2014-12-20

鳥少年 : 皆川博子

『鳥少年』 皆川博子

 情念と情欲とその先にある闇をたっぷりと滴らせる十六の短篇。いびつでおぞましく、しかし底なしの引力を持つ物語群。

 濃い情念の世界・・・と言えば、皆川博子氏とともに赤江瀑氏の作品が思い浮かぶのだが、赤江氏の描く闇が理性的で平穏な日常がふと破れた隙間にのぞく不穏な闇であるのに対して、皆川氏の闇はもとから日常とは次元を異にする不条理で混沌としたものであるような気がする。それは、(収録作の大半で主人公となっている)女性というものの持つ不可解さ、原初性によるものでもあるんだろうか。

 収録作の中では、閉塞感漂う地方の町で少年少女が体験する出来事が語られる「バック・ミラー」の、その出来事を見て、語っているのは一体誰なんだ!?っていう悪酔い感がたまらんかった。



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2014-06-28

アルモニア・ディアボリカ : 皆川博子

『アルモニカ・ディアボリカ』 皆川博子

 外科医ダニエル・バートンの解剖室に現れた不可解な屍体をめぐるミステリ『開かせていただき光栄です』の続編。アル、ベン、クラレンスらバートンズに詩人志望のネイサン、盲目の治安判事ジョン・フィールディングとその助手アンが再び登場。『ベツレヘムの子よ、よみがえれ アルモニカ・ディアボリカ』・・・胸に暗号を記された天使の如き屍体の謎に挑む。

 先の事件から5年・・・決して明るいとは言えない時代、汚れた街の中でも意気揚々としていた若者たちも、消えることのない痛みと苦さを抱く大人になった。「アルモニカ・ディアボリカ」・・・謎の言葉と屍体が秘めた真実を追う中で、アルたちは先の事件以来姿を消したかつての仲間ナイジェル・ハートの凄惨な過去に触れる。

 正直に言って、『開かせていただき光栄です』と比べても、ミステリとしての緻密さには欠ける気がする。アルたちの前に次々と現れる事件の関係者たちの登場ぶりは唐突というか都合がよすぎる感じがするし、盲目の判事サー・ジョンの推理によって進む事件の解明も少々強引なのではと思えてしまう。

 ただ、『開かせていただき光栄です』が鮮やかな青春小説だったように、この作品がミステリ仕立てで描こうとしたのは、誰かの幸せを願う人の心の哀しさ、美しさ ~ 愛する人の為にその身と心を犠牲にしつづけたディーフェンベイカー氏、公平な捜査と判決のために尽くすサー・ジョン、ナイジェルのために罪を犯したエド、そのエドに寄添おうとしたクラレンス・・・その「献身」なのではないだろうか。


『開かせていただき光栄です』感想・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-577.html




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2012-07-28

開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― : 皆川博子

『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― 』 皆川博子

 不法に入手した妊婦の屍体を解剖中、治安隊員に踏み込まれた外科医ダニエル・バートンの解剖室。慌てて妊婦を隠した暖炉の中から、次々に現れるあるはずのない屍体~四肢を切断された少年と、顔を潰された男。
  
 治安判事の要請を受けて、外科医バートンとその若き弟子たち~容姿端麗なエド、天才細密画家ナイジェル、痩せっぽちのアル、肥満体のベン、おしゃべりなクラレンス~信義と友情に篤いバートンズが解剖室の屍体の謎に挑む。やがて浮かび上がる詩人志望の少年ネイサン・カレンに仕掛けられた悪意の罠と恐るべき思惑。 

 18世紀のロンドン。意気揚々たる科学の徒であるバートンズ。一方で、解剖学が激しい偏見に晒されてもいた時代。虚飾にまみれた上流階級の暮らし。下層の人々が嘗める悲惨。煤煙に覆われ、裏通りはごみと汚物に塗れ、真実と正義が金と権威で買われる街で、無力さに苛立ち、打ちのめされながらも、己の若い才能を恃みに、汚れた都会を生きる若者たち。

 バートンズの活躍と、盲目の治安判事サー・ジョン・フィールディングの推理、観察によって暴かれる嘘。

 二転三転しながら徐々に明らかになる残酷な真実に、街の其処此処からたちのぼる淫靡で倒錯的な匂いをまとわせた、濃厚な味わいのミステリー。だがそれ以上に、汚濁の巷に身を浸しながらも、汚されることなく輝く若者たちの姿が鮮やかで切ない青春小説。




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2010-03-10

瀧夜叉 : 皆川博子

 純友の子・九郎直純、勇猛な従者・美丈丸、災いを一身に受ける生贄の童子・千代童らを乗せた船が、平将門の陣へと向かう。将門の娘・夜叉は、東の将門と西の純友の繋がりを強める為、まだ幼い少年・九郎を夫として迎える。

 繰り返す戦乱の中、美丈丸、千代童、夜叉、夜叉の姉・如月尼、九郎の運命が少しずつ動き出し、生贄として長い間死の中に生きてきた千代童は人ならぬ力を得て運命の糸を操る。

 敵味方に割れ、運命に流され散り散りになり、また、強い力で呼び合いながら、憎しみに、恐怖に、愛欲に、恋情に、極限まで燃え上がろうとする夜叉の、美丈丸の、如月尼の、千代童の荒ぶる魂。

 瀧夜叉とは、互いに傷つけあうほどに求め合う荒ぶる魂が生んだ鬼か。

 ・・・しかし、炎のように燃え、荒れる魂を持つ仲間たちの中で、都の雅に惹かれる心を持ち、戦乱の中に己の居所を見出せない一人異質な九郎。瀧夜叉の哄笑が都の虚空に響くのを、九郎は独り取り残されるように聞くのだろう。


***

 千代童は蘆屋道摩として、愛する者の運命の糸を操り、安倍清明もまた将門ゆかりの者として物語に関る。妖しき伝奇ロマンなのだが・・・描かれる情念の濃さに比べ、物語の収束していくパワーに少し物足りなさを感じる。舞台が大きいだけに、一気に引き込まれる感じがないと、何だか散漫な印象で終わってしまう。


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2009-10-24

朱鱗の家―絵双紙妖綺譚 : 皆川博子・岡田嘉夫

 絵双紙という名の通り、墨で囲った頁の中、絢爛たる絵に行書体の活字で綴った文字を配した凝った作り。

 頁を繰ってすぐに、不思議な既視感に囚われる。「・・・読んだことある?」

 同じものを、昔読んだという覚えはないのだけど(こんな印象的な本、読んでいたなら忘れるはずがないと思うんだけど)、第弐話「崖楼の珠」に出てくる象牙の珠だけは ~透彫を施した象牙の珠の内部にさらに透彫を刻んだ珠が七重に重なっているという~ 妙にはっきりと記憶の中にあるような気がしてならない。 
 
 現実のものなのか、夢の類なのか判然としない既視感。それだけで、もう、ずぶりと物語の中に足を引っ張りこまれそうになる。

 
 桜、牡丹、藤、菖蒲、芥子、変化朝顔、睡蓮、曼珠沙華、百合、錦鯉、鸚鵡、蟹、蜘蛛、孔雀、蝶・・・色鮮やかな花や生き物たちを描く、岡田嘉夫の不吉に艶やかな絵。その花や生き物たちに絡め取られたような男、女、王、王妃、姫、若君・・・ずっしりと重みを持つかと思えるほどに飾り立てられた言葉で、皆川博子が語る残酷で美しい物語。

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2009-08-01

猫舌男爵 : 皆川博子

 “短編集だし、「猫舌男爵」なんてちょっと可愛らしいタイトルだし・・・ピリっとシニカルで、ユーモアいっぱいなお話なんじゃないかしらん”なんて勝手に想像し、気軽に手に取ってしまったんですが、あに図らんや、どれも“ズゥン...”と重みのある作品でした。

『水葬楽』
 死の匂いに満ちた場所で、兄妹が聴く音、目にするもの。

『猫舌男爵』
 何か、上手くわかりあえないよねぇ。
 
『オムレツ少年の儀式』
 よいことをすれば、神様がよい報いをあたえてくださる。少年はよいことをしたのか? 少年にあたえられたのはよい報いだったのか?

『睡蓮』
 時を遡りながら明かされていく、病院に幽閉された老婆~才能を煌かした天才画家~の真実

『太陽馬』
 人の尊厳が無惨に踏みにじられていく戦闘、闘争の只中で、身を潜める兵士の内に去来するもの。


 表層に現れる“無惨”の奥に、触れようとすると形を無くしてしまうような、淡く漂う光を抱いた・・・とでも言えば良いか・・・。濃く、重く、ページを捲る指先に纏わりついてくるような物語群。

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2009-07-29

笑い姫 : 皆川博子

 口の両端を頬に向かって大きく切り裂かれ、泣いても怒っても、笑いを顔に貼り付けた哀しい姿。異形の者へと我が身を作り変えられた怨念深い「笑い姫」。

 戯作者・蘭之助は笑い姫と魔物たちが繰り広げる怨念に満ちた奇談を語り、軽業師・小ぎんは夢の記憶の中に、口を裂かれた“泣いている時も笑い顔”の子供を見る。

 復讐の念に追い立てられるように、運命の手にいたぶられるように・・・蘭之助と小ぎん一座は江戸から長崎、そして遥か南の果ての島へと流れ流れる。

 巷に暮らし、幸せに生きようとする人たちの生を理不尽に翻弄する、ゆきずりの悪意、運命の力、時代の意志。蘭之助の語る「笑い姫」の復讐譚~作中作「狂月亭綺譚笑姫」と、蘭之助・小ぎん一座の過酷な流転の旅路がからまりあう。復讐の念は黒々と激しく、しかし人を恋う想いはしみじみと切なく、異形の身体、欠けた心はさめざめと哀しく。


 蘭学や外国語の才に恵まれ、友情に篤い誠実温厚な人物でありながら、少年の頃にこの世の理不尽さを身に沁みて体験し、「こうありたい」と思うことを止めてしまった蘭之助。彼の内のどうしようもない虚ろさが、濃い感情が渦巻く激しい物語に、すっと淡い哀しみを刷く。

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2008-10-29

倒立する塔の殺人 : 皆川博子

 「倒立」・・・その言葉だけで、墜落するような感覚と、ただならぬものを見るだろうという予感に圧倒される。

 戦時中のミッションスクール。
 図書館の本の中にまぎれて、
 ひっそり置かれた美しいノート。
 蔓薔薇模様の囲みの中には、
 タイトルだけが記されている。
 『倒立する塔の殺人』。


 少女たちの手で書き継がれる小説。少女の手から手へと託されるノート。「倒立」の感覚に満ちた小説は、何を伝えようとしているのか・・・。

 ある一人の愛らしい少女の消失と、もう一人の少女の不可解な死。この学院で何が行われたのか。そこにどんな秘密が隠されていたのか。

 閉ざされた空間の中で、少女という特別な生き物たちの自意識が濃く激しく絡みあう。儚く純粋で物思いがちな・・・そして幼く驕慢で残酷な~図太さと怯えを同時に心に持っている少女たち。

 彼女達があんなに妖しげな生き物であるのは、年若い少女たちだけで構成された女学校という舞台装置があってこそ。その舞台装置がなくなる時、少女は消えてしまうのか、それとも別のものに変わっていくのか。

 女学校の中で物語を紡ぎ、時間を止めてしまった少女と、物語にケリをつけ、新たな時間をすすめ始めた少女。二者の対比が、切ないような明るいような、後を振り返りたいような、先を見つめたいような・・・複雑で悩ましい心境にさせる。


 私ごとですが・・・私自身、中学・高校の6年間をカトリック系女子校で過ごした為、女学校が舞台になった作品にふれると妙にしっくりくるというか、“帰ってきた”という懐かしい感覚・感慨にとらわれます。

 女子校の内部は、明らかにその外とは時間の流れ方が異なる、何だか不思議な空間でした。ただし、現実の女学生たちは、小説の少女たちのように妖しくも、美しくも、儚げでもありません。殊に、小高い丘の上に建つ校舎に通う我が母校の生徒たちは、毎日の山登りの為、みんな残らずふくらはぎに逞しい筋肉がついており、異性の目がない為かどちらかというとやぼったく、寒い日はスカートに下に股引のようにジャージを穿き、熱い日はスカートの中を下敷きで扇ぐような娘達でした。それでもどこかに、隔離された空間の中で醸成される「少女」としての自意識を確かに持っていたような気がするのです。外見からは全くそうとは知れなかっただろうけど・・・。

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2008-05-21

みだら英泉 : 皆川博子

 渓斎英泉という浮世絵師の描く絵がどんなものなのか、まったく知識はないのだけど、確か杉浦日向子さんが、「洒落で読んでもらわなくちゃ困るけど、全部が洒落ってわけでもないんだ・・・」と言いながら恋文を書いた相手が、この英泉~本名・池田善次郎~だったなぁ。

 江戸文化の爛熟期、英泉の描く女は、前衛的とも言える奇妙なプロポーションの中に崩れた色気、退廃美を湛えているという。そういう風に英泉を紹介する文章を見たこともあるから、狂ったように女と絵にのめりこみ、凄絶に破滅的に生きた英泉が描かれるのかと思いながらページを開いたが、意外にも・・・というか、そこに描かれる英泉は負けず嫌いで気持ちの良い若者と私には感じられた。

 女との色っぽいことが好きで、そういう意味できわどいことは多々あるけれど、世間に対してしっかり意地を張り、真摯に一途に絵の道を進む。誠実なところもちょっと見せたりする。

 猥雑な中にも逞しく、いっそ清々しいほどのエネルギーを漲らせた英泉。北斎とその娘お栄を描いた、杉浦日向子さんの『百日紅』を、英泉の側から描いたようだな、なんて思う。

 冒頭のシーンに出てくる大円寺の変化朝顔。妖しい姿で咲き乱れるこの朝顔のイメージがところどころに顔を出す。この朝顔のイメージに結びついている英泉の三人の異母妹~三者三様に英泉にからんでくるこの女達が、彼の周囲に情念的な色を添える。

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2007-08-25

花闇 : 皆川博子

 人の気配も絶えた雪原の中、雪にたわめられてぽつんと澤村田之助丈の名前を染め抜いた幟・・・一息で物語の世界に読者を連れ去る、一つ一つの言葉が重い情念の装飾をまとっているような、幻想的で予感に満ちた冒頭の場面。


 類まれな美貌と才能に恵まれ、江戸の末期の歌舞伎の舞台で華々しく活躍した女形・三世澤村田之助。その華も盛りの頃に壊疽に体を蝕まれ、両足、右の手首から先、左手指を次々と失いながらも舞台に立ち続けた。見せる(魅せる)と同時に「見られる」ことに徹した役者の凄まじさがある。

 江戸末期の退廃的な気分の中にあって、悪しきもの、汚いもの、通俗なもの、悲惨なものすべて飲み込んでそれを魅力的なエンターテイメントとして舞台にのせて魅せた江戸の歌舞伎と、その華であった田之助。明治へと開化していく社会の中で芝居の中から卑俗なものを排除して芸術へと高めようとした河原崎権十郎(九代目市川団十郎)。この二人の対比もくっきりと描かれている。

 田之助が演じることになった「大安寺堤」の春藤の衣装をめぐって田之助と権十郎が対立する場面・・・敵討ちの為に浪人し、身を落とし病を得て衰え果てた若武者をあくまでも美しい衣装とこしらえで演じようとする田之助と、役のリアリティを考え襤褸を纏い無精ひげも伸びた姿であるべきだと主張する権十郎・・・ふたりにとっての芝居の違いがわかりやすく描かれる場面だ。

 「世間そのままの実をうつすばかりが芝居じゃあねえや」と啖呵を切る田之助。

 「あまりにもそらぞらしい嘘っ八は、通用しなくなる」と言い張る権十郎。

 私は少なくとも歌舞伎は田之助の言うようなものであってほしいと思うが、権十郎が歌舞伎の改革を断行するに到るドラマもこの小説の中には描かれている。

 権十郎に限らず、脇役も印象的だったこの小説。語り手である市川三すじの他、大道具に大きな工夫を見せた長谷川勘兵衛、浮世絵師・月岡芳年らも生き生きとというか・・・生々しくというか・・・魅力的に描かれている。

 特に月岡芳年は鬼気迫る描かれ方。“血まみれ芳年”とも呼ばれる彼の絵を昔、本屋の店頭に置いてあった画集で見たことがあるが、それらの絵をまざまざと思い出した。

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