2007-02-28

家守綺譚 : 梨木香歩

 亡くなった友人の屋敷の家守をしながら暮らす、どこかぼうっとした文筆家の綿貫。生い茂る草木と山裾の疎水からの水が流れ込む池のある庭、座敷を囲む縁側、ひんやりとした土間、小川の魚を狙う鷺が描かれた床の間の掛け軸・・・。お話の舞台としては、ゴシックなお城よりも、贅を尽くした洋館よりも、こんな純和風なお屋敷に私は弱いのです。

 四季折々に屋敷を彩る花、屋敷には時折河童や小鬼、花の化身・・・その他いろいろ正体のわからないものたちが訪れる。亡くなったはずの親友も掛け軸の絵の中から気まぐれに現れる。

 綿貫は家守をしながら、“そんなこともあるものなのだな・・・”と屋敷を訪れる不思議たちの中に身を置く。

 それぞれに植物の名前のついた掌編からなる美しいお話です。手元に置いておくとそれだけで“ほうっ”とする一冊ですね。

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2007-02-24

そこでゆっくりと死んでいきたい気持ちをそそる場所 : 松浦寿輝

 家族や恋人、友人、身のまわりの誰かと言葉を交わし、ふれあう生活や時間の中には似つかわしくない作品群。まわりに人がいてもいなくても、世界が自分だけの感覚-触覚、嗅覚、視覚、味覚、記憶、時間感覚-で満たされているような時に読みたいと思うし、そんな時にふっと頭の中に思い出されるような本だ。

 さっきまで歓声が溢れていた遊園地の観覧車が、メリーゴーラウンドが突然動きを止めてしまう幻の記憶なのか現実だったのかも覚束ない記憶。何事も無かったようにまた動き出す遊園地の中で味わう疎外感。

 “うつぶせに倒れる”ヴィジョンにとりつかれたような男。何かへの捧げものでもあるかのように仰向けに体を丸めた虻の死骸。

 手触りや、匂いの感覚だけがなまなましく、そのおさまるべき場所や時間が見つからない記憶。

 自分の内にあるのか外にあるのか境界がわからないほどでありながら、よそよそしくもあるまわりの世界。

 この作品にはまってしまえば、その言葉によって生み出される皮膚感覚のようなものに溺れてしまいそうだが、そこまで踏み込めないでいると、なんだかつかみどころのない曖昧な感覚が悪意のようにも感じられてくる。

 作品自体を読むのは少々神経が疲れる類のもので、この作品の中で一番好きなのは目次のページだった。モーリッツの銅版画の一部分を挿絵として配した上に綺麗に並んだ4つの章のタイトルと個々の作品名。見開きになったこのページ、荒涼としたなかにもずっと眺めていたいような落ち着きのよさがある。

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2007-02-21

ハプニングみたい : いとうせいこう

 マンガ家は1枚のイラストとそのイラストの製作途中のコピー数枚を作家に渡す。そのイラストの意味を説明することなしに。

 作家の手にあるのは、作成途中の状態や、一部分だけを抜き出してコピーした、謂わば解体されたイラスト数枚と、完成したイラスト1枚。作家はそれらに言葉を贈る。イラストの意図を聞くことなしに。

 絵を生業とする人と言葉を生業にする人の共同作業によって、互いの意図を超えたところでの絵と言葉の融合を図った作品・・・というところか・・・。岡崎氏が狙ったという“テレビの音を消して、CDを聴いているような”不一致の効果は出ていると思う。ただ、それが面白いとか心地良いとか・・・そういう風には私には感じられなかったなぁ。帯には「言葉と絵のメイク・ラブ」とあるけど、ホントにこれは漫画家、作家ともに気持ちの良いメイク・ラブだったんでしょうか?

 残念ながら“実験的作品”以上には思えなかった。いとうせいこう好きとしては無念。

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2007-02-10

ハルモニア : 篠田節子

 脳の一部に負った損傷を補うように、音に対する超感覚ともいえる能力を発達させた由希。外部からの刺激を受け入れず、感情を表す術を持たないかに見える由希は、一度聴いた音を完璧に再現するという超人的な才能を持っていた。

 由希の可能性を引き出したいと考える臨床心理士・深谷の依頼で彼女を音楽家として育てることになったチェリスト・東野。音楽を通じて由希と接するうち、東野の中に由希と感覚を共有するかのような瞬間が生まれる。

 師である東野をはるかに凌駕する才能でチェロの技術を身につけていく由希だが、いつしか彼女のチェロはCDで耳にした音、夭逝した世界的チェリスト・ルー・メイ・ネルソンの完全なコピーを奏でるようになる。ルー・メイは由希の中に動かしがたいものとして存在していた。

 音楽の才能の伸びとともに、由希の中の負の力が現れ始め、その力は周囲の人々とともに由希自身を傷つけていく。

 さらなる音楽の高みを目指し、東野が由希に自分の中のルー・メイを追い出すことを求めた時・・・由希の負の力は周囲を巻き巻き込み、さらには激しく彼女自身の心へと向かい・・・


 作品中重要なキャラクターである由希は、彼女の周囲の人々(殊に東野の)キャラクターを投影させる役割のようで、意外と彼女自身の心理や人格といったものについては断定的なことが書かれていない・・・というか、彼女についてはすべて東野目線で描かれている。その分、彼女について色々と想像をめぐらせることが出来て良かったのだが、いくつか解せないことも出てくる。

 由希がなぜあそこまでルー・メイと一体化してしまったのか?・・・一応その原因と考えられることは深谷や東野の口から語られるのだが、作中でこれでもかという程にルー・メイのことが語られているのに比べて、由希がルー・メイにとりつかれてしまう動機の語られ方がひどく薄い感じがする。

 ルー・メイについて繰り返し語られたのは、東野のルー・メイへの無意識のこだわりを表すためだったのかなぁ? 由希とルー・メイにはもっとあっと驚く因縁があるものと思っていたんだけど・・・。

 最後に由希が浮かべたという歓喜の表情・・・東野とは共有する部分があったようにも見える由希なんですが、すべては自己完結した東野の思い込みでは?なんて考えることもできるわけで・・・そうだとしたら由希って・・・。

 この小説は以前テレビドラマ化されましたよね。私は見ていないのですが、中谷美紀は由希のイメージによく合ってると思います。

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2007-02-07

おめでとう : 川上弘美

 12編の短編で綴られる、あったかいような、愛しいような、でも困っちゃうような、ずっとつづくような、すぐに終わっちゃうような二人の人たちの関係。

 それぞれ作品での二人の関係は、“公式でない”もの(つまり不倫や浮気)であったり、なんだか規格外なものだったり(片方が幽霊であったり、長いこと生きている間に水掻きや翼が生えてくるような何かであったり)・・・または、はっきりと名前をつけて定義できるような関係ではなかったり。

 そんな関係の中で登場人物たちはしばしば“なんだかなぁ”とか“どうにもこうにも”とか口にする。

 みんな“関係”がいつまでも変わらず続くものではないことを予感している。すでに“関係”が終わっている人もいる。そのことは残念ではあるけれども、不幸ではなくて、やっぱり今はこれでいい・・・というか、こうでしかない。そんな“なんだかなぁ”

 川上弘美さんの書くものには、時々ものすご~く虚をつかれてしまう。『恋人が桜の木のうろに住みついてしまった。』で物語を始めてしまったり・・・。で、これはももんがかなんかの恋人同士の話かと思ったら、この「恋人」はちゃんとストライプのワイシャツを着て会社に行くんだと書かれていたりする。

 「うらめしい」と言いながら主人公の女性の部屋に出てきたはいいが、相手のリアクションがないと見るとその沈黙の時間に耐えかねて消えようとする幽霊が出てくる作品もある。それがコメディとしてではなく、至極真剣に書かれていることに私は虚をつかれて“なんだそれ?”と思うと同時に不覚にもくすっとしてしまった。

 そういう風に虚をつかれた心は、掌の中で物語られる風変わりではあるがそれぞれに真剣で切実な関係の話をすぅ~っと受け入れていくようだ。

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