2011-05-07

フラワー・オブ・ライフ : よしながふみ

『フラワー・オブ・ライフ』 よしながふみ

 「胸が疼く」を通り越して「心臓が痛い」。おかげで、読み終えた晩は一睡もできなかった。動悸がおさまらない。翌日が休みで良かった。

 白血病治療の為1年1ヶ月遅れで高校生活をスタートした春太郎とクラスメイトたちの、普通だけど繊細に輝いて少々の痛みとともに過ぎていく日常。

 冒頭から数ページ、本好きな山根さんと相沢さんの会話に、“あ・・・”と目がとまる。

 『休み時間一人で本読んでる子見ると
       度胸あるなあって思ったわよ』

 ・・・ああ。

 あの頃は『こわいこと』が本当にたくさんあった。テストの点数が悪かった。友達の態度がいつもと違う。ちょっと離れたところから聞こえる、ひそひそ話や、クスクスと笑う声・・・大人になってみれば大した事ないと思えることや、それなりにやり過ごせることが、押し潰されそうなくらいの恐怖だったなぁ。好きなものを好きということにすら気を遣い、一生懸命周囲の空気読んでみたところで、完全に手足を伸ばしてくつろげる居場所を確保するのは、とても難しくて・・・。結局、高く築きあげた壁の中から、フツーの高校生活を楽しむクラスメイトたちに、心の中で“愚民”と毒を吐くことしかできなかったりってこともあるよなぁ。

 思い出すとチリチリと胸が痛むような高校生たちの日常に、自分が生の高校生だったときには考えおよびもしない・・・というか大して興味もなかった、教師や親たち~それはそれで大変な大人の世界が重ねられて・・・マンガだからこそ味わえるこの小宇宙。

 良くも悪くもゆるがないものだと思っていた大人たちが、結構至らないところだらけの存在であることにうっすら気付いてしまって傷つくこともある。それでも、誰もが“何とかしよう”と踏ん張って・・・。


 中間テストに期末テスト、放課後のお買い物、文化祭、クリスマス・・・クリアすべき、楽しくも怖ろしいイベント。友達との距離を測り、数々の失敗と上手くいった経験を積み重ね、周囲を恐る恐る手探りする。


 色んなことを少しずつ自分で受け止められるようになって、少しずつ怖いものが無くなって、少しずつ1年前とは違う自分になってゆく。それは少し気持ちが楽になっていくことではあるけれど、何かを無くしていく喪失感と無縁ではなくて。


 “9割方大丈夫だけど、1割の確率で来年や再来年にはいなくなってるかもしれない”ということを受け止めざるをえない ~ その為に、家族への嘘と友達への秘密を心の中に持たなければならなくなった春太郎。春太郎は以前のように皆の前で無邪気に本当のことを言うことを諦めたのだけど、それは重過ぎる現実を受け止めた上で家族や友達を愛していくために必要なことで・・・。

 ラストシーン ~ 寂しげだけど強い目を前に向ける春太郎の上に、はらはらと降りかかる桜の花びら。めぐり来る春の気配。何かを失くし、何かと出会う~少し苦くて不安で、そして新しい扉を開く慄きに満ちた青春の日の傍らにある春の気配。


  

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tag : よしながふみ

2010-12-18

こどもの体温/彼は花園で夢を見る : よしながふみ

『こどもの体温/彼は花園で夢を見る』 よしながふみ

 妻亡き後、残された父と“中々うまく育った”息子。亡き妻の両親と、それぞれに事情のあるクラスメイトと、痛ましい事故に見舞われた後輩たちと・・・喪ったものの空白を感じながら、日々過ぎていく日常。 「こどもの体温」

 不幸な出来事で婚約者を亡くし、その後愛した妻を自らの猜疑心から死なせ、失ったものへの想いを埋めるように育ててきた少女は彼を残して去り・・・妻が丹精した美しい花園のある屋敷に残された男爵。
 戦で両親を失い、旅の楽師に拾われた少年。しかし、兄とも慕う楽師は、訪れた男爵の屋敷から少女とともに姿を消し・・・。 「彼は花園で夢を見る」

 
 とても大切な人を喪って、人は受け止めきれないほどの痛みとともに、それでも、いつまで続くとも知れない“生きるべき生”の中に残される。

 願わくは、少しでも痛みのやわらぐ時がありますように。寄り添うことのできる人がいますように。再び、幸せを感じる時に恵まれますように。



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2009-01-28

ソルフェージュ : よしながふみ

 ヒネた音楽教師・久我山と健気な教え子・田中吾妻の・・・長い時間をかけて紡がれる関係を描いたお話。

 でっかい体の割りに心の幼い彼が久我山に寄せる一途な思慕は、もう可愛くて可愛くて、乙女心がきゅ~んとなってしまいますが、やっぱり魅力的なのは久我山先生ですな。

 すれっからした感じのあるゲイの久我山先生。私生活は自由奔放で、ヒネた感じはありつつも、そこは大人ですから、折り合いをつけてちゃんと社会生活を営んでいるところに好感持てます。

 久我山先生は“きれいな人”として描かれていますが、「年齢不詳で中性的なきれいさ」ではなくて、「そこそこにトシはとってるんだけど、身ぎれいにしている男性の色気」というのでしょうか。その姿には、自分という人間に自分できちんと責任を持って、一人でも生きていける人の覚悟のようなものを感じるんですよね。そういう“きれいさ”に覚悟を漂わせる人だっただけに、ある事件の後、山奥で寂しく暮らす彼の、身を構わぬ姿は、痛々しくて胸にこたえます。

 
 他に4つの短編を収録。

 「食べ物」にまつわるシーンの何気ない暖かさとか、擬音の絶妙さ・・・すでに沢山の人が言っていることですが、こういうのが、よしなが作品を読んでてちょっと嬉しくなっちゃうところ。

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2008-12-10

よしながふみ対談集~あのひととここだけのおしゃべり

 この対談中には、少女漫画のことが頻繁に出てくる訳ですが、これはちょっと、少女漫画体験の貧弱な私にはシンクロしづらかったですね。ただ、皆さんの漫画を読む目の確かさには舌を巻きます。


 表紙イラストのイメージからは、とても親密でリラックスしたおしゃべりを想像していましたが、収録された対談は、盛り上がりと共感の中にも相当な「真剣勝負」が見えるものでした。

「適当なことをTPOに合わせてしゃべってたら、この人の心のドアは開かない・・・って思って。」

「また会えるかどうか、1回で決まっちゃうんですよ、何となく。~少しでも分かり合えないようなことが起きたら、二度と人生では巡り会えないんだなあ、って。」


 羽海野チカさんがよしながふみさんに初めて会った時に感じたというこの感覚。大切だと思う人に対するとき一瞬も気を抜かない。コミュニケーションに手を抜かない。そうやって丁寧に関係を紡いでこそ、通じ合う仲間って得られるものなのね。

 “同じ言葉”で話せる仲間と、いつまでもいつまでもおしゃべりしていたい。そのためには自分自身が常に相手に対して誠実かつ魅力的でなくてはいけない・・・なんて、かなりハードルの高い事実を見せつけられました。

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2008-04-02

ジェラールとジャック : よしながふみ

 三浦しをんさんのエッセイで絶賛されていたので興味持ったのですが・・・噂に違わぬ名作。

 顔と心に傷を持つインテリ平民(エロ小説家)ジェラールと、純粋できかん気な落ちぶれ貴族ジャック。娼館での(客と男娼としての)出会い、ジェラールの屋敷での主従としての日々、ジェラールの過去、そして革命の波に追われるように変転する運命 ~ 二人の結びつき、心の変遷が十三のエピソードで描かれる。

 かつて愛した人からつけられた手ひどい傷。受け止めてもらうべきところを持たなかったジェラールとジャックそれぞれの“愛したい”という気持ちが互いに満たされていく過程はしみじみと心に沁みる。一度壊れてしまったものが再び満たされ再生してゆく幸福な余韻を持ったラストシーン。

 “愛したい”という気持ちとともに、募っていく“愛されたい”という願望・欲望。そういう切羽詰った欲望を感じ始めた二人は可愛くて官能的。で、それがともに満たされていく幸福感 ~ これが格別なんだ。

 成長の物語、癒しの物語としても良い話だと思うけど、やはり恋愛ものとしてとても良い。

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2007-12-15

愛すべき娘たち : よしながふみ

 母娘の関係、男女の関係、学生時代を共に過ごした同性の友達との関係・・・そこにある女性達の素直な感情。

 母娘の関係ではそれなりに苦労したなぁと思っている私としては、収録されてる5話の話の中でも、つい母娘の話に自分の体験をダブらせて読んでしまう。理解はしてるけど、許せないこと。許しているけれど、愛しているとは言えないこと・・・。

 『母というものは 要するに 一人の不完全な 女の事なんだ』-ということには、ある程度の年齢になれば気付くのだけど、それに気付いたところで、それまでの長い「『絶対的な母』と『娘』」という関係の中で、自分の心身に染み付き育っていったものは中々変わるもんじゃない。その上で、これからは『不完全な女同士』のつきあいをしていかなきゃいけないんだ・・・。

 ・・・と、つい母娘関係の話になると熱くなっちゃいますが、それ以外のエピソードもみんなどこか身に覚えのある話。その時々に感じた自分の気持ちを再確認するようで、少しくすぐったいような、落ち着かないような気分になる。ただ、“あの頃の気持ち”を思い出して涙を流すほどには、もう私の気持ちはウェットではないというか・・・開放されてるというか・・・。

 しかし、自分の個人的な体験と思っていることも、こうしてマンガのネタ(と言っては乱暴か?)になるほど普遍的なことなんだなぁ・・・と、そのことがちょっと衝撃的。 

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