2009-12-30
草祭 : 恒川光太郎
草祭 / 恒川光太郎
団地の奥の用水路の先に現れる見知らぬ野原。中庭から迷路のように繋がる古い家々。屋根の上の獅子舞。打ち棄てられた線路の先の民家。朧な町。ふと視界を横切る姿の曖昧な獣。
『わけがわからないけど、少し心魅かれる』不思議なもの、この世の外にある何ものかを隠した土地・美奥。美奥に時折姿を現すこの世の外のモノは、いつもの見慣れた世界と緩やかに繋がっている。複雑なバランスの上に立ち、互いに微かに影響しあうこの世の日常と異界のできごと。
どこか懐かしく慕わしげな様子をした異界の、しかし徹底した厳格さ、非情さ、人間界との無縁さが恒川光太郎の魅力だと思っていた。だが、『草祭』では、異界が(そこで起こることがどれほど不可思議で怖ろしいことであろうと)人間に寄り添うものになっていて、少しだけ、何だか・・・違和感というか・・・がっかり・・・した。
それでも・・・『夜市』や『風の古道』に比べるとやや薄まってはいるが、恒川光太郎の描く異界の香気は魅惑的で、これからも吸い寄せられてしまうだろうなぁ・・・と思う。
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団地の奥の用水路の先に現れる見知らぬ野原。中庭から迷路のように繋がる古い家々。屋根の上の獅子舞。打ち棄てられた線路の先の民家。朧な町。ふと視界を横切る姿の曖昧な獣。
『わけがわからないけど、少し心魅かれる』不思議なもの、この世の外にある何ものかを隠した土地・美奥。美奥に時折姿を現すこの世の外のモノは、いつもの見慣れた世界と緩やかに繋がっている。複雑なバランスの上に立ち、互いに微かに影響しあうこの世の日常と異界のできごと。
どこか懐かしく慕わしげな様子をした異界の、しかし徹底した厳格さ、非情さ、人間界との無縁さが恒川光太郎の魅力だと思っていた。だが、『草祭』では、異界が(そこで起こることがどれほど不可思議で怖ろしいことであろうと)人間に寄り添うものになっていて、少しだけ、何だか・・・違和感というか・・・がっかり・・・した。
それでも・・・『夜市』や『風の古道』に比べるとやや薄まってはいるが、恒川光太郎の描く異界の香気は魅惑的で、これからも吸い寄せられてしまうだろうなぁ・・・と思う。
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2008-12-06
秋の牢獄 : 恒川光太郎
秋の牢獄 / 恒川光太郎
際限なく繰り返す11月7日に閉じ込められた者たちの苦闘と、それでもそれなりに過ごす日々『秋の牢獄』は、自分の力と思惑の及ばない世界でも、仲間を作り、考え、悲しみ、楽しみを見つけ、感情を揺らめかせる人たちの姿と、それとは全く関係無く自らのルールを刻む異界との対比が痛い。
日本各地を移動しながら、ある場所に決められた時間にだけ現れる「家」。神域のようなその「家」に取りこまれた青年の話『神家没落』は、その穏やかな青年の「家」での不思議で静かな体験が、グルリと醜悪なものに姿を変える。その瞬間の嫌ぁな味わいがいつまでも皮膚から離れない。
描いた幻を現実として見せることのできる能力を持った少女・リオの数奇でグロテスクな境遇を語る『幻は夜に成長する』は、額面どおりに読んでも、やるせなさと膨らんでいく恐怖に満ちた話なのだが、“やはりこれは、リオの心の中だけの闇の物語なのではないか?”とも読めて怖ろしい。
日常を踏み外してしまった先の異世界。その異世界に捕まった人たちの異様な体験、苦悩、恐怖とも高揚感とも言えぬ心のあり様・・・。ストーリーにはまっていくうち、無意識に求め始めているラストでのカタルシス。・・・そいいう意識していなかったところでの欲求はことごとく裏切られる。
恒川光太郎氏の描く異界は、どこか懐かしげな風景を持ち、時に日常からこぼれた者をその内に引き込みながら、その世界の理は人間界とはまったく関係の無いところにある。その「関係の無さ」が、私をざっくりと傷つける。
その“傷つけられた感じ”が忘れられなくて、私は恒川光太郎の新作を心待ちにする・・・そういうことになりそうだなぁ。
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際限なく繰り返す11月7日に閉じ込められた者たちの苦闘と、それでもそれなりに過ごす日々『秋の牢獄』は、自分の力と思惑の及ばない世界でも、仲間を作り、考え、悲しみ、楽しみを見つけ、感情を揺らめかせる人たちの姿と、それとは全く関係無く自らのルールを刻む異界との対比が痛い。
日本各地を移動しながら、ある場所に決められた時間にだけ現れる「家」。神域のようなその「家」に取りこまれた青年の話『神家没落』は、その穏やかな青年の「家」での不思議で静かな体験が、グルリと醜悪なものに姿を変える。その瞬間の嫌ぁな味わいがいつまでも皮膚から離れない。
描いた幻を現実として見せることのできる能力を持った少女・リオの数奇でグロテスクな境遇を語る『幻は夜に成長する』は、額面どおりに読んでも、やるせなさと膨らんでいく恐怖に満ちた話なのだが、“やはりこれは、リオの心の中だけの闇の物語なのではないか?”とも読めて怖ろしい。
日常を踏み外してしまった先の異世界。その異世界に捕まった人たちの異様な体験、苦悩、恐怖とも高揚感とも言えぬ心のあり様・・・。ストーリーにはまっていくうち、無意識に求め始めているラストでのカタルシス。・・・そいいう意識していなかったところでの欲求はことごとく裏切られる。
恒川光太郎氏の描く異界は、どこか懐かしげな風景を持ち、時に日常からこぼれた者をその内に引き込みながら、その世界の理は人間界とはまったく関係の無いところにある。その「関係の無さ」が、私をざっくりと傷つける。
その“傷つけられた感じ”が忘れられなくて、私は恒川光太郎の新作を心待ちにする・・・そういうことになりそうだなぁ。
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2008-03-05
風の古道 : 恒川光太郎
風の古道 / 恒川光太郎 (「夜市」収録)
「夜市」と同じく、異界に踏み込んでしまった少年のお話ですが、「夜市」よりもさらに不思議な・・・、この結末を何処にどう収めればいいのか?という気持になる、何とも言えない読後感。
十二歳の夏の日、ある少年が親友と共に、この世とは別に存在する秘密の道-古道を旅し、元の世界に帰ってくるまでの出来事。
~こう書くと、よくある「少年の冒険と成長の物語」を思い浮かべてしまいそうになるけど、これはまったくそんな冒険の物語ではない。
古道を旅する少年を、怪異や事件や困難が襲う ~数ある冒険譚の少年達が経験するのと同じように。異界で途方に暮れる少年に味方してくれるものも現れる。しかし、この物語が所謂少年の冒険譚と異なるのは、少年が経験する古道での出来事が、“少年の為に”“少年を中心に”起こっているのではないという事。少年の存在に関係なく、古道ではいろいろな出来事があり、少年は偶然その出来事の一端に行き当たっただけ・・・。
冒険譚の少年達が、降りかかってくる事件の中心にあり、それによって良くも悪くも変化していくのに対して、古道を旅する少年には、そんな変化のきっかけは与えられない。少年側の事情は、古道の大きな営みに対してあまりにちっぽけで相手にもされない。
少年に何の変化ももたらさないまま、少年の意志ではなく、どちらかというと古道の世界の都合で、少年の旅は終わる。この旅が後年大きなトラウマとなって少年の心に残らなければ良いが・・・
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「夜市」と同じく、異界に踏み込んでしまった少年のお話ですが、「夜市」よりもさらに不思議な・・・、この結末を何処にどう収めればいいのか?という気持になる、何とも言えない読後感。
十二歳の夏の日、ある少年が親友と共に、この世とは別に存在する秘密の道-古道を旅し、元の世界に帰ってくるまでの出来事。
~こう書くと、よくある「少年の冒険と成長の物語」を思い浮かべてしまいそうになるけど、これはまったくそんな冒険の物語ではない。
古道を旅する少年を、怪異や事件や困難が襲う ~数ある冒険譚の少年達が経験するのと同じように。異界で途方に暮れる少年に味方してくれるものも現れる。しかし、この物語が所謂少年の冒険譚と異なるのは、少年が経験する古道での出来事が、“少年の為に”“少年を中心に”起こっているのではないという事。少年の存在に関係なく、古道ではいろいろな出来事があり、少年は偶然その出来事の一端に行き当たっただけ・・・。
冒険譚の少年達が、降りかかってくる事件の中心にあり、それによって良くも悪くも変化していくのに対して、古道を旅する少年には、そんな変化のきっかけは与えられない。少年側の事情は、古道の大きな営みに対してあまりにちっぽけで相手にもされない。
少年に何の変化ももたらさないまま、少年の意志ではなく、どちらかというと古道の世界の都合で、少年の旅は終わる。この旅が後年大きなトラウマとなって少年の心に残らなければ良いが・・・
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2008-03-01
夜市 : 恒川光太郎
夜市 / 恒川光太郎
ある日、ある時、この世のどこかに現れてひっそりと開かれる「夜市」。いくつもの世界につながり、この世ならぬものたちが、ありとあらゆるものを売り買いするその市に迷い込んだ一夜のお話。
高校時代の同級生・裕司に誘われ、何も知らないまま「夜市」に連れて行かれた大学生・いずみ。
「夜市」ではありとあらゆるものが売られているが、そこで何も買わない者、何も欲しいものが見つからない者は「夜市」から出ることが出来ず、「夜市」の一部になってしまう。
なぜ裕司は、いずみに何も知らせないまま「夜市」に誘ったのか・・・?
自分たちが「夜市」から出られなくなっていることに気付いたいずみに裕司が語り始める。
少年の頃、弟と共に迷い込んだ「夜市」で、自分が元の世界に戻るために、幼い弟を売って「野球」の才能を買ったこと、そして今、その時売った弟を買い戻すために「夜市」にやってきたこと。
なぜ裕司は、いずみに何も知らせないまま「夜市」に連れてきたのか・・・?
自分が暮らす世界のすぐ地続きに口を開けている異界の不気味さもさることながら、自分とともに異界を行く、すぐそこにいる人の心の量れなさ、正体のわからなさ・・・そのことの方が胡乱な闇を生み怖ろしい。
裕司の心は「夜市」に飲み込まれてしまったのか・・・。裕司が抱えていた罪の意識、この世で生きる価値を信じられない苦しさ、虚しさ、自分をつなぎとめておけない弱さ・・・。その心には量りきれない闇がある。
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ある日、ある時、この世のどこかに現れてひっそりと開かれる「夜市」。いくつもの世界につながり、この世ならぬものたちが、ありとあらゆるものを売り買いするその市に迷い込んだ一夜のお話。
高校時代の同級生・裕司に誘われ、何も知らないまま「夜市」に連れて行かれた大学生・いずみ。
「夜市」ではありとあらゆるものが売られているが、そこで何も買わない者、何も欲しいものが見つからない者は「夜市」から出ることが出来ず、「夜市」の一部になってしまう。
なぜ裕司は、いずみに何も知らせないまま「夜市」に誘ったのか・・・?
自分たちが「夜市」から出られなくなっていることに気付いたいずみに裕司が語り始める。
少年の頃、弟と共に迷い込んだ「夜市」で、自分が元の世界に戻るために、幼い弟を売って「野球」の才能を買ったこと、そして今、その時売った弟を買い戻すために「夜市」にやってきたこと。
なぜ裕司は、いずみに何も知らせないまま「夜市」に連れてきたのか・・・?
自分が暮らす世界のすぐ地続きに口を開けている異界の不気味さもさることながら、自分とともに異界を行く、すぐそこにいる人の心の量れなさ、正体のわからなさ・・・そのことの方が胡乱な闇を生み怖ろしい。
裕司の心は「夜市」に飲み込まれてしまったのか・・・。裕司が抱えていた罪の意識、この世で生きる価値を信じられない苦しさ、虚しさ、自分をつなぎとめておけない弱さ・・・。その心には量りきれない闇がある。
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