2014-09-06

かがやく月の宮 : 宇月原晴明

『かがやく月の宮』 宇月原晴明

 『かがやく月の宮』・・・世に伝わる物語の租『竹取物語』とはあまりに異なる、それゆえに秘められてきた奇怪なかぐや姫の物語。

 大陸の西の果てから東の果ての本朝まで、各地で語られ様々に変容した日輪と月の神の神話。政治の嵐に翻弄された皇子や皇女の悲劇。華やかな宮廷文化。月に憑かれた西域の王の奇譚。不老不死の薬を練る仙術を記した書・・・様々な物語の糸を織り込みながらに描かれていく眩惑的な絵巻。誰もが知るあのかぐや姫の物語に寄添うかとおもえば、つと離れ、おとぎ話のように親しんできた物語がいつしか見たこともないものに姿を変える。

 宇月原氏の小説としては長いものではないけれど、作中にとにかく沢山の物語の欠片が埋め込まれているように思える。作中に登場した『黄漠奇聞 月神殿縁起』なる書物は稲垣足穂『黄漠奇聞』の本歌取りであることが作者自身によって記されているが、その他にもイメージやモチーフの結びつきによって多くの物語が想起される。

 すぐに熱を発し太刀や弓も持てぬほど柔弱で内省的な帝の姿は、梨木香歩の『丹生都比売』に描かれた草壁皇子のひっそりとした物語につながり、日輪の神と月の神~美しい姉宮を恋い慕う弟宮のモチーフは、山岸凉子の『月読』と重なったが、それは私の記憶や心持ちが『かがやく月の宮』という鏡に映りこんだものなのだろう。

 煌めく糸で織りあげられた錦のような、このかぐや姫の怪しの物語は、その文目に読む人ごとに様々な、沢山の物語を浮かび上がらせるのかもしれない。



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2012-01-21

赫夜島 : 宇月原晴明

「赫夜島」 宇月原晴明『Fantasy Seller』収録)

 『竹取物語』暗黒の後日譚。

 月に帰るかぐや姫が時の帝に遺した不老長寿の霊薬。富士の山頂で焼かれたはずの霊薬が、何者かの手によって、富士の麓の湖に浮かぶ小島~瘴気に覆われ、生きて動くものの影とてない「赫夜島」に秘匿されているという。

 醍醐天皇の御世~菅原道真の怨霊に脅かされる宮廷。幾重にもめぐらせた几帳の内で、道真の崇りを恐れ、怯え、震える帝の心を安んじるため、かぐや姫の霊薬を献じるべく、藤原北家の公卿・仲平の命を受けて二人の侍が「赫夜島」へと放たれる。一の矢は将門、二の矢は純友。

 湖に白く漂う瘴気の中、眼前に姿を現す「赫夜島」~かぐや姫が五人の貴公子に求めた宝が斯くもおぞましいものに変じた人外境のありさまに瞠目する。

 闇に極彩色で描いた悪夢の絵巻の迫力には息をのむが、短篇であるせいか、歴史と幻想の物語の融合の弱さを感じるところもあり、展開の無理やり感を力技でねじ伏せたような印象が残るのも否めない。やはり、宇月原氏にはじわじわと世界を侵食していくような長大な物語を期待してしまう。




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2011-08-20

聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ) : 宇月原晴明

『聚楽―太閤の錬金窟』 宇月原晴明

 くはぁ~! これまで読んだ宇月原作品の中で一番難解っつ~か、“大変”だった。錬金術とか出てくると、も~わけわかんなくて。

 豪華絢爛な聚楽第-その暗黒の地下洞窟に秘められたもの。秀次が異端の伴天連ポステルとともに身を捧げる錬金術。蒼味を帯びるほどに白く冴えた秀次の顔。異端を狩る「主の鉄槌」。蜂須賀、服部~秀吉、家康が放つ乱破たち。秀吉、秀次、家康、淀君、秀頼・・・天下人たちの心に蠢く闇~その暗い闇より立ち現れ、妖しく輝く魔人・信長の姿。

 とにかく! 狂気じみた秀次よりも、怪しげな異端の伴天連や、その秘儀の数々よりも、秀吉と家康、二人の天下人の心を占める信長の姿が圧倒的なのだ。白い肌、赤い唇、時に蒼くさえ見えた瞳。この上なく華麗な暴君。

 「猿!」と呼ぶ一声に、初めて信長と会った夏の庭に、信長亡き今もつながれ続ける老いた二人~死んだ主に呪縛された下僕のまま天下をとった-『一番欲しいもの以外のすべてを手に入れてしまった』太閤・秀吉と、予め絶望した王・家康。秀次の執念と対峙する秀吉、家康・・・老いた二人の胸の内が・・・くっ、くぅぅぅぅうぅ・・・。

「猿!」 

まぎれもなくあの声。あの、全身全霊を恍惚のうちに支配する主人の呼び声だ。





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2009-11-28

天王船 : 宇月原晴明

 松永久秀を西方の暗殺秘術を受け継ぐ妖人として、異形の戦国史を描いた長編「黎明に叛くもの」の外伝となる短篇集。

「隠岐黒」
 秘術「波山の法」を修め、暗殺者として都に生きる庄五郎と久七郎・・・少年の日の斉藤道三と松永久秀。

「天王船」
 津島天王祭の宵祭、天王川に現れた妖しき船。おびただしい数の提灯の光に照らされ、煌びやかに浮かび上がる船上に舞う異形のもの。

「神器導く」
 信長の死の影に、死して尚蠢く松永久秀の思惑。秀吉の「中国大返し」の裏に秘められた真実。小早川隆景が魅力的に描かれる。

「波山の街-『東方見聞録』異聞」
 フビライ・ハーンの身近に仕えたマルコ・ポーロが、華南の街で目にした戦慄の光景。波斯の暗殺秘術を伝える果心の一族と、微笑みを浮かべたまま殺戮する美しく残忍な少女人形。


 表題作「天王船」 ~ 少年・信長と妖人・久秀の出会いを描いたこの幻想的な一編は、夢のように美しく、通り魔のように不穏。

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2009-11-25

黎明に叛くもの : 宇月原晴明

 松永久秀 - 『信長より過激、道三よりしたたか ― 戦国一婆娑羅な悪党』という謳い文句から想像するのは、妖しく禍々しく都に跳梁する美オヤジの姿だったが・・・。遥か西方より伝わる妖術・波山の法を操り、綺羅星の如き乱世の英雄達を相手に策をめぐらす華奢で小柄な美ジジイは、まるで一人遊びに興じる幼子のようにかわいらしく、無心。

 同じ波山の法を伝える兄弟子・斉藤道三が久秀を評して語った傍若無人~傍らに人無きが若し~という言葉が、久秀の純粋さと孤独をピタリと言い当てている。

 傍若無人・・・人を人とも思わぬ悪辣非道というのではない。自らが王である自らの内なる世界の他に世界があることを認め得ぬ、ただ自らの世界に遊ぶいたいけな幼子。

 金髪碧眼美少女の如き傀儡・果心のみを伴に(友に)独り戦場を駆ける姿はいじらしくすらある。


 他を圧倒して世に輝く日輪・信長の光に否応もなく飲み込まれようとする運命を、最期まで認めなかった久秀。その生は、己のみを自らの主人とし、自らの光のみを恃みとして、昇り来る日輪に叛き続けた明けの明星。

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2009-05-16

信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス : 宇月原晴明

 口伝に曰く『信長公は両性具有(ふたなり)なり』と

 
 何だか魔術(マジック)を見せられているみたい。

 シリアの太陽神・バール信仰、<渡りの神)牛頭天王、黙示録、神話に語られる剣と石、信長に纏わる伝承、俗説・・・・・・。西方から流れてくる妖しげなモノどもに、東洋の東の果て・日本の戦国時代を掛け合わせると、何と! 美少女の姿をした信長が現れる。

 片や物語、片や論文 ~ 散在するピースを、物語を紡ぐ為に組み上げるか、真実を見つける為に配置していくか、という明らかな違いはあるけれど、ばらばらに散らばっていたピースが定められた場所に嵌っていくに従って、ひとつのストーリーが立ち上がってくるあたり、梅原猛の古代史に関する論文を読んでる時の感覚に似ている。

 
 バール=牛頭天王信仰を介して、信長に重ねられるローマの少年皇帝ヘリオガバルス ~ 統一と破壊の異常な情熱を持つ二人の王。そしてその情熱の残滓は、20世紀ヨーロッパに現れた、もう一人の“統一と破壊の王”へ。

 古代シリア、ローマ帝国、キリスト教世界、天竺から中国を経た仏教思想・・・ユーラシア大陸の歴史~時を、場所を自在に往還して物語は語られるのだけど、残念ながら私には西洋への関心と知識が決定的に欠けている為、多分その物語の半分くらいしか楽しめていない。ひたすら、異様な信長像を中心に描きなおされる戦国武将たちの戦いの顛末のみ貪り読んで、脳内モニターに映し出す。


 美しい少女のような信長・・・っていうのは、私の妄想力の限界を超えているが、毘沙門天の化身・堅物の謙信が、第六天魔王・信長に誘われた夢幻の中で殺される場面は、うっとりするような妖しい美しさ。

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2009-05-06

廃帝綺譚 : 宇月原晴明

 「安徳天皇漂海記」より連なる四つの短編。

 西海に沈んだ安徳帝の体を包み守る琥珀色の玉。その玉と同じ蜜色の光を放つ小珠を伝える大陸の皇帝たち。元最後の皇帝・順帝、明二代皇帝・建文帝、明末の崇禎帝。遥か昔に棄てられ流された日本の古の神の肉が変じたと伝えられる、蜜色に光る玉を介して、時も場所も超えてつながりあう廃帝たちの物語。

 追われ、流され、廃され・・・悲しみ、疲れ、荒ぶ皇帝たちの側にあって、夕日にも似た蜜色の光を溢れさす小さな玉。溢れる光の中に、廃帝たちは己の魂の求める場所を見たか・・・。


 「安徳天皇漂海記」から続く、この長い幻想譚を締め括る後鳥羽院の物語が特に良い。

 兄宮・安徳帝の身を包んだ真床追衾(まとこおうふすま)=水蛭子(ひるこ)の大玉に対する、淡島の小珠を手にした後鳥羽院。

 伊邪那岐・伊邪那美の第一・第二の御子として生まれながら、神の数に数えられることなく流された水蛭子、淡島、二柱の兄弟神のイメージを底に流し、神器と共に海に沈んだ安徳帝を背景に置きつつ、神器無くして即位した後鳥羽帝の、寄る辺のない心を幻想の中に描き出す。

 全てを失った後鳥羽院が、最後に拠り所とした歌をもって、実朝~日本の王として、荒ぶる安徳帝の魂を引き受け、自らの首をもって鎮めた鎌倉三代将軍に応えるクライマックスは、もう・・涙がほとばしります。


 この壮大な幻の物語・・・単なる絵空事 ~ 摩訶不思議な幻想譚、荒唐無稽な夢物語だと割り切ってしまうことができない。顕かには語られない秘められた歴史、秘められた物語としての真実味が胸を突く。

 教科書では何気なく目にしていた実朝・後鳥羽院の海の歌が、こんなにも荒々しい生命力、生々しい息づかい、哀しみを帯びた清々しさをもって迫ってくるとは!!!

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2009-05-02

安徳天皇漂海記 : 宇月原晴明

 最後の頁を閉じてしばし放心の後、号泣。 「実朝ォォォォォォ~!!!」

 第一部「源実朝篇」を読みながら、ふと、皇なつきさんが岡本綺堂の戯曲を元に描くところの「修善寺物語」~頼家の姿が頭をよぎる。皇なつきさんの手による二代将軍頼家は、気高く、激しく、そして、あわれに哀しかったけれど、この物語に描かれる三代将軍実朝の姿は、それに勝るとも劣らず美しく哀しい。

 自らの身の負った罪と、将軍とは名ばかりの己の無力さに苛まれながらも、この国を守ろうとした若き王。

 その実朝が自らの首を捧げて鎮めんとした荒ぶる魂。壇ノ浦の戦に敗れ、西海に沈んだ後も琥珀色の玉に包まれ、変わらぬ姿のまま生きつづける幼帝。

 第二部は「マルコ・ポーロ篇」。怨恨・絶望・無念・悲哀を呑んで、大海を漂う安徳帝の魂は、遥か大陸、クビライ・カーンの夢に現れ、滅び行く南宋の幼皇帝と交感する。


 一瞬の間に見た幻とも、遥かな神代から続く壮大な叙事詩ともつかぬ物語。妖しく輝く光に幻惑され、現と幻の間を大きくうねる大海の波に巻かれ、辿り着いたその先・・・

 しばしの放心。そして号泣。

 「実朝ォォォォォォゥ~~~~!!!!!」

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