2007-10-31

演技でいいから友達でいて : 松尾スズキ

 タイトルがね~ 何か良くって目についた本。「演技でいいから友達でいて」って、そこまで“自分に必要だ!”って思える人がいるっていいなぁと・・・。

 松尾スズキ氏が演劇界のすごい人たちと語り合うこの本・・・豪華顔合わせの面白対談というのではなく、かなり真面目な演技論が出てきたりするので、本当なら私のような演劇に興味の無い人間ではなく、演劇好きの人が読むべきものなんだと思うなぁ。

 で、なんで演劇に疎い私がこの本を読んだかというと、ひとえに中村勘三郎さん(当時は勘九郎)が対談相手として出ていらっしゃったからで・・・。コクーン歌舞伎(見たこと無いけど)や、野田秀樹氏に新作歌舞伎の執筆を依頼したりと、小劇場出身の演劇に近づいたりしている勘三郎さんがどういうことを考えているのか、歌舞伎とそういう芝居の違い、または互いに取り入れるべきところをどのように見ておられるのか。歌舞伎以外の演劇畑の人にとって歌舞伎はどういうものなのか。そういうのを読んでみたかったんですよ。・・・結局この対談読んだだけじゃ解らなかったけど。観る側もやる側もまだ結論を出しかねる試行錯誤の段階なんだろうなぁ。

 でもね、一つ面白い話はありました。「歌舞伎って何ですか?」ってきかれた時の勘三郎さんが考える答えの一つ・・・

 「禁制を犯しちゃってるんだけど、御上がきたら『ごめんなさい』って逃げちゃう。『これは正しい』とは言えずに、すぐ『どうもすいませんでした』って謝っちゃうのが、なんかカブキ者っていうか。」

 なんかこれいい! 歌舞伎の持ってる悲しさというか、余裕というか、ひねくれたとこというか、なんかそんな感じ・・・ちょっとわかる。 

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2007-10-27

福助さん : 荒俣宏

 デカ頭に福福しいお顔、裃姿の盛装で私達をお迎えしてくれる「福助」さん。昔ながらの食堂なんかでは時々見かけるけど、最近お目にかかる機会がぐんと減ったなぁ。荒俣氏は江戸中~後期から、「福を呼ぶ」と人々に喜ばれ愛された「福助さん」の由来・その姿に込められた意味・色々なバリエーションを易しく記し、再び私達の目をこの有難いキャラクターへと引き戻してくれます。

 「福助さん」といえば正面を向いて座布団の上のちょんと端座している姿がオーソドックスですが、バリエーションの中には額を床にすりつけるようにしてお辞儀(お詫び?)をしているものもあって、正面から見ると頭頂部しか見えないその姿、訳わかんないけどいじらしく愛しい。“もういいよ”とつい笑ってしまうな。

 時代が新しくなるに従って子供顔の「福助さん」が主流になってくるらしいけど、私は大店のご主人然とした立派な大人顔の「福助さん」が好き。

 図版も豊富で目にも楽しいこの本、色鮮やかな錦絵を見るとそれだけで非常にお目出度い気分が盛り上がります。

 「福助さん」を一人、自宅のどこかに飾る余裕があれば、何だか幸せな毎日が送れるような気がします。


 実は「福助さん」は勘違いで手にしてしまった一冊。本当はこちら↓『帯をとくフクスケ』を読む予定だったんです。まだ読んでいませんが。

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2007-10-24

ノラや : 内田百けん

ノラや/内田百けん

 な・な・なんだこれは!

 野良猫上がりの愛猫ノラがふらりと出て行って以来帰ってこない。残された百けん先生は毎日ノラを思って泣き暮らし、迷い猫さがしに八方手を尽くす。しかし三度、四度と新聞折込に迷い猫の広告を出し、外国人のお宅に迷い込んでいてはと英字の折り込み広告まで作り、帰ってこないノラの境遇をあれこれと思い悩み不憫がって涙涙の毎日も半年にわたって続くとなると、なんとも常軌を逸している。愛猫家でない私にはぽかんと口をあけて“はぁ~~?”と見守るしかない世界。

 延々と「ノラに似ている猫がいるというので、誰某に観に行ってもらったが違っていた。」「ノラの姿が思い出されて、可哀相で涙がでる。」という内容が繰り返され、違うのは“ノラのどんな姿を思い出したか”“ノラのどんな夢を見たか”“今日はどんなノラ捜索活動をしたか”ってことだけなんだけど、それが不思議と読んでて嫌にならない。同じような記述が繰り返されれば繰り返されるだけ、こちらの目にもノラちゃんのいたいけな姿がちらつくようになり、百けん先生のメソメソと痛ましい姿にじ~んとしてくる。

 不思議だなぁ・・・ノラ捜索のある意味単調な覚書のようなものから徐々に伺えるようになってくる先生の周囲の暖かさ。・・・メソメソと泣き、ノラを思っておろおろする先生の周りに、先生を思って奔走する人々の姿、一々迷い猫の情報を知らせてくれる見知らぬ人々、町の顔なじみの心配そうな様子なんかが見えてくる。

 これが百けん先生の文章の力か・・・。

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2007-10-20

あやし : 宮部みゆき

 江戸の町人達の日々の暮らし、悲喜交々・・・それらに寄り添うように、また、ちょっとした心の綻びをつく通り魔のように姿を見せる怪しのものたち。

 身も凍るほどの怖ろしく、忌まわしい化け物が姿を現すこともあれば、どこかしみじみとさせる不思議なものたちに出会うこともある。全ての怪しのものたちは、人の心のなせる業と見ることもできるけど、不思議は不思議のままに“ああ、そういうこともあるのだなぁ”と、人外のものと境界を触れ合うように人々が暮らしていた江戸の街というのを想像してみるのも楽しい。


 お話しの背景となる人々のありふれた暮らし、あやかし出現の兆しとなる小さな事件や、人の心の中の秘密、わずかなしこり、そういうものを描写しながら、一見平穏に見える暮らしの中の小さな綻び目に近づいていく。読者の予感を煽りに煽る、演出効果を計算しつくした語り口には、“職人だなぁ”と感服します。


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2007-10-17

ファースト・プライオリティー : 山本文緒

 年齢を重ねてくると、若い頃よりも少し自分のことが分かってくる-“自分のことが分かる”というより“「自分」の取り扱い方を体得する”と言った方が感覚的に近いかも知れない。

 自分が何をすると快くて、どんなことをするのが嫌なのか、自分がどうしても譲れないところは何なのか・・・そんなことが体験的に分かってきて、自分の中での物事の優先順位ができてくると、結構色んなものを捨てるのが苦痛じゃなくなってくる。色んな選択をするのが楽になってくる。

 優先順位がはっきりしていればしているほど、自分の中での物事の選択や判断は楽で、迷いは少ないけれど、その選択・判断が世間的に妥当なものか? とか、周囲の共感を得られるか? といえば・・・それはまた別問題。

 それに自分程度の人生経験で、私なりの優先順位なんて決めちゃっていいの?っていう不安も実はある。

 そんな気持ちに割としっくりくる、三十一歳の登場人物たちの三十一通りの掌編。

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2007-10-13

合葬 : 杉浦日向子

 江戸終焉の時・・・彰義隊に参加した少年達の「上野の戦争」前後を描いた作品。

 初めてこの漫画を読んだ時は、彰義隊といってもピンとこなくて、“時代が変わる大きな流れの前に、あたら若い命を散らした青・少年たち”という括りで、新撰組や白虎隊といっしょくたになった曖昧な認識しか持っていなかったんです。

 彰義隊のことをあまり分かってないのは今もあいかわらずですが、あの頃よりは多少の予備知識というか、イメージのようなものができていたので、今回は初めて読んだ時とはちょっと違う感慨を持って読めました。(以前読んだ、島村匠氏の「芳年冥府彷徨」で描かれていた、同じ時期の江戸の町の空気が私のイメージを膨らませてくれています。彰義隊が江戸の町で、また江戸の人にとってどういう存在だったのか等々)

 「合葬」は、たまたま時代の転換期に生きてしまった江戸の若者達の群像劇であり、杉浦氏の愛する「江戸」の葬送のための作品でもあるのですね。

 のびのびと咲き誇った「江戸」の花は、薩長という地方からの新しく激しい風に意外なほどあっけなく散らされていく。愛する江戸が葬られていく様を、杉浦氏はどんな気持ちで見つめられたのでしょう?

 物語前半で描かれる賑やかな宿場の様子と、終盤の上野の戦場の惨状を見比べると何だか胸が塞ぎます。

 
 勤勉で、真面目で我慢強く、力を蓄えてきた地方の勢力に破れてしまった江戸っ子の精一杯のへらず口。

 「上方のぜいろく共がやって来て
  とんきやう(東京)などと江戸をなしけり

  うえからは明治だなどと云ふけれど
  治明(オサマルメイ)と下からは読む」

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2007-10-10

猛スピードで母は : 長嶋有

 父と別れた母との暮らしが、息子・慎の言葉で語られる。

 母・子・祖父母・母の恋人・母の職場・学校の級友・・・ほとんど生活の中での人間関係のことだけで構成される短い話。その人間関係のすべてがうまくいってるとか、希望が見えてるとかじゃないんだけど、極力、感情的でウェットな表現は排して書かれていて、それが主人公親子にとても潔い印象を与える。

 車のタイヤ交換は素晴らしく手際が良く、女手一つで息子を育てる忙しい生活の中でも、次々と恋人らしき人を連れてくる。職場である市役所では、皆が嫌がった生活一時金の返済督促の仕事をひるまず引き受け、仕事と父の介護両立の為に毎日往復三時間の距離を移動することも厭わない。慎の母はとても逞しく、エネルギーに溢れる女性のようだが、学校に通い資格まで取って就いた保母の仕事はあっさり諦めている。「子供って、全部あんた(慎)みたいなのかと思った。そしたら違ってた」という理由で。自分に出来ること・出来ないことをちゃんとわかって、区別できてた人なんだな。

 慎はそんな母の姿を見て、「サッカーゴールの前で両手を広げて立っている、PKの瞬間のゴールキーパー」を想像する。PKというゴールキーパーに圧倒的に不利なルールの下で、奮闘する母。もしゴールを守れなくても決して悔やむまいと決めている母。

 息子ともそういう潔い人間関係を持とうとする母はスカッとしているのかもしれないけれど、一つ素直には頷けない台詞がある。

 「あんたはなんでもやりな。私はなにも反対しないから」

 それって「あんたのする事には責任持たないよ」という、親が子供にかける言葉としてはとっても厳しい言葉にも取れる。

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2007-10-06

サイドカーに犬 : 長嶋有

サイドカーに犬 / 長嶋有

 母の家出で幕を開けた夏休み、見知らぬ女・洋子さんが家にやってきた。

 父と喧嘩ばかりしていた口うるさい母が出て行った家で、洋子さんや、弟や、父や、父の友人達と、薫が過ごした小学4年の夏。

 洋子さんが父の愛人だとは気付いていなかった。洋子さんは変な人だったけど、嫌ではなかった。母がこと細かく決めていたルールが、洋子さんによってどんどん塗り変えられていく。“ルール”は破ることができるのだという軽い驚き。

 かなりハードなひと夏の体験なはずなんだけど、鈍感なのか、しっかりしてるのか、薫は状況をじっと見てる。洋子さんに言わせれば、「薫はハードボイルドな女」。

 父の乗るサイドカー。父の後ろには洋子さん、サイドカーに薫。サイドカーはいい~バイクに乗る二人のように距離が近くないこと、隣の二人を見上げることができること。

 昔見た犬~サイドカーに乗せられて、凛として座っている犬に薫は憧れる。

 薫が持つ人との距離感が、繊細で、清々してて、ちょっと痛々しくて。涼やかな読後感。

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2007-10-03

隠された十字架-法隆寺論 : 梅原猛

 一族を無惨に殺され、子孫の絶えた聖徳太子は強大なたたり神となった。法隆寺は太子の怨霊封じの寺である。
 
 死と舎利のイメージが付きまとう寺。仏像に残された瀆神行為の証拠。・・・大胆な仮説を基に展開される法隆寺論。

 古代史に関する著書の多い梅原猛氏だが、氏は歴史や古代文化の専門の研究者ではない。知を愛する哲学者としての目で真実にたどり着こうとするのが、氏の仕事であるようだ。

 本書でも、氏独自の研究というよりも、ばらばらに存在する各分野での専門家の研究、各種文献を、各々のピースがあるべき場所におさめ、それぞれの事象を結びつけていくという形で氏の法隆寺論が展開されていく。

 現存する歴史上の文献や、先人の研究では埋まらないピースは、氏の洞察力、想像力、創造力で補われていくのだが、その歴史上の人物達の心情、行動にまで想いをめぐらし描いて見せる仮説のドラマは、創作物としてもとても魅力的な小説的、映像的面白さを持っている。

 入鹿による山背大兄皇子、太子一族の虐殺、中大兄・鎌足による入鹿の暗殺・・・そこに見え隠れする中臣-藤原氏の政治的意図。・・・専門的知識に乏しい私には、氏の仮説の一つ一つを検証しながら・・・といった読み方はできない。いきおい、「権力者によって偽造された古代史の闇に迫るミステリ小説的面白さ」にひかれて読むことになる。このミステリとしての面白さは多くの読者を惹き付けるところだろう。

山岸凉子氏の「日出処の天子」は、この「隠された十字架」に刺激を受けて描かれたものだという話を聞いたことがある。有間皇子の悲劇を描いた、清原なつの氏の「飛鳥昔語り」にも、「隠された~」の記述とダブるところが見られ、もしかしたら本書にインスパイアされて生まれたものなのではないかと思う。

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