2016-10-08

マインド・クァンチャ - The Mind Quencher : 森博嗣

『マインド・クァンチャ - The Mind Quencher』 森博嗣

 物語が始まった時、ゼンは「自分が何者であるかを知らない若者」だった。絶え間なく思考することで自分という存在を、自分が存在する世界を量り、都へ向かう旅の途中で人と出会い交わって世の中の仕組みや様々にからまる人の思惑というものを知り、幾多の強敵と刀を交え、その軌跡のひとつひとつを身体に刻み・・・

 ゼンの行く道筋は螺旋を描くように一周し、彼はまた「自分が何者であるかを知らない若者」となった。だがその自然な在りようは、「私」というものについて思考することで「私」を見出していた旅の初めの彼とは位相を異にしている。

 剣の道を究め、究めて行き着く先・・・そこでは、思考する「私」は消える。「無」・・・それは死に近い。剣の道の究極にある「無」と自分がこの世の中で生きていることの矛盾。何だか仏教的な問いだ。ゼンはいつか答えを見つけるだろうか。

 あまりにも大きな人々の思惑に関わることになってしまったゼンの行く末が少し心配になった。だが、ゼンはそのような思惑には関係なく、自分に見える道を行くのだろう。




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2014-11-29

フォグ・ハイダ - The Fog Hider : 森博嗣

『フォグ・ハイダ The Fog Hider』 森博嗣

 『ヴォイド・シェイパ The Void Shaper』シリーズ4作目。峠道で盗賊に襲われるゼン。ゼンを凌ぐ腕をもつ盗賊の用心棒・キクラ。キクラをつけ狙う侍の一群。霧の立ち籠める山中でゼンが戦う。

 前作『スカル・ブレーカ - The Skull Breaker』で、ゼンの在り方、佇まい、人との関わり方が変わり始めたと感じた。今作は、その物語の『転』を受けての新たな『承』というところだろうか。

 ひたすら「私」という存在について思考し、合理的な答えを見出そうとするゼンの中で、「私」というものは世界の中にポツリと存在するものから、世間の様々な関係、思惑の中に在るものへと変わってきた。同時にゼンはまた理屈では割り切れない「感情」というものを知る。ゼンの無垢な思考に経験からもたらされたものが加わっていく。答えを求めて剣を振る。剣がもたらす生と死の中に身を置く。


 ところで、『スカル・ブレーカ』に登場した侍・チハヤが今作ではゼンと行動を共にし、共に戦う。陽気で豪快でちょっと大雑把な感じのするチハヤが、実はゼンと同じくらいに腕が立ち、ゼンに劣らず思索的な男であることが判明して・・・。参った、いわゆる「思わぬギャップにドキドキする」ってやつか。俄にゼンより気になる存在になってきた!



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2014-08-23

神様が殺してくれる : 森博嗣

『神様が殺してくれる』 森博嗣

 自らが巻き込まれることになった、美しすぎる友人リオン・シャレットに纏わる連続殺人事件について語る「僕」。その語りに悲しみと欠落を漂わせる「僕」という存在そのものに何か秘密があるのだろうということは最初から予感された。

 リオン・シャレットに関わる5人の男女が次々と殺された理由。殺人の現場にいたリオンが「神が殺した」と言い、その神の名として「僕」の名前を告げた理由。残酷な事実のすべてを語る「僕」と、事実として語られた言葉を「そのまま信じることはできない」と言う「僕」と、結局は言葉にできなかったことと・・・。

 千々に分裂する「僕」の姿も、殺人を犯した「僕」の半身の思いも、「僕」を神と言ったリオンの思いも、そのありのままを掴むことは難しくて、ただそのことを思い、考え続けることしかできない。

 事件によって深く傷つきながらも、自分のために、リオンのために、自分の半身のために、何が起きたかを明らかにするべくこの一連の事件を語る「僕」の言葉は自制と思いやりに満ちて切ない。

 深い傷を抱えて「僕」はこれからも生きていく。唐突だけども、「ありのままに生きる」ということはやはり高らかに誇らしげに歌い上げるものじゃなく、あきらめ(諦める+明らめる)を含んで口にするものなんじゃないかなと思った。



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2014-04-19

スカル・ブレーカ ― The Skull Breaker : 森博嗣

『スカル・ブレーカ - The Skull Breaker』 森博嗣

 夢のように模糊とした世界の中で、思考するゼンの周囲だけがクリアに見える。きれいな軌跡を描くゼンの無垢な思考と、その静謐な世界に浸るのが心地よかった。・・・のだが、

 主人公・ゼンが変化した・・・「無垢」から所謂「天然」に(笑)。それとともに静かだった世界も、世俗の臭いを漂わせてざわめきだした。人と交わることにもいくらか慣れて、少しずつ社会性を身につけはじめたらしいゼン。この辺りで物語も「転」となるのだろうか?

 今作には興味深い人物も登場した。ヤナギ ~ ゼンの師スズカ・カシュウと同門のタガミ・トウシュンを師とし、戦わないことを最上とする剣をつかう侍。無用な争いを避けるため、凄腕なのに弱く装っているのは当然としても、クライマックスの戦いを一部死んだふりでやり過ごしたりして・・・。至って真面目なのに不思議に可笑しな人なんである。彼はいずれまたゼンに関わってくるんじゃないかと思うんだけど・・・。

 ゼンは何者であるのか・・・その一端が明かされた。この先、ゼンは何を求めてゆくのか。…実は、今作を読んでの感想は、「何か雰囲気変わったな。この先どうなるのかな?」に尽きるんである。




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2013-06-08

ブラッド・スクーパ ― The Blood Scooper : 森博嗣

『ブラッド・スクーパ - The Blood Scooper』 森博嗣

 「この感覚は何かに似ている」と思いながら読み、読み終えてしばらくしてから、「ああ、夢を見ているときの感じに似ているのだ。」と気が付いた。

 地上のどこにあるのかわからない、どこにつながっているのかわからない村。全体は曖昧であるのに、ある部分は妙に鮮明で生々しい。繰り広げられている情景をどこか俯瞰で眺めながらも、そこで交わされる感覚は自分のものとしてダイレクトに流入してくる。・・・そういう、夢の中のような感覚。


 立ち寄った村で、不老長寿が得られるという宝「竹の石」を守る家と、その宝を狙う盗賊との争いに関わることになったゼン。村で行き会った人たちと言葉を交わし、刀を交え、そのすべてについて思考する。

 無垢なゼンの思考は、知識や経験に阻害されないきれいな軌跡を描く。生死に直結する、その侍としての身体の動きは思考の結果としてある。

 ゼンが思考することによって、そして疑問を口にすることによって解かれていく世界の清新な姿には驚かされる。色々なものが、一瞬、クリアになったような気がする。


 でも・・・夢から覚めた後のように、小さな気がかりのようなものを残して、全ての感覚はまたぼんやりとした思考しない日常に紛れていく。常に目の前のものをクリアに見て、純粋に思考しつづけることは難しいのだ。ああ~




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2012-03-31

ヴォイド・シェイパ : 森博嗣

『ヴォイド・シェイパ - The Void Shaper』 森博嗣

 自分が何者であるかを知らない一人の若い武芸者の旅。

 ゼンはもの心つく前から山奥の庵で師・カシュウと二人きりで暮らし、師に倣い剣の腕を磨きつつ成長した。師・カシュウの死とともに山を降りたゼンは、カシュウの痕跡をたどりながら、世の中を、人を自分を見、剣の立ち合いを通して様々に考える ~ 「強さ」とは、「生」とは、「死」とは何か。

 ゼンは絶え間なく思考する。理屈を構築し、検討し、他人の理屈を突き合わせ・・・。合理的と思える答えを探し、絶え間なく思考することで、自分という存在を量る。「すべては無」であることを知り、その中で変化しつづける自分を感じる。それは、「我思うゆえに我あり」的な生き方のモデルのようでもあるし、仏教の実践書のようでもある。思考し続けることを、つい面倒と思ってしまう私にはかなり息苦しいが。
 

 各話の扉に引用された新渡戸稲造『武士道』よりの言葉の方が、私には衝撃的であったかもしれない。

 なぜなら、もし愛情が徳の行動に結びつかない場合は、頼りになるものは人の理性である。そしてその理性は、直ちに人に正しく行動することを訴えるからである。


 何か・・・この言葉は色々と衝撃的だった。「愛」が正しい行動の原理たりえるということも、また、「理性」(=「義理」)が「愛」の機能不全を補い得るとされていることも・・・。


 

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2011-10-08

銀河不動産の超越 : 森博嗣

『銀河不動産の超越 Transcendence of Ginga Estate Agency』 森博嗣

 毎日が気怠い。周囲の人間たちがなぜそんなにも元気なのかわからない。「気力を出せ」と言われても、気力というものを認識することすらできない。

 日常を生きることにおいて放出するエネルギィが極端に小さく、頑張らなくても生きていける最適の道を吟味することで危険を回避しつつ、これまで怠けるだけ怠けて過ごしてきたという主人公の生き様がいいなぁ、と思って読み始めたのだが・・・ ん?? この青年、そんなにもエネルギィが欠如していながら、次々と襲ってくる非常識な事態に全てきちんと対処しているぞ?! しかも、その面倒事の数々に後ろを見せることなく、実に前向きに臨んでいる。こんな非常識な事態には、もうちょっと嫌な気分に落ち込みそうなもんだが。

 ・・・ふ~ん、そうか。彼は非常識な事態を必要以上に忌み嫌わない。「嫌だと思う」ということにエネルギィを回さず、最短距離での事態の収拾のみに少ないエネルギィを集中させているのか。何と言う省エネ設計。

 しかし・・・その彼も、可愛らしい女性が押しかけてくるという出来事には、盛大にエネルギィを空回りさせ、一向に事態の収拾はなされないのだ。味気ない平穏よりも、バラ色の何かを待っているかのように。ふむ、世間の面倒事を避けているようでいながら、世俗への色気は失っていなかったんだな。

 エネルギィを効率良く使うことと、世俗への色気を失わないこと・・・か。


 ところで、主人公の青年、ひょんなことからとんでもなくだだっ広い部屋に一人で住むことになるんだけど、その青年の暮らしぶり~何もない広い空間が何かとても魅力的に見えたもので、徐々に人が集まるにつれて持ち込まれる生活用品その他で空間が埋め尽くされていくのがとても嫌だった。

 あ~ だから、ホラ、「あれが嫌、これが嫌」言ってるうちは、楽には生きていけないんだって。

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2010-03-20

トーマの心臓 Lost heart for Thoma : 森博嗣/萩尾望都

 優等生のユーリ、ユーリを見守る少し大人びたオスカー、鉄橋から転落して死んだユーリを慕う下級生トーマ、トーマにそっくりな転校生エーリク。
 
 原作とは違い日本人として描かれる登場人物達が、オスカー、ユーリ、トーマ、エーリクという名前を持つことで、どこか透明な抽象性を持つ。どこでもない世界、そしてどこでもあり得る世界での物語。

 理知的で、合理的で、そして優しくあろうとする若者達の、それぞれの人生において損なわれてしまったもの ~ そこからの再生。

 より良い生き方をしようとする人としての努力 ~ その意志を超えて、ただ流れる涙。犯した罪を、刻まれた傷を、強ばった心をひたひたと洗うように流れる涙。それは合理的とは言えないかもしれない作用。個人の力を超えた許し。

 理知的な若者達の頬をただ濡らす涙の神々しさが印象的だった。

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2009-12-16

もえない Incombustibles : 森博嗣

 ・・・ミステリーじゃなく、ある種の青春小説として読めば納得のいく話だったのかな。

 たいして親しくもなかった杉山という少年が死んだ。杉山は淵田に「S.FUCHITA」の名前が刻まれた金属プレートと、「山岸小夜子」という少女の名前を記した手紙を遺していた。山岸小夜子も数ヶ月前に死んでいることがわかり・・・ 

 ・・・この辺りで私はいよいよミステリーを読む体勢を固めたんだが・・・。

 私の興味はもちろん、杉山と小夜子の死、そして、その後に起こる事件の真相という所にしか無い訳だけれど、主人公・淵田にとっては、杉山や小夜子の死そのものは問題ではなく、それによって自分の中に起こった変化が気にかかるだけなのだ。だから、淵田の関心は、それらの人たちの死よりも、自分自身の思考、そしてもっと日常的な友人や周囲の人たちとの関係に向けられる。

 淵田の個人的事情や関心事に、私は興味が無く、私が興味を持っている、所謂謎の多い死のことは、淵田個人の興味と必要の範囲内でしか問題にされない。

 謎解きを期待する私と、淵田の主観でしか進まないストーリー。最後まで解消するはずのなかったこのズレを、「ハズレを引いちまった」フォルダと「またしても森博嗣にしてやられた」フォルダのどちらに収めようか・・・。

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2009-08-26

スカイ・イクリプス : 森博嗣

 空でだけ笑う子供・・・空で生きる戦闘機乗りたちの、地上での物語を綴る短編集。

 クサナギ、クリタ、カンナミ、ティーチャ、ササクラ、カイ、フーコ・・・戦争を仕事とし戦闘機を操り、軽々と空へ飛び上がって行く者たち、空へ上がっていく彼らを、地上から見ていた者たち・・・それぞれの、地上の姿。

 空に上がる為に、極限まで削り落とされた軽さ、空にだけある完全な自由、真実・・・彼らが空の上で見る完璧な美しさは地上には無い。地上にあるのは、彼らが空に持っては行けない重さを持つもの・・・願い、繋がり、想い。しかし、それは、空に帰りたいと願って止まなかった者たちが、一方で持っていた、彼ら自身を地上に繋ぐ重さに違いない。

 あまりにも周囲との摩擦が小さく、いつでも空に上がって行くことができた者たちの、地上に在る姿は少し痛々しい。空に上がるにしても、地上に生きるにしても、何かを失わなくてはいけない。

 願いと、優しさと、諦めと・・・空の上での純粋さ、美しさとは違うものを背負わされた地上での生。それでも消えない、目に見えない何かへの・・・憧れとでもいうもの。悲しくて、幸せなもの。

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