2007-12-29

ナ・バ・テア : 森博嗣

 大人にならず永遠を生きる子供-キルドレ。戦闘機に乗ることを職業とし、空にいるときだけ楽に呼吸ができているかのような彼らを描くこのシリーズは好きだ。だけど、一口に感想を言うのは難しい。

 本作は、前作「スカイ・クロラ」にパイロット・カンナミの上司として登場していたクサナギの物語。前作で、カンナミはある意味清々しいほどに、自分が特別であることを認識していて、「自分」という存在が生み出す抵抗を最小限に小さくして、軽々と空に飛び上がっているように見えた。それに対してクサナギは、その言葉や、空中での目覚しい活躍とは裏腹に、いつも重力にひっぱられている。

 「僕は、空で生きているわけではない。
  空の底に沈んでいる。 
  ここで生きているんだ。」

という、作中の言葉どおり、飛ぶために生まれていながら、地上で生きていることを強く意識している。特別な子供であることと、普通の人間であることの両方に心をとらわれて苦しそうだ。

 本作ではクサナギという人の一部が描かれただけ、何も結論のようなものは出ない。「ダウン・ツ・ヘヴン」、「フラッタ・リンツ・ライフ」ともに未読なので、これからどうなるのかも知らない。全5作目で、このシリーズは完結する予定とのこと。読み終えるとしばらく身動きができなくなるような結末を用意してくれていると信じている。

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genre : 本・雑誌

2007-12-26

カンバセイション・ピース : 保坂和志

 かなり長い小説なのに、見事に事件・・・というか、イレギュラーなことが起きない。この話の語り手である、世田谷の古い家に住む小説家の男は、横浜に野球の試合を観に行く以外は、ず~と家の中で猫を相手に過ごしていて、唯一起きる事件と言えば、ローズの引退? あと、昔この家に出たのかもしれない幽霊?の話。

 何種類もの木や草花の植わった庭のある世田谷の古い家で、男は窓の外の音を聞き、庭に部屋に差す日の光を感じ、部屋の隅の暗がりを見、一緒に暮らす妻や姪や、彼の家に間借りして会社を経営する友人とその社員たちと会話を交わし、3匹の愛猫と遊び、この家の持ち主だった叔父一家・・・かつてこの家で暮らした人、猫、過ごした時間を思い、形而上の存在、形而下の者達に思いを漂わせる。

 句読点で何度も区切られつつ長く長く長く続く文章は、語り手である男の超主観的なところで綴られるているために、読んでいるうちにだんだんと主語も、目的語も時制もわからなくなって、軽いトランス状態に落ちてしまう。

 ・・・で、そういう状態で読んでいると、その長い長い文章は、“~は~である”式の一つの意味を伝える言葉としてではなく、全体として時の流れや、感情の揺れや、空気感、その他五感を刺激する感覚的な言葉として、ある印象をもって沁みこんで来る。

 感覚的なところを刺激してくれる言葉や会話の中に、そうやってゆったりと漂っているうちに、窓の外を通る車やバイクの音、通りを歩く人たちの話し声、秋の夜の虫の声、窓辺に射す日差し、庭の木の枝を揺らして吹いてくる風の匂い、廊下をト・ト・トと走る猫の姿、居間で寝転がっている叔父、毎日拭き掃除をする叔母、庭の木に登る少年時代の男の姿・・・この家につながる人々の肖像が、私の目にも耳にも肌にも感じられてくるような気がする。

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genre : 本・雑誌

2007-12-22

not simple : オノ・ナツメ

 「・・・歩いていると、よく親切な人に出会う。今ここにこうしていられるのは、その人たちのおかげだと思う。あたたかいよね。本当に感じたいのは、もっと近くにいる人たちからのぬくもりなのに。」

 姉を探して旅をする青年イアン。ただ求めたのは家族の温もり。ひたむきに、最善を尽くして生きてきたのに、全くツキに見放された彼の人生。“映画にすればウソっぽく見える”ほどすごい(最悪の)彼の人生。

 まったく、イアンの人生は悲惨な現実の連続だけど、決して彼の周りに不幸と悪意ばかりが溢れているわけじゃない。結局イアンの望むようにはならなかった彼の家族だって、身勝手な人たちではあるけど、極悪人な訳ではなくて、どこかにイアンに対する愛は持ってらしい。ただ、イアンの求めるものと、イアンに与えられるものはいつもいつも、うまく一致しない。

 イアンの言うように、旅の途中には優しい人たちもいたし、心惹かれる女性にも出会った。イアンの側で彼を見守り続ける友人もいる。イアンが最後まで求め続けたのが“家族の温もり”でなかったら・・・あんなに寂しい終わり方ではなかっただろう。

 イアンのまわりの優しい人たちは結局、イアンに“関係のある”人にはなりきれなかった。イアンが求める人はイアンに応えず、イアンを求める人にイアンは答えられず・・・すれ違う“関係”っていうのはやりきれない。

 表現する上でギリギリ必要かつ生命線ともいえるラインをはずさず、シンプルでありながら雄弁な描線で描くオノ・ナツメさんの絵って、ウェットな表現を極力廃してあるがゆえに、それがもう卑怯なまでにやりきれなさを増幅させるのです・・・。

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genre : 本・雑誌

2007-12-19

明治断頭台 : 山田風太郎

 明治初頭・・・大きな変化の後の虚脱のようにも、いろんなベクトルのエネルギーがうずまく混乱のようにも見えるこの時代の空気を背景に、不正を犯した役人を裁く弾正台の大巡察・香月経四郎が活躍する推理もの・・・と言ったら良いのかなぁ。

 水干姿の大巡察・香月経四郎が、同僚の川路利良と競い合いながら、解明困難かに見える不可思議事件をさばく。各章独立した事件の顛末が描かれるが( 『遠眼鏡足切絵図』では、当時の人気女形・沢村田之助の左足切断手術が事件のトリックに使われていて、“ほぉ、こんなとこにも”なんて思ったり・・・)、バラバラに起こっているかに見えた事件の背後には、ある人物の強い意思が働いていて・・・。

 職に誇りを持つ良き同僚でありライバルである香月と川路。ストーリーの展開の中で、あくまでも正義にこだわる香月と、清濁併せ呑むタイプの川路の対比が浮かび上がってきて、やがてそこから予感される一つの結末・・・ 終章『正義の政府はあり得るか』での、なだれ落ちるような悲壮感溢れるラストには息を呑みます。

 ただ、太平の世の一読者である私から見れば、正義の男・香月経四郎はかなり極端な人物。夜神月も斯くやと思われます。正義の実現の為に、香月の手足となって働いた羅卒たち(役人でありながら小悪党だった彼ら・・・香月に弱みを握られ、いい様に使われたんだろうなぁ)、香月のお陰で、命の賭け甲斐のある仕事をもらったと喜んで散っていった彼らが哀れな気もする。

 斯様に「正義の政府」にこだわった著者の思いについては、もう少しその背景を知りたいところ・・・。

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genre : 本・雑誌

2007-12-15

愛すべき娘たち : よしながふみ

 母娘の関係、男女の関係、学生時代を共に過ごした同性の友達との関係・・・そこにある女性達の素直な感情。

 母娘の関係ではそれなりに苦労したなぁと思っている私としては、収録されてる5話の話の中でも、つい母娘の話に自分の体験をダブらせて読んでしまう。理解はしてるけど、許せないこと。許しているけれど、愛しているとは言えないこと・・・。

 『母というものは 要するに 一人の不完全な 女の事なんだ』-ということには、ある程度の年齢になれば気付くのだけど、それに気付いたところで、それまでの長い「『絶対的な母』と『娘』」という関係の中で、自分の心身に染み付き育っていったものは中々変わるもんじゃない。その上で、これからは『不完全な女同士』のつきあいをしていかなきゃいけないんだ・・・。

 ・・・と、つい母娘関係の話になると熱くなっちゃいますが、それ以外のエピソードもみんなどこか身に覚えのある話。その時々に感じた自分の気持ちを再確認するようで、少しくすぐったいような、落ち着かないような気分になる。ただ、“あの頃の気持ち”を思い出して涙を流すほどには、もう私の気持ちはウェットではないというか・・・開放されてるというか・・・。

 しかし、自分の個人的な体験と思っていることも、こうしてマンガのネタ(と言っては乱暴か?)になるほど普遍的なことなんだなぁ・・・と、そのことがちょっと衝撃的。 

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theme : 漫画の感想
genre : 本・雑誌

2007-12-12

忠臣蔵傑作コレクション〈異伝篇〉  : 縄田一男編

 「忠臣蔵」と聞くと血沸き肉踊ってしまうのである。

 この度読んだのは「異伝篇」の名のとおり一風変わった「忠臣蔵」。目次に並ぶ星新一・山田風太郎・戸板康二・岡本綺堂・南條範夫・・・という名前を見るだけで興奮してしまう。

 勅使饗応役の大名に散々意地悪された吉良が、松の廊下で刃傷に及ぶ?という正統派パロディもの、タイムトラベル?もの、吉良生存説、「仮名手本忠臣蔵」にからめたもの、歴史秘話・・・様々な趣向が楽しめる。

 中でも、赤穂城で主の切腹、お家断絶を告げる城代家老の悲痛な言葉に、人知れずにこりと笑う一人の家臣・・・星新一「薬草の栽培法」はまさに異色の肌触り。

 もう一つ、松の廊下の事件から一年後、密かに計画されていたもう一つの「仇討ち」・・・ある人物の謀で無惨にも闇に葬られたその仇討ちの顛末と、大石率いる赤穂浪士の華々しい討ち入り・・・山田風太郎「盗作忠臣蔵」は言うなれば異形の忠臣蔵。息を呑む迫力で迫ってくる。

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genre : 本・雑誌

2007-12-08

吉良供養 : 杉浦日向子

「吉良供養」 杉浦日向子著(「杉浦日向子全集第二巻 合葬」収録)

 ここ数年実行できていないのですが、毎年12月14日の夜には(暦は違いますが)赤穂浪士ものの映画なりドラマなりを観るというのを長年の習慣としています。

 私が好きなのは、『「理不尽で嫌味なジジイ」吉良上野介を「忠義の士」赤穂の浪人たちが討ち、亡き殿の無念を晴らす。本懐を遂げた後は潔く切腹し江戸の人々の涙をしぼる。』という悪役vsヒーローの単純明快な構図で描かれる娯楽活劇タイプのものなのですが、近年は浪士一人一人のドラマにスポットを当てたり、大石内蔵助の人間性や苦悩を掘り下げたり、史実をちょこちょこもりこんでみたりと、古いタイプの時代劇とはちょっと作りが異なってきたようです。浅野内匠頭も清廉な殿様というより、世間知らずで思慮に欠ける困ったチャン的に描かれることが多くなってきたような・・・。

 吉良邸への討ち入りが赤穂浪士側のワンサイドゲームだったことは義澄了さんの漫画で知りました。この「吉良供養」ではさらに踏み込んで、当夜の吉良側の被害状況が屋敷の見取り図とともにつぶさに描かれます。浪士たちの逆恨みによって、未明の吉良邸に降ってわいた(それこそ理不尽な)災難。吉良側から見た「討ち入りの夜」。

 杉浦氏曰く

 赤穂浪士の討ち入りは“まぎれもない惨事”である。
 「大義」が殊更物々しく持ち出される時人が大勢死ぬ。

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2007-12-05

殿さまの日 : 星新一

 12月のイベント!と言えば「赤穂浪士の吉良邸討ち入り」が上位に食いこんでくる私。吉良側の視点から描いた一風変わった「忠臣蔵」が収録されているということで、ある方に紹介していただいた短編集です。

 江戸・・・封建制度、幕藩体制という万全のシステムで支えられた「天下泰平」の世の中。全体的に見れば、日本の歴史上かつてなく長い平和な時間 - 世は全て事もなし。でも、その「平和維持システム」につながっている善男善女に視線をあててみると、胸には燃やしきれない、小さな小さな何かを抱えて・・・。

 「お家安泰」の使命を背負い、「先代」から「世継」への中継役としてしか生きられない田舎の殿さまの、淡々とした独白が切ない「殿さまの日」

 名君だった吉良のご隠居様が赤穂の浪人たちに殺された! 仇討ちに盛り上がる江戸の人々に、煮え切らない幕府の態度。こんな世の中は理屈に合わぬ!と町人上がりの吉良の忠臣・良吉がひと暴れ・・・「ああ吉良家の忠臣」

 地味に真面目に下級の藩医の仕事を務めた父。出世のため、薬草を悪用した詐欺まがいの手口を使うなど、欲深で汚い面も持ちつつも、優れたバランス感覚で、医者としての仕事にもそこそこの成果を残し、民衆から愛されたその息子。長崎で西洋医学を学び、理想に燃えながらも、そのゆるぎない信念ゆえに藩の人々とぎくしゃくし、ついには小さな失敗で人々の信用も禄も失ってしまったそのまた息子。・・・「藩医三代記」

 ・・・ 

 システムにうまく乗っかる人。システムにはまり過ぎちゃう人。システムからはじき出される人。システムのひずみに落ち込んでしまった人。それぞれに、どこかすきま風が吹いていくような心の中で浮かべる、泣き笑いの表情が見える12編。

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2007-12-01

花の下にて春死なむ : 北森鴻

 例年より寒い日が続いた早春、無名の老俳人の誰にも気付かれなかった死の枕辺に咲いた桜の花。

 地下鉄駅に備えられた貸本にはさまれた家族写真。

 若い女性の殺人事件と“赤い手の怪人”の登場する都市伝説。

 ・・・

 美味しい料理と居心地の良さで愛されるビアバー「香菜里屋」に持ち込まれる小さな謎から、そこに見え隠れする人の秘密、機微を語る6編の短編連作。

 ・・・

 私はミステリーというジャンルにはあまり免疫がなくて、ミステリー作品を前にすると、つい萎縮してしまうんですが、この作品には私がミステリーの周辺に感じる鋭角的・攻撃的な感じが無くて、居心地良く読むことができました。まぁ、この作品は純粋にミステリーというより、「香菜里屋」の料理とともに、“いろいろある人の人生”を味わうっていうタイプのようではあるのだけど・・・。

 ・・・とは言いながら、人のコンディションや心情を読むのに長け、「香菜里屋」のお客に、望むとおりの言葉と、美味しい料理と、謎の答を提供するマスター ~ するりと懐に入ってくる不思議な魅力と知性、それに年齢不詳で謎めいたところも持つこの工藤という人・・・おだやかそうに見えて、ホントはかなり攻撃的な男性かと思わせるフシがある。彼の秘める攻撃性が、居心地の良い話に少し刺激を加えてくれる。

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