2013-07-06

女は何を欲望するか? : 内田樹

『女は何を欲望するか?』 内田樹

 内田樹氏が語る、フェミニストたちが行ってきた様々な思想的な試みと、彼らが犯した失敗について。

 第1部は「フェミニズム言語論」。女はどのような言葉でテクストを読み、どのような言葉で自らを語り得るか。第2部「フェミニズム映画論」では映画『エイリアン』シリーズを論じ、画面に映し出される、フェミニズム的な欲望を実現した女性の姿と、その反動のように現れる皮肉な状況を示す。


 以下、かなり私事です。


 私が「本を読んで、その感想をブログに書く」なんてことをしている理由の一つは、中学生の頃から今に至るまで解決できていない、「自分で自分がわからない」という問題を、「人の書いたものに、自分の『読む』ということをぶつけてみる。ぶつかって返ってくるものを観察する。観察したものをなるべく正確に言葉にしてみる。」という方法でどうにかできないだろうかと思うからであり、今でも数年おきに私を悩ます問題は、以前のエントリーでも書いているのだけど・・・

 「ず~っと女子校にこもってたおかげで、男性に『見られる』ということを意識することもなく、また男性の力をたいしてあてにすることもなく大人になり、就職する頃には、社会的にも女性が生きにくいっていう状況ではなく、一通りの社会生活は自分の力でどうにかできると思っていた。でも、欲望や願望は『~されたい』『~して欲しい』『“獲得したい”と思われる対象でありたい』という形で発動してしまうことが多くて面倒臭い。」

 というようなことだったりする。

 本書を読んで、そういうことがすでに多くの人たちによって問題にされ、論じられ、試行されつくしてきたことなんだなぁ~と気づく。『あるテクストから「何を読みだすか」によって自分が何ものであるかを知る』というような先人の言葉や、『知的には男で、性的には女』という問題を、知ってか知らずか、きっちり私もなぞっているのだなぁ・・・と。

 フェミニズムの歴史、思想には全く詳しくないのだが、本書で語られる、「フェミニストたちが問題にしたこと」「彼らがとろうとした方法」のいくつかは、私自身にもヒットすることであったので、ずいぶん「私の事情」に引き寄せた読み方をしてしまったかもしれない。

 「あとがき」までを読み終えて、このタイトルは「女(人)が本当に求めているものは何なのか、改めて冷静に、真摯に考えましょう。」という呼びかけであるように思えた。

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2012-10-13

街場のマンガ論 : 内田樹

『街場のマンガ論』 内田樹

 「マンガ論」というよりも、長年のマンガ・リーダーである内田樹氏がさまざまな媒体で発表されたものの中から、マンガへの言及があるもの(直接の言及がなくても、マンガの存在が想定されているようなもの)を集めた一冊。・・・そういえば、内田樹氏の肩書が何であるのかよく知らない。大学で教えて、もの書いてる人。それから武道をやってる人。そういう認識でいいのかしらん? 

 井上雅彦が『SLAM DUNK』や『バガボンド』で描くテーマについて。武道家の目と身体と感性で読む『バガボンド』に見る井上雅彦の絵の到達点について。漢字(表意文字)とかな(表音文字)が混在する日本語をすらすらと読む日本人が、絵と文字という情報を同時に処理しながらマンガをさくさく読む能力にも長けていること。少女マンガが持つ複数のレベルの言語について、またそれを読み取るリテラシーについて。24年組のマンガ家たちが描いた「少年愛マンガ」の前史。『エースをねらえ!』に学んださまざまなこと。手塚治虫の作劇法。海賊版の存在・・・等々。

 マンガの好みというか、マンガ体験については、私、内田氏と重なるところがほとんどないかも。『鉄腕アトム』にわくわくしたことがないのはもちろんのこととして、内田氏が愛する少女マンガを、私は読むことができないし(ストーリー云々以前に絵に馴染めないことが多い)、私がハマった『BL』に関しては内田氏は全くの門外漢であるとおっしゃる。

 とは言え、マンガ好きな内田氏のマンガの「読み」には驚きもし、共感もし、嫉妬もし、楽しみながら読み終える。ただ、読んでいて違和感を感じたことが二つ。

 一つは、なぜ少女が『BL』を好むのかについて。氏は「男性同士の同性愛」が「非功利的」であることを主に「エロス」とからめて語っておられるが、『BL』好きは「性愛は社会的・人間的価値と結びついたものでなければいけない」という抑圧を離れた純粋な「エロス」にうっとりしているわけじゃなく、社会的価値云々に関わりなく求められる「関係」(“ただ一緒にいたい”とか)にうっとりしてるんじゃないかなぁ(あ、でもこういう関係も“純粋な「エロス」”と呼ぶんだろうか)。いつかは社会的価値に関与しなければいけない時が来て、(ある種の)BL的世界は終わるということを知っているから、その時が来るまでは『BL』にどっぷり浸るという。

 もう一つは、「物書き」がいかなるものかについて。物書きがものを書くのは「一人でも多くの読者に読んでもらうため」というのはいいとして、「一人でも多くの人に読んでもらうためなら金銭的リターンは無くても良い」という立場にいるご自身と(その立場をどんな苦労の末獲得したにせよ)、「商品」としてものを書く人たちを、「物書き」であるという共通項で「私たち」とくくってしまうのは乱暴なのではないだろうか。




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2011-07-30

邪悪なものの鎮め方 : 内田樹

『邪悪なものの鎮め方』 内田樹

 読んだのはもう数ヶ月前のことである。この本に思わず手をのばしちゃった時の私は、日々「暴力的な正しさ」とでもいうようなものにさらされいる気分だった。

 「“女の幸せは結婚!”と頑なに信じている親戚から持ち込まれる見合い話」とか、「平和の為の爆撃」だとか、そのレベルは色々だけど、「暴力的な正義」が自分に向けられ、その「正しさ」に自分が否定される毎に、心の中にもくもくと邪悪な思いが湧き出てくるのを感じて、“こりゃ、ヤバいな”と思っていた。

 そんな時に目にとまったタイトルがあまりにスバリだったし、以前どこかで読んだ内田樹氏の文章が“いい感じ”だったという記憶があったので、すがりつくように手に取った。


 ・「それ」とかかわるときに、私たちの常識的な理非の判断や、生活者としての倫理が無効になる。
 ・だからといって何もしないで手をつかねていれば必ず「災厄」が起こる。

 「邪悪なもの」とはそういうものであるとし、そういうものから生き残るために著者が見つけた答えは「ディセンシー(礼儀正しさ)」と、「身体感度の高さ」と、「オープンマインド」であると「まえがき」には書かれている。

 本文には、私たちが「邪悪なもの」に遭遇したときに役に立ちそうなお話がパラパラと収められている。日常のお話し、社会的なお話し、科学的なお話し、宗教的なお話し、霊的なお話し。現在から過去~「邪悪なもの」が出現した(する)現場での出来事や、それに対する先人たちの智慧、人間に備えられた能力について。

 大人と子供の問題、ダウンサイジングという考え方、霊的なものとのつきあい方・・・著者の「常識的」な発言にとても癒される。

「そんなの常識だろ」というのは私たちがものごとを判断する上で、たいへんたいせつな知性の働きである。


 常識は「真理」を名乗ることができない。常識は「原理」になることができない。常識は「汎通的妥当性」を要求することができない。これら無数の「できない」が常識の信頼性を担保している。人は決して常識の名において戦争を始めたり、テロを命じたり、法悦境に入ったり、詩的熱狂を享受したりすることができない。
 自分の確信に確信が持てないからである。




 職場では少し前から、「『そんなの常識』と言っては(思っては)いけない。『常識』は当てにならないし、そういう言動は、常識の無い人を傷つけるから。」なんてことが言われていて、“何か嫌な世の中になってきたなぁ・・・”と思っていたところだけに、著者のように常識の価値をきちんと主張し、崩れかけた常識を補修しようとする人の存在は心強い。


 常識で丸く収まる事態には常識で当たる穏健さと、場合によっては常識を超えた振る舞いのできる融通無碍な強さ・・・そういうものを身につけて生きていたい。

・・・でも、

「邪悪なもの」をめぐる物語は古来無数に存在します。そのどれもが「どうしていいかわからないときに、正しい選択をした」主人公が生き延びた話です。


 「邪悪」から生き延びる智慧はどこかにある、と心を強くする一方で、生き残るのは「主人公」とごく一部の仲間だけで、雑魚キャラはどんな選択をしたとしても早々に死んじゃうんじゃないかなぁ・・・とどこかで思ってるっていうのは・・・悲観的すぎるんだろうか? それとも怠慢?




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