2014-03-01

キアズマ : 近藤史恵

『キアズマ』 近藤史恵

 『サクリファイス』『エデン』『サヴァイヴ』と連なるシリーズを通じて築かれてきた世界の安定感を信じて一気にストーリーに入り込める。読み終えてみると、サスペンス色の強かった『サクリファイス』『エデン』とは違い、割と直球の青春小説だった。

 舞台は部員5人だけのある大学の自転車部。入学早々に関わったあるトラブルの為に自転車部に入部することになった岸田。ガラは悪いが、人懐こく、競技に関してはストイックな実力者である2年生櫻井。部長の村上、3年の堀田、2年の隈田。

 いかに身体能力が高いとはいえ、競技用の自転車に初めて乗った初心者が、曲がりなりにも何年かの経験を持つ先輩をあっさり抜き去ってしまうというのは・・・あんまりなんじゃないかなぁ、と思う。でも、そんなことよりも重要なのは、心の一部を自ら閉ざしていた岸田の前に、新しい世界が一気に開けてゆく感覚なのだろう。ガラリと景色を変えていく世界のスピードが、走り抜ける自転車のスピードに重なる。

 嵐のような激しい何かに巻かれながら、コントロールのきかない高揚感の中で様々な出来事に出会う青春の時間。嵐の時間が過ぎ去った後、何かを知り、何かを失い、それまでとは少し違う自分になる。自転車部に入ってからの1年を「今となっては熱病のようにしか思えない」と振り返る岸田が切ない。

 語り手は岸田だが、物語をひっぱるのは、何かを隠し、何かに耐えているような櫻井のどこか痛々しい姿である。彼には『青春』だけでは昇華されない、まだまだ深いドラマがありそうなのだが・・・。自転車部を去った堀田や、一見人のよさそうな隈田や村上にも秘められた感情はあるだろう。それらがいつ大小の嵐になって表れてくるのかとヒヤヒヤドキドキしていたのだが、今作では表面化することはなかった。いつか描いてくれるだろうか?







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2011-11-19

サヴァイヴ : 近藤史恵

『サヴァイヴ』 近藤史恵

 「生き残る」という言葉が感動的に刻まれる。

 サイクルロードレースの世界を舞台にしたサスペンス『サクリファイス』の外伝となる短篇をまとめた作品集。

 本編での主人公・白石誓の渡欧後を描いた「老ビプネンの腹の中」「トウラーダ」、石尾の後、オッジのエースとして走る伊庭の「スピードの果て」、そしてチームメイト赤城直輝の目を通して、オッジのエースとして存在感を増していく石尾豪の姿を描いた「プロトンの中の孤独」「レミング」「ゴールよりももっと遠く」

 「プロトンの中の孤独」、「レミング」、「ゴールよりももっと遠く」は、『Story Seller 1,2,3』ですでに読んでいたが、『サクリファイス』『エデン』の周囲にちりばめられたストーリーを続けて読むことで見えてくるものもある。


 「ツール・ド・フランスに行くんじゃないのか」(「ゴールよりももっと遠く」)


 「ゴールよりももっと遠く」単体で読んだ時には、うまく飲み込めなかったこの石尾の言葉が、改めて「プロトンの中の孤独」と並べて読むことで何かフッと腑に落ちた。

 「なあ、石尾。俺をツール・ド・フランスに連れてけ」(「プロトンの中の孤独」)


 赤城や石尾が見ているのは「ツール・ド・フランスに行く」というゴールではなく・・・

 「まだ、可能性はゼロじゃない」(「ゴールよりももっと遠く」)


 限りなくゼロに近い、でもゼロではない可能性の中でもがきつづける自分の姿か・・・。


 狂気さえはらむ猛スピードの集団。常に強いられる緊張。恐怖。美しく過酷な道のり~その中を走る。・・・その中で、足掻き、「生き残る」。


「プロトンの中の孤独」感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-422.html
「レミング」感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-477.html
「ゴールよりももっと遠く」感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-538.html


  

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2011-11-12

ゴールよりももっと遠く : 近藤史恵

「ゴールよりももっと遠く」 近藤史恵(『Story Seller 3』収録)

 サイクルロードレースの世界を舞台にした『サクリファイス』の外伝シリーズ。チーム・オッジのエースの座を不動のものにした石尾と、石尾のアシストを務めながら、ピークを越え現役選手としての限界を感じ始めている赤城。赤城の視点で語られる石尾。


 今あらためて思うと、『サクリファイス』を読んだときには、不気味なまでに圧倒的な“エース”としての存在感ゆえに、石尾の人としての内面にはあまり興味を持たなかったかもしれない。「プロトンの中の孤独」「レミング」と読んでいく中で、ロードレースという“団体競技”への違和感を口にしながらも、実は周囲の誰よりも競技そのものと一体化してしまう・・・そういう魔性が石尾にはあるのだと思った。その魔性に惹かれた。いかに彼が一人で、孤独に走ろうとも、彼の走りは他の競技者たちを巻き込んでいく。そういうことに彼が自覚的なのかそうでないのかはわからないけれど、多くの犠牲を求める残酷な競技の中で生きることを欲し、愛し、誇りにしているのだと・・・そう思ったのだけど・・・。

 競技の厳しさを知り尽くしているはずの石尾が、引退を考え始めている赤城に言う~「ツール・ド・フランスに行くんじゃないのか」「まだ、可能性はゼロじゃない」。信じていないこと、場を繕うだけのことを石尾が口にするとは思えない。ならば、その真意は? 石尾が“ゴールの先”に見つめるものな何なのか。ライバル達がみな力尽きてしまったレースで、なおアタックをかける石尾は何と闘っているのか。彼が求めたのは“勝つこと”ではないのか? また、石尾のことがわからなくなった。

 たぶん、彼はこうやってずっと走り続けるのだろう。アシストの力など必要とせずに。



 もう一度、『サクリファイス』を読み返したいと思った。



・・・しかし、赤城さん・・・石尾にハマりすぎ。


 

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2011-01-15

レミング : 近藤史恵

「レミング」 近藤史恵(『Story Seller 2』収録)

『他人に無関心な王というのは存在しえるのだろうか』

 未だ王としては若い。暴君ではなく、又、人徳の王でもなく。

 チーム・オッジの単独エースとなった石尾豪。他の思惑を意に介さず超然としている石尾と、石尾を計りかね微妙な空気を醸すチームメンバーの間をとりもつべく動くうち、“石尾係”という役割に収まりつつある赤城の目を通して語られるチームの新しい王・石尾。

 新人時代には『ヒルクライム以外は興味ないんです。集団とうまくやっていく自信もないし、アシストするのも向いていない』(「プロトンの中の孤独」)と口にしていた石尾・・・だが、サイクルロードレースという競技を本能的に理解し、その競技自体と身体のどこかで繋がっているような。

 エースもアシストも同じ一つの役割と捉え、そこに感情を介在させることなく、場合によっては惜しげもなくエースの座を他の選手に譲り・・・しかし、自分が関わる場面では密かに、意のままに集団をコントロールする。

 『ちょっとアタックしてくる』・・・何かが一つ狂えば集団で海に身を投げてしまうレミングの群れのようなプロトンを率いて走っていく。石尾自身自覚しているのか、いないのか・・・暴君でもなく、人徳の王でもなく、それは「魔性の王」の片鱗を見るようで・・・。

 『サクリファイス』ではチーム・オッジの絶対的な王として、『エデン』ではかつてのチームメイト白石誓にかけられた重い呪縛として、周囲を圧する存在感を放ち続けた男・石尾豪。

 その圧倒的な存在感の濃さについ忘れていたけれども・・・そうだった、石尾豪は華奢といってもいいほど小柄な選手なのだった。その小柄な身体から立ち上り始めた魔性の気配。


 結局、何だかんだと石尾の為に立ち働いてしまう赤城に向かって、前髪をかき乱して笑いながら「そんなことするから、石尾係だって言われる」なんて台詞を口にできるところなんて、競技者としてだけではなく、人としてもやはり天然の魔性。

  

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2010-10-30

エデン : 近藤史恵

『エデン』 近藤史恵

 日本での、あの出来事の後・・・ ヨーロッパのチームに所属し、ただ一人の日本人選手としてツール・ド・フランスで走る白石誓。しかし、今期限りでスポンサーの撤退が決定したチームの存続は絶望的だった。監督の下した決断に、チームは結束を乱したままレースに臨む。

 そして、今大会での人気と注目を集める新人選手ニコラ・ラフォン。白石にも打ち解けて話しかけてくる彼が、人懐こさの影に隠しているもの。彼に囁かれる疑惑。

 『サクリファイス』同様、登場人物たちが置かれた心理的にサスペンデッドな緊張状態に引っ張られるように読み進める。

 『サクリファイス』よりもミステリの要素が薄い分、競技者たちの群像・心理ドラマとしての濃さを期待したのだが、主役二人以外の内面にはあまり触れられることがなく、その点では不満が残る。せめて、不協和音に軋みながらも闘う、白石のチームメイトたちをもっと深く描いて見せてほしかった。


 ストーリー終盤にニコラがつぶやく“呪い”という言葉が、彼らの世界を象徴するキーワードだろう。呪いをかけられた身で、楽園に焦がれ、楽園を目指す競技者たち。多分、その“呪い”は“祝福”とも言い換えられる。

 白石にとっての“呪い”・・・彼の背後に見える“あの人”~サイクルロードレースの世界を生きた本当に強いクライマー~の姿・・・いまだに世界を支配しているかに見える男の気配が、ストーリーを引き締めている。

 

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2010-07-10

プロトンの中の孤独 : 近藤史恵

 サイクルロードレースの世界を舞台にした心理的サスペンスとして読み応えのあった『サクリファイス』。一種不気味な存在感をもって君臨していたチーム・オッジのエース石尾の新人時代を描くサイドストーリー。

 チームメイト・赤城の『ロードレースっていうのは団体競技だよ』という言葉に、『(ロードレースは)嫌いです。正直、ヒルクライム以外は興味ないんです。集団とうまくやっていく自信もないし、アシストするのも向いていない』と応える初々しさを残しながらも、この競技の厳しさ、残酷さと、それ故の魅力を本能的に理解し、巧みにチームとしての戦術をコントロールするしたたかさも既に備えた石尾。


 風景の中を疾走する。風、スピード、肉体にかかる負荷、集団の中で走る競技者たち一人一人の孤独・・・

 五感への刺激とともに、『サクリファイス』へと続いていくサイクルロードレースという競技の持つ魔性をゾクリと感じさせてくれる、短いながらも重量感のある作品。

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2009-05-09

サクリファイス : 近藤史恵

 凄まじいスピードの中で、勝ちを競う競技でありながら、“勝たないこと”が求められ、讃えられるレースがある。
 
 有望な陸上選手でありながら、大きくなりすぎた“自分が勝つ事”の意味に嫌気がさし、自分が勝つためではなく、他の選手を勝たせる為に走ることができる自転車レースの世界に転身した白石。彼が共に走る、チーム・オッジのメンバー ~ 自分以外のエースを決して認めず、かつて有望な新人を事故を装い潰したという噂のある、チームのエース・石尾。次のエースを狙える立場にいる新人・伊庭。石尾のアシストとして働く先輩選手たち。

 忠実に石尾のアシストをしつつ、好成績をマークする白石。そんな白石に目をかけているらしい石尾。上を目指すことに貪欲な伊庭。石尾の周囲で渦巻く、アシストメンバー達の感情。

 チームメンバー達の心理的なサスペンデッド状態がストーリーの緊張感を後半までひっぱる。そして、起こってしまう悲劇。


 あまりメジャーとは言えないサイクルロードレースという競技の世界に読者を誘い込むドラマ作りや、二転三転する「サクリファイス」の真の意味・・・上手い!と思うが、読みやすい反面、もっと深いところまで見せて欲しいという欲求不満が残る。

 競技者に、完全な自己犠牲と、一方でその犠牲を全て踏みつけていく精神的負担を強いるサイクルロードレース ~ この上なく過酷でありながら、競技者を捕らえて放さないこの競技こそ、物語の主役と言ってもいいんじゃないだろうか? この競技の魅力、美しさと怖ろしさが、もっと、しっかり深いところまで描かれていれば、「サクリファイス」とは何だったのか、なぜ彼は「サクリファイス」となることを選んだのか・・・そういうところの意味がもっと際立ってきたのではないかと思う。

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