんなに簡単に矯正しないでくれよ。物語の中でどんどん作り変えられちゃうLを見て、どうしようもなく切なくなってしまったよ。

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2008-01-05

白いへび眠る島 : 三浦しをん

 十三年ぶりの大祭を控えた、古い因習の残る島・「拝島」に、島を離れていた一人の若い男が帰ってくる・・・横溝正史の世界か?というようなシーンで始まった物語は、おどろおどろしい謎をはらみつつ、闇と光の戦いを描くファンタジーへ。夏の日の冒険は少年に新しい扉を開き、大切な仲間との冒険の記憶は、しっかりと少年の心に刻まれる。

 『一つの石を分け持つ、強い絆で結ばれた義兄弟』『長い長い時を生きる荒ぶる神(物語の中では普通の青年の姿で登場します)と、その神を慰め鎮める役目を持って神宮家に生まれてくる「鱗付き」の子供』『闇に潜む魔物と、闇を切り裂く光』・・・美味しいモチーフを山盛りに盛り込んだ欲張りな小説ですねぇ、これは。

 『闇対光の戦い』『冒険と主人公の成長』という、物語のパターンとしてはすでにガッチリ出来上がっているものに沿って書かれてるので、最後まですんなり読めるのだけど、物語の求心力は充分でなくて、読みながらもどこか醒めてるとこありました。

 こういうファンタジーの要素のあるものって、読者に考えさせる間もなく、どれだけ一気に物語の世界に引きずり込めるか?っていうのが勝負で、現実より濃い物語の世界を構築する言葉のもの凄いパワーが必要なんだと思うけど、ちょっとその辺がパワー不足?

 「濃厚な」「濃密な」「空間にひずみができている」・・・できればこういう事は、ストレートに、安易に文字にしてしまうのではなく、言外に漂わせて欲しいなぁ。ただインパクトのある単語を単発で使うだけでは、世界を編む言葉の目が粗いというか、物語世界を覆っている結界発生装置の出力が弱いというか・・・漠然としててすみません。


 多くの冒険物語では、主人公がローティーンの少年・少女だったりすると思いますが、「白いへび~」で冒険をするのは高校卒業をひかえた18歳男子。『夏休みの冒険』には、ちょっとトウが立ってる気もします。漠然とした『少年の成長』ではなくて、微妙な齟齬を感じる家族との関わり方や、社会の中での自分の位置の決め方とかいったリアルな問題を話にからめてきたから、この年代の主人公になったのかな。

 魔物や神が登場するファンタジーと、18歳男子の抱える生な悩みが、テーマとしてうまく融合しなかったのも、物語の世界ががっちり固まらなかった要因の一つかも。


 文庫版書下ろしの掌編では、島に棲む荒神と「鱗付き」の青年との暖かいような、切ないような触れ合い(麻々原絵里依さんの『須臾楼閣』を少し思わせる・・・)を描くことにも色気をみせるしをん氏。欲張りすぎです(笑)。 

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