2007-01-31

僕は鳥になりたい : 西炯子

 全寮制男子校で文芸部長をつとめる針間。彼は“俺は何にも縛られない、何かが足りない十七歳だ”とうそぶき、ただ無難に流されるばかりの仲間と同じように周囲に埋没することを嫌っている。

 彼は二人の特別な人に出会う。一人はミッションスクールに通い、“聖書はすべて暗誦できるがなにがかいてあるかさっぱりわからない”と言ってのける少女。もう一人は空を飛ぶための翼を自分で作っている少年。

 三人はとても幸せな関係を作れるはずだったのに、針間は一人疎外感に苛まれる。自分が一生懸命にポーズとして身につけている“なにものにも縛られない自由さ”が二人の中には自然に存在することを感じて・・・。

 少女は家族を失い遠い地へ去っていく。少年の飛行は失敗し、帰らぬ人となる。針間は社会の中の一人として(世間にしばられて)生きていく道を選ぶ。それは不幸なことではない。

 みんないろんなことに心乱れ、憧れをいだきながら過ごしてきた思春期の大切な時間・・・。過去を振り返りたくなったときに読む作品。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2007-01-27

プラネタリウムのふたご : いしいしんじ

 小さな村のプラネタリウムで拾われ育った銀色の髪をしたふたごテンペルとタットル。大きな化学工場の煙のせいで空に星が見えない村で二人は毎日プラネタリウムの夜空を見て暮らす。

 小さな村にもいろんな想いがあり色んなことが起こる。時には“とてもひどい出来事”も。

 望んだことではなくても“出来事”は起こってしまうことがある。手品師の一座に加わり村を出て行くことになるテンペル。村に残って郵便配達夫をしながらプラネタリウムで星の話をするタットル。

 それぞれに暮らすふたごの身にそれぞれに起きる“出来事”。

 この世ではどうしても“ひどい出来事”に出会ってしまうことがある。それでもなるべくいい世界を見ようと人は生きていく。みんな、身近な誰かに魔法のような気分を味わってもらうため小さな手品を使う。手品の種は美味しい料理を作るための調味料だったり、シャツをきれいに洗いあげるための洗剤だったり。誰でも手品を使うための見えない6本目の指を持っている。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2007-01-24

豊かに実る灰 : いとうせいこう

 1996年から2010年までの15年間という設定の中で、13の年と地域を、さらにその年、その地域で起こることをタロットカードによる占いで導き出す。例えば、この小説の第1章のキーワードとなるのは、1997年の南大西洋海嶺。南大西洋海嶺が持つ意味を暗示するカードは隠者、1997年のカードは死神。

 こうやって占いで選ばれた年、地域をテーマに、カードから得たインスピレーションによって小説を書いてゆく、但し占いが暗示するところからはなるべく遠くへ行くように。占いによって現れた世界を小説によって壊し再構築する作業。

 このような手順で書かれたせいか、二人の男女が互いの過去を語り聞かせるという形で進んでいくこの作品は、一つ一つの章を読んでいて、小説を読んでいるというよりも、絵画か工芸品が作られていく様子を眺めている気分になってくる。一つの細工は次のひと筆、他の装飾が加えられることによってさっきまでの様子とはがらりと変わってしまう。ある時は色が重ねられ、他の部品がつけられ、またあるときは部品と部品をつないでいた鎖が断ち切られて次々と姿を変える。

 ストーリーではなく、この着地することなく次々と姿を変える世界を描こうとした作品なんだろうと思う。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2007-01-20

たまらん人々 : 中島らも

 らもさんの本で初めて読んだのが確かこれ。その頃は「かねてつ」の広告くらいは目にしていたけど、らもさんそのものに興味はなくて、“ちょっと面白いおじさんなんだろう"くらいに思ってたのかなぁ・・・。記憶が曖昧。

 読んでみてそりゃもう笑った笑った。面白かった。電車の中で“ぶっ”とこみ上げる笑いをかみ殺すのに苦労した。笑っちゃいかんと思ってこらえるあまり、“ふぐっ”“うぴっ”“くぎゅ”という奇妙な音を出す私は、電車で一人笑っている以上に怖かったかもしれない。

 あんまり面白かったので、この後らもさんのエッセイを買い漁り、ひとつずつ読んでいく毎にらもさんのものの見方、判断の下し方に惹かれるようになっていった。たまにTVで見かけるらもさんは、想像していたよりもゆっくりとしゃべり、つかみどころがないようで、美少年だったという面影はかなり無くなっていて・・・そして私とは随分と違う人だ、素敵な人だと思った。

 随分久しぶりにこの本を読んでみると、前回読んだ時のように“ぶっ”と噴出すという回数は随分減っていた。2回目だから、というのもあるけど、笑うというよりしみじみしてしまって・・・。らもさん懐深すぎ。

 面白く書いてあるけど、ちょっと風変わりだけど憎めない人・・・みたいに読めないこともないけど、多分この本の中の人達はテイスティなどころじゃなく手におえなくて、訳わかんなくて、理不尽で、無軌道な自由人で、わたしなぞは近くにいるだけで胃に潰瘍ができるかもしれない。そんな人たちをも「テイスティ」と評して、そんな人々の塊の中に身を置いてなお、頭いくつ分かとびだした存在感を放っているらもさんの大きさが・・・妬ましい・・・いや違う・・・素晴らしい・・・いや違う・・・

 なんだかやっぱり遠い人だ・・・



 蛇足・・・


 今回読んでて思わず噴出したのは、「サンバからロックまで全72種のリズム」を刻み、おかずまで入れることのできるリズムマシーン「山本さん」(人じゃないじゃん)の活躍ぶりだった。

 「スー・チャカ・スー・チャカ」と律儀にリズムを刻む「山本さん」。しかしらもさんが「おかず」のボタンに手をのばしスイッチを押すと、突然狂ったように「テケトッテン・ストトコトン!!」とおかずを入れるんだそうだ。意外とお調子者だった「山本さん」。。。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2007-01-17

東亰異聞 : 小野不由美

 御一新後、江戸が遠くなりつつある東亰の街。西洋の文化が流入し、明るい瓦斯等の明かりによって夜の闇は駆逐されていくかに見えた。

 しかし、夜の世界はそんなにたやすく変わりはしない。東亰の夜には人魂売り、首遣い、火炎魔人、闇御前などと噂される物の怪とも、血に飢えた怪人ともつかぬ者どもが現れていた。魔物たちに華族・鷹司家の跡取り達が襲われるに到って、家督をめぐる人々の思惑もからんで・・・。

 東亰の夜に暗躍するのは人か魔か? 加えて“夜の者”の物語を語る黒衣の男と娘人形の正体は・・・

 判じ手は、少し頼りない新聞記者の新太郎と、浅草界隈で香具師の世話役をする万造。謎は深まりつつ大詰へ。


 闇に跋扈する異形たちの描写が冴えていて、ドキドキする読み物なのですが、鷹司家の悲劇の真相が明らかにされ、夜の闇に現れる異形のものたちの正体が暴かれる大詰が、それまでの長い怪異の物語に対してパワー不足といった感じがします。“そういうオチなんだ~”とちょっと力が抜けてしまいました。

 そういうオチに持っていくなら、これまで語られた怪異がもっと“怪しのもの”として説得力を持つような緻密さか、そうでなければ逆に、読者に考える隙、息をつく間も与えないほどのスピードもしくは、全てが崩れ落ちてしまうような圧倒的な崩壊のパワーが欲しい。

 話はとても面白かったのでちょっと残念。


 小説の舞台・東亰は私達が今暮らしている歴史上の東京とは別物。このズレが不思議な効果を作品に加えています。

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2007-01-13

人でなしの恋 : 江戸川乱歩

 地元の名家の御曹司で、しかも絶世の美男子・門野に嫁入りすることになった私は19歳でぽっちゃり型で、まあ普通の小娘。

 女嫌いの変人との噂のある門野だが、嫁いでみると実に細やかな愛情で接してくれる。近くでみるその美貌は小娘の私を夢見心地にさせ、いつも物思うようなその面差しはうっとりものだ。しかし、幸せな日はほどなく破綻を見せ始め・・・美しい夫の愛情がうつろなものだと、女の嗅覚で小娘は気付いてしまう。

 美しい夫は土蔵の二階に秘密を持っている。

 話は門野に嫁いだ娘の回想の言葉のみで構成されるが、女性読者なら、ハナから妖しく耽美な秘め事を持つ美形の夫贔屓に決まってるから、嫉妬と疑念に苛まれて夫の秘密を嗅ぎまわるこの平凡な小娘のことを苦々しく思いながら読むことになる。

 だが、門野の妻であるこの小娘が延々と人の世の平凡さを曝してくれるおかげで、そのあまりの“普通さ加減”に比して最後のほんの一行、無残な姿になった人形の首を抱いて息絶える血まみれの門野の姿・・・“人でなし”の美しさが際立つ。

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2007-01-10

幻覚カプセル-絶望居士のためのコント : いとうせいこう

 登場人物の一人が必ず「絶望居士」と指定されたコント。場によってどの役が「絶望居士」となるかは流動的。

 悪への渇望が萎え、良いことをしたい欲求を押さえられなくなった悪魔。

 せっかく霊能者に呼び出してもらった父親の霊(生前は頑固な物理学者)に、“霊魂なんて実在しない。科学的に説明しろ”とごねられる息子。

 せっかく訪ねて来てくれ、奇跡をおこしてくれた神様を殺してしまった(かもしれない)男。

 コントの内容を言葉で説明するなんてナンセンスだな。なにがどうなって絶望的な状況が生まれているのか、それは是非読んでもらいたい。といってももう、一般書店では多分売ってないけど。

 当人たちにとっては展開が行き詰ってしまった絶望的な状況も、距離をおいてみればナンセンスなコント。絶望を笑う視点・・・といえばこれは「解体屋」と共通する要素を持ったものか?

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2007-01-06

押絵と旅する男 : 江戸川乱歩

 私が読んだことのある乱歩作品の中で(どれだけ読んだか正確に覚えていないのですが)一番好きな作品です。

 魚津に蜃気楼を見に行った帰り、東京へ向かう列車で乗り合わせた老人から私に語られる、夢ともうつつともつかない話。浅草十二階・覗きからくりの中の美少女・空へ上っていく色とりどりの風船。遠眼鏡の、また覗きからくりのレンズに切り取られた色彩溢れる無限の世界と、列車の中の薄闇。

 非常に映像的で幻惑をさそう短編です。

 随分古い話になりますが、2時間サスペンスドラマ枠で同タイトルのドラマが放映されたことがあったと記憶しています。押絵のモチーフこそ使ってありましたが、筋立ては小説とは大分異なったものになっており、なにより押絵がとても大雑把な作りで残念な作品になっていました。

 乱歩生誕100年の年に映画化され「屋根裏の散歩者」とともに公開されていましたが、残念ながら見るチャンスがありませんでした。こちらの映画は評判が良いようなので見てみたいのですが。

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2007-01-03

大江戸美味草(むまそう)紙 : 杉浦日向子

 正月の餅・雑煮に始まり、春の山菜つみ、初鰹、寿司、蕎麦、年の瀬のあったかい鍋。スナック感覚でつまめる屋台やかつぎ売りのてんぷらや寿司、長屋のかまどに煙をたてる銀シャリにサンマ・・・江戸の町を彩った食文化。織り込まれる江戸川柳も抜群に洒落がきいてる。

 じっくり発酵を待つんじゃなくて、いきなり飯に酢をまぜてしまう江戸前の寿司。そういうコンビニエントな感覚が江戸の食べ物にはあるんだなぁ。小遣い銭でちょっとつまめる街角の屋台のスナック。これがどんな高級なご馳走よりも美味しそうに見えるんだ!ちょっと濃い目の味がクセになったりするんですよね。
 
 多彩ではあるけど“豊かな食文化”というのとはちょっと違う気がする江戸の食。何割かの確率で“あたる”河豚でも、ビビッて断ったとあっちゃ男がすたる。決死の覚悟で仲間と囲む鍋。宵越しの金はもたねぇと初鰹に稼ぎを全部はたいてしまうカーニバル野郎。蕎麦はずるずる喰わず、いっきにすすりこんで喉で味わえ! 何事もスマートに見せるためにやせ我慢と無茶を重ねる江戸っ子。そりゃ愛されるよなぁ。

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