2011-07-02

世界を肯定する哲学 : 保坂和志

『世界を肯定する哲学』 保坂和志

 自分自身でも認識できない部分を含む「私」という存在は何なのか? また、「私」と「世界」の関係とは?

・・・

 例えばの話・・・「色即是空 空即是色」の意味するところがどういうことなのか、「色」や「空」とは何なのか解るか?と問われたとして、私は“それ”を体感したことはないし、ましてや言葉で“それ”を説明するなんてとてもできるとは思えない。“それ”を考えるための「言葉」すら見つけられないせいで、“それ”は到底到達し得ない境地、理解不能な概念なのだと思ってしまうのだけど、・・・でも、自分の中のどこかで・・・ほんの微かに“それ”を知っているという気もしている。

 それと同様に、保坂氏が語ろうとしていることの一つ一つを「理解した」という感覚は、何度か読み返した後でも全くと言っていいほど得られていないのだけど、申し訳ないくらいに漠然と「知ってる」・・・ような気がする部分もある。

 本書が難解に思えるのは、言語化することが難しいはずの思考までが、書物である以上「言葉」で記されざるを得ないためと、私がそういう「思考」を「意識」することに関してあまりに無能というか・・・だらしないためだろう。

 余談だけども、人間の認識のしくみとか、その限界について語る著者の言葉には、「怪しいもの」について語る京極夏彦氏の言葉を思わせるものもあり、そこだけはちょっと馴染みの感覚(と言うほど馴染みではないような気もするが;;)に出会った気分になる。

 宇宙の始まりと終わりについて、「思考」と「視覚」の問題、夢を見る時の視点について、人が持つ「記憶」について、「言語」というシステムについて、「肉体」と「精神」について・・・『雑然たる提示部』『迂遠な基礎作業』とご自身が言うとおり、保坂氏の言葉の進め方は“すっきりした理解”にまっすぐ導いてくれるものではないようだけど、その難解とも感じられる遠回りにつられて、長らく私の中で使われることのなかった回路がわずかずつ掘り起こされ、遠回りする言葉を呼び水に、滞っていた流れが回路の中をチロチロと通いはじめるのをどこかに感じている。




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2010-01-16

「私」という演算 : 保坂和志

 考える、感じる、言葉にする・・・その言葉からまた考える、感じる、認識する・・・。“私”が思考するというその運動によって、そこら中にふわふわと漂っている世界が渦を巻くように“私”の周りに集まってくる。“私”の思考が停まると、また世界はそこいら中に散らばっていく・・・。

 “私”は“私”について思考する。“私”の認識について、“私”の思考について。そして“私”というものの不確かさを知る。そして、そういう不確かな“私”を存在させている世界というもの。

 理屈とか論理を超えて、不定形な感覚や情緒までを言葉にして追いかける文章は、“私”の中を巡り、また世界へと拡散する。


 自分を自分の認識の下に置く~自分の考えていること、自分の感じていることについて思考する。そういう在り方に惹かれると同時に、なんと面倒臭いことをするものだろうとも思ってしまうが、ここに書かれた思考の流れは、気の巡りのように自然で心地良い。

 保坂氏の書く思考の渦、言葉の流れは、運動不足の筋肉を揉み解すマッサージのように、普段使い忘れている感覚を緩やかに目覚めさせてくれる。

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2007-12-26

カンバセイション・ピース : 保坂和志

 かなり長い小説なのに、見事に事件・・・というか、イレギュラーなことが起きない。この話の語り手である、世田谷の古い家に住む小説家の男は、横浜に野球の試合を観に行く以外は、ず~と家の中で猫を相手に過ごしていて、唯一起きる事件と言えば、ローズの引退? あと、昔この家に出たのかもしれない幽霊?の話。

 何種類もの木や草花の植わった庭のある世田谷の古い家で、男は窓の外の音を聞き、庭に部屋に差す日の光を感じ、部屋の隅の暗がりを見、一緒に暮らす妻や姪や、彼の家に間借りして会社を経営する友人とその社員たちと会話を交わし、3匹の愛猫と遊び、この家の持ち主だった叔父一家・・・かつてこの家で暮らした人、猫、過ごした時間を思い、形而上の存在、形而下の者達に思いを漂わせる。

 句読点で何度も区切られつつ長く長く長く続く文章は、語り手である男の超主観的なところで綴られるているために、読んでいるうちにだんだんと主語も、目的語も時制もわからなくなって、軽いトランス状態に落ちてしまう。

 ・・・で、そういう状態で読んでいると、その長い長い文章は、“~は~である”式の一つの意味を伝える言葉としてではなく、全体として時の流れや、感情の揺れや、空気感、その他五感を刺激する感覚的な言葉として、ある印象をもって沁みこんで来る。

 感覚的なところを刺激してくれる言葉や会話の中に、そうやってゆったりと漂っているうちに、窓の外を通る車やバイクの音、通りを歩く人たちの話し声、秋の夜の虫の声、窓辺に射す日差し、庭の木の枝を揺らして吹いてくる風の匂い、廊下をト・ト・トと走る猫の姿、居間で寝転がっている叔父、毎日拭き掃除をする叔母、庭の木に登る少年時代の男の姿・・・この家につながる人々の肖像が、私の目にも耳にも肌にも感じられてくるような気がする。

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