2011-06-15

ワールドアトラス : いとうせいこう

『ワールドアトラス』 いとうせいこう

 いとうせいこう氏の過去の作品はすでに絶版になっているものもあり、入手するためには専ら古本屋やネットオークションをチェックすることになる。この『ワールドアトラス』も、古本屋(ブックオフ?)で探して買ったものだが、購入以来じっくり読むでもなく、かといって本棚にしまいこむでもなく、食卓のあたりに投げ出されたままになっているのを、時々ぺらぺらとめくっては「Varbalian(ヴァーバリアン)」=「言葉の野蛮人」たるいとう氏の文章を拾い読みしている。

 単行本版はもっと大掛かりなものだったようだが、私の買った幻冬社文庫版はコンパクトに編集しなおされていて、いとう氏得意の「意味・物語の書き換え」が辞典形式で展開される。この辞典で世界地図を読み直すと、自分が思っていたところとは全くちがうところに立っている、なんてこともある。一つの言葉に“意味”を結びつけるだけでなく、ついつい暴走気味に“イメージ”を飛躍させてしまういとう氏の感覚には毎度のことながら“こりゃ、私には皆無のセンスだなぁ”と降参してしまう。

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2011-05-11

植物はヒトを操る : 竹下大学・いとうせいこう

『植物はヒトを操る』 竹下大学・いとうせいこう

 ある種の昆虫の雌の姿そっくりの花をつけて、雄の昆虫を招き寄せ、蜜を与えて花粉を運ばせる植物の恐るべき戦略! “良くできてるなぁ~”と感心してるばかりじゃない。人間も、その植物の能力の虜なのだとしたら?! 人間を意のままに操るために、植物はその美味しい実を、美しい花を人に与えているのだとしたら!

 条件の悪い土地でも強く繁るよう、より美味しく、より多くの実をつけるよう、より人の歓心を買う美しく珍しい花を咲かせるよう、人間の都合のいいように人は植物に手を加えているけれども、それも全て植物の計算のうち?! だって、そうやって植物が人間の役にたつものになればなるほど、人間は植物を絶やすことができなくなって、植物の繁栄に手を貸すのだもの。

 “あれっ?!”と、もしかしたら昆虫と同じかもしれない自分の立場を見直してみる。そして、人間とは全く異なる生命の形を持つ(何と言っても「タネ」という形で何年間も自分を保存する能力を持ってる。)植物の不思議に驚き、ちょっとした畏れを感じながら素直に頭を垂れる。

 しかし、対人間の場合、生命や種の維持・繁栄のレベルだけでなく、心の部分にまで食い込んできた植物の戦略?がニクい。互いに身勝手に利用しあいながら、やっぱり愛し愛されているともいえる植物と人の関係。お二人の会話の中に、一方で腐れ縁のようでもあり、また一方でつねに瑞々しくもある植物と人の関係が垣間見えるようだ。

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2011-03-02

ゴドーは待たれながら : いとうせいこう

『ゴドーは待たれながら』 いとうせいこう

 待ち続けるウラジーミルとエストラゴン。待たれ続けるゴドー。

 『問題は……誰が……いつ……どこで待ってるかということなんだが。』

 “待つ者”がいなければ、“待たれる者”は存在しない。待っている人は本当にいるのか。約束の時は過ぎてしまったのか。それとも、今この時も待たれているのか。行かなければ。しかし行ってしまえば、もう“待たれる者”ではない。 
   
 『待つ者が死に絶えてしまった後の救世主』『果てしない宇宙の中に、たった一人で暮らしている神』

 宇宙そのものである者は何も見られない。
 絶対の存在はなにも認識できない。
 つまり……馬鹿同然だ。


 俺は一体誰に待たれているのだ。待たれている俺は誰だ。待たれている俺には“待つ”という希望さえ無い。

 進むべきルートの一つ一つが不可能性に塗り込められていく。逃げ場の無い袋小路。ぐるぐる繰り返される自問自答。問えば問うほど可能性は消されていく。どこにも行けない。何も起こらない。自縄自縛。

 ・・・しかし、実はこれは非常に巧妙な騙し絵なんじゃないかと思いたい気もして・・・ 何か一つ、見落としてるんじゃないか。とても決定的な何かを。見落としているその一点さえ見つけることが出来れば・・・ 「な~んちゃって!」とすべてが冗談に変わるんじゃないか・・・ とか・・・

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2010-11-03

からっぽ男の休暇 : いとうせいこう

『からっぽ男の休暇』 いとうせいこう

 都会で次々に舞い込む仕事を軽やかにこなし、眠らない日々を楽しんできた才能豊かな男に突然“それ”はやってきた。疲れたわけではない。才能が枯れた訳でもない。うまく説明できないが仕事はやめた。そのまま南の島へ長い休暇に・・・。

 海と太陽とぬるいビール。ある時は椰子の木につるしたハンモックの上で、ある時は波にゆられる小船の上で、ゆるゆるの思考をめぐらす。ゆるんだ記憶の中からは曖昧な童話の記憶がこぼれてくるけど、何かが違う、どこかずれてる。なんだっけ? 思い出さなきゃ。

 無理やりに思い出した結果・・・一寸法師は桶に乗って川を下るし、「鶴の恩返し」は「鶏の恩返し」にすりかわって、男はコッコッコッコッと首を振りながらビーチを駆ける。赤頭巾ちゃんを待ち受ける狼は小麦粉で腕を白く塗りたくっていて、側では子ヤギたちが震えており、あまつさえ豚の姿までが脳裏にちらつく~「豚はすっこんでろ!」


 実はこのお話を読んだのは数年前~南国・宮崎で暮らしていた頃のこと。

 南の島で男が体験するような“忘却”と“ずれ”を快感として味わうには、ずれる前のきっちりと充実して、合理的でちゃんとした形をした日常がないといけないわけですが・・・ 良くも悪くも全てが「てげてげ」、明らかに都会とは時間の流れ方が違う南国・宮崎でのゆるい日常~しかも失業中という終わらない休暇の真っ只中。太陽と緑と海と牛と蛙の鳴き声への倦怠が憎しみに変わってしまいそうな・・・ つまり、このお話を読むには最悪のシチュエーションで読んでしまったわけです。


 休暇が終わって東京に帰る男がただ羨ましいばかりだった。


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2010-06-16

自己流園芸ベランダ派 : いとうせいこう

『自己流園芸ベランダ派』 いとうせいこう

 『ボタニカル・ライフ―植物生活』に続く、植物との生活エッセイ第2弾。

 前作に溢れていた、こちらまで浮き足立ってしまうような「バタバタ感」は薄れた感じ。40代に達した男の落ち着きなのか、10年を超えたベランダーとしての経験の為か、それとも文字数や文章のフォーマットが定まった週一の連載モノという体裁のせいか。どれもあるけど、それだけでもないような・・・

 相変わらず、植物が放つ魅力に抗いきれず、色々な鉢植えを景気よく買っては、よく枯らす。植物が起こす奇跡のような変化に唖然とする。決して思い通りにはならない植物たちの生に閉口する。植物たちへの残酷な無関心を発揮するかと思えば、一転、身を揉むような心持ちで完全介護体制を敷いたりする。

 一見、未熟な人間と、偉大で奔放で気難しい植物の関係は変化していないように見えるのだけど・・・ やっぱり何か変化してる。せっかく自宅に招いた植物たちとの距離感にひたすら戸惑う、『山賊と攫われてきた美女』のようだった両者の間に、微妙な(一方通行かもしれないけど)信頼関係が生まれているような。

 時に気心の知れた同居人であり、時に傍若無人な闖入者であり、時に手のかかる幼子であり、時にご近所トラブルを起こす隣人であり、時に生活に潤いをくれる美女であり、時に離れていても心の通う友人であり、そして、絶対的に異次元の生命である植物たち。

 命の在り方としては全く異質で、決して踏み込めない領域を保ちつつ、互いに関り合っている植物と人間 ・・・ いとう氏が体得しつつある、植物との間の呼吸のようなものが、驚きと落胆と喜びに満ちた植物との生活を語る文章の中に、どこか内省的な落ち着きとなって漂っているのかも。


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2010-06-12

ボタニカル・ライフ : いとうせいこう

『ボタニカル・ライフ―植物生活』 いとうせいこう

 ベランダー(※)の一人称は「俺」である。
  ※ベランダで植物を育てる都市生活者。広々とした庭で植物を丹精するガーデナーとは一線を画す者。

 「俺」は植物を愛でる“いい人”でもなければ、植物たちにとって優秀な育成者でもない。『山賊が美女でもかっさらってきたかのように不器用に、そしておどおどと植物を見つめる』無骨かつ未完成な自分の在り様を「俺」という一人称で表明する。

 都会暮らしのベランダの上で、鉢植えたちのわがままな王であり、同時に下僕でもある「俺」。気が付いたら植物たちに夢中な日々を、ハードボイルドな諧謔味をもって綴ったベランダーの手記。


 植物と暮らす日々の驚き、不測の事態を前にした戸惑い、奔放な植物達への苛立ちと妬み、自らの無力さ、こみ上げる感動、降りそそぐような悦び ~ 何より魅力的なのは、それらのことを一気呵成に書いていく言葉のリズム。ほとばしる言葉の疾走感に、あっと思う間もなく“ぶぅんっ”と意識を持っていかれている。そして、『ノーライフキング』で、現実と小説の区別がしばしつかなくなってしまったように、『見仏記』で一緒に旅したように、今回もまた、せっせと鉢植えの世話をするいとう氏の背中をずっと見ていた。

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2010-06-09

アタとキイロとミロリロリ : いとうせいこう

『アタとキイロとミロリロリ』 いとうせいこう

 アタちゃんは2歳の女の子。

 私は、小さな子どもと一緒に暮らしたことはないけれど・・・突然くるっと回ってみたり、大っきな声を出してみたり、何かをじ~っと見ていたり、よくまわらない舌で止まらないおしゃべりを始めたり・・・ちっちゃな子がアウトプットするものって何だか突拍子もなくて、そのアウトプットに到る回路を想像しては、不思議に思う ~ 「ん~ この子の中は今、いったいどんなパラダイスな状況になっているんだろう?」って。(頭の中にパラダイスがあるのは、小さな子に限ったことじゃないかもしれないけど・・・)

 そんな、アタちゃんの中のパラダイス ~ ママと一緒に、ネコのキイロや携帯ラジオのミロリロリを連れて遊びに行く昼の公園と、お家の中でぎゅっと目をつむると見えてくる“夜の公園”での色んな出来事。

 大人にも見える“本当のこと”しか起こらない昼の公園でも、アタちゃんはキイロとお話ができるし、ミロリロリはアタちゃんに歌を歌ってくれる。“本当のこと”は入ってこれない、アタちゃんにだけ見える“夜の公園”では、シャボン玉になって飛んでいったアタちゃんのタマシイをキイロが追いかけていたり、ミロリロリとウサギのチロに囃されながらキイロが初めてのすべり台に挑戦していたり。

 昼の公園の出来事も、夜の公園で起こることも、アタちゃんの世界では全部本当のこと。でも、アタちゃんにはちょっとだけわかってる。大好きな“夜の公園”と、もうすぐお別れすること。アタちゃんは大きくなって、みんなが小さくなっていくこと。

 
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2010-04-28

見仏記 ゴールデンガイド篇 : いとうせいこう・みうらじゅん

見仏記 ゴールデンガイド篇 / いとうせいこう・みうらうじゅん

 久しぶりの『見仏記』。マイナーには走らず、マニアックを封印し、メジャーどころにしぼる「ゴールデンガイド篇」・・・と、奈良・京都からスタートした旅だけど、そんな看板を放り出して?お二人は曇天の会津若松を実にしんみりと彷徨ったりするのだ、結局。

 そして、今回の見仏はこれまでになく宗教的。かつてのハシャギっぷりは影をひそめ、男40代、それぞれに噛みしめるものがありながらの旅。

 とめどない妄想も暴走するイメージもやや抑え気味。己が思考渦巻く世界から仏を見るのではなく、ただ仏の世界に身を委ねる。見仏スタイルも、発想・発信から受信へとシフトしているようだ。

 旅の終わり、黄金の夕日に照らされる二人。次の旅はどんなものになるのかなぁ。


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2009-06-24

去勢訓練 : いとうせいこう

去勢訓練 / いとうせいこう

 それぞれのやり方で、それぞれの形のセックスに耽る男女。それは限りなくエロティックで、忘我の快楽をもたらす行為。

 しかし・・・。最上の快楽を得るための「奮闘ぶり」は、悲しいほどに珍妙でもある。

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2008-12-13

見仏記3 海外編 : みうらじゅん・いとうせいこう

見仏記3 海外編 / みうらじゅん・いとうせいこう

 このシリーズを読むと旅に出たくてうずうずしてしまう。いつも二人の後について一緒に歩いているような錯覚におちいってしまう。

 でも、海の外に出て行かれてしまってはお手上げなのだ。私の想像力が及ばない。置いて行かれたようでかなり寂しい。でも、私には「海の外の仏を見たい」という欲求は・・・無い。

 「ああ、遠くへ行っちゃったなぁ・・・」と旅人の背中を遥か彼方に眺める。

 高所恐怖・閉所恐怖と戦いながら。見知らぬ土地で夜行列車に揺られる不安に震えながら。小さな車で10時間以上の道のりを運ばれる苦痛にさすがにどんよりしながら。どうして二人は行くのか、そんなにしてまで?

  ハードで不安な長旅のせいか、たまに情緒不安定になったりする。もはやこの度は苦行なのか? 脳内から何かしら化学物質が出始めてるんじゃないかと思われる男二人。辛い旅にあって確かめ合う互いのかけがえなさ。めぐり合えてホント良かったね、いとうさん、みうらさん。

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