2012-02-11

太宰治集 哀蚊―文豪怪談傑作選

『太宰治集 哀蚊―文豪怪談傑作選』 太宰治/東雅夫 編

 「お伽草子」から「舌切雀」と「浦島さん」が収録されている。「舌切雀」の冒頭部分に、「お伽草子」の一篇として当初は書くつもりだった「桃太郎」のお話を断念したいきさつが挿入されているのだけど、何かねぇ・・・ここ圧巻。この部分を読んでいると、胸がきゅうきゅうしてたまらなくなり、いまさらながら「太宰ってモテただろうなぁ~」と思う。

 鬼ヶ島の鬼は“征伐せずにはおけぬ醜怪極悪無類の人間”であり、それは“恐怖”より“不快感”をもたらすもの~“人の肉体よりも、人の心に害を加えるもの”でなければならず(← 物質的な悪事をなすことよりも、ひとを嫌な気持ちにさせることは、そんなにもひどい悪だというのだ)、“われ非力なりと雖も”と悪辣な鬼を退治すべく敢然立つ桃太郎は無敵のヒーローではなく“からだが弱くて、はにかみ屋で、さっぱり駄目な男”として描かれるはずだった。しかし・・・。いやしくも「日本一」の旗を持つものを自分は書けぬと・・・ここからは、あれよあれよという間に暴走する「私の桃太郎物語」計画放棄の弁。

 私はここにくどいくらいに念を押しておきたいのだ。瘤取りの二老人も浦島さんも、またカチカチ山の狸さんも決して日本一ではないんだぞ。桃太郎だけが日本一なんだぞ。そうしておれはその桃太郎を書かなかったんだぞ。


 怜悧、自傷、善、自虐、ユーモア、虚勢、残酷、優しさ、困惑・・・ぎゅうぎゅうに詰まっている。そして、そのどれからも離れたところに、心がポツンといる。
 
 太宰の描く怖いものは、ポツンと漂って幽霊のような自分の、人の、世間の姿。




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2010-11-20

奇想と微笑-太宰治傑作選 : 森見登美彦編

『奇想と微笑―太宰治傑作選』 森見登美彦編

 以前もこちらのブログに書いたことがあると思うが、学生の頃から、夏休みが来る度に「『人間失格』を読もう。」と思い、文庫を買う→ひと夏読まずじまい→古本屋に売る、という一連の行動を何度も何度も何度も繰り返した末、遂に3年前の夏、『人間失格』を読んだ。3年前・・・ということでバレてしまうかもしれないが、小畑健描く表紙につられたクチである。

 そうして読んだ『人間失格』は私には如何ともし難い小説で、あまりの後味の悪さを何とかしたくて、『太宰治 滑稽小説集』を中和剤のようなつもりで読み・・・、世間と自分とのズレを冷徹かつ滑稽に描きつくした上で、困惑と羞恥に気を揉み、身を揉み、気弱に笑いながらも手には剃刀を握っているような男の面倒臭さを、“う~ん、遠巻きになら・・・”と、ちょっと眺めてみる気になったのである。

 太宰治が才気とユーモアとサービス精神に溢れる人であることも、太宰の滑稽の先に森見氏がいるらしいことも、先の『太宰治 滑稽小説集』で、何となく知らされていたわけで、森見氏が『特に若い読者のために』編んだこの作品集を、若くない私がわざわざ読む必要も無かったのかもしれないが、森見氏の作品は好きであるので・・・

 森見氏の作品のオモシロさに影響を及ぼしたのがはっきりとわかる太宰治のユーモア、サービス精神 ~ 最初の三分の一くらいは、ニコニコしながら読んだのだが、中盤に差し掛かった頃から少し・・・アレ? ・・・ヘンテコな小説がギュウギュウと詰め込まれたこの作品集がちょっと気味悪くなってくる。

 サービス精神の暴走、エスカレートする自虐行為。ニコニコ笑顔を血まみれにしてズイと寄せられたようで・・・ わ、わかった、まあ落ち着け、ちょっと待て、な、何もそこまで・・・。

 「服装に就いて」「畜犬談」のような、自虐がネタになっているものなら、まだしも安心して“アハハ”と笑えるけど、世間を見つめる目・自分を見る世間の目・自分自身を見つめる目・見つめる目を見つめ返す目が渦を巻いて襲い掛かってくるような「猿面冠者」「女の決闘」なんて、なんかもう・・・“うわぁぁぁあ~”って・・・

 “自分”というものに鈍感な私のような者が、“他人事”として読んですら、何かボディーブローのように効いてくる痛みがあるのに、鋭敏な自意識を持つ人たちがこの作品集を最後まで読んだら、相当に疲弊してしまうんではなかろうか?

 徹底して書く太宰も偏執的なら、それを編む森見氏も何か偏執的。『胸がキリキリして、居たたまれなくなり、~略~ワーッと叫びたくなる。』『これはもう恐怖小説である』とか言いながら、これらの作品を前にして、『世にもめずらしい宝石を一つ一つ置き並べるような気持ち』だなんて、・・・ちょっと・・・大丈夫ですか?


 

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2010-01-06

右大臣實朝 : 太宰治

右大臣實朝 / 太宰治

 宇月原晴明「安徳天皇漂海記」の寂しく、強く、美しい実朝の姿に号泣し、橋本治「風雅の虎の巻」で、このややこしく美しい男・実朝への堪らん想いを深めた。そして、これまたややこしい男・太宰治が描く実朝は・・・。

 豊かな教養と、人の上に立つ者の品格を保ち、素直におおどかに周囲の者に相対する将軍実朝。美しく生きようとの理想を掲げながら(もしくは、美しく生きようという理想を持ってしまったがために)、鎌倉の征夷大将軍という自分の現実を上手く生きられなかった人。

 多くの憧れを抱きながら、その憧れを感じる自分の根っこがどこにあるのか、彼には最後までわからなかったのではないか。自分の根っこの在り処など疑ったことも無さそうな北条義時との対比が痛々しい。

 公暁~同じ源将軍家に生まれながらも、理想を抱くことを許されなかった人物のさめた目が見た、京都の人、田舎の人、そしてその間にある実朝の姿。そこには実朝が見ようとしたものとは異質な、ただそのままの乾いた現実があるように思える。

『安徳天皇漂海記』感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-297.html

『風雅の虎の巻』感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-368.html

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2007-08-01

太宰治滑稽小説集 : 太宰治/木田元編

 「森見登美彦はこの系譜に連なる人であったか!」と、近頃読んだ「太陽の塔」「四畳半神話大系」を思い返しながら考える。

 先日やっと、長年の宿題であった「人間失格」を読んだのだが、自分の中でどうも納まりが悪く、ならば・・・と滑稽小説の名手でもあるという太宰治の、そちら方面の作品を読んでバランスを取ってみることにした。・・・結果、少し太宰を愛してみる気になった。


「謂はば、最高の誇りと最低の生活で、とにかく生きてみたい」・・・『服装に就いて』

「悲痛な理想主義者」・・・『不審庵』

 この二つの言葉に凝縮された男の悲憤。
  
 何処に出しても恥ずかしくないはずの、正しく、誇り高い心の中の自分。素晴らしい自分の姿が世間に理解されぬことに、世間の無知をあざ笑いつつも戸惑い、怒りながらも途方にくれ、遂にはやぶれかぶれの奇行に走り、世間からの奇異の眼差しをほしいままにする。

 世間に向かって吐き出せぬ、悲痛な己の正当性を、あまりに理不尽な世間の間違いを、ことさらに折り目正しく、しかつめらしい文章で書き綴る。

 男は、聞いているこちらが “え? そこなの?”と思ってしまうくらい大きくポイントのずれた主張をしながら、もう何だか良くわからない顔で笑っている。主張のポイントが大きくずれて行けば行くほど、彼の憤りと困惑と孤独の深さはいや増しに、私たちの胸を衝く。私たちも、もうどうすれば良いのか解らなくて笑う。

 
 やけくその半泣きにゆがんだ顔で笑う森見作品の笑いは、この太宰の笑いから流れてきていたのか・・・。「太陽の塔」を読んで面白いと思った方には、是非この太宰の滑稽小説もお奨めしたい。

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2007-07-25

人間失格 : 太宰治

 学生の頃から、夏の文庫フェアの時期になると、なぜか「人間失格」が読みたくなり、文庫を購入→結局読まずじまい→古本屋に売る→一年後の文庫フェアでまた読みたくなる→買う→以下ループ・・・ということを何年も繰り返していたのですが、今年遂に読みました。集英社文庫です。小畑健の表紙につられました。出版社の思惑に面白いように乗ってしまう私です。

 え~、私事ばかりで恐縮ですが、最近、好きな人のタイプに“恥じらいのある人”という項目が加わりました。自分が“間違っているかもしれない”ことを恐れている人にはどこか恥じらいがあります。その恥じらいがある限り、どんなに孤高の高みを目指そうと、どこかで切っ先が鈍ってしまうのか、あと一歩突き抜けることが出来ず、境界線付近でうろうろしている人を見ると、好ましいと思ってしまいます。

 「人間失格」の大部分を成す、葉蔵という男の手記。「恥の多い生涯を送ってきました。」で始まるこの手記に「恥」と「恥じらい」が似て非なるものであることを感じました。

 自分の心情、行動と世間との差異の中に生じる恐れが「恥じらい」で、世間並でない自分の心情、行動の醜さを自分で断じたものが「恥」であるように思います。外を見ずにはいられない視線から生まれる「恥じらい」。内に向けた目が生む「恥」。自分の行動を恥と断じる人の心には、恥じらいの入り込む余地は無いのではないか?などと私は思うのですが・・・。

 自分にとっては、世間や他人というものが、まったくわからず、怖ろしいものであると言い、常にお道化ることでそういうものに対処してきたと葉蔵は自嘲的に語りながら、そこにあるのは実は世間や他人への恥じらいではなく、お道化を演じる自分の内へ向けての「恥」という言葉。どこまでも自分自身に向けられた目。自意識の化け物。

 自意識の中で完結しようとする男には、私はもう何の手の出しようもなく、ただ、“あぁ~・・・”と鑑賞するしかないのです。

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