2017-04-08

ちくま日本文学7 江戸川乱歩

『ちくま日本文学7 江戸川乱歩』

 「火星の運河」という奇妙な小説があることを見聞きしたことがあったのだが未読であったので読んでみた。(が、もしかしたら以前読んだことがあったのかもしれない。)思わせぶりな書き出しと、ラストの視界を覆い尽くしていく女の顔というのは、目眩のするような歪んだ乱歩世界の香り充分なのだが、作品自体としてはちょっと拍子抜けだったか・・・。てっきり乱歩の妄想世界がついに宇宙にまで達したのかと思っていたので・・・。

 目当ての「火星の運河」はほんの数ページの短編だったので、「白昼夢」「百面相役者」「屋根裏の散歩者」「鏡地獄」「押絵と旅する男」・・・これまで何度も読んだことのある他作品も改めて読む。そしてどれも別世界の魅惑に満ちていることに少し若い頃を思い出す。

 生暖かい春の日の白昼夢の中に、友人にかつがれて信じた嘘の中に、常とは違う場所から眺める日常の中に、球体の鏡の内側に、遠眼鏡で覗き込んだのぞきからくりの中に・・・退屈で色のない自分のいるべき世界とも思えない現実の他に、極彩色の彩りをもって息づくもう一つの世界があるのだとしたら・・・。日々の生活にすっかり馴染んでしまった今の私でさえ、すこし心にさざ波がたつのを感じるのだから、「うつし世は夢」と思い暮らす人たちはどんなに胸をかきむしられる思いのすることだろう。

FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2012-05-19

陰獣 : 江戸川乱歩

『陰獣』 江戸川乱歩

 再読。初めて読んだのは中学生の頃か・・・? 記憶の中には、小山田邸のコンクリート塀に植えつけられた泥棒よけのガラス片と、静子夫人の背中に這う蚯蚓腫れしかなかったので、犯人と目される怪奇と幻想の探偵小説家・大江春泥をめぐる「私」=理知を愛する探偵作家・寒川の推理は、まったく初見のように読むことができた。


 上野の帝国博物館で出会った心惹かれる美しい女~実業家・小山田六郎の妻・静子と親しく手紙を交わすうち、恐ろしい秘密をうちあけられる「私」。静子のもとに届けられた、かつての恋人・平田一郎=行方知れずの探偵小説家・大江春泥からの脅迫状。静子の生活のすべてを監視する春泥の目。春泥のおそろしい情念を知る「私」は、静子に春泥探索を約束するが、春泥の行方は杳として知れぬまま、小山田六郎氏の死体が大川に浮かぶ。
 
 天井裏からの覗き見、変装、身代り、一人二役。春泥の行方を追い、事件の真相を探る「私」の推理の途上で露わにされる「陰」~温厚な紳士然とした小山田氏のサディスティックな性癖、青白い肌に秘めた静子の情欲。乱歩の匂いがムシムシと充満する。

 事件の意外な真相を明らかにするかと思われた「私」の理知による推理は破綻する。事件を覆う、姿なき大江春泥の影。そして、最後にそのおぞましさを露わにしたのは「私」の「陰」ではなかったか。

 この一連の陰惨な事件が、あの可哀そうな静子の、自分への恋ゆえに引き起こされたのではないかという疑いに慄き、苦悩すると同時に、どこか暗い愉悦を覚えているかのような「私」の告白。静子の魅力に溺れ、あのような結末の後でさえ、静子を妻とし、小山田氏の遺産を我がものとして暮らしたかもしれない自分の姿を夢想し、さらには事の一部始終を読者の目にさらそうとしている・・・それは、冒頭でことさらに理知的で、道徳的に敏感であることを主張した「私」の「陰」の姿ではないか。




FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2010-04-21

人間豹 : 江戸川乱歩

「ハハハ……、やっと分かったか。お察しの通りだよ。
    君をこんな目に合わせる人間は僕の外にはありゃしないよ。


 んんん~~~・・・ 是非とも本仁戻さんの絵柄で吐いてもらいたい台詞だ。

 押えきれない興奮と悦びをもって相手を追い詰め、自分の足下に屈服させる ~ そんなことをする自分が相手にとっての唯一無二の存在であるという自負と陶酔。危険で挑発的な言葉の中にひとすじ流れる甘美な震え。

 穂村弘氏のエッセイ「来たれ好敵手」『整形前夜』収録)で引用されていたこの台詞に見事胸を撃ち抜かれ、たまらず手に取った『人間豹』。ああ、いったい・・・稀代の名探偵・明智小五郎と、彼をかつてない窮地に追い詰める殺人鬼・恩田の間で、どんなに妖しく危険な感情が人知れず交わされ、ゆらめいていることだろうか・・・。不埒な妄想を膨らませながら、二人のプライドと命を賭けた火花散る駆け引きを読み進めたけど、変装・人形・秘密の探偵道具を駆使した戦いはうっすらとバカバカしさが漂い・・・ムフムフするようなアヤシイゆらめきはなかったぁ。残念だ。

 美女を攫っては無残に殺し、町を恐怖に落としいれ、明智を絶体絶命のピンチに追い込む犯罪者・恩田父子。しかし、そのあまりに着地点の見えない行動に、明智探偵の相棒・中村警部には『よっぽど、豹の好きなおやじだと見える。』っていう、あんまりな一言を吐かれちゃうんだ! そもそも、人間豹・恩田って、ただの毛深くて、歯並びの悪いだけの男なのか、何か暗い出生の秘密でもあるのか? そのへん放ったらかしですから、ただのぬいぐるみマニアなアブナイ親子にしか見えない。

 で、しかも、ず~っと豹押しできておいて最後は虎なのかよ!(その真相のズッコケぶりが凄い)っていう・・・。まあ、それも乱歩風味。

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2008-11-08

孤島の鬼 : 江戸川乱歩

 不可能殺人、美しい善玉と醜怪な悪玉、暗号、鬼の棲む島、地下洞窟での宝探し、悲しい恋情と煮えたぎる悪意。

 乱歩お得意の猟奇と人外の美が、旺盛なサービス精神でたっぷり盛り込まれた長編。次から次へと色々なお楽しみ要素が投入されるのだけど、乱歩作品に時々感じられる描写の過剰さはなくて、純粋にストーリーを追って先へ先へと読み進んでいける。

 そして、読後感を決定づけるのは・・・やはり諸戸道雄の哀れな恋。


 蓑浦青年が、恋人の不可解な死に始まった奇怪な事件 ~ 一夜にして彼の髪を真っ白にしてしまったという恐怖の体験を語るという体裁だけど、暗い陶酔を秘めた怖ろしくも哀しいこの物語の主人公は諸戸道雄でしょ?! 蓑浦君は単なる語り手! 呪われた生い立ち、親子の情、叶わぬ恋に苦しみながら、すべてを背負って精神力の限り闘ったのは諸戸道雄じゃないか! 蓑浦君なんて、彼に守られながらあっちにふらふら、こっちにふらふらしていただけ。

 それなのに、蓑浦はあまりに悪魔的な手管で諸戸を利用し、そして最後には手酷く拒絶するのだ。蓑浦、お前なんか地獄へ落ちろ!!!

 ああ、どうして諸戸道雄の恋した相手が、快楽の誘惑に弱い甘ちゃんで、顔はきれいでも頭の方は・・・ってな蓑浦でなくちゃいけなかったんだろう? 聡明な男であるはずなのに、蓑浦がぶらさげるエサにあらがうことのできない諸戸。過酷な生い立ちからか、とことん甘い蓑浦に魅かれずにはいられなかった諸戸道雄の姿が哀れで切な過ぎる。

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2007-01-13

人でなしの恋 : 江戸川乱歩

 地元の名家の御曹司で、しかも絶世の美男子・門野に嫁入りすることになった私は19歳でぽっちゃり型で、まあ普通の小娘。

 女嫌いの変人との噂のある門野だが、嫁いでみると実に細やかな愛情で接してくれる。近くでみるその美貌は小娘の私を夢見心地にさせ、いつも物思うようなその面差しはうっとりものだ。しかし、幸せな日はほどなく破綻を見せ始め・・・美しい夫の愛情がうつろなものだと、女の嗅覚で小娘は気付いてしまう。

 美しい夫は土蔵の二階に秘密を持っている。

 話は門野に嫁いだ娘の回想の言葉のみで構成されるが、女性読者なら、ハナから妖しく耽美な秘め事を持つ美形の夫贔屓に決まってるから、嫉妬と疑念に苛まれて夫の秘密を嗅ぎまわるこの平凡な小娘のことを苦々しく思いながら読むことになる。

 だが、門野の妻であるこの小娘が延々と人の世の平凡さを曝してくれるおかげで、そのあまりの“普通さ加減”に比して最後のほんの一行、無残な姿になった人形の首を抱いて息絶える血まみれの門野の姿・・・“人でなし”の美しさが際立つ。

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2007-01-06

押絵と旅する男 : 江戸川乱歩

 私が読んだことのある乱歩作品の中で(どれだけ読んだか正確に覚えていないのですが)一番好きな作品です。

 魚津に蜃気楼を見に行った帰り、東京へ向かう列車で乗り合わせた老人から私に語られる、夢ともうつつともつかない話。浅草十二階・覗きからくりの中の美少女・空へ上っていく色とりどりの風船。遠眼鏡の、また覗きからくりのレンズに切り取られた色彩溢れる無限の世界と、列車の中の薄闇。

 非常に映像的で幻惑をさそう短編です。

 随分古い話になりますが、2時間サスペンスドラマ枠で同タイトルのドラマが放映されたことがあったと記憶しています。押絵のモチーフこそ使ってありましたが、筋立ては小説とは大分異なったものになっており、なにより押絵がとても大雑把な作りで残念な作品になっていました。

 乱歩生誕100年の年に映画化され「屋根裏の散歩者」とともに公開されていましたが、残念ながら見るチャンスがありませんでした。こちらの映画は評判が良いようなので見てみたいのですが。

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

プロフィール

やぶからねこ

Author:やぶからねこ

FC2ブログランキング

FC2ブログランキング

ブログランキング
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村 漫画ブログへ
カテゴリー
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
検索フォーム
カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
魂に喰い込んでます
月別アーカイブ
Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ