2007-09-29

隠居のひなたぼっこ : 杉浦日向子

 江戸から割と最近まで・・・日本人の生活に溶け込んできた道具やモノへの愛着や想いを、春夏秋冬の季節毎に綴ったエッセイ。

 杉浦日向子さんの著作を読むと、江戸の生活への憧れをかきたてられずにはいられない。もちろん、がっちり身分制度に縛られた時代だし、衛生状態は今に比べれば劣悪だろうし、電気も高速移動の手段もない生活は、今の私に耐えられるものじゃないに決まってる。でも、「耳掻き屋」なんて生業が成立する・暑い夏は無理せずサボる・季節によって一刻の長さまで変わる不定時法の時間の中で暮らす江戸の生活への憧れの気持ちは止め難い。

 ボロボロに穴の空いた蚊帳を「蓬莱蚊帳」と呼ぶ-【「鶴と亀が(吊ると蚊めが)舞い遊ぶ」から】-やけっぱちなユーモアとエスプリ。

 お洒落へのこだわりも非常にハイレベル。男は尻っ端折りした時に褌からはみ出すとみっともないからとムダ毛の処理に気を遣い、女は着物からのぞいて見える踵の手入れに余念が無い。

 長い泰平の世の中で熟していったこの都市文化はどこへ消えてしまったんでしょう?


 このエッセイの中に登場するもので、できることなら生活に取り入れたいと思ったのは、行灯と屏風(二つ折のがいいな)。

 行灯・・・電気の灯りでは、たとえほたる電球だって部屋の隅まで照らしてしまい闇ができることがない。行灯の灯りとともに現れてくる「闇」というのを見てみたい。(でも、街で暮らしてると、部屋の電気を全部消したって、一晩中窓の外が明るい。)

 屏風・・・独りが好きなくせに、誰かに見守っていて欲しい私には屏風で仕切られたくらいのプライベートスペースがちょうどいいかもしれない。 

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2007-09-26

頭の中がカユいんだ : 中島らも

 中島らも氏の中につまったテクストや、想い出や、想いや、マーブル模様のどろどろが、酒やクスリや脳内物質による酩酊とともに流れ出したような小説。

 「きれいは汚い、汚いはきれい」

 作中に数回現れたこの言葉が、この小説の印象とダブる。

 まっとうな努力の中でむくむくと湧き上がる憎悪。臭気と汚物にまみれて“きらり”とこぼれるもの。

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2007-09-22

ボクはこんなことを考えている : 大槻ケンヂ

 オーケンのエッセイは、新しいのが出るたびに買って読んできたけど、最初に読んだ一冊がこれだったと思う。その頃私はまだ多分に少女の心を持っていて、大好きなアーティストであるオーケンの言葉は、一つ一つが大事な心の糧+ちょっと特別な気分になれるサブカル豆知識になったものですよ。

 UFOのこと、プロレスのこと、映画のこと、バンドのこと、「ブンガクな人」のこと、恥の多い青春のこと・・・おなじみのテーマで、“こんなこと考えてるんだけどなぁ”とぼそぼそ語るオーケン。自分のことを、悟ってもいないのに悟ったようなことを言う「野狐禅野郎」だと言い、ちらりちらりと自分に群がるファンや読者の方を見やりながらこぼしていってくれる、そんな「野狐禅野郎」の言葉はとてもありがたかったのですよ、彼の後ろに群がってたファンとしては。

 親への嫌悪感まみれだった十代、二十歳で憑き物が落ちるように終わった反抗期を語った「家庭内透明人間と親」ってちょっといい話なんです。 

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2007-09-19

バイバイ : 鷺沢萠

 少々ややこしい生い立ちから、「人に嫌われないこと」=「人の顔色を瞬時に読み、その人がして欲しいと思うことをしてあげること」を本能的に術として身につけた主人公・勝利。

 唯一ほっとする気を抜いて付き合える存在だった祖父から渡された、「人間なんで、信じるもんでねえぞ。」という言葉。

 関わった人を“良い気持ち”にさせてあげることが生活の第一義である勝利は、自然と人気者になるし、優しいと言われる。自分の周囲が穏やかで楽しいということは、自分自身の幸せにも不可欠のことだけど、「人がして欲しいと思うことに応える」一方で「自分がしたいこと」は自分でも分からないほどに小さくなっていく。

 「人に嫌われない為の本能」にどんどんのっとられていく「自分であること」「自分だけの心」。
 
 三人の女性それぞれの“望むこと”に応えようとした時、当然のように破綻は訪れる。女達は本当はどうしたかったのか? 勝利は女達の何を叶えるべきだったのか? 勝利自身はどうしたかったのか?


 私も・・・かつてはよく「君はどうしたいの?」「自分の気持ちはどうなの?」と問われると、答えに窮してしまうタイプだったので・・・ちょっと冷静には読めなかった。


 人と一緒にいるってどういうこと?
 人を信じるってことは狂気の沙汰?

 人の中で生きて行く上で、他人を気遣うことは悪いことではないはず。他人から嫌われても全く平気という人は少ないはずだから、嫌われない為に多少自分自分の中で色んな“調整”をするのも自然なことのはず。その調度良いバランスってどこにあるんだろう?

 一緒にいたいと思う人が「望むこと」と自分自身が「望むこと」が食い違ってしまうとき・・・愛する人に「バイバイ」をするべきなのか? 自分の心に「バイバイ」をするべきなのか?

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2007-09-15

上空の城 : 赤江瀑

 記憶の中にまざまざと浮かび上がる大天守。絵に描けるほど細部まで見える、窓の無い黒々としたその姿はしかし、実在するどの天守閣とも異なっていた。黒い大天守は狂気の産物か、それとも歴史の謎を封じた鍵か。

 謎を追う中で目にした「黒い姫路城」の絵図。天空高くそびえる天守閣は人ならぬ魔の領域のもの。天守に巣食う魔性や怪を封じ込めた「影の城」。

 夏の日のめくるめく光の中に、過去と現在が、現と魔の刻が交叉する。

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2007-09-12

ニシノユキヒコの恋と冒険 : 川上弘美

 社会的生き物として欠落しているものがいっぱいあるくせに、何故か人をそらさない魅力を持っている。

 所謂世間の道理、ルールの外にあって、無自覚に周囲の人を散々かき乱し、他人をとことん傷つけることもあるくせに、悪意も下心も計算高さも全く持ち合わせない天然、純真無垢、天真爛漫。

 彼は決定的なことは口にしない。他人を悲しませることも言わない。彼に触れた人たちは、彼に心を寄せ、勝手に心を波立たせ、そしてやがて自分の幸せだった気持ちと悲しみに気付いてく。周囲の人たちの感情の渦の中に、彼はゆらゆら揺れながら漂っている。

 他人から愛され、許され、完全に受容されることを、幼児のように当然の権利としている大人子供。他人を必要とし、他人に愛されながら、その実、自分だけで充足した世界を持つやっかいな人。

 ニシノユキヒコはそんな男。

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2007-09-08

芳年冥府彷徨 : 島村匠

 薩長との戦いに幕府軍は敗走。江戸になだれ込んだ官軍に城も明け渡された。上野の山に立てこもった彰義隊と官軍が小競り合いを繰り返す不穏な日々。終わりを迎えようとする江戸の断末魔の気配の中で、残酷絵で名を馳せた絵師・月岡芳年が彷徨い追い求めたものは・・・。

 夜道で偶然に二人の侍の斬り合いの場面に遭遇した芳年。静かな殺気を纏って相手の男を無惨に切り捨てる黒頭巾の男を目の当たりにした芳年は強く思った。

(-あの男を描いてみたい)

 人が人を殺す・・・その殺気に取り憑かれた芳年は、殺しの現場に落ちていた簪を手がかりに黒頭巾の男の正体を追う。


 簪に隠されていた密書、官軍の謀、世間を憚る趣向を楽しむ為の秘密の会合、侍を殺した過去をひた隠しにする版元の主人・・・色々な挿話を挟みながら物語は大詰めへ・・・。


 “最後の浮世絵師”“血まみれ芳年”と言われる月岡芳年を主役に据え、そしてこのタイトル! もうドロドロ、ぐっちゃぐっちゃの情念の世界!!!・・・かと思ったら、意外にもあっさり目・・・と言うより、少々物足りなさすら感じてしまう。いくつかある話の流れがどれも絡みあって深くなっていかず、上滑りしてる感じ。

 全体的に読みやすいし、江戸の退廃的な空気、幕末の江戸の気分のようなものは楽しめて、そういう点では良いです。ただ、黒頭巾の男の正体をめぐるサスペンスの面でも、“殺気”というものをつきつめる観念的な面でも最後まで何を描きたいのか煮え切らず、ラストに提示される“殺気”云々はどうも無理やりなこじつけに見えてしまう。ちょっと内容がタイトル負けしてるかな~という感あり。

 芳年が実際どういう人物だったのかは置いておくとして、“殺気”というキーワードをからめてくるなら、皆川博子の『花闇』で描かれていた芳年の方が、読み手を震え上がらさるような殺気に満ちている。

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2007-09-05

猿若の舞 初代勘三郎 : 東郷隆

 中村屋さんの活躍には、いつも目を見張るものがありますし、当代勘三郎さんのご長男、勘太郎さんは私が一番好きな歌舞伎役者ですので、このタイトルを見たら手に取らないわけにはいきません。

 天下が徳川のものになってまだ数年。戦乱の名残り~大坂の陣へと動くきな臭い空気の中、武家の出でありながら芸の世界に身を投じた彦作道順=初代中村勘三郎の生涯。

 歌舞伎というと、爛熟した江戸文化の華というイメージがありますが、その創成期はまだ天下騒乱の混乱期。歌舞伎踊りの小屋を架ける河原には、晒し首が並ぶこともある不穏な時代。その中でしたたかに芸の世界を生き抜いていく勘三郎の姿は泥と血にまみれ、その素晴らしい芸は、比喩でも何でもなく命がけ-ひりひりと張りつめています。

 史実からなるべく離れないようにと著者が意識したものか、エンターテイメントを意識した演出や創作は抑えられている様で、娯楽的な時代小説として読むには、少々ドラマティックな展開、盛り上がりに欠けるかもしれません。ストーリーの各所に挟み込まれる史実としての豆知識や解説によって、どうしても勘三郎を主人公としたフィクションとしての話の腰が折られてしまうのが残念と言えば残念です。

 しかし、華々しい成功者としての勘三郎ではなく、戦乱の世の泥にまみれながらも芸能人として生き抜いた逞しいイメージを見せてくれたことには、目から鱗の落ちる思い。

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2007-09-01

リストランテ・パラディーゾ : オノ・ナツメ

 おお~~~! 紳士だ! 紳士!! あっちもこっちも紳士! しかも老眼鏡の!! 枯れているのに色っぽい! うわぁぁぁ~!!! ・・・と、ちょっと平常心を失ってしまいます。


 リストランテ「カゼッタ・デッロルソ」の従業員は老眼鏡の紳士限定!・・・これ、オーナーの奥様の趣味。仕事と恋に生きる奥様は、21になる娘のことをオーナーにはナイショにしてる。(バツイチの彼女は娘を祖父母に預け、オーナーのもとに走ったのだ!)

 母親の秘密をばらすつもりでリストランテにやってきた娘・ニコレッタ。何となく母のペースに巻き込まれ、秘密をばらすことができないままにリストランテの仲間に。紳士達の優しさに触れ、生き生きした母の姿を見て、自分も恋をして・・・だんだんと色んなことがわかってくる。

 みんな人生のすっぱいところも知っていながら、ひねこびず、自分なりに対処して、他人には溢れる思いやりで接して・・・。器用じゃないとこもあるけど、素敵な人たちばかりのお話。なんだかほっとします。

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