2007-06-30

復讐奇談安積沼 : 山東京伝

復讐奇談安積沼/山東 京伝

 京極夏彦氏「覘き小平次」のベースになっている山東京伝の「復讐奇談安積沼」(もちろん現代語訳)を図書館で涼みがてら読んできました。

 「覘き小平次」では、もちろん物語は大きく組み替えられているけれど、あちらこちらのディティールはそっくりそのまま活かされているので、この「安積沼」の方を先に知っていたら、“おお!このセリフ、シーンはオリジナルどおり!”なんてマニアックな楽しみ方ができただろうな。

 「安積沼」は元里見家家臣安西家の子・喜次郎の復讐談がメイン。「覘き~」の方にはない、喜次郎が売られた男娼家のある禰宜町界隈のいかがわしげな町の様子や、そこいらを歩く人の風体が詳しく描かれていて、なかなかに生々しい。「覘き~」では自己中で女々しいナルシスト・喜次郎、「安積沼」では見目麗しく、文武両道にすぐれ、孝心あふれるいい事ずくめの男です。

 幽霊役者・小平次の怨霊話は、喜次郎の全くあずかり知らぬところで話にちょっと絡んでくる、サイドストーリーといったところ。女房・お塚とその姦通相手・左九郎の姦計により無残な最期を遂げた小平次は怨霊となってお塚を祟り殺し、左九郎を苦しめる、実にバイタリティーのある幽霊ぶりを発揮します。生前の小平次も「下手な役者」という記述があるのみで、地方公演では座頭をつとめるようなちゃんとした男。

 こんな喜次郎、小平次から、あの「覘き~」での歌仙、小平次のキャラクターを創り上げた京極氏は妄想逞しい人だなぁ~と思う。良い意味で。

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2007-06-27

覘き小平次 : 京極夏彦

 死んだ者のように生きる、ただただ自分の存在を薄いものにし、押入棚の一寸五分の隙間から世界を見つめるだけの小平次。

 “何もしない”小平次を鏡にして、周囲の者の心が浮かび上がる。
 
 小平次の周囲に呼び寄せられるように集まってくるのは・・・親の苦境を救う為に我が身を男娼家に売った玉川座の女形・玉川歌仙、歌仙を陥れ、歌仙の一家を惨殺した仇・運平、歌仙の絵姿に懸想して道を踏み外した娘・宝児、小平次の女房お塚に惚れているごろつき上がりの鼓打ち・多九郎・・・。



 “親の身を思うのではない。親によって守られた自分の世界を大切に思うだけだ。”

 “何をしても面白くない、何も感じない。怒っているわけではないが、だた訳もなく機嫌が悪い。”

 “絵姿の男が恋しい。現実など知ったことではない。”

 “人としての存在を持つことに意味を見つけられない。存在の重さに耐えられない。”

 ・・・深い因縁で繋がった登場人物、芝居がかった台詞まわしはいかにも時代物の怪談仕立てではあるけれど、登場人物たちが抱える闇は現代の事件に垣間見える人の闇。

 「無理をして楽になるのと、無理をせずに苦しむのでは、どちらが良いのだろう。」 ・・・小平次がお塚にもらす言葉。

 「無理をせずに苦しむ」・・・一個の人である面倒くささから逃げる代わりに、常に輪郭のぼんやりとした不安を選んだ小平次。周囲の者が、何もせずただ在るだけの小平次を嫌い、蔑み、憎むのは、彼らが「無理をして楽に」なった者たちだからだろう。本来近しいものであるはずなのに、自分達が嘗めている「無理をする」ことのストレスを放棄しようとする小平次は許せない、腹立たしい存在に違いない。私とて、身近に小平次がいたとしたら・・・多分・・・嫌いだ。

 この小説、「巷説百物語」の登場人物たちも、物語の筋書きに一枚かんでます。

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2007-06-23

猿丸幻視行 : 井沢元彦

 万葉の歌人・柿本人麻呂の挽歌に隠された暗号が、正史からは抹消された日本古代史の闇を語る。猿丸一族によって一千年の長きに渡り守られてきた謎に、若き日の折口信夫が挑む。

 この小説を初めて読んだのは中学生の頃だったか・・・。それこそページを捲るのももどかしく、教科書で目にした事のある、有名な柿本人麻呂や猿丸太夫の歌の中から次々と暗号が浮かび上がってくる様に手に汗を握ったものだ。

 改めて読んでみて、多少こじつけ臭い部分を感じるものの、暗号解読から導きだされた答えが歴史の闇とリンクしていく様はスリルに満ちていて、ページをめくる手が止まらない。

 「いろは歌」の隠し文字、「とかなくてしす(咎無くて死す)」が作品序盤で出てきた時点で私なんか“ふぉぉぉぉ!”って興奮しちゃいましたよ!(良く知られた話のようだが、私は知らなかった!)

いろはにほへ
ちりぬるをわ
よたれそつね
らむうゐのお
やまけふこえ
あさきゆめみ
えひもせ

 民俗学者・折口信夫が探偵役を務めるというのもこの小説の魅力なのだが、作中の設定では現代のある青年が“意識を分離して過去の人物の意識と同化することにより時間旅行を可能にする”という新薬の力を借りて、折口信夫の意識に同化している・・・ということになっている。しかし、この設定、あまり作品中で活かされていないような・・・。さらに、この話の大前提である“柿本人麻呂=猿丸太夫”ということの根拠も、梅原猛氏の著作「水底の歌」に拠るところが大きくて、作者独自のアイデアとしては少し弱い気がする。その辺りが読後の違和感として残る。

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2007-06-20

一日江戸人 : 杉浦日向子

 昨年、久しぶりに歌舞伎を見て以来、私の歌舞伎熱は高まる一方。歌舞伎といえば江戸の一大娯楽、そんならお江戸の人々の様子も見てみようじゃないか、と手にとってみたのが杉浦日向子氏描くところの江戸の人々。何しろ小難しくなくて、楽しく読めるのがいい。

 真面目に働くなんて辛気臭い(江戸でしっかり働いてる職人や商人は地方出身者が多かったそうな)。その時のこたぁその時に考える。野暮や気障が嫌いで洒落と粋が身上。遊びとファッションの追求には余念が無い。

 日本という国にこんなに自信に溢れ、エネルギッシュな人たちがいたっていうのが、今となっては驚き!

 語って聞かせるような杉浦女史の文章も良いですが、やはり漫画家、挿絵や図解が効果的。江戸っ子版「あなたにピッタリのバイトはコレだ!!」ゲーム(よく女性誌なんかにある「YES」「NO」で進んでいくやつ)では、すべてのルートでどこかに「あきた」っていう選択肢が出てきて、小さく笑いのツボを押されてしまった。ぷっ。

 江戸のナンパ・・・お坊ちゃまの場合と一般少年の場合図解も良い。お坊ちゃまは恋煩いで寝込むと番頭が何とかしてくれるのね~。この図解でのお坊ちゃまと一般少年のファッション!! 歌舞伎の舞台でも観たことあるよ~~~! お坊ちゃまは長めに仕立てた羽織に、着物もかかとが隠れるくらい長く着て、必須アイテムは銀無垢のキセル。一般少年は縦縞の着物をこざっぱりと着て、腕まくり、裾まくりで色気をアピール!! これだよこれ~~!

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2007-06-16

神菜、頭をよくしてあげよう : 大槻ケンヂ

 タイトル買いしました。「神菜、頭をよくしてあげよう」・・・このフレーズ、ぐっとくるんです。


僕は神菜を見てこう思うんですよね、きっと

 
 世の中にはわからないことが多くて

 人生には怖いことがたくさんあって

 多分ちょっと“生きにくいなぁ”と思っている神菜


 神菜が今よりもう少し世の中のことを理解できるように

 神菜が“人生なんてちょろいわよ!”と思えるように

 僕の持てる全ての力で

 神菜、君の頭をよくしてあげよう



 いい歳になってしまった今となっては、誰かがそういう視線を私に注いでくれているなんて・・・そんな青臭い期待なんてしちゃいられないんですが、それでも私の「一生に一度は言ってもらいたい台詞」の上位にくい込んでいるこのフレーズ。

 タイトルはぐいぐいと私のせつなさのツボを押すのですが、内容はいつもどおりのおバカでトホホなエッセイです。

 当初は、“30代独身男のオーケンが、若くして亡くなった友人の分もこの世を遊び尽くす”という意味を込めて、タイトルを「池田独身貴族」とする・・・というアイデアがあったそう。このタイトルで発売されていたら、果たして私は手に取ったかどうだか? 


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2007-06-13

地球へ・・・ : 竹宮惠子

 現在、TVアニメを放映中ですが、そちらは観たことありません。むしろ1980年に公開されたという映画版の方が観たいなぁと思います。映画化が80年ということは、原作であるこのコミックが連載されたのは70年代のことでしょうか? 今回初めて読みました。

 世代的に(多分)マントを見ると“素敵”と思ってしまう生理があるので、ソルジャー・ブルーやジョミーのマント姿を見るとぐっときます。

 人間の生命活動によって環境が破壊・汚染され荒廃しきった地球。コンピュータの管理下に置かれて、作られた楽園生活を享受する人類。そんな人類のあり方に疑問を持ち敵対する、超能力を持つ“新人類”「ミュウ」。配置されたコマは、もう普遍的と言っていいほどSF作品によく登場する構図。ただ、この作品中で人間を管理しているコンピュータは、他の作品でしばしば見られるような所謂「自分の意思を持つコンピュータ」ではなくて、あくまでも人間によるプログラムを忠実に守るコンピュータであるというところが面白いなと思います。

 この話は「自らの意思の弱さを知り、機械に律せられることでそれを補おうとする人類」vs「自らの意思を信じて生きようとする新人類」の戦いを経て、機械vs人類の戦いへと深まっていくのですね。

 さらに全体を「地球へ・・・」という命の源への郷愁という叙情的なものが覆っています。叙情的な叙事詩。

 
 人類を支配する大コンピュータ・・・SF作品ではよく登場しますが、このコンピュータの名前、もしくはイメージが女性のものであれば土俗的なもの、原始宗教的なものを感じさせ、男性のものであればキリスト教的なものを感じさせるのでしょうか?

 ちなみに「地球へ・・・」では人類はグランド・マザーというコンピュータに管理されています。グランド・マザーが破壊された後、“テラ”という名の男性の声を持つコンピュータが現れますが、あまりにもあっけなく人間の手で停止されてしまうのでした。「地球へ・・・」ではコンピュータはあくまで人間の道具であって神に代わるものではなかったってことでしょう。

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2007-06-09

江戸ふしぎ草紙 : 海野弘

 江戸の文物、風俗、仕事をお題にした“ちょっといい話”20編。

 本を読むっていうより、話好きの隣のご隠居に昔の思い出話や人情噺を語って聞かせてもらってる感じ。今時、お隣に話し好きのご隠居が住んでる人はそんなにいないと思うけど・・・。

 ちょっぴり泣けて、ちょっぴり幸せな気持ちになれる昔話。一編ずつ読んで寝たら寝つきが良いかも。

 このお話、資生堂の「花椿」連載のものらしいです。こういう読み物が載ってる機関誌ってトイレ内での読書に良いんですよね~。

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2007-06-06

人生を救え : 町田康・いしいしんじ

 町田康がお悩み相談に答える「どうにかなる人生」、町田康・いしいしんじの二人が街を眺め人を社会を語りながらぶらぶら歩く「苦悩の珍道中」の二本立て。

 町田康のお悩み相談というと、かなりトリッキーな回答が展開されているのではないかと思ったんだけど、意外にも誠実な相談員ぶり。といっても文面から感じられる、相談者に向かう町田氏の姿勢が誠実だということで、結果として提示される解決方法はトリッキーだとも言えるんだけどね。

 私は悩み相談というのが苦手で、相談することも、されることも滅多にない。相談する際には、自分の困難な状況を人に解ってもらえるように説明するのが面倒で、そんな面倒なことをするくらいなら自分で何とか消化してしまおうと思ってしまう。相談される側・・・ということについていえば、私の身近な友人達は私の人生の経験値の低さを知っているので、私を相談相手として選ぼうとはしない。

 さて、町田氏の悩み相談。一見取るに足らないと見える相談にも、相談者の気持ち、向かいたい方向性、悩みの底に横たわる諸事情を推し量り、なるべく希望に添える回答を導き出そうとする氏の態度は真剣、誠実。ああ、他人の問題にここまで誠実に答えて上げられる人がいるんだ、と小さく感動する。

 ただ、真剣に誠実に考えて導き出した答えが必ずしも無難で社会的に穏当なものであるとは限らないのだ。個人の悩みを解消するためには、社会的には不穏当、奇行と思われることも行わなければいけないのだから! それができないのであれば多少のモヤモヤ、不都合を受容する寛容さを持つしかない。

 この悩み相談を受け、その後心の箍を外して思い切り奇行に走った!という人はいたのだろうか? それとも多くの人が悩みを生む人間関係を受容する寛容さを身につけていったのだろうか?

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2007-06-02

あふれた愛 : 天童荒太

 知らず知らずのうちに追い込まれ、押しつぶされ、自覚できないままに傷を負ってしまった人たち。見つめることのできなかった自分の傷を認め、回復していこうとする姿を描いた四篇。

 暴力や悪意によってではなく、それぞれの心の器に抱えきることができず溢れてしまった想いで周囲の人を傷つけ、自らも傷ついてしまう人たち。期待であったり、思いやりであったり、大切なものへの愛であったり・・・自分と相手の気持ちを量りうまくバランスを取っていくのは、相手が大切な人であるほど難しい。

 感情移入というほどではないが、話の中にはすぅ~っと入っていくことができた。でも読んでいる間中、頭のどこかでさめたものを感じている。

 誰しも実体験のなかで色んな形の傷を負っていて、それぞれ意識的にしろ無意識のうちにしろ、自分なりのやり方でその傷と付き合ってきてる。こういうことは大概、非常に個人的な体験なので、たとえ優れた小説だったとしても、その小説の世界が自分の中に流れ込んでくるのはありがたいことではない。読みながら自分の内面を小説の世界に投影させることもしたくない。そんな気持ちがあったので、ついさめた目で読んでしまったのかも知れない。

 傷を負った人が、その傷を理解して癒していくということは大切なことだと思うけども、そういう話が小説として流通して・・・それを読んだ人が自分の傷のことを想う・・・っていうことがあるのだとしたら、何か違和感を感じずにはいられない。

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