2013-03-23

告白 : 町田康

『告白』 町田康

 町田康がしばしば描く「考えることは理路整然としているものの、行動が無茶苦茶な男」の極め付きのような博徒・城戸熊太郎。

 プリミティブな河内弁しか言葉を持たない熊太郎は、やたらと思弁的なその頭の中を正しく言語化することができない。複雑すぎる思考が言動の足をひっぱるため、熊太郎はどんくさい。適切な言動としてアウトプットされない思考は内に向かって渦巻き鬱屈した挙句、あるいは奇矯な行いとなって溢れ出し、あるいは虚無的な思念となって蟠り、思考と言葉と行動が一直線である村人たちの中で、熊太郎は孤立する。合理的な思考の末にとったはずの行動が不合理な結果ばかりを招き、遂には大量殺人者と成り果てる熊太郎。

 明治26年赤阪水分村で起きた事件「河内十人斬り」を題材に、言葉にはならなかったものを凝視し、言葉にしようとした町田康の試み。


 自分の(脳内の)言葉が世間に通じないことに苦しみ、自分の言葉を理解せぬ世間を阿呆だと思う人は世の中にごまんといて、結果として何一つまともなことのできぬ熊太郎に寄せられる共感も少なくはないだろう。森見登美彦『四畳半王国見聞録』の主人公がもらす『一人でいる時はこんなにステキな俺なのに、なぜ他人が目の前にいるとヘンテコになるのであるか!』という心の叫びも、何か熊太郎の姿に重なるのである。


 思考と言葉と行動を一直線にするには、言葉にして実行できることしか考えぬか、思考を正確に言語化し行動として実現する知力・胆力を持つか、思考と言動の間の微妙な(あるいは大幅な)ズレに鈍感になる等するしかなく、そうやって(むりやりにでも)一直線になった思考・言葉・行動は、米や野菜や便利な道具や、先進的な技術や人々の胸をうつ芸術・文芸を生むが、言語化されず行動とズレつづける思考と、それでも思考と合一しようとるす行動は、・・・ただ一人、自分以外誰も読まぬ文学を生む。 

 人は社会的に共有される価値のためだけに生きているわけではないだろうけど・・・・・・「『誰にも読まれることのない文学』的人生」って・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だめなんじゃないのか? いや、そもそも耐えられるのか、それに?




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2012-12-29

猫とあほんだら : 町田康

『猫とあほんだら』 町田康

 こういうことを書くと、きっと沢山の反感を買うだろうと恐いのだけども・・・どんなに可愛いくても、「ペットは畜生だ」と思ってしまう。

 だって、飼い主たちはものすごく愛情を注いでいるつもりのペットでも、傍からはご主人様の快楽のための奴隷にしか見えなくて、“残酷だなぁ~”と思うことがあるし、ペットを家族の一員と言わんばかりに遇している方の家におよばれして、犬猫と一緒に食事をするのは不快だ。

 ペットって「畜生」だからこそ、人間は飼い主としての責任と良識と愛情を持たなくちゃいけないんだと思うのだけど・・・。

 良質な猫エッセイを書く人の視線とか心性って何とも不可思議なんだよなぁ。なんで、近づいただけで「シャーッ」と威嚇し、さわれもしない生き物に、あんな慈愛と新鮮な敬意をもって接することができるんだろう。猫を家族の一員として人間と同列に置くでもなく、単なる愛玩物として扱うのでもなく。猫にしたって、たとえ飼い主のくれるエサが無くては生きていけなくても、なぜか「畜生」にはならない。そこには、「猫との暮らし」という不思議なものがある。




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2011-05-25

浄土 : 町田康

『浄土』 町田康

 悪いこと続きで精神が危機的状態にあり、占い師にすがった挙句、占い師に予言された不吉なものを見てしまう男(「犬死」)

 町会費を六ヵ月分滞納するほどに超然としていたが為に、俗物的に心の捻じ曲がった町内の皆からつまはじきにされ、たばかられ、一人でどぶの中に佇む男の悲憤。(「どぶさらえ」)

 俺は俺であるということで既に素晴らしい。(「あぱぱ踊り」)

 『闇に向かっておもうさま本音を言ってこましたろうと思ったが、何も思いつかなかった。』(「本音街」)

 信じられないほど卑怯かつ狡猾かつぼんくらな男と、ありえないほど心が捻じ曲がった男と、その上司と同僚と・・・そんな職場で働く女。(「自分の群像」)


 どんなにはっきりと現実を捕らえていても、はたまた現実に背を向けた超現実の中に閉じこもっても・・・皆、駄目じゃん。駄目なんじゃん。

 無力感というか、虚脱感というか、疎外感というか・・・そんなものにとりつかれる。結局、孤独・・・なのか。

 ・・・私ゃ最近口を開けば孤独孤独ばっかり言ってて、もうちょっと開けた心持ちになれないもんかと、自分に言ってやりたいような気もするが。




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2011-04-23

フォトグラフール : 町田康

『フォトグラフール』 町田康

悲しい。せつない。何を信じていいのかわからない。
そんな世の中で私が唯一、信じられるのが写真である。


 うふふ。ゆる~っとした奇想天外。何か写真はトボけてるし、ズレてるし、言葉を操ることに巧みな人の繰り出す文章ってのは気持ちがよくて・・・ 体と気持ちが“ふぅわぁ~っ”とした良い塩梅になります。

 でもね、巻末を飾る「前半分黒で後ろ半分白いヤギ2匹」の写真は“いったいどういう加減でこんな柄に?!”と気になって気になって・・・。写真のパンチ力(というか自然の驚異?)が町田氏の言葉を凌いでるなぁ。




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2009-09-26

パンク侍、斬られて候 : 町田康

 江戸時代、ある晴天の日、街道沿いの茶店に腰かけていた浪人は、そこにいた、盲目の娘を連れた巡礼の老人を、抜く手も見せずに太刀を振りかざし、ずば、と切り捨てた。居合わせた藩士に理由を問われたその浪人・掛十之進は、かの老人が「腹ふり党」の一員であり、この土地に恐るべき災厄をもたらすに違いないから事前にそれを防止した、と言うのだった…。



 社会的困ったチャンの展示会みたいなことになってるとある藩で、困ったチャンたちは困ったチャン独自の理念と理屈に則って、それぞれの計画を進めている。そして発動した、無意味でアホらしいことこの上ない「腹ふり党」ヤラセ作戦。

 何やかやと訳分からんうちに状況は切迫。ヤケクソとなって腹を振るエセ「腹ふり党」と困ったチャンたちだが・・・

 おふざけ的悪巧みから始まったナンセンスな大騒ぎは、ある時、そのバカ騒ぎを計画した困ったチャンたちの目の前で、本当の混乱、本物の恐怖へと、“ぐるっ”と変質する。

 困ったチャンたちの困った具合を、「はは、バカだこいつら。いるんだよね、こういうバカ。」なんて、アハハと眺めていると、バカバカしい笑いだったはずのものが一転、身の毛もよだつ恐怖に変わってしまっているという転換は、中島らもさんの「こどもの一生 」に似てる。「こどもの一生」の恐怖の方が多少エンターテイメント寄りで、「パンク侍~」の恐怖はブンガク寄りかなぁ、なんて思うけど。

 ブンガク的恐怖の中で、困ったチャンたちは、それぞれにオトシマエをつけるべき自分と対面させられて、幕。

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2009-03-04

真実真正日記 : 町田康

 ぅわぅ! ドンデン返されてしまった。

 文章を書くことを生業とし、傍らバンドを組んでライブをしたりもする男。我と我が嘘に疲れ果てて書き始めた、垂れ流すように日常を綴る日記。

 日常には面白く愉快なこともあれば、理屈で割り切れぬこともあり、他人とはよく分からないものであり、自分も何だかよくわからないものである。

 日常の小さな混乱に巻き込まれ ~ ぐるぐると思考をめぐらし ~ 何とか納得いく答えを引き出して ~ または答えの出ない疑問のままに ~ 自分の中の小箪笥にしまう。その一々の描写が何だか滑稽で情けなく、力なく笑ってしまう。

 世の納得いかぬ事柄にに対する作家氏の考察は、実に理路整然と良識的であり、読みながら小さく胸のすくような思いをするが、日頃の鬱憤を、他人の言葉を取り込んでちょこっと解消している自分自身の醜さに気付かされて嫌な気分にもなる。

 それにしても・・・ 確かに希望に満ちて明るい内容・・・ではないにしても、力が抜けて愉快でもある日記なのに、なぜこの本はこんなにも真っ黒な装丁なんだろうかと気にかかる。

 そして・・・


 もう一度ラストの部分を読み返し、改めてどろっとした気分になる。

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2008-09-27

くっすん大黒 : 町田康

 面白い!って言うのはひねりがなさ過ぎるなぁ。 軽妙な? 違う・・・ 珍妙な? ん~何かそんな感じ? 町田氏独特の語り口、その迫力・押しの強さにぐんぐん持っていかれて読みきっちゃう感じ。

 「くっすん大黒」「河原のアパラ」・・・いずれの主人公もいつのまにやら定職を離れ、何をしようというのでもなく、毎日酒を飲んでぐだぐだな生活をする男。だからと言って性格破綻した、または破滅にひた走るノーフューチャーな奴というわけではなく、いよいよお金に困ってくれば嫌な仕事だってしないわけじゃないし、嫌々ながらも引き受けた仕事はきちんとこなそうと頑張りもするし、世間の機微には通じているし、ケンタッキーでチキンを買うのに「フォーク並び」をしなかったり、常識はずれな言動で職場の和をみだすような社会正義に反する輩を正そうというくらいの気概のある人物だったりする。

 傲慢で、不条理で、理不尽な世間をさらりとやりすごし(世間から距離おかれてるだけだけど・・・)、吹く風に流される雲のように何物にもとらわれず生きる無頼な男達。これぞパンク! カッコイヒィィ! それに比べてこのちっちゃくまとまっちゃってる自分のつまんなさ。

 ・・・なんて思ったりはしない。だって昼間から酒飲んで、風呂にもろくに入ってないようじゃきっと臭いし・・・そんなのは絶対イヤだも~ん!

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2008-06-14

東京飄然 : 町田康

 「作家のとらえた幻想的な東京」というサブタイトルがついているけど、「幻想的」というよりも「妄想的」といった方が良いのではないかしらん? しかしまぁ、最近は「妄想」も「幻想」と表現されるようだけど。

 飄然と旅をしたくなった。思い立って、ぶらりと旅に出る。都電に乗って早稲田へ、飛鳥山へ。友人と車を駆って鎌倉~江ノ島へ。飄然と漫然の間には厳然とした違いがあって、飄然旅行とはただぼんやり歩いているだけでは絶対ダメなのだ。飄然と、飄然と・・・ちゃんと飄然とできるように厳しく吟味しながら。しかし、なぜか(当然?)飄然旅行は妙な具合に失敗し・・・。

 自らの失敗を反省し、真の飄然者たらんと求道的に自問を繰り返し、また街へと出てゆく男の旅は、いっそう袋小路へ。

 世の不正を正し(頭の中で)、間違った行いをする人を諌め(頭の中で)、自分をあなどるものたちに悲しみと怒りをぶつける(頭の中で)。

 必死の形相で飄然と苦行のような旅をする男が見るものは、幻想か妄想か真相か?

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2007-06-06

人生を救え : 町田康・いしいしんじ

 町田康がお悩み相談に答える「どうにかなる人生」、町田康・いしいしんじの二人が街を眺め人を社会を語りながらぶらぶら歩く「苦悩の珍道中」の二本立て。

 町田康のお悩み相談というと、かなりトリッキーな回答が展開されているのではないかと思ったんだけど、意外にも誠実な相談員ぶり。といっても文面から感じられる、相談者に向かう町田氏の姿勢が誠実だということで、結果として提示される解決方法はトリッキーだとも言えるんだけどね。

 私は悩み相談というのが苦手で、相談することも、されることも滅多にない。相談する際には、自分の困難な状況を人に解ってもらえるように説明するのが面倒で、そんな面倒なことをするくらいなら自分で何とか消化してしまおうと思ってしまう。相談される側・・・ということについていえば、私の身近な友人達は私の人生の経験値の低さを知っているので、私を相談相手として選ぼうとはしない。

 さて、町田氏の悩み相談。一見取るに足らないと見える相談にも、相談者の気持ち、向かいたい方向性、悩みの底に横たわる諸事情を推し量り、なるべく希望に添える回答を導き出そうとする氏の態度は真剣、誠実。ああ、他人の問題にここまで誠実に答えて上げられる人がいるんだ、と小さく感動する。

 ただ、真剣に誠実に考えて導き出した答えが必ずしも無難で社会的に穏当なものであるとは限らないのだ。個人の悩みを解消するためには、社会的には不穏当、奇行と思われることも行わなければいけないのだから! それができないのであれば多少のモヤモヤ、不都合を受容する寛容さを持つしかない。

 この悩み相談を受け、その後心の箍を外して思い切り奇行に走った!という人はいたのだろうか? それとも多くの人が悩みを生む人間関係を受容する寛容さを身につけていったのだろうか?

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2006-12-13

屈辱ポンチ : 町田康

 町田康の小説を読むと、どうも複雑なというか嫌~な気分に落ち込んでしまう。

 作品がつまらないわけじゃない、むしろ面白い。でも・・・

 巻末の解説の冒頭に「町田康の小説は面白い。」と書いてあるのを見つけると、“う、う~~~ん~~~”と唸ってしまうのだ。

 もちろん解説者が“きゃはは♪”と無邪気に笑える類の面白さのことを言っている訳じゃないのは分かるし、その解説者がおっしゃる「いざというときになると、普通に社会で生きる価値観や感覚なんて何ほどのものでもなくなって、人間には文学が迫上がってくる」ということも何とはなく理解できる。

 でもね・・・やっぱり困るし、迷惑なのだ。

 社会から一度転落したら、そこにはブンガク的な現実が口を開けているとしよう。それでも、にっちもさっちもいかなくなって、そのブンガク的現実に直面させられるまでは、社会人根性まるだしで何事もなく暮らしたいと思う私にとっては、迷惑なのだ。

 考えることは理路整然としているものの、行動は無軌道な男が家中を汚物で一杯にし、人に暴言を吐きまくり、殴る蹴るどつく、殴られる蹴られるどつかれる、そこに猿や謎の肉食昆虫まで登場して、十重二十重にクンズホグレツ、阿鼻叫喚の坩堝というのは・・・迷惑なのだ。

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