2008-03-22

象られた力 : 飛浩隆

 『デュオ』『呪界のほとり』『夜と泥の』『象られた力』四篇の中・短編を収録。そのいずれもが生物の形をとらないところで発現する「生命」を、ヒリヒリする緊迫感で描き出している。

 情報がやりとりされる場の中で、あたかもその流れにつけられた傷のように現れる「意識」。遺伝情報を元に空間に繰り返し再生される「生命」。図形に備わるウィルスにも似た「力」。

 ばらばらに存在していた小さな組織が徐々に寄り集まり、収斂してゆき、ついに生命としての姿を現す様を、私たちはじりじりした感覚と共に目の当たりにすることになる。

緊迫感は、急ぎすぎない絶妙のテンポコントロールによってさらに増幅される。



 『デュオ』作中の言葉である。

 著者の筆致は正にこの言葉の如く絶妙にコントロールされている。決して私たちに、逸る心のまま読みとばすということをさせない。ほんの少し集中力を欠いただけで、形を成し始めていた「生命」は、またバラバラに拡散してしまう。私たちが正しくこの驚くべき「生命」の発現を見る為に必要なコントロールを、著者は与えてくれる。

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2008-03-12

ラギッド・ガール-廃園の天使Ⅱ : 飛浩隆

 ネットワーク上の仮想リゾート<数値海岸> - ゲスト(現実世界の人間)の訪問が途絶えて久しいその一区画<夏の区界>を突然襲った崩壊の恐怖を描いた「グラン・ヴァカンス―廃園の天使Ⅰ」に続く、シリーズ第2章。

 <数値海岸>創生の技術的背景、そこに関わる人たちの秘められた欲望。ゲストの訪問が途絶えたまま、<数値海岸>が存在し続けている理由、その真相。<夏の区界>に恐怖と苦痛と崩壊をもたらした<蜘蛛の王>ランゴーニの過去。

 「グラン・ヴァカンス」で<夏の区界>に現れたモノ、事象につながるできごとが、異なる視点から・・・現実世界の側から、また異なる時点・異なる区界でのできごととして語られる。広大な物語のピースが少しずつ嵌っていく。<数値海岸>創生期の精神的、技術的模索の影で顕わになり膨らんでいくグロテスクな欲望。

 どこかいびつな女性のイメージが作品全体に漂っている。

 傷だらけの少女のモチーフ。傷、もしくは苦痛として記録される世界。抗い難い力に自分が分解、解体されのみ込まれていく悪夢のような恐怖。

 <数値海岸>の内外で起こる、胸が悪くなるような禍々しく、異様で忌むべき出来事を描きながら、残酷でグロテスクな描写が下品にならない。どこか詩的で、独特の哀しさと倒錯した美しさを湛えている。

 5篇の中・短篇に圧縮された作品の中に、膨大な情報量がつまっており、数々のイメージが埋め込まれている。読者がその情報をどのように読み解き、受け取ったイメージから何を想起するかは、それぞれに異なるだろう。そこにもう一つの広がりが生まれるように思う。



まったくの蛇足ですが・・・

「傷だらけの少女」、区界から別の区界へと送られる郵便物に貼られた「切手」・・・筋肉少女帯の曲「何処へでも行ける切手」を連想してしまった。ここまで私の中に筋少の曲がくい込んでいるかと・・・

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2008-02-27

グラン・ヴァカンス-廃園の天使Ⅰ : 飛浩隆

 現実世界の人間をゲストとして招く為に、ネットワーク上に創り出された仮想リゾート<数値海岸>の一区画・<夏の区界>。しかし、<夏の区界>へのゲストの訪問は途絶えて久しく、区界の住人であるAIたちだけで過ごす夏の日がもう1000年も続いている。

 突然、<夏の区界>を蝕む力・・・「蜘蛛」が区界の空に「無」の穴を開けて降り注いで来る。餓えにみちた「蜘蛛」は住人を襲い、街を飲み込み、すべてを無惨に無化していく。わずかに生き残ったAIたちは「東の入り江」の「鉱泉ホテル」に立て籠もり、能力の限りを尽くした最後の抵抗を試みる。

 例えば、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」で世界を襲う「無」は、主人公の少年の勇気と希望によって退けられるものだったが、その存在が予めプログラムされたものであるAIたちの戦いは、初めから絶望的なものであることが予感される。

 歴史と美しい風景を持つ<夏の区界>に、個々の記憶と個性と魂を持って生きるAIたちの生存をかけた悲壮な戦い・・・プログラムされた存在でありながら、上位のプログラムに抵抗を試みた美しいAIたち。彼らには何故“体験されていない記憶”が刻印されているのか? 彼らの戦いは何の為なのか?

 驚くべきヴィジュアル・イメージで描かれる「プログラム」の戦いは、感情と存在感を持つ彼らにふさわしく、残酷でグロテスクで苦しみに満ちている。その悲惨さと苦しみの先に、まだ終わりではない「何か」を含んで物語は進む。

 ここで語られた一つの区界での攻防は、大きな物語の一部でしかない。全体像が現れるのはいつか・・・。

 
 “存在し始める以前の”歴史や記憶を付与され、深みのあるバックボーンとディティールを備えた世界として、仮想リゾート<数値海岸>がネットワーク上に現れたように、紙の上に見たことも無い世界を出現させる著者のイメージと筆の力に驚嘆する。

 区界の事象に影響を及ぼす石・「硝子体」を唯一の武器に戦う少年・ジュール、少女・ジュリー、青年・ジョゼら特別なAIたち・・・ 

 先を読みたくて、気持ちとページをめくる指は逸るのだけど、そんなに急いで読み飛ばさせてくれない文章の力に、しっかりと手綱をひかれ、留められているような不思議な感覚を味わった。

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