2014-10-04

百鬼園百物語  百けん怪異小品集 : 内田百けん 東雅夫編

『百鬼園百物語: 百けん怪異小品集』  内田百けん 東雅夫編

 巨大な鰻が濠の水の中から街の往来へずるりと這い出してくる・・・この奇妙な光景が頭をよぎる度に、「これは夢か何かで見たんだったかなぁ」とぼやぼや思ったりしていたが・・・そうか、内田百けんの「東京日記」で読んだ場面だったんだ。

 そもそも私は水中の生きものに何か生理的な恐怖でも抱いているものか、ゆったりと山間を流れる川の淵のようになったところを何となく眺めていたら、川底に5メートルはあろうかという正体不明の魚の影がいくつもゆらめいているのが見えてゾッとしただとか、近所の川を泳いでいる魚たちが寄り集まって群れになったかと思うと巨大な山椒魚のような姿になって這い出してきたとかいう夢をよく見る。うちの近所の川を泳いでいる50センチくらいのわりと大きな鯉だかなんだかよくわからない魚を見ても何か気味悪いな~と思う。

 いつ読んだものかすっかり忘れていたけど、百けん先生がさらりと書いてみせた夕暮れの東京のシュールな光景は、恐ろしい水中生物の夢をよく見る私に、もう一つの悪夢の光景としてやきついちゃっていたのだ。でも、怪物めいた水中の生きものを夢に(現実でも)見て背筋を走る“ゾォ~”という感覚は恐怖であると同時になんとも言えない快感であるような気もしている。


 日常の風景の先にとんでもないシュールをあまりに平然と描いてしまう百けん先生の剛腕はやっぱり凄まじい。シュールの流入で現実が危うくなったその上に、その剛腕ぶりと表裏一体であるかのような百けん先生のこれまた並はずれた怯えが伝染してきて、何とも落ち着かない心持ちにさせられる。

 一つ一つの作品がつながり、重なりながらより妖しく怪異が醸成されていく・・・百物語の形式にこだわって編まれた小品集。



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2013-08-31

第一阿房列車 : 内田百けん

『第一阿房列車』 内田百けん

 この夏、青春18きっぷで行った山陰旅行の旅の友。のんびり走る列車の中で、車窓の海、山、田圃を眺めたり、居眠りしたりの合間に読んだ。


 早起きはしないから出発は昼過ぎが良い。席は一等が良いが、三等でもかまわない。旅の見送りに来てもらっては困る。皆がこぞって行くような観光名所には行ってやるものかと思う。山のような理屈と我儘を並べ上げ、御供に「ヒマラヤ山系」君を連れ、人に借りたお金で悠々と目的も用事もない阿房列車の旅に出る百けん先生。

 何をしても良い、何をしなくても良い、別に着いた先で観光なんかしなくたって良い、ただ列車に乗っているだけの時間を楽しむことなら、私だって負けちゃいないぜ!と思いながら読む。

 我儘の限りを尽くしているように見えて、同行の山系君の腹具合を考えてやったり、自分の長年の愛読者である山系君にゆかりの百間土手を見てもらおうと思ったりと、先生、可愛いところがある。

 「おい山系君」と呼んだが曖昧な返事しかしない。
 「眠くて駄目かな」
 「何です。眠かありませんよ」
 「すぐ百間川の鉄橋なんだけれどね」
 「はあ」
 「そら、ここなんだよ」
 「はあ」

 
 見送り無用と言っておいても、毎回丁寧な見送りを受ける。各駅では駅長さんや助役さんがあれこれと世話を焼いてくれる、着いた先では各地の名士のお出迎えを受ける。「ヒマラヤ山系」君はどこまでも御供してくれる。何か知らんが愛されていて、そういう好意を鷹揚に受けることができる上等な人だったのだなぁ。

 そして百けん先生、無目的な列車の旅の合間にシュールな話で読者を煙に巻くのである。

 山系が隣からこんな事を云いだした。
 「三人で宿屋へ泊りましてね」


 三十円の代金を三人で十円ずつ出して支払った。サービスで五円まけてくれたうちの二円を女中がごまかして、三円だけ返してきた。一人に一円ずつ戻ってきた計算だから、一人分の負担は九円。

 「九円ずつ三人出したから三九、二十七円に女中が二円棒先を切ったので〆て二十九円、一円足りないじゃあありませんか」





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2009-12-23

ちくま日本文学1 内田百けん

 『波止場』『花火』『流木』『豹』等の短編の持つ、とにかく凄まじい破壊力にド胆をぬかれた。百けん先生といえば、『ノラや』を読んだきりで、“多少面倒臭いけれど人の好いおじさん”という油断があったので、まさに不意の一撃。現実を一筆で無力化してしまう豪腕、その巨大な怪人ぶりにゾ~っと背筋が凍る。

 そんじょそこいらの恐怖小説よりも遥かに怖ろしい、怪人がさらりと描くシュール。そして、現実を打ち壊したそのシュールの中にある一人の人間の現実。

 一方、随筆では、穏やかにしているかと思えば我侭、負けず嫌いで理屈屋 ~ 非常に面倒臭くも味のあるおじさんぶりが堪能できる。

 借金の大家と言われるだけあって、お金を借りることについては一言も二言もある。

 無目的な鉄道旅行の費用のために知人に借金をして・・・

 このお金は私が返した時に初めて私のお金であった事を実証するので、今は私のお金ではない。~略~私の金でなければ人の金かと云うに、そうでもない。貸してくれる方からは既に出発しているのでその人のお金でもない。丁度私の手で私の旅行に消費する様になっている宙に浮かんだお金である。


 何と斬新な理屈かと感動させられた。

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2007-10-24

ノラや : 内田百けん

ノラや/内田百けん

 な・な・なんだこれは!

 野良猫上がりの愛猫ノラがふらりと出て行って以来帰ってこない。残された百けん先生は毎日ノラを思って泣き暮らし、迷い猫さがしに八方手を尽くす。しかし三度、四度と新聞折込に迷い猫の広告を出し、外国人のお宅に迷い込んでいてはと英字の折り込み広告まで作り、帰ってこないノラの境遇をあれこれと思い悩み不憫がって涙涙の毎日も半年にわたって続くとなると、なんとも常軌を逸している。愛猫家でない私にはぽかんと口をあけて“はぁ~~?”と見守るしかない世界。

 延々と「ノラに似ている猫がいるというので、誰某に観に行ってもらったが違っていた。」「ノラの姿が思い出されて、可哀相で涙がでる。」という内容が繰り返され、違うのは“ノラのどんな姿を思い出したか”“ノラのどんな夢を見たか”“今日はどんなノラ捜索活動をしたか”ってことだけなんだけど、それが不思議と読んでて嫌にならない。同じような記述が繰り返されれば繰り返されるだけ、こちらの目にもノラちゃんのいたいけな姿がちらつくようになり、百けん先生のメソメソと痛ましい姿にじ~んとしてくる。

 不思議だなぁ・・・ノラ捜索のある意味単調な覚書のようなものから徐々に伺えるようになってくる先生の周囲の暖かさ。・・・メソメソと泣き、ノラを思っておろおろする先生の周りに、先生を思って奔走する人々の姿、一々迷い猫の情報を知らせてくれる見知らぬ人々、町の顔なじみの心配そうな様子なんかが見えてくる。

 これが百けん先生の文章の力か・・・。

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2006-11-11

サラサーテの盤 : 内田百けん

 外は暮れかかる夕刻、亡くなった友人、中砂の細君おふさが玄関先に立つ。やってくるのはいつも夕暮れの決まった時刻。陰気な様子で、夫の貸した品々を一つずつ取り立てるように、私の家の玄関先に立っている。
 
 久世光彦氏が、その訳の解らない恐ろしさを言葉を尽くして書かれていた内田百けんの「サラサーテの盤」。(久世光彦「美の死―ぼくの感傷的読書」に、「サラサーテの盤」について書かれたエッセイが収録されています。)

 その友人は貸したものを書き留めておくような几帳面さは無かったはずだが・・・。おふさは何処で調べたものか、ある時は字引を、本を、レコード盤をひとつずる取りに来る。

「夫が生前、こちらに預けているはずです。」

 いつも夕暮れの同じ時刻にぼんやりと玄関先に立つおふさに、「私」は何かしらぞっとしたものを感じる。おふさが言うには、その友人が貸したサラサーテ自らの演奏による「ツィゴイネルワイゼン」のレコード盤が私の家にあるらしい。そのレコード盤は録音時の事故でサラサーテの肉声が録音されているめずらしい品だという。

 夕暮れ時、玄関先にぼうっと立つのは生身の女・おふさだけど・・・どうして決まったように同じ時間に・・・、何を思って亡き夫の貸した品物を取り立てるように持っていくのか。

 サラサーテの盤に録音されているのは生きたサラサーテ自身の声だけど、録音されるはずの無い、録音されてはいけない声・・・そして今はもうこの世にいない人の声。

 逢魔が時に、見えないはずのもの・見てはいけないものにうっかり出会ってしまうんじゃないかというびくびくする感覚、そんな怖さを湛えた作品。

 手元に返ってきたサラサーテの盤を聴くおふさ、サラサーテの声に反応するかのような彼女の姿が読後感をざわざわとさせます。

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