2007-03-31

愚か者-畸篇小説集 : 車谷長吉

 私小説のようでもあり、心象を詠んだ詩のようでもあり・・・。

 目で見て頭で処理される外界の映像と、心象の映像にはずれがある。心象の映像を、写真かビデオで撮影して映写することができたら、それは奇妙なものができることだろう。畸篇小説・・・心の中の映像がそのまま外に流れ出して世界を作ってしまったかのような奇怪さと滑稽さが同居した作品集だった。

 ぎょっとするようなことも、あまり高ぶることもなくさら~っとした筆運びで書かれていて、うっかりするとイメージを掴み損ねてしまう。何度も読み返しておぼろげに自分の中にイメージができあがって改めてぎょっとする。そんな感じを繰り返しながら読み進めた。「畸篇小説集」・・・なるほど・・・ううむ・・・って感じ。 

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2007-03-28

三四郎はそれから門を出た : 三浦しをん

 完全な活字中毒者だという三浦しをんさんによる、ブックガイド・カルチャーガイド・書物にまつわるエッセイの他、著者の日常や家族のことをユルい文章で綴ったあれこれが一冊にまとまっている。

 エッセイのネタのために、しをんさんは“どっこいしょ”とお出かけをしてみたり、普段はしない体験をしてみたりするのだが、彼女が起こすアクション・・・その行為の選択には、“あ、いいなぁ”とちょっとくすぐられる(そのあまり気合の入らないお出かけぶりがまた良い)。

 例えば、目白二丁目に中井英夫の「虚無への供物」の舞台なった「水沼邸」の面影を訪ねる・・・これなんて、私も上京の機会があればぜひやってみたい。

 他にも、本の中に出てくる、無性に美味しそうな食べ物を自分の手で作ってみるという試み・・・しをんさんは、「長くつ下のピッピ」が作った「しょうが入りクッキー」にチャレンジしているが、私はもっと安易に、スヌーピーやチャーリー・ブラウンがキャンプをするときに必ずやっている「焼きマシュマロ」を実践してみたことがある。小枝の先にマシュマロを刺して焚き火にかざして焼く。パリっこげた表面をカリっと噛むと、をとろりと溶けた熱々の甘~いものが口の中に広がって・・・ちょっとだけアメリカのキッズになれた気がした瞬間だった。

 
 ところで、三浦しをんさんの書くエッセイって概ね面白くて、好きなんだけど、ちょっと波があるなぁ~と思うこともある。

 プラス・マイナスどちらの方向に向かってであれ、熱く思いをたぎらせる事・モノについて彼女が語るとき、彼女の筆は暴走気味に文章をほとばしらせ、間の取りかたやちょっとした言葉の選択、表現のセンスが、ものすご~く私のツボを刺激してくれるのだが(本や漫画を“ふがふがと読む”なんて描写は彼女が使うからこそ味わいが深い。ああ、その鼻息の荒さ!!)、その一方で、“あれ? この言葉(事柄)は、まだそんなにしっかりと彼女の血肉に沁みていないんじゃないかなぁ?”って思わせるようなぎこちなさを、時々彼女の文章から感じることもある。このエッセイ集の中にもちょこちょこ見える『世界の美しさと残酷さ』『無機質なシステムに疲れきった臆病な心』『硬質な文章』『硬質な詩情』『寺山修司という魂が抱えていたさびしさ』・・・等々という言葉は後者の方・・・。そんな、数多ある書評に使われてるような言葉を、彼女に期待してるんじゃないんだけど・・・と、こっそり思ったりする。

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2007-03-24

花伽藍 : 中山可穂

 所謂恋愛小説を読んで涙することはめっきり少なくなってしまったのだけど、中山可穂さんの書く「恋愛」には、もう堪えようなくボロボロと泣いてしまう。

 そこに触れるととても痛いということを知っていて、用心深くしっかりと蓋をして生きている部分というのが誰にでもあると思う。その「部分」は他人にけどられないように、そして自分自身でも意識しないでいられるように非常に上手く隠されていて、隠していることすら忘れて普段は生活しているのだけど、中山氏の書くものはその隠している「部分」をざっくりと掘り出してしまう。

 隠していたものをあっさりと目の前に掘り出してしまわれた時、突然堤防が決壊したようにぼうぼうと滂沱の涙が流れ出してくる。隠していたはずのものを見つけられた悔しさと、そこに触れられた痛み、隠さなくてもいいんだと知らされた安心感が混ざりあった奇妙な涙。

 「花伽藍」には5編の短編が収められていて、それぞれに描かれる恋愛の姿のいろんなポイントでまたも私は泣かされてしまった。「恋愛」でつながった人たちの姿を見ながら、一人で生きること、誰かと生きることを真剣に考えてみなきゃと考えさせられる。

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2007-03-21

深川黄表紙掛取り帖 : 山本一力

 舞台は元禄バブルのお江戸。定斎売りの蔵秀、文師・辰次郎、飾り行灯師・宗佑、男装の絵師・雅乃・・・この知恵者4人の裏稼業が金に絡んだ厄介ごとの始末屋。

 大店が膨大に抱えた余り大豆を始末する顛末が描かれる「端午のとうふ」では、イベントのプランニングから、宣伝、各方面への根回し、イベント当日のトラブルも上手くさばいて万々歳! 原価やコストの計算から人の動かし方が細かに描かれて・・・そうか、蔵秀たちって広告代理店みたいなもんなんだな~。知恵を武器に、阿漕な商売をする成金商人をやりこめ、豪商・紀伊国屋文左衛門とも渡り合う。老中・柳沢吉保まで登場し、見え隠れするお上の秘密の計画・・・。

 カネにものを言わす大店=大企業と町場の若者の知恵の融合・対決・・・今のご時世にも通じる話だな。

 蔵秀たちのアイデアの面白さ、計算されたストーリーの流れも良いけど、この小説の魅力はやっぱり江戸の活気。町を駆け、川やお堀を船で縦横に行き来する、江戸という町が生き生きと動いているのが感じられる。できれば江戸の地図を脇に置いて町や通りの名前なんか確認しながら読んでみたい。それに、仕事をする以上金ももらうが、結局のところ意気に感じて動いてしまう町場の人たちには、読んでて胸が熱くなった。泣くとこじゃないのに目頭につ~んとこみ上げるものがあったりして・・・年取ると涙の栓がゆるくなっていかん。

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2007-03-17

怖い絵 : 久世光彦

 「怖い絵」・・・文庫版の表紙にも使われている高島野十郎の蝋燭の灯りに照らされるように、作中にぼうっと浮かび上がるのは、ロシア正教のイコン、ビアズリーやモローのサロメ、竹中英太郎や伊藤彦造の挿絵、ベックリンの「死の島」、甲斐庄楠音の描く死臭を纏った女。

 それらの絵画は久世氏の体験・・・殊に終戦を挟んだ前後10年、つまり氏の幼少期~20代初めにかけての体験の中で出会い、記憶に深く埋め込まれたものたちだ。戦中、戦後まだ世間は混沌としていて、妙な明るさがあるかと思えば、一寸先の見えないような不安に満ちている・・・身の回りに死や「怖いもの」が沢山あったのだろう。そしてまた久世少年は「怖いもの」にひかれてしまう質だった。久世少年の怖い記憶にはどこか性的なもの、死を想わせるものが潜んでおり、そしてそういうものに惹かれる氏自身の罪悪感、羞恥がからみついている。

 そういう、目を背けたいが、目を覆った指の間から盗み見ずにはいられない後ろめたさ、じめじめした感情がからみついているからこそ、体験の中に埋め込まれた絵画たちは「怖い」。

 「怖い」という感情が育む豊かに暗い世界が垣間見える一冊。 

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2007-03-14

絵画で読む聖書 : 中丸明

 聖書に題材をとった絵画はその美しさや不気味さで心をざわざわさせます。胴体がなく、顔から直接羽を生やして飛び回る天使が描かれた絵などを見ると“な、何なんだこれは!”と嬉しくなってしまいます。

 実は宗教画の紹介・解釈を主眼としたものを期待してこの本を購入したのですが、内容はちょっと違って、宗教画を挿絵のように使いつつ、旧約から新約につづく聖書の世界を読み解いたものでした。

 こういう風にいうと硬い本のようなのですが、さにあらず。なぜか聖書の登場人物はみゃーみゃーと名古屋弁を操り大騒ぎを演じ、著者はえらく砕けた言葉で、旧約の部分では神=エホバの自己中ぶりや、ユダヤの民の考えてみれば理屈にあわないことだらけの行動につっこみを入れていきます。聖書の記述に納得できないものを感じる多くの人には“わが意を得たり!”といったところではないでしょうか。

 旧約の部分では、その荒唐無稽さに対するつっこみが目立った本書ですが、話が新約にさしかかってくると、著者のくだけた物言いは読者の興味をひく為の方便で、その底では宗教としてのキリスト教と真剣に向き合い格闘しているのが見えてくるような気がします。

 宗教的にではなく、学問的に「聖書」とか「キリスト教」を取り扱っているかに見える本書ですが、イエス・キリスト個人には著者は宗教的な関心を深く持っているように感じました。

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2007-03-10

サグラダ・ファミリア [聖家族] : 中山可穂

 2年前、家族が入院していた病院の売店で「猫背の王子」を手に取ったのが中山可穂さんの小説との出会いでした。

 「猫背の王子」とそれに続く「天使の骨」~芝居への業を背負った女性・王寺ミチルを主人公にした2作は、久しぶりにどっぷりとのめり込める、そしてその分読むのに体力を使う小説で、読後はくたくた、小説で泣くのも何年ぶりのことか・・・といった感じでした。

 さて、今回読んだのは「サグラダ・ファミリア〔聖家族〕」。主人公はピアニストの響子。一生を共にしようと思った恋人・透子は、子供を望み響子のもとを去った。数年の後、望どおりシングルマザーとなり子供を得て、響子のもとに透子が帰ってくるが、子供の存在をどう受け止めたら良いかわからない響子。突然の透子の事故死。残された響子と、親戚に疎まれた透子の赤ん坊・桐人の前にテルと名乗る青年が現れ・・・

 「猫背の王子」が主人公・ミチルという一人の人間の中で起こる愛・執着・業・恋・切なさ・狂おしさを描いたのに対し、本作では人と人との関係の中で生れる切なさや愛おしさが描かれています。

 母を失った赤ん坊・桐人が、響子の弾く透子の匂いの染み込んだピアノに耳をかたむける場面、そしてその桐人の様子を見てさらに透子を想う響子。死を間近にした響子のパトロン(最初の理解者であり、師であり愛人でもある)梅ばあが、響子の復活となるコンサートにタキシードの正装で現われる場面。胸をぎゅうっとつかまれるようなシーンが沢山ありました。こういった切なさを描く力は改めて凄いと思います。

 でも、作品全体を読んで何か物足らない気がします。響子の人物像がはっきり見えてこない。あまりに強烈な個性を持った「猫背の王子」の王寺ミチルと比べてしまうからかもしれませんが・・・。響子が一番望むものは何だったのか? 響子にとってピアニストであることは何だったのか? ミチルさんと比べてばかりで申し訳ないけど、演劇人であることは王寺ミチルにとってはなくてはならない属性でした。響子にとってピアノはそれほどのものだったか? 響子がピアニストであることは、「30代で独身で自由業の女性は社会的な信頼が得にくい」という現実につながるばかりに思えます。
 
 桐人を養子に迎えようとする響子は、独身であること、定職についていないことを理由に桐人の親族から難色を示され、結局、桐人の成り行き上の父親(行方不明)の元恋人・テルちゃんと結婚することを決意する。桐人を養子に迎え、理解ある人に祝福され、また愛する透子の視線を常に世界中に感じながら「聖家族」となっていくのですが、そういうものなのか? このコミュニティは家族なのか? 桐人を疎んだ親族、この情けない性根をもった人々と共に築く「家族」はなかったのか? 消化しきれない思いが最後まで残ります。

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2007-03-07

岩だらけの懐かしい星 : いとうせいこう

 何かに導かれるように、明治時代ペルー移民として海を渡った一人の女性の姿を追うことになったいとうせいこう氏。

 彼女の子孫達、家族、親族、愛した人々・・・彼女に繋がる人々の記憶や想い出を聞き歩き、書き留め、彼女も立ったペルーの地を旅したいとう氏が描き出す物語は日本とペルーの過去と現在に渡りどんどんと広がってゆく。
 
 物語を書き進めながら、いとう氏は明治~平成という時間、日本とペルー(彼女が移民として渡った当時は船旅で1ヶ月を要したという)という距離を越えてそこここに現れる彼女の姿を幻視する。

 いとう氏の幻視したイメージと、彼女を追う旅の記録とで綴られる長い物語。結局多くの謎を含んだまま、彼女は真実の姿をいとう氏の前に現すことなく・・・しかし確かな存在として彼の中に根を下ろす。

 謎が謎を呼ぶスリリングな展開とともに、暴走気味に広がるいとう氏のイメージの世界も刺激的な作品。

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2007-03-03

職人ワザ! : いとうせいこう

 町の職人たちの下をいとうせいこうが訪ねた聞き書き。「下町の職人」対「いとうせいこう」・・・さぞかしクセのある仕上がりになっているんだろうと予想していたが、予想に反して“何て清々しい!”というのが読んだ後の感想だった。

 自分の満足いく仕事をすることで人に認められてきた職人たち。やたらとこだわりを前面に出すわけでなく、世間に苦言を呈するでもなく、声高に成功哲学を語るでもなく・・・自分のするべき事をする、その肩肘はらない当たり前さ。それでも言葉の端々からこぼれてくる知識の深さ。

 いとう氏がどのように職人たちに相対するのかというのも興味の一つだったが、負けず嫌いの男の子が毎日暗くなるまで人知れず走りこみをして運動会のかけっこに臨むような、こちらも何とも気持ちの良い聞き手ぶり。

 気持ちよく、清々しく、爽やかで、力あふれる一冊。

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