2006-12-27

新「親孝行」術 : みうらじゅん

 ある程度成長してくると、親というのは厄介なものになってくる(苦笑)。育ててくれた恩があるので決して頭はあがらないし、一緒に暮らしてきた情もある。それでも、こちらにもそれなりに主張というものが芽生えてくると、「親子ほど歳の離れた」者同士の世代間ギャップはやはり埋めがたいものとして存在して、相容れることがない。なまじ親が自分を思ってくれることで、話がややこしくなったりもする。

 みうら氏の家庭は、毎日ボケとツッコミの声が響く面白一家だったんじゃないか・・・という勝手なイメージを持っていたのだが、世の息子・娘達と同様に氏も親に対しては屈託を抱えておられたようだ。親子の距離感に戸惑い、「何で自分の親なのに優しく接することができないんだろう」と悩んだりもしたんだろう。

 その答えが「親孝行プレイ」として結実したわけだ。心は無くともまず行動。形式はいつか実を伴ってくる。難題を乗り越えるため知恵をしぼり、面白ネタとして提示までしてみせるみうら氏の姿勢って凄い。

 面白く、読みやすくこの本を仕上げるまでには、長い血まみれの棘道があったことと思う・・・。

 この本、終わり頃に特別講師としてみうら氏の仏友・いとうせいこう氏が登場する。もちろんファンとしては嬉しかったのだが、どこか小賢しくて(年長の方にこういうのも失礼ではあるが)、そこがまた面白い。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2006-12-23

LA QUINTA CAMERA ~5番目の部屋~ : オノ・ナツメ

 明日はイブだし、何かクリスマスに合う本を・・・私の手持ちの中では、これがオススメです。

 イタリアのとある町、アパートの部屋をシェアして共同生活をする4人の中年?男たちと、余った5番目の部屋にかわるがわる下宿人としてやってくる国籍も性別も年齢もまちまちな留学生のふれあいを点描する短編連作。クリスマスの街やマーケットの様子も日本のお祭り騒ぎ具合とは一味違う、あったかい雰囲気で描かれています。

 今年の夏、本屋の店頭でこのコミックに出会って、すっかりオノ・ナツメさんの絵のファンになってしまいました。洗練されたシンプルなラインで造形されたキャラクターは、頭の大きなマスコットのようなプロポーションながら、どこか色気があります。

 お話の方も書き込みすぎない感じで、セリフとコマの行間の余韻を楽しませてくれます。しゃれた映画を観ているようなテイスト。

 同じくオノ・ナツメさんの「リストランテ・パラディーゾ」も激しくオススメです。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2006-12-20

空のオルゴール : 中島らも

 好きな作家を聞かれると中島らも氏のお名前を挙げさせていただくことが多い私。実は氏のエッセイに比べ、小説の方は読んでいる数が少ないのですが、これまで数作読んだところでは、エッセイよりもフィクションである小説の方により濃く中島らも氏の生々しい存在が見えるように感じています。エッセイはエンターテインメントであり、小説が自己主張の産物であるような。

 大学院生・トキトモは教授の依頼により近代奇術師の父と呼ばれるロベール・ウーダンについて調べるためパリへを向かう。パリで後輩リカと出会ったトキトモはリカの師である奇術師フランソワを紹介されるが、ほどなくアンチ・マジック・アソシエイション(U.M.A.)を名乗る集団によってフランソワ師が惨殺され、それを皮切りにリカ、トキトモと奇術師仲間たちも執拗に命を狙われる。一人ずつ殺されていく恐怖の中で奇術師たちも必死の反撃に出る。

 全編、怨念と復讐の殺人劇なのですが、それが冗談に思えてくるほど表面はのんきでナンセンスな掛け合いと、ボケと突っ込みで満たされていて、ラストには読者がほっと笑うことができるような一幕が用意されています。でもその底部にはずっと、黒くどろどろと重く、悪意すら漂わせる鈍器のような恐怖が溜まりゆっくりうねっている。

 物語の序盤、フランソワ師の葬儀の場で遺言によりマジックで参列者を驚かせるという演出が加えられる。「あんなことしてるから殺されるんだ」というプレスの人間の一言を耳にしたトキトモがその男の腕を極め、「君には死者に対する敬意というものがないのか。」と迫る場面がある。目頭が熱くなった。合気道に多少の心得がある以外は何だかぼんやりしているような学生・トキトモにもゆずれないものがある。何ていうことはない人間だけど、そういうものだけは持っていたいと思う。でも苦境に立たされたとき、矜持を保つことができるか? 私は・・・残念ながら甚だ疑わしい。

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genre : 本・雑誌

2006-12-16

青春ノイローゼ : みうらじゅん

 「オレは今でもスウィート過ぎる夢と、センチメンタルなメロディを持っている。」

 ページ開いてすぐ、「はじめに-」に書かれたこの一言にズキューンとやられてしまいました。

 「マイブーム」「いやげモノ」「とんまつり」「親孝行プレイ」・・・深夜放送的にバカバカしく面白いテーマを携えてはメディアに登場するみうらじゅん氏。あぶないような可笑しいような、妙に面白い妖しげなおじさんという認識でしたが、そのキャラの中には「理想のオレ」が隠されていたんですね。

 常に主役でないと気がすまないという自分と比べて、脇役であるのにその自然体な存在感で主役を喰ってしまう“岡本信人的”な人にスポットを当てる「信人的」。 自らのマイブームをたどる「マイブームの旅」。青春の足跡探し「俺だけの旅」。

 その旅は十分にセンチメンタルでウェットでスウィートなはずなのに、どうしても可笑しくなってしまうのはやはり「理想の俺」コンプレックスをどうにかごまかそうとするからなのか?

 本書ではそんな「自分探しの旅」を書いたみうら氏、近年は「自分探し」ではなく、「自分なくし」を提唱されているようだ。


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2006-12-13

屈辱ポンチ : 町田康

 町田康の小説を読むと、どうも複雑なというか嫌~な気分に落ち込んでしまう。

 作品がつまらないわけじゃない、むしろ面白い。でも・・・

 巻末の解説の冒頭に「町田康の小説は面白い。」と書いてあるのを見つけると、“う、う~~~ん~~~”と唸ってしまうのだ。

 もちろん解説者が“きゃはは♪”と無邪気に笑える類の面白さのことを言っている訳じゃないのは分かるし、その解説者がおっしゃる「いざというときになると、普通に社会で生きる価値観や感覚なんて何ほどのものでもなくなって、人間には文学が迫上がってくる」ということも何とはなく理解できる。

 でもね・・・やっぱり困るし、迷惑なのだ。

 社会から一度転落したら、そこにはブンガク的な現実が口を開けているとしよう。それでも、にっちもさっちもいかなくなって、そのブンガク的現実に直面させられるまでは、社会人根性まるだしで何事もなく暮らしたいと思う私にとっては、迷惑なのだ。

 考えることは理路整然としているものの、行動は無軌道な男が家中を汚物で一杯にし、人に暴言を吐きまくり、殴る蹴るどつく、殴られる蹴られるどつかれる、そこに猿や謎の肉食昆虫まで登場して、十重二十重にクンズホグレツ、阿鼻叫喚の坩堝というのは・・・迷惑なのだ。

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2006-12-09

アマニタ・パンセリナ : 中島らも

 “好きだ”と思う作家、文筆家は何人かいる。その書き手が好きだからといってその人の書いたもの全てが好きなわけではないが、それらの人の著作の中には必ず、私の首根っこを押さえつけて降参させている一冊というのがある。

 中島らも氏に関して言えば、「アマニタ・パンセリナ」がその決定的な一冊だった。この本を読むと私は泣きたくなる。

 ドラッグを求める人、ドラッグがもたらすもの・・・自身の体験、古今の文献、文芸作品を引きながらドラッグを語るエッセイ。ドラッグに関しては私は知識も興味も無いが、ドラッグを語るらも氏の言葉は読まないわけにはいかない。

 自身の興味、好奇心をカバーする知識。知識に支えられて自己を把握する知力、精神力。その上で、「中毒」という生き方をしたらも氏。

 自分を苦しめもしたが、生き方として切れることのなかったアルコールやドラッグに関することを書物として出すとなると、自分の経験した至福も七転八倒も、読みやすく、面白く、思いやりに満ちた文章にして差し出す読者への気遣い。それだけの文章を書く技術。

 冷徹に世界を、自分を見つめながら、ふとした隙間からぽろぽろこぼれるセンチメンタルなもの。汚くてきれいな、らも氏。「中毒」という生き方を通し、その為に時折自失しながらも、自分は“生に向かって、ナンセンスに向かって、恐怖に向かって「開かれた」書物を書くだろう”と言ったらも氏。

 そういうものに触れて、・・・もう、何だか堪らない。

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2006-12-06

花迷宮 : 久世光彦

 久世光彦氏の幼少時の読書体験に纏わるエッセイ。

 東京は阿佐ヶ谷、時は昭和十四・五年。すぐに熱を出す身体の弱い子供だった“私”は、自然、部屋で本を読んで過ごす時間が長かった。裏庭に面したその部屋の窓からは金木犀が香り、白熱灯の明かりをつけてもむしろ暗く隠れてしまう部屋の闇の中から、私はつねに「あの方」の視線に見つめられていた。

 勲章をつけ、眼鏡をかけた「あの方」の御真影。

 親の目を盗むように大人の本を読む私をいつも見つめている視線。すべてを見られていることに羞恥を感じながらも、「あの方」とつながっていたいという恋情めいた気持ち。甘く倒錯した感情を幼児ながらに氏は自覚していたらしい。

 以前、久世氏の「陛下」という小説を読んだことがある。「陛下」への想いをつのらせ、反乱に身を投じる陸軍中尉の話はこんなところにリンクしていたのか・・・。


 母の目を盗んで、“私”がその部屋で読むのは姉の本棚の少女小説、兄の本棚の冒険小説、父の本棚からは泉鏡花・漱石・岡本綺堂・・・そして乱歩、横溝、「人間椅子」に「真珠郎」。

 まだ5歳の幼児にすぎない“私”がそれらの本の放つセンチメンタリズムに、恐怖に、官能に、淫靡さに身をよじる。

 幼い“私”の記憶なのか妄想なのかも判然としない、まさに匂いたつような暗い花の迷宮。

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2006-12-02

龍宮 : 川上弘美

 「おれはその昔蛸であった」と言い、イカカレーラーメンを食べる男。私の膝丈ほどしかない、少女の顔をした曾祖母。台所に潜み、居間を駆け回る顔が三つの荒神。7代前の御先祖に一目ぼれし恋仲になりたいと思う老女。昼は会社でパソコンに向かい、夜は“生きる精を無くした”人間たちを拾い集めて帰るモグラ。

 本の扉がそのまま世にも奇妙な物語への扉になっている。見えないものが見え、聞えないものが聞え、この世では常識的でないことが普通に起きる。淡々と語られるありえない物語・・・こういうのを異界と云うのだろうか。

 この奇妙な世界を近くに感じる人もいるだろうし、自分の中に抱えているという人もいるのだろうが、私にはとても遠く感じられる。多分、今の私の生活には関わってこないもの。だから、この本を読んで感じるのは、ちょっと扉を開けて旅行してきた感じ。見知らぬ場所だから見るもの、聞くもの珍しくて、軽くカルチャーショックを受ける。でも、あくまで観光気分だから、ちょっと歓声をあげながら通り過ぎる。ここは自分の場所じゃないと分かって楽しんでいる。本当は観光よろしく見・聞き流しちゃいけないこともあるような気がするが、深くは考えない。この妙な世界に長居はしちゃいけないから。

 本を閉じると異界への扉も閉まる。龍宮城から戻ってきた浦島のように、自分の住む世界に帰ってくる。
 
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