2007-05-30

鴨川ホルモー : 万城目学

 前回のエントリーで書いた森見登美彦「きつねのはなし」と同じく、舞台は京都、主人公は大学生。オニどもが京都の街を跋扈しますが、こちらは怖い話ではない。恥多くもさわやかな青春小説。

 まず気になるのはこの奇妙なタイトル-「鴨川ホルモー」。「ホルモー」って何?ってとこですが、まぁそれは深く気にせずとも、一風変わったサークル活動と考えておけば良い。と言っても、その一風変わり具合がこの小説のスパイスなんですが。


 このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ。
 このごろ都にはやるもの、協定、合戦、片思い。
 祇園祭の宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。
 「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。
 戦いのときは訪れて、大路小路にときの声。
 恋に、戦に、チョンマゲに、若者たちは闊歩して、魑魅魍魎は跋扈する。
 京都の街に巻き起こる、疾風怒涛の狂乱絵巻。



 この軽妙な文句の如く、馬鹿馬鹿しさ、情けなさ、恋に涙に笑いをちりばめて、俺の大学生活はグルグル回る。

 ダメ男の俺が、強くてカッコイイ男を打ち負かし、仲間の信頼も得て、ブスだと思ってた女の子はメガネをとってみると意外に可愛く、しかも知的で今では俺の彼女・・・なんて、ベタな匂いをホルモーという飛び道具で中和しつつ、一時の妄想を満たしてくれるお話。


 <レナウン娘><さだまさし><大木凡人>・・・こういうものどもが“ちょいと古めかしく、可笑し味を感じさせるアイテム”として登場してくる感覚はどうなんだろう? 著者より一昔前?の世代である私たちの学生時代においてさえ、すでに使い古された感のあるアイテムではあるんだけど・・・。その二重の古ささえ計算された上での起用なんだろうか?

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2007-05-26

きつねのはなし : 森見登美彦

 京都~入り組んだ細い路地、雨の降り出しそうな気配、真っ暗な夜の通りにぽつんとただ一つ灯りをともす自動販売機、狐の面、坂の上の古い屋敷と陰気な主人、古道具屋、そして・・・白い歯を剥きどこか人間臭い顔でふりかえる、妙に胴の長い四足のケモノ。

 古道具屋『芳蓮堂』と、この正体のわからないケモノを接点に、ゆるやかに世界を共有する4つのお話。

 白黒のつかない不思議。決して激しくはない、しかし無防備な背中にぽつんと冷たい水滴が垂れ落ちたような恐ろしさ。4つの話の主人公~語るのはすべて大学生だ。

 
 深夜の路地を、何の企みも衒いもなくぶらぶらと歩けるのは、大学生という身分・年齢・時期・・・そういったものの持つ特権だと思う。(もう少し年齢が低かったり、高かったりすると『深夜の徘徊』って少し特別な意味とか意図を帯びてくると思うんですよね。) そういう大学生の目で見て語ったお話だからこそ、不思議は不思議のまま留め置かれ、恐怖は嫌悪や憎悪に変わっていくことなく、『恐怖』として純粋に在りつづけている・・・という気がする。

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2007-05-23

僕たちは歩かない : 古川日出男

 「僕たち」は料理人で、学校を出た後海外での修行も経験したりしていて、野心もあるし、努力も研究も怠っていない。それでも僕たちは、シェフにはなれていない。それぞれに得意なことは違うけれど、それでも「僕たち」という言葉でひとまとめになってしまえるほど、まだ何者でもない若者達だ。

 そんな何者でもない僕たちが、引き合うように「1日が26時間制の東京」に集まってくる。26時間制の東京の余分な2時間、僕たちは料理の腕を磨きあう、語り合う、不幸に見舞われた仲間のために冥界へまでも旅をする。

 僕たちは常に注意深くなくてはいけない。自分たちに与えられた“素材”に、自分たちの行動に。何かを為すために。


 「僕たち」という名のまだ何者でもない一群・・・彼らが「僕たち」として過ごす一つの時間が、「26時間制の東京」での出来事として切り取られ描かれる。そこは繭の中のようで、成虫になる前の僕たちが真摯な努力を重ね、自分に注意深く、準備を整えている。

 幻想的な中にも、リアルな力強さと緊張感のある、良い感触のお話だった。ただ、私は「僕たち」の気分にも、「26時間制の東京」という空間にも、最後までシンクロ出来なかったのだけど・・・。


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2007-05-19

オテルモル : 栗田有起

 「どうか良い夢に恵まれますように。おやすみなさいませ。」

 良質の眠りと、快い夢を提供するためだけに作られた地下13階建の会員制ビジネスホテル「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」。これまで100以上の面接に落ち続けていた希里は、このオテルのフロント係に、「誘眠顔」であるという理由で採用される。

 一見おっとりとした平和な性格のようにも見える希里だが、実は複雑な家庭の事情を抱えている。一卵性の双子でありながら、常に周囲の人の関心と注目は妹の沙衣に注がれる。薬物中毒で、激しく脆い沙衣を守るために彼ら家族はいる。沙衣や両親や沙衣の娘にその父親・・・それらの人とバランスをとっていく為に自分にオブラートをかぶせているような希里・・・自然と顔は「誘眠顔-良い意味で死んだ顔」になる。

 家族という共同体の中では「誘眠顔」をして過ごさざるを得ない希里。その共同体の中から一歩でる為に始めた就職活動だったのに、天職のようにめぐり合ったのが「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」~安らかな眠りと夢を得る為に、建物・従業員・宿泊客が一つの共同体または生命体のように機能する特殊なホテル。そこで希里に求められるのはやはり「誘眠顔」であること・・・。本当に希里の就職先はこのオテルで良かったのかなぁ。


 表紙から始まって物語の最後まで、水の中からすべてを眺めているような、感覚を一部遮断されたような雰囲気は嫌いじゃなかったのだけど、「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」~この風変わりで怪しげなオテルの世界観があまりこなれていない気がして・・・小説の世界と今ひとつ有機的にからみあってこなくて、もどかしい気がした。

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2007-05-16

マリ&フィフィの虐殺ソングブック : 中原昌也

 中原昌也氏の小説(小説なのか?!果たして?)には興味がありつつも、時折目にするその評判から、読んだら嫌~な気分になるんじゃないかなぁという危惧があって、なかなか手が出せないでいた。長い逡巡の末、意を決して読んでみた。


 これは・・・!!! 

 文章と文章の間には脈絡なく、読み取れるストーリーも見つからない。どちらかというと心地良くない言葉の連発。それでも何故か危惧していたような嫌な気分にはならない。むしろ清々した気分すらしてくる。

 完全に一人称の小説(小説なのか?)というのか・・・。個人にとっての事実を正確に、正確に、せ・い・か・く・に書くとこういうことになるのかもしれない。

 いやはやびっくり。 


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2007-05-12

まどろむ夜のUFO : 角田光代

「まどろむ夜のUFO」
 大好きだったUFOへの興味を母親に封印させられて以来、“モニターの中から暗号を送ってくる”タレントを恋人にしてしまった「弟」。弟の友達で、生まれる前の世界を覚えている「恭一」。色んなことを知っていて理性的で、過剰なくらいに几帳面な大学の友人「サダカくん」。そんな面々と、弟や恭一の仲間達とサダカくんの間を行ったり来たりする「私」の話。

「もう一つの扉」
 いつも誰かと同居している「私」と、突然姿を消したルームメイトの「アサコ」と、「アサコ」と一緒に“無数のカッパを見た”という「眼鏡男」の話。「眼鏡男」がカッパを見たという、緑深い夜の公園の“特別な光景”が話の中心にある。

「ギャングの夜」
 部屋を探し続ける叔母と姪の話。“住める所が見つからなくて”部屋を探し回っているのか、“そこに住めることを確かめる為に”部屋探しを続けているのか・・・?

 収録された三つの作品を読んで、「前夜」というキーワードが浮かんできた。

 収録されている三作品はいずれも、人と人の間に、人と世界の間に、微妙な距離感を感じさせる。

 登場人物たちは、何がしか自分なりの真実とでも言うべき事柄を経験している。それが何なのかを理解しようとしているのだけど、未だよく解らないぐちゃぐちゃとした中にいて、自分と他人、自分と世界の境界があいまいになっている。自分の内なる世界にじっと目を向けているかと思えば、ずかずか無遠慮に他人の領域に入って行ってしまったり・・・。

 突然やってきた見知らぬ人を平気で自室に上げてしまったり、いなくなったルームメイトの服を当たり前のように身に着けて出かけたり、一方的におしかけた他人の部屋に囲いで仕切った自分だけのスペースを作ってしまう・・・そういう行為に、彼らの持つ他人(世間)との間の曖昧な距離感が象徴されているように感じる。

 ごちゃまぜのスープのような混沌と曖昧さの中から、それぞれの人がそれぞれ自分の形を成そうとしている。変化が起こる気配。そんな「前夜」の光景が、この三つの作品には見える。


 それにしても、登場人物たちが図々しく他人の部屋に上がりこんだり、友人の恋人と当然のように関係を持ったり、悪びれることもなく会社を無断欠勤したり、他人の部屋を勝手に物色し持ち物を拝借しちゃったりする様が自然で正当なことのように描かれているので、読み進めるにはそういう行為に対する生理的な嫌悪感を抑えておかなくちゃいけなくて、ちょっとしんどかった。 


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2007-05-09

キップをなくして : 池澤夏樹

“キップをなくしたら駅から出られない”-「駅の子」になって駅で暮らす。仲間もいるし、改札の中なら電車にのってどこまでも行ける。キヨスクのお菓子も食堂の定食も駅弁も、マンガも新聞もタダだ。それに通学中の生徒を守るという仕事もある。

 「駅の子」たちは「駅長さん」に見守られながら、仲間と協力してできること、自分で考えなきゃいけないこと、人の力は借りられないこともあること、それに、どんなに頑張っても駄目なこともあることを知っていく。

 すべてを含めて肯定していく、やわらかで、厳しくて、さわやかな読後感。

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2007-05-05

一九三四年冬-乱歩 : 久世光彦

 昭和9年冬・・・「悪霊」の連載を中断した江戸川乱歩の突然の失踪。神経衰弱気味の乱歩が世間から身を隠すように逃げ込んだ、麻布箪笥町「張ホテル」での4日間のできごと。

 仮の名でホテルに泊まり、乱歩の名前から自由になった開放感とともに感じる一抹の寂しさ。かつての創作メモを眺め、またホテルの美しいボーイ・中国人青年の翁華栄や、推理小説に精通した美しい人妻・メイベル・リーとの出会いに刺激され、久しぶりに創作意欲に取りつかれた乱歩は「梔子姫」と題する小説を書き始めるが、隣室に感じる怪異や、まとわり付く正体不明の視線に悩まされ続ける。筆が進むにつれて小説と現実の間の壁が朧になり・・・。

 久世光彦氏が乱歩を見つめ、またあるときは乱歩自身になって書かれた小説。作中の記述や描写に、久世氏の著作「花迷宮」「怖い絵」の中でも書かれていた久世氏自身の少年時代の体験と重なるものが見え、乱歩に随分とご自身を投影して書かれたのだなと感じた。倒錯したエロティシズムとロマンティシズムに溢れた作中作の「梔子姫」も、乱歩の幻の作品というよりも、明らかに久世氏の匂いのする小説。

 作品全体に「屋根裏の散歩者」よろしく、天井や壁の節穴から乱歩をじっと見つめる久世氏の湿った視線を感じる。

 乱歩のチャーミングな描写も良いし、作品上の現実の世界と「梔子姫」の世界の境界がゆるくなり、ふとどちらの世界にいるのか解らなくなってしまう眩暈のような感覚・・・十分に楽しませてもらったのだが、乱歩が滞在する「張ホテル」202号室の隣室・201号室の怪異については翁青年とミセス・リーが推理するものの、尻切れトンボに終わった感じがするのが少し残念。

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2007-05-02

玩具草子 : 長野まゆみ

 飛行機に機関車、自動車といった近代的なものと、ふくら雀、金魚、仔犬といった古典的なものが微妙なバランスで同居した図案。漫画的にデフォルメされた絵柄と、妙にリアルさの残る絵柄の不思議な同居。童心あふれる生き生きした図案なのに色目をおさえた渋い配色。カンバスの布目がみえるような素材感。・・・これは一体何の絵なんだろう? と思っていたら、これらはすべて著者が収集している古裂(こぎれ)・・・大正から昭和初期にかけて主に男児の着物や羽織の図柄になっていたものたちらしい。

 本書では大正・昭和のモダンが感じられる古裂と共に、千代紙や紙せっけん、万華鏡といった、かつての駄菓子屋や雑貨店にあった少女の宝物~愛おしきものたちへのエッセイが収められている。

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