2012-03-31
ヴォイド・シェイパ : 森博嗣
『ヴォイド・シェイパ』 森博嗣
自分が何者であるかを知らない一人の若い武芸者の旅。
ゼンはもの心つく前から山奥の庵で師・カシュウと二人きりで暮らし、師に倣い剣の腕を磨きつつ成長した。師・カシュウの死とともに山を降りたゼンは、カシュウの痕跡をたどりながら、世の中を、人を自分を見、剣の立ち合いを通して様々に考える ~ 「強さ」とは、「生」とは、「死」とは何か。
ゼンは絶え間なく思考する。理屈を構築し、検討し、他人の理屈を突き合わせ・・・。合理的と思える答えを探し、絶え間なく思考することで、自分という存在を量る。「すべては無」であることを知り、その中で変化しつづける自分を感じる。この小説は仏教の実践書のようでもある。思考し続けることを、つい面倒と思ってしまう私にはかなり息苦しいが。
各話の扉に引用された新渡戸稲造『武士道』よりの言葉の方が、私には衝撃的であったかもしれない。
何か・・・この言葉は色々と衝撃的だった。「愛」が正しい行動の原理たりえるということも、また、「理性」(=「義理」)が「愛」の機能不全を補い得るとされていることも・・・。
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自分が何者であるかを知らない一人の若い武芸者の旅。
ゼンはもの心つく前から山奥の庵で師・カシュウと二人きりで暮らし、師に倣い剣の腕を磨きつつ成長した。師・カシュウの死とともに山を降りたゼンは、カシュウの痕跡をたどりながら、世の中を、人を自分を見、剣の立ち合いを通して様々に考える ~ 「強さ」とは、「生」とは、「死」とは何か。
ゼンは絶え間なく思考する。理屈を構築し、検討し、他人の理屈を突き合わせ・・・。合理的と思える答えを探し、絶え間なく思考することで、自分という存在を量る。「すべては無」であることを知り、その中で変化しつづける自分を感じる。この小説は仏教の実践書のようでもある。思考し続けることを、つい面倒と思ってしまう私にはかなり息苦しいが。
各話の扉に引用された新渡戸稲造『武士道』よりの言葉の方が、私には衝撃的であったかもしれない。
なぜなら、もし愛情が徳の行動に結びつかない場合は、頼りになるものは人の理性である。そしてその理性は、直ちに人に正しく行動することを訴えるからである。
何か・・・この言葉は色々と衝撃的だった。「愛」が正しい行動の原理たりえるということも、また、「理性」(=「義理」)が「愛」の機能不全を補い得るとされていることも・・・。
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2011-10-08
銀河不動産の超越 : 森博嗣
『銀河不動産の超越』 森博嗣
毎日が気怠い。周囲の人間たちがなぜそんなにも元気なのかわからない。「気力を出せ」と言われても、気力というものを認識することすらできない。
日常を生きることにおいて放出するエネルギィが極端に小さく、頑張らなくても生きていける最適の道を吟味することで危険を回避しつつ、これまで怠けるだけ怠けて過ごしてきたという主人公の生き様がいいなぁ、と思って読み始めたのだが・・・ ん?? この青年、そんなにもエネルギィが欠如していながら、次々と襲ってくる非常識な事態に全てきちんと対処しているぞ?! しかも、その面倒事の数々に後ろを見せることなく、実に前向きに臨んでいる。こんな非常識な事態には、もうちょっと嫌な気分に落ち込みそうなもんだが。
・・・ふ~ん、そうか。彼は非常識な事態を必要以上に忌み嫌わない。「嫌だと思う」ということにエネルギィを回さず、最短距離での事態の収拾のみに少ないエネルギィを集中させているのか。何と言う省エネ設計。
しかし・・・その彼も、可愛らしい女性が押しかけてくるという出来事には、盛大にエネルギィを空回りさせ、一向に事態の収拾はなされないのだ。味気ない平穏よりも、バラ色の何かを待っているかのように。ふむ、世間の面倒事を避けているようでいながら、世俗への色気は失っていなかったんだな。
エネルギィを効率良く使うことと、世俗への色気を失わないこと・・・か。
ところで、主人公の青年、ひょんなことからとんでもなくだだっ広い部屋に一人で住むことになるんだけど、その青年の暮らしぶり~何もない広い空間が何かとても魅力的に見えたもので、徐々に人が集まるにつれて持ち込まれる生活用品その他で空間が埋め尽くされていくのがとても嫌だった。
あ~ だから、ホラ、「あれが嫌、これが嫌」言ってるうちは、楽には生きていけないんだって。
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毎日が気怠い。周囲の人間たちがなぜそんなにも元気なのかわからない。「気力を出せ」と言われても、気力というものを認識することすらできない。
日常を生きることにおいて放出するエネルギィが極端に小さく、頑張らなくても生きていける最適の道を吟味することで危険を回避しつつ、これまで怠けるだけ怠けて過ごしてきたという主人公の生き様がいいなぁ、と思って読み始めたのだが・・・ ん?? この青年、そんなにもエネルギィが欠如していながら、次々と襲ってくる非常識な事態に全てきちんと対処しているぞ?! しかも、その面倒事の数々に後ろを見せることなく、実に前向きに臨んでいる。こんな非常識な事態には、もうちょっと嫌な気分に落ち込みそうなもんだが。
・・・ふ~ん、そうか。彼は非常識な事態を必要以上に忌み嫌わない。「嫌だと思う」ということにエネルギィを回さず、最短距離での事態の収拾のみに少ないエネルギィを集中させているのか。何と言う省エネ設計。
しかし・・・その彼も、可愛らしい女性が押しかけてくるという出来事には、盛大にエネルギィを空回りさせ、一向に事態の収拾はなされないのだ。味気ない平穏よりも、バラ色の何かを待っているかのように。ふむ、世間の面倒事を避けているようでいながら、世俗への色気は失っていなかったんだな。
エネルギィを効率良く使うことと、世俗への色気を失わないこと・・・か。
ところで、主人公の青年、ひょんなことからとんでもなくだだっ広い部屋に一人で住むことになるんだけど、その青年の暮らしぶり~何もない広い空間が何かとても魅力的に見えたもので、徐々に人が集まるにつれて持ち込まれる生活用品その他で空間が埋め尽くされていくのがとても嫌だった。
あ~ だから、ホラ、「あれが嫌、これが嫌」言ってるうちは、楽には生きていけないんだって。
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2010-03-20
トーマの心臓 Lost heart for Thoma : 森博嗣/萩尾望都
トーマの心臓 Lost heart for Thoma / 森博嗣・萩尾望都
優等生のユーリ、ユーリを見守る少し大人びたオスカー、鉄橋から転落して死んだユーリを慕う下級生トーマ、トーマにそっくりな転校生エーリク。
原作とは違い日本人として描かれる登場人物達が、オスカー、ユーリ、トーマ、エーリクという名前を持つことで、どこか透明な抽象性を持つ。どこでもない世界、そしてどこでもあり得る世界での物語。
理知的で、合理的で、そして優しくあろうとする若者達の、それぞれの人生において損なわれてしまったもの ~ そこからの再生。
より良い生き方をしようとする人としての努力 ~ その意志を超えて、ただ流れる涙。犯した罪を、刻まれた傷を、強ばった心をひたひたと洗うように流れる涙。それは合理的とは言えないかもしれない作用。個人の力を超えた許し。
理知的な若者達の頬をただ濡らす涙の神々しさが印象的だった。
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優等生のユーリ、ユーリを見守る少し大人びたオスカー、鉄橋から転落して死んだユーリを慕う下級生トーマ、トーマにそっくりな転校生エーリク。
原作とは違い日本人として描かれる登場人物達が、オスカー、ユーリ、トーマ、エーリクという名前を持つことで、どこか透明な抽象性を持つ。どこでもない世界、そしてどこでもあり得る世界での物語。
理知的で、合理的で、そして優しくあろうとする若者達の、それぞれの人生において損なわれてしまったもの ~ そこからの再生。
より良い生き方をしようとする人としての努力 ~ その意志を超えて、ただ流れる涙。犯した罪を、刻まれた傷を、強ばった心をひたひたと洗うように流れる涙。それは合理的とは言えないかもしれない作用。個人の力を超えた許し。
理知的な若者達の頬をただ濡らす涙の神々しさが印象的だった。
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2009-12-16
もえない Incombustibles : 森博嗣
もえない Incombustibles / 森博嗣
・・・ミステリーじゃなく、ある種の青春小説として読めば納得のいく話だったのかな。
たいして親しくもなかった杉山という少年が死んだ。杉山は淵田に「S.FUCHITA」の名前が刻まれた金属プレートと、「山岸小夜子」という少女の名前を記した手紙を遺していた。山岸小夜子も数ヶ月前に死んでいることがわかり・・・
・・・この辺りで私はいよいよミステリーを読む体勢を固めたんだが・・・。
私の興味はもちろん、杉山と小夜子の死、そして、その後に起こる事件の真相という所にしか無い訳だけれど、主人公・淵田にとっては、杉山や小夜子の死そのものは問題ではなく、それによって自分の中に起こった変化が気にかかるだけなのだ。だから、淵田の関心は、それらの人たちの死よりも、自分自身の思考、そしてもっと日常的な友人や周囲の人たちとの関係に向けられる。
淵田の個人的事情や関心事に、私は興味が無く、私が興味を持っている、所謂謎の多い死のことは、淵田個人の興味と必要の範囲内でしか問題にされない。
謎解きを期待する私と、淵田の主観でしか進まないストーリー。最後まで解消するはずのなかったこのズレを、「ハズレを引いちまった」フォルダと「またしても森博嗣にしてやられた」フォルダのどちらに収めようか・・・。
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・・・ミステリーじゃなく、ある種の青春小説として読めば納得のいく話だったのかな。
たいして親しくもなかった杉山という少年が死んだ。杉山は淵田に「S.FUCHITA」の名前が刻まれた金属プレートと、「山岸小夜子」という少女の名前を記した手紙を遺していた。山岸小夜子も数ヶ月前に死んでいることがわかり・・・
・・・この辺りで私はいよいよミステリーを読む体勢を固めたんだが・・・。
私の興味はもちろん、杉山と小夜子の死、そして、その後に起こる事件の真相という所にしか無い訳だけれど、主人公・淵田にとっては、杉山や小夜子の死そのものは問題ではなく、それによって自分の中に起こった変化が気にかかるだけなのだ。だから、淵田の関心は、それらの人たちの死よりも、自分自身の思考、そしてもっと日常的な友人や周囲の人たちとの関係に向けられる。
淵田の個人的事情や関心事に、私は興味が無く、私が興味を持っている、所謂謎の多い死のことは、淵田個人の興味と必要の範囲内でしか問題にされない。
謎解きを期待する私と、淵田の主観でしか進まないストーリー。最後まで解消するはずのなかったこのズレを、「ハズレを引いちまった」フォルダと「またしても森博嗣にしてやられた」フォルダのどちらに収めようか・・・。
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2009-08-26
スカイ・イクリプス : 森博嗣
スカイ・イクリプス―Sky Eclipse / 森博嗣
空でだけ笑う子供・・・空で生きる戦闘機乗りたちの、地上での物語を綴る短編集。
クサナギ、クリタ、カンナミ、ティーチャ、ササクラ、カイ、フーコ・・・戦争を仕事とし戦闘機を操り、軽々と空へ飛び上がって行く者たち、空へ上がっていく彼らを、地上から見ていた者たち・・・それぞれの、地上の姿。
空に上がる為に、極限まで削り落とされた軽さ、空にだけある完全な自由、真実・・・彼らが空の上で見る完璧な美しさは地上には無い。地上にあるのは、彼らが空に持っては行けない重さを持つもの・・・願い、繋がり、想い。しかし、それは、空に帰りたいと願って止まなかった者たちが、一方で持っていた、彼ら自身を地上に繋ぐ重さに違いない。
あまりにも周囲との摩擦が小さく、いつでも空に上がって行くことができた者たちの、地上に在る姿は少し痛々しい。空に上がるにしても、地上に生きるにしても、何かを失わなくてはいけない。
願いと、優しさと、諦めと・・・空の上での純粋さ、美しさとは違うものを背負わされた地上での生。それでも消えない、目に見えない何かへの・・・憧れとでもいうもの。悲しくて、幸せなもの。
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空でだけ笑う子供・・・空で生きる戦闘機乗りたちの、地上での物語を綴る短編集。
クサナギ、クリタ、カンナミ、ティーチャ、ササクラ、カイ、フーコ・・・戦争を仕事とし戦闘機を操り、軽々と空へ飛び上がって行く者たち、空へ上がっていく彼らを、地上から見ていた者たち・・・それぞれの、地上の姿。
空に上がる為に、極限まで削り落とされた軽さ、空にだけある完全な自由、真実・・・彼らが空の上で見る完璧な美しさは地上には無い。地上にあるのは、彼らが空に持っては行けない重さを持つもの・・・願い、繋がり、想い。しかし、それは、空に帰りたいと願って止まなかった者たちが、一方で持っていた、彼ら自身を地上に繋ぐ重さに違いない。
あまりにも周囲との摩擦が小さく、いつでも空に上がって行くことができた者たちの、地上に在る姿は少し痛々しい。空に上がるにしても、地上に生きるにしても、何かを失わなくてはいけない。
願いと、優しさと、諦めと・・・空の上での純粋さ、美しさとは違うものを背負わされた地上での生。それでも消えない、目に見えない何かへの・・・憧れとでもいうもの。悲しくて、幸せなもの。
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2008-10-15
クレィドゥ・ザ・スカイ : 森博嗣
クレィドゥ・ザ・スカイ / 森博嗣
シリーズの中で、一番忌々しくも、一番清々しくて、綺麗だと思ったのが、「スカイ・クロラ」のカンナミ・ユーヒチだった。理解されることを拒絶し、最小の抵抗・摩擦の中で軽々と空へと飛び上がっていったカンナミ・・・地上の重さをすべて捨てたかのようなその姿は、どうしようもない大きな欠落を感じさせたけれど、確かに泣きたくなるほど綺麗だった。
それに比べて、クサナギやクリタは、「飛びたい」と切望しながら常に重力に引っ張られている、そんなアンバランスさを感じさせていた。
カンナミとクサナギ、クリタのこの違いは何なのか? それぞれの個性、キルドレとしての個体差なのか? ・・・と思っていたのだけど。
そういうことだったのか・・・。いや、本当は理解できてはいないのだけど、やはり・・・。
空でだけ息をし、新しく目覚めるたびに、「空を飛ぶこと」以外を削ぎ落として(失って)、どんどん軽く、純度を高く研ぎ澄まされていく。
それが悲しいことなのか、幸せなことなのかは解らない。ただ泣きたくなるような何か・・・。
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シリーズの中で、一番忌々しくも、一番清々しくて、綺麗だと思ったのが、「スカイ・クロラ」のカンナミ・ユーヒチだった。理解されることを拒絶し、最小の抵抗・摩擦の中で軽々と空へと飛び上がっていったカンナミ・・・地上の重さをすべて捨てたかのようなその姿は、どうしようもない大きな欠落を感じさせたけれど、確かに泣きたくなるほど綺麗だった。
それに比べて、クサナギやクリタは、「飛びたい」と切望しながら常に重力に引っ張られている、そんなアンバランスさを感じさせていた。
カンナミとクサナギ、クリタのこの違いは何なのか? それぞれの個性、キルドレとしての個体差なのか? ・・・と思っていたのだけど。
そういうことだったのか・・・。いや、本当は理解できてはいないのだけど、やはり・・・。
空でだけ息をし、新しく目覚めるたびに、「空を飛ぶこと」以外を削ぎ落として(失って)、どんどん軽く、純度を高く研ぎ澄まされていく。
それが悲しいことなのか、幸せなことなのかは解らない。ただ泣きたくなるような何か・・・。
![]() | クレィドゥ・ザ・スカイ (2007/06) 森 博嗣 商品詳細を見る |
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2008-08-30
イナイ×イナイ : 森博嗣
イナイ×イナイ / 森博嗣
S&Mシリーズ最初の2作しか読んだことないのに、Vシリーズ、Gシリーズは手に取ったことすらないのに・・・何か、たまたま目の前にあったので読んでみた。
旧家の広大なお屋敷、当主の死、美貌の双子、地下牢に閉じ込めらていると噂される行方不明の長男、口のきけない下男、秘密の通路・・・まるっきり横溝な道具立て。密室での凄惨な事件に、学校サボリがちの芸大生と、仕事できそうなおネエさんのコンビが挑む。
黒衣の美人・佐竹千鶴が「兄を探してほしい。」と椙田事務所を訪れるところから事件が始まる。森作品を読むときには、いやに身構えるクセがついてしまったんだが、この話では特に読者を悩ませたり、唸らせたりする会話も謎かけもなく、割とすんなりと事件は解決へ。このスピード解決は、一々その場その場に応じた疑問や可能性を提示し語ってくれる探偵役の芸大生・真鍋の力による所が大きいのだけど、椙田氏によると、そういうやり方をするのは、頭のバッファが足りない証拠なんだそうだ。
おどろおどろしい道具立ての中での血なまぐさい事件・・・盲点になっていた事柄が明らかになって、するすると真相が明らかになっていく。確かに気持ちよく事件は解決するのだけど、何だか満足していないものを自分の中に感じて考える。
そうか・・・、ドロドロが足りないんだ。
この旧家の人たちの間に渦巻いていただろう思惑・軋轢、複雑にからむ人間関係、それぞれの心の中がいたってドライに扱われているところに、肩すかしをくらったような気分を味わう。私って、ミステリーを読む時は、そこに仕掛けられた知的なゲームを楽しみたいのではなく、事件の周辺の人たちが抱える事情を覗き見するという、お昼のワイドショー的下世話な興味を満たしたかったのだなと解ってちょっと愕然。
結局、当事者の意図とか思惑は考慮されなくても、理屈と検証で事件は解決・理解されていくわけで・・・そのへんのモヤモヤ感も森ミステリの味わいか。それにしても、あまりにも佐竹家の人たちの心の内が読めないんで、私なんか“なんで千鶴は兄の捜索を頼んだんだろう?”と頭を抱えている始末。
シリーズ第1作のため、登場人物顔見世~という観もあり。他シリーズとの人物のつながりもあるようだけど、他作品を読んでいない私にはよく解らん。
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S&Mシリーズ最初の2作しか読んだことないのに、Vシリーズ、Gシリーズは手に取ったことすらないのに・・・何か、たまたま目の前にあったので読んでみた。
旧家の広大なお屋敷、当主の死、美貌の双子、地下牢に閉じ込めらていると噂される行方不明の長男、口のきけない下男、秘密の通路・・・まるっきり横溝な道具立て。密室での凄惨な事件に、学校サボリがちの芸大生と、仕事できそうなおネエさんのコンビが挑む。
黒衣の美人・佐竹千鶴が「兄を探してほしい。」と椙田事務所を訪れるところから事件が始まる。森作品を読むときには、いやに身構えるクセがついてしまったんだが、この話では特に読者を悩ませたり、唸らせたりする会話も謎かけもなく、割とすんなりと事件は解決へ。このスピード解決は、一々その場その場に応じた疑問や可能性を提示し語ってくれる探偵役の芸大生・真鍋の力による所が大きいのだけど、椙田氏によると、そういうやり方をするのは、頭のバッファが足りない証拠なんだそうだ。
おどろおどろしい道具立ての中での血なまぐさい事件・・・盲点になっていた事柄が明らかになって、するすると真相が明らかになっていく。確かに気持ちよく事件は解決するのだけど、何だか満足していないものを自分の中に感じて考える。
そうか・・・、ドロドロが足りないんだ。
この旧家の人たちの間に渦巻いていただろう思惑・軋轢、複雑にからむ人間関係、それぞれの心の中がいたってドライに扱われているところに、肩すかしをくらったような気分を味わう。私って、ミステリーを読む時は、そこに仕掛けられた知的なゲームを楽しみたいのではなく、事件の周辺の人たちが抱える事情を覗き見するという、お昼のワイドショー的下世話な興味を満たしたかったのだなと解ってちょっと愕然。
結局、当事者の意図とか思惑は考慮されなくても、理屈と検証で事件は解決・理解されていくわけで・・・そのへんのモヤモヤ感も森ミステリの味わいか。それにしても、あまりにも佐竹家の人たちの心の内が読めないんで、私なんか“なんで千鶴は兄の捜索を頼んだんだろう?”と頭を抱えている始末。
シリーズ第1作のため、登場人物顔見世~という観もあり。他シリーズとの人物のつながりもあるようだけど、他作品を読んでいない私にはよく解らん。
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2008-07-02
フラッタ・リンツ・ライフ : 森博嗣
フラッタ・リンツ・ライフ / 森博嗣
イメージは鮮明に焼きつけられているのに、ディティールはいつの間にかぼんやりして思い出すことができない。
空を飛び、バイクを走らせ、タバコを吸い、コーヒーやソーダを飲む、クサナギ、カンナミ、トキノ、クリタ、ササクラたちの姿は、写真かビデオの映像を見るように、この目にはっきり見ることができる。彼らの美しさ、痛々しさ、清々しさ、空へと上がっていく軽さは、忘れられない印象となって胸にある。
それなのに、その姿が、彼らの見せた表情が、いつ、どこで、誰と居る時の、何をしているときのものだったのか・・・それを思い出そうとすると途端に目の前に靄がかかったようになってしまう。
シリーズの新作を読む度に、それまでの作品も繰り返して読んでいるのに、生身の彼らが体験した現実のディティールをうまく憶えておくことができない。
「スカイ・クロラ」では、理解されることを拒絶し、最小の抵抗・摩擦の中で軽々と空へと飛び上がっていったカンナミの姿が、「ナ・バ・テア」「ダウン・ツ・ヘヴン」では、空で生きることを強く望みながら、地上へ地上へと落ちていくクサナギの姿だけが、ただ一つの印象として強く強く刻まれている。
シリーズ4作目の本作はクリタ・ジンロウとクサナギ・スイトの物語。例によって、ページを閉じるとクリタが口にしたこと、彼がとった行動、そのディティールは、早くもぼんやりと遠くにいってしまう。ただ、クサナギの存在によって、「憧れ」(空への、自由への、美しさへの・・)を自分の中に灯していたクリタと、クリタにとって「憧れ」を呼び起こす存在そのものであったクサナギの姿が、また強く私の中に焼き付けられる。
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イメージは鮮明に焼きつけられているのに、ディティールはいつの間にかぼんやりして思い出すことができない。
空を飛び、バイクを走らせ、タバコを吸い、コーヒーやソーダを飲む、クサナギ、カンナミ、トキノ、クリタ、ササクラたちの姿は、写真かビデオの映像を見るように、この目にはっきり見ることができる。彼らの美しさ、痛々しさ、清々しさ、空へと上がっていく軽さは、忘れられない印象となって胸にある。
それなのに、その姿が、彼らの見せた表情が、いつ、どこで、誰と居る時の、何をしているときのものだったのか・・・それを思い出そうとすると途端に目の前に靄がかかったようになってしまう。
シリーズの新作を読む度に、それまでの作品も繰り返して読んでいるのに、生身の彼らが体験した現実のディティールをうまく憶えておくことができない。
「スカイ・クロラ」では、理解されることを拒絶し、最小の抵抗・摩擦の中で軽々と空へと飛び上がっていったカンナミの姿が、「ナ・バ・テア」「ダウン・ツ・ヘヴン」では、空で生きることを強く望みながら、地上へ地上へと落ちていくクサナギの姿だけが、ただ一つの印象として強く強く刻まれている。
シリーズ4作目の本作はクリタ・ジンロウとクサナギ・スイトの物語。例によって、ページを閉じるとクリタが口にしたこと、彼がとった行動、そのディティールは、早くもぼんやりと遠くにいってしまう。ただ、クサナギの存在によって、「憧れ」(空への、自由への、美しさへの・・)を自分の中に灯していたクリタと、クリタにとって「憧れ」を呼び起こす存在そのものであったクサナギの姿が、また強く私の中に焼き付けられる。
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2008-03-19
少し変わった子あります : 森博嗣
少し変わった子あります / 森博嗣
名前も無い、決まった場所も無い、毎回違う場所で、看板も出さずひっそりと営業する不思議な店(その店のことを「私」に教えた男は一月程前から行方不明だ)。
全てに於いて感じが良いが、全てに於いて何の印象も残さないこの店で、「私」は正面に座る一人の女性(名前も素性も不明。料理を食べる仕草が美しいという他は特別な点のない、ただ普通の女性である。「私」の正面に座る女性は、「私」が店を訪れる度に変わり、二度と同じ人に会うことは無い。)と一緒に料理を食べ、ひと時と過ごす。
何にも邪魔されない、煩わされないこの不思議な店で、「私」は私だけの世界、純粋な思考の中に沈んでいく。
たった一度、ほんの短い時間だけ共に過ごす女性と交わす言葉は(二人とも何もしゃべらず過ごすこともあるが、その時はその沈黙が)「私」の「孤独」を起動するスイッチになり、「私」の中に次々と現れる記憶、様々な考察、名づけようのない抽象的な思考・・・。
「私」の頭がそういうとりとめのない活動をする様は、保坂和志の「カンバセイション・ピース」にも似た感じ。
ところで、この本を読んでいると、「私」に現れたのと似たような作用が、読者であるこちら側にも現れる。目は本の文字を読みながら、頭の中では別の個人的でとりとめのない考えが回り始める。本の中で、「私」の正面に座る女性の役を、この本がしてくれるということか・・・。
本の中の「私」が心地良い一室で美味しい料理を口にしているのに比べ、読者である私は電車待ちのホームの上とか、ランチ客でざわざわするカフェとか、隣で家族がテレビを見ている騒がしい自宅リビングにいるというのは、あまりに待遇が違いすぎるじゃないか! とは思うけど・・・。
さて、この不思議な店にしげしげと通った「私」は(そして「私」にこの店を教えた男は)その後どうしているのか? この不思議な店は何なのか? 孤独を愛する人の為に良質な孤独を実現させる空間? はたまた、孤独に浸りたがる人間を、社会から間引いてしまう装置?
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名前も無い、決まった場所も無い、毎回違う場所で、看板も出さずひっそりと営業する不思議な店(その店のことを「私」に教えた男は一月程前から行方不明だ)。
全てに於いて感じが良いが、全てに於いて何の印象も残さないこの店で、「私」は正面に座る一人の女性(名前も素性も不明。料理を食べる仕草が美しいという他は特別な点のない、ただ普通の女性である。「私」の正面に座る女性は、「私」が店を訪れる度に変わり、二度と同じ人に会うことは無い。)と一緒に料理を食べ、ひと時と過ごす。
何にも邪魔されない、煩わされないこの不思議な店で、「私」は私だけの世界、純粋な思考の中に沈んでいく。
たった一度、ほんの短い時間だけ共に過ごす女性と交わす言葉は(二人とも何もしゃべらず過ごすこともあるが、その時はその沈黙が)「私」の「孤独」を起動するスイッチになり、「私」の中に次々と現れる記憶、様々な考察、名づけようのない抽象的な思考・・・。
「私」の頭がそういうとりとめのない活動をする様は、保坂和志の「カンバセイション・ピース」にも似た感じ。
ところで、この本を読んでいると、「私」に現れたのと似たような作用が、読者であるこちら側にも現れる。目は本の文字を読みながら、頭の中では別の個人的でとりとめのない考えが回り始める。本の中で、「私」の正面に座る女性の役を、この本がしてくれるということか・・・。
本の中の「私」が心地良い一室で美味しい料理を口にしているのに比べ、読者である私は電車待ちのホームの上とか、ランチ客でざわざわするカフェとか、隣で家族がテレビを見ている騒がしい自宅リビングにいるというのは、あまりに待遇が違いすぎるじゃないか! とは思うけど・・・。
さて、この不思議な店にしげしげと通った「私」は(そして「私」にこの店を教えた男は)その後どうしているのか? この不思議な店は何なのか? 孤独を愛する人の為に良質な孤独を実現させる空間? はたまた、孤独に浸りたがる人間を、社会から間引いてしまう装置?
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2008-02-06
ダウン・ツ・ヘヴン : 森博嗣
ダウン・ツ・ヘヴン / 森博嗣
「ナ・バ・テア」に続く、戦闘機乗り・草薙水素(クサナギ・スイト)の物語。
空でしか笑えない子供-キルドレであり、飛ぶことを何よりも望んでいるクサナギなのに、皮肉にもその優れた飛ぶ-戦闘機を操る能力の為に、地上へとどんどん引き摺り下ろされていく姿が痛々しい。前線で飛ぶことよりも地上で指揮官となることを迫られ、意に反してクサナギの身体は空からどんどん離れ・・・。
クサナギには酷なことかもしれないけれど・・・前作・本作と読んでみて、その飛ぶ能力、空への思いとは裏腹に、クサナギは本来『地上の人』なのではないかと・・・。シリーズの一作目「スカイ・クロラ」でのカンナミの、周囲との抵抗がとても少なく、軽々と空に上がっていく姿~空で生きるべくして生きているような姿と、どこか常に重力を感じさせるクサナギの姿はかなり違っているように見える。空は、クサナギが生きる場所ではなくて、地上では生きたくない彼女の逃げ場なのではないかなぁ。
本作ではクサナギとカンナミが空を飛ぶ者同士として接触する場面が何回かある。もう少し“何か”が浮き彫りになるのではないか?と思ったのだけど、今のところこの2人についてははっきりと明言されることはない。(ん? ここに出てくるカンナミと「スカイ・クロラ」のカンナミは同一人物でいいのかな?)
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「ナ・バ・テア」に続く、戦闘機乗り・草薙水素(クサナギ・スイト)の物語。
空でしか笑えない子供-キルドレであり、飛ぶことを何よりも望んでいるクサナギなのに、皮肉にもその優れた飛ぶ-戦闘機を操る能力の為に、地上へとどんどん引き摺り下ろされていく姿が痛々しい。前線で飛ぶことよりも地上で指揮官となることを迫られ、意に反してクサナギの身体は空からどんどん離れ・・・。
クサナギには酷なことかもしれないけれど・・・前作・本作と読んでみて、その飛ぶ能力、空への思いとは裏腹に、クサナギは本来『地上の人』なのではないかと・・・。シリーズの一作目「スカイ・クロラ」でのカンナミの、周囲との抵抗がとても少なく、軽々と空に上がっていく姿~空で生きるべくして生きているような姿と、どこか常に重力を感じさせるクサナギの姿はかなり違っているように見える。空は、クサナギが生きる場所ではなくて、地上では生きたくない彼女の逃げ場なのではないかなぁ。
本作ではクサナギとカンナミが空を飛ぶ者同士として接触する場面が何回かある。もう少し“何か”が浮き彫りになるのではないか?と思ったのだけど、今のところこの2人についてははっきりと明言されることはない。(ん? ここに出てくるカンナミと「スカイ・クロラ」のカンナミは同一人物でいいのかな?)
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