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2019-02-23

自生の夢 : 飛浩隆

『自生の夢』 飛浩隆

 2010年頃から使っていたWindows7 PCの調子が悪くなり、最近Windows10 PCに買い替えたのだけど、初期設定やら何やらをしながら、色んな場面で“インターネットに接続されてること“が要求されるのに「・・・不自由なことだなぁ」と溜息をつきたい気分になった。この先、もっとたくさんの場面で“ネットに接続されていること”を要求されるようになるのだろうなぁ、私らは。

 表題作「自生の夢」とそこに繋がる作品の登場人物たちは、息をするように世界を覆う情報と繋がっている。今現在の私たちよりもはるかに拡張された形で思考し、記述し、存在する彼ら。では、その「拡張」は誰のものなのか。

 もしも、そういう“拡張された”存在が現実となったとして、「何ものとも共有されない私」はどこに行くのか。
 

 非常な緊張感で意味とイメージが圧縮された言葉。その言葉で記された世界。本の中に詰まったものをすべて開放できる読者がいたら、彼らにはいったいどんなものが見えるのだろう。  



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genre : 本・雑誌

2019-02-09

POLYPHONIC ILLUSION 飛浩隆 初期作品+批評集成

『ポリフォニック・イリュージョン』 飛浩隆

 「まえがき」につづいて収録された短篇「ポリフォニック・イリュージョン」の2ページ目中程まで読んだところで、いきなり中学三年生の頃の教室の風景の中に吹っ飛ばされた。

 当時、仲間数人でマンガやイラスト、小説を持ち寄って質素なコピー誌なぞ作っていたのです。イベントで頒布するなんてレベルのものではなく、ただ仲間内で回し読みする程度のものでしたが。そんなコピー誌に、あるクラスメイトが書いていた小説の文体っていうかなんだろう?言葉遣い?が、この「ポリフォニック・イリュージョン」そのまんまで・・・っていうのはちょっと違うな。とにかく「ポリフォニック~」の2ページくらいまで読んだところで、もっと言うなら2ページ9行目の「オレンジ・ペコ」の一言で、長いこと思い出すこともなかったそのSF好きのクラスメイトが書いた小説とそれにまつわる記憶が溢れる様にフラッシュバックしてきたのだ。

 多分その頃初めて『SF』っていうものを認識したのだけど、私自身はSF小説を読むことも、SF映画を鑑賞することも、ましてやそれらがどういうものなのか理解することも、触れることもなく、SF雑誌を囲んで謎めいた会話を交わす少女たちを、なんだかちょっとこんがらがった感情で眺めるだけだった。

 確か、こちらにも書いたのだけど、今でも私にとっての『SF』はそんな少女たちと、おそらく彼女たちとの交流目的で学園祭に遊びに来ていたメガネの黒髪青年たちの姿をしている。


 『作家(飛浩隆氏)が他人の創作物について書いた文章』を集めた第二部には、読むことへの闘争心を掻きたてられるのだが、その闘争心と闘争そのものを維持する気力、体力をどれだけ燃やし続けられるか・・・自信がない。やはり今年は充実した読書生活のためにも体力強化を図らないと!

 ちゃんとした感想を書かなきゃとは思うんだけど、今回の読書体験においては、正直なところ作品そのものよりも作品を読んだことで巻き起こったフラッシュバックの方が強烈でそこで色々止まっちゃってる。またいつかちゃんと読み返すつもり。





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genre : 本・雑誌

2008-03-22

象られた力 : 飛浩隆

 『デュオ』『呪界のほとり』『夜と泥の』『象られた力』四篇の中・短編を収録。そのいずれもが生物の形をとらないところで発現する「生命」を、ヒリヒリする緊迫感で描き出している。

 情報がやりとりされる場の中で、あたかもその流れにつけられた傷のように現れる「意識」。遺伝情報を元に空間に繰り返し再生される「生命」。図形に備わるウィルスにも似た「力」。

 ばらばらに存在していた小さな組織が徐々に寄り集まり、収斂してゆき、ついに生命としての姿を現す様を、私たちはじりじりした感覚と共に目の当たりにすることになる。

緊迫感は、急ぎすぎない絶妙のテンポコントロールによってさらに増幅される。



 『デュオ』作中の言葉である。

 著者の筆致は正にこの言葉の如く絶妙にコントロールされている。決して私たちに、逸る心のまま読みとばすということをさせない。ほんの少し集中力を欠いただけで、形を成し始めていた「生命」は、またバラバラに拡散してしまう。私たちが正しくこの驚くべき「生命」の発現を見る為に必要なコントロールを、著者は与えてくれる。

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2008-03-12

ラギッド・ガール-廃園の天使Ⅱ : 飛浩隆

 ネットワーク上の仮想リゾート<数値海岸> - ゲスト(現実世界の人間)の訪問が途絶えて久しいその一区画<夏の区界>を突然襲った崩壊の恐怖を描いた「グラン・ヴァカンス―廃園の天使Ⅰ」に続く、シリーズ第2章。

 <数値海岸>創生の技術的背景、そこに関わる人たちの秘められた欲望。ゲストの訪問が途絶えたまま、<数値海岸>が存在し続けている理由、その真相。<夏の区界>に恐怖と苦痛と崩壊をもたらした<蜘蛛の王>ランゴーニの過去。

 「グラン・ヴァカンス」で<夏の区界>に現れたモノ、事象につながるできごとが、異なる視点から・・・現実世界の側から、また異なる時点・異なる区界でのできごととして語られる。広大な物語のピースが少しずつ嵌っていく。<数値海岸>創生期の精神的、技術的模索の影で顕わになり膨らんでいくグロテスクな欲望。

 どこかいびつな女性のイメージが作品全体に漂っている。

 傷だらけの少女のモチーフ。傷、もしくは苦痛として記録される世界。抗い難い力に自分が分解、解体されのみ込まれていく悪夢のような恐怖。

 <数値海岸>の内外で起こる、胸が悪くなるような禍々しく、異様で忌むべき出来事を描きながら、残酷でグロテスクな描写が下品にならない。どこか詩的で、独特の哀しさと倒錯した美しさを湛えている。

 5篇の中・短篇に圧縮された作品の中に、膨大な情報量がつまっており、数々のイメージが埋め込まれている。読者がその情報をどのように読み解き、受け取ったイメージから何を想起するかは、それぞれに異なるだろう。そこにもう一つの広がりが生まれるように思う。



まったくの蛇足ですが・・・

「傷だらけの少女」、区界から別の区界へと送られる郵便物に貼られた「切手」・・・筋肉少女帯の曲「何処へでも行ける切手」を連想してしまった。ここまで私の中に筋少の曲がくい込んでいるかと・・・

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2008-02-27

グラン・ヴァカンス-廃園の天使Ⅰ : 飛浩隆

 現実世界の人間をゲストとして招く為に、ネットワーク上に創り出された仮想リゾート<数値海岸>の一区画・<夏の区界>。しかし、<夏の区界>へのゲストの訪問は途絶えて久しく、区界の住人であるAIたちだけで過ごす夏の日がもう1000年も続いている。

 突然、<夏の区界>を蝕む力・・・「蜘蛛」が区界の空に「無」の穴を開けて降り注いで来る。餓えにみちた「蜘蛛」は住人を襲い、街を飲み込み、すべてを無惨に無化していく。わずかに生き残ったAIたちは「東の入り江」の「鉱泉ホテル」に立て籠もり、能力の限りを尽くした最後の抵抗を試みる。

 例えば、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」で世界を襲う「無」は、主人公の少年の勇気と希望によって退けられるものだったが、その存在が予めプログラムされたものであるAIたちの戦いは、初めから絶望的なものであることが予感される。

 歴史と美しい風景を持つ<夏の区界>に、個々の記憶と個性と魂を持って生きるAIたちの生存をかけた悲壮な戦い・・・プログラムされた存在でありながら、上位のプログラムに抵抗を試みた美しいAIたち。彼らには何故“体験されていない記憶”が刻印されているのか? 彼らの戦いは何の為なのか?

 驚くべきヴィジュアル・イメージで描かれる「プログラム」の戦いは、感情と存在感を持つ彼らにふさわしく、残酷でグロテスクで苦しみに満ちている。その悲惨さと苦しみの先に、まだ終わりではない「何か」を含んで物語は進む。

 ここで語られた一つの区界での攻防は、大きな物語の一部でしかない。全体像が現れるのはいつか・・・。

 
 “存在し始める以前の”歴史や記憶を付与され、深みのあるバックボーンとディティールを備えた世界として、仮想リゾート<数値海岸>がネットワーク上に現れたように、紙の上に見たことも無い世界を出現させる著者のイメージと筆の力に驚嘆する。

 区界の事象に影響を及ぼす石・「硝子体」を唯一の武器に戦う少年・ジュール、少女・ジュリー、青年・ジョゼら特別なAIたち・・・ 

 先を読みたくて、気持ちとページをめくる指は逸るのだけど、そんなに急いで読み飛ばさせてくれない文章の力に、しっかりと手綱をひかれ、留められているような不思議な感覚を味わった。

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