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2019-11-23

夜行 : 森見登美彦

『夜行』 森見登美彦

 『春風の花を散らすとみる夢は
     さめても胸の騒ぐなりけり』

 夜行・・・永遠に続く夜。


 森見登美彦の物語は風景の中から生まれる。

 森見登美彦が語る怖い話は、忘れ難い大切な人、過ぎ去ってしまった時間、ここではない何処か、目を背けつづけてきた胸をざわめかせるもの、本来共にあるべきはずなのに私たちが生まれながらに失ってしまった何か・・・そういった手の届かないものたちへの憧れ、怖れ、愛しさ、悲しみ、喪失感を湛えて、ひどく切ない。

 森見氏の中にはそういう想いを掻き立てる風景が、夢も現実も含めて沢山、沢山、しまわれているのだろう。

 そして、森見登美彦の物語は、実際に見たこともないのに胸をしめつけるように懐かしい私の中の風景に根をおろし棲みつく。




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2019-11-09

きつねのはなし(再読) : 森見登美彦

『きつねのはなし』 森見登美彦

 再読。

 数年前に読んだときのイメージとして残っていたのは、お話しの背景となる京都の町の暗闇と、説明のつかない出来事の不気味さばかりだったのだが・・・

 古道具屋、きつねの面、幻燈、妙に胴の長いケモノ…夢か現か曖昧な、そういうものたちの存在と共に語られる4つの話は、改めて読んでみると、胸に深く刻まれた今はもういない人、人生の中で過ごした最も忘れがたい時間を思って綴られる恋文のようでもあって、とても切ない。



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2019-09-14

太陽と乙女 : 森見登美彦

『太陽と乙女』 森見登美彦

 酷い暑さと大雨の波状攻撃に削られた体力、鈍く痛んで重たい頭。そんな状態でもゆるゆるとやさしく読めて、読み終わった時には少し良い心持ちになれるような読み物を求めていた。これは、そんな時にうってつけの一冊。

 読み進めることしばし・・・、現れた『使いすぎると、みなカレーになってしまう』というパワーフレーズに、ランチ時のドトール店内であるにもかかわらず堪らず「ブッ」と吹き出す。吹き出すと同時に身体と頭を覆うモヤモヤが少し晴れた。

 そして、これは意外にもというか、ちょっとした驚きだったのだけど・・・。収録されたエッセイの中に、東京都内の廃駅跡をめぐる1日を記したものと、姫路から益田まで単行列車を乗り継ぐ旅の顛末について書いたもの、鉄道にまつわる文章が2つあるのだが、これがあまり面白くない・・・。本書の中にも登美彦氏が内田百閒を愛読する様が書かれており、さぞかし『阿房列車』ばりの面白くかつ不思議な味わいの鉄道エッセイが・・・と思っていたところが・・・。ワクワクも、微笑ましい偏屈さも、煙に巻かれるような詭弁もない。何だか大人しい文章が綴られているのに拍子抜けするのだが、「やはり登美彦氏の本領は、外の世界にではなく四畳半に据えた机上にあるのか・・・?」と思うと、その面白くなさも、少し面白い。

 一方で、登美彦氏の妄想世界と地続きであるような馴染みの町の様子、風景を語る文章には不思議な生命力がある。そういう妄想だか現実だかわからない登美彦氏の描く風景を読んでいると、ときにふわっと、ときにザワザワと風が吹き抜けていくんだよなぁ~。  



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2016-12-03

有頂天家族 二代目の帰朝 : 森見登美彦

『有頂天家族 二代目の帰朝』 森見登美彦

「我が子が鍋に落ちそうだっていうのに、どうして父上は笑ってるんです?」

「我々は狸だ。笑うべきでないときなどない」

「狸というのは健気なものだね」

 天狗と狸と人間の三つ巴でぐるぐる回る浮世の物語『有頂天家族』第二弾。

 落魄の老天狗・赤玉先生こと如意ヶ嶽薬師坊の二代目が突如欧州から帰国した。かつて三日三晩にわたり天地をどよもす大喧嘩をやってのけた父子の再会に京都の街は緊張を高める。一方、狸界では陰謀渦巻く果てしない覇権争いが続き、人間界では狸を喰らう怪人たちが暗躍する。そんな中、糺の森の下鴨四兄弟にもそれぞれに狸生の岐路がおとずれ・・・。

 考えてみれば、なかなかにハードな暴力と愛憎の物語なのに、舞台を右往左往しているのがふはふはした毛玉たちだというだけで、こんなにものほほんとした気持ちで読めるものか。

 己が身体に流れる阿呆の血をいかんともしがたい狸たちの笑いには、したたかさと無力さ、喜びと哀しみが混然一体となっていて、とても切ない。

『有頂天家族』感想http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-281.html



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2014-03-29

森見登美彦の京都ぐるぐる案内 : 森見登美彦

『森見登美彦の京都ぐるぐる案内』 森見登美彦

 四月初旬に京都に行く予定である。京都には、修学旅行で2回、家族旅行で数回、学生時代に友人と1回行ったことがあるが、どれも同行者の立てたプランに沿って観光をしただけなので、いまひとつ何かを見たという実感が薄い。今回は一人旅。『森見作品の舞台になった京都』を味わうのを目的の一つにしようと思う。

 吉田山に登り、鴨川デルタに立ち、糺の森に憩い、哲学の道の桜に染まり、胴の長いケモノが振り返りそうな路地を抜け、四条大橋の上で空を見上げ、夕闇を走る叡山電車を眺めてみたい。

 立ち寄るべき場所を見出しと写真で確認し、添えられた小説の一節からその作品世界を反芻する。二つの摩訶不思議エッセイ「登美彦氏、京都をやや文学的にさまよう」「京都捻転紀行」を読んで、“これから訪れるのは現実を捻転させた妄想的京都である”と、そこに遊ぶための心胆を練る。

 ただ、ガイドマップとしては少々頼りないので、実際の町歩きにはJTBのガイドブックか何かを携帯しようと思う。




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2014-02-22

聖なる怠け者の冒険 : 森見登美彦

『聖なる怠け者の冒険』 森見登美彦

 何だ? 何なんだ? この曖昧な噛み応え。

 何事もない静かな週末を愛する小和田君。充実した休日を過ごすことに血道をあげるその先輩カップル。世界一ぐうたらな探偵と、仕事熱心な助手であるアルバイトの週末探偵。アルパカそっくりの男。狸のお面に黒マントを纏った正義の怪人・ぽんぽこ仮面。彼らが巻き込まれた、ある土曜日の冒険。

 祇園祭の宵山。狸。テングブラン。入りくんだ路地。暗躍する謎の組織。迷宮化する京都の街。

 森見氏お得意の摩訶不思議な京都をしっかり味わおうと“ぎゅうっ”と噛みしめてみるんだけど、何やら曖昧な歯ごたえしか返ってこない。ん? 京都を舞台にした森見作品の魅力は、物語の背景である街自体が生き物のように生命力を持って息づいているところにあると思うのだけど、何だか今作は、その京都の街が息も絶え絶えであるように感じるのは気のせいか? 『宵山万華鏡』『有頂天家族』『太陽の塔』『夜は短し歩けよ乙女』などでこれまでに描かれた京都の街の蜃気楼を見ているような気にもなってくる。蜃気楼の中で、登場人物たちも何だかぼんやりして見える。

 結局、しっかりと噛みしめることができたのは、物語が終わるときの晴れ晴れとした物悲しさと、「孔雀の羽根が飾られた洋間(!)」だった。

 孔雀の羽根! あった! 私の記憶の中にも「昭和の風景」のひとつとして残っている! おばあちゃんの家の洋服ダンスの置いてある部屋に、こけしやフランス人形や達磨と一緒に、孔雀の羽根が数本花瓶に挿して飾られていたよ! うわ、何だこれ。記憶がものすごい生々しさで逆流してくる。あの薄暗い部屋の感じも、こもった空気の匂いも! うわぁぁぁぁぁ~!




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2011-10-22

四畳半王国見聞録 : 森見登美彦

『四畳半王国見聞録』 森見登美彦

 う、うぅ、う・・・苦しい。四畳半に立てこもり妄想を縦にする腐れ大学生たちの姿は、森見作品では見慣れた阿呆なものに変わりはないのだが・・・どういう案配なのだろう? その阿呆ぶりが滑稽というには何か切実で痛々しい。

 一人孤独にあるときにこそ、余は完全に己が欲する自己になることができるのである。
 「一人でいる時はこんなにステキな俺なのに、なぜ他人が目の前にいるとヘンテコになるのであるか!」
 「一人でいる俺を考慮に入れて評価せよ!」


 こんな言葉をつきつけられては・・・青春の日の不安、焦燥、満たされない自尊心、孤独、恐怖~記憶の向こうに押し遣っていたそんなものたちが、ひたひたと逆流してくるようで、とても平静ではいられない。

 四畳半に淋しく立てこもり続けた“俺”が、行く先々でそっけなくあしらわれながらも、別れを告げるべく友人、知人たちをたずねて回る「グッド・バイ」では、ついにたまらず、胸の奥に塗り込めた古傷から、ちょっとだけ血を噴き出してしまった。




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2011-09-10

ペンギン・ハイウェイ : 森見登美彦

『ペンギン・ハイウェイ』 森見登美彦

 小学四年生の「ぼく」が住んでいる郊外の街には、コンクリートで四角く区切られた土地にレゴブロックで作ったような家が並び、まだ家が建っていない空き地では草が風になびいてサバンナのようだ。「ぼく」が通う歯科医院の待合室は宇宙船の発着所のようで、「ぼく」と仲の良い歯科医院のお姉さんには謎が多い。

 そんな「ぼく」の住む街にある日突然ペンギンが現れた。しかも、そのペンギンたちは、歯科医院のお姉さんと関係があるらしい。日々世界について学び、将来きっとえらい人になるであろう「ぼく」は、ペンギンの謎について研究を始める。


 田圃のあいだを縫い雑草の茂る空き地を通過して小学校の裏の小さな藪まで続く道や、川を渡る鉄橋の脇についた作業員用のものであろう金網製の通路、そこから先には歩いて行ったことのない道の向こう~もう随分昔、小学生の頃に見たそんな風景が脳裏をよぎる。小学生の頃の私は、「ぼく」のように世界の果てについて思いを巡らせることはなかったし、色んなことについて自覚的ではなかったけれども、当時の私は、多分「ぼく」が見ているのに似た、一つ一つがとても瑞々しい「世界」を見ていた。それは今の私が見る風景とは何か決定的に違う。

 「世界の果てを見るのはかなしいことでもあるね」


 そんな瑞々しい世界のただ中にいる「ぼく」をまぶしく眺めた。




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2010-08-28

宵山万華鏡 : 森見登美彦

『宵山万華鏡』 森見登美彦

 古の百鬼夜行の都だもの。祇園祭の夜だもの。何が起きたって変じゃない。通りにひしめく露店。山鉾を飾り、露地を照らす駒形提灯。祭りの賑わいの中から、ふと異次元の不思議な「宵山」に足を踏み入れた人たち。

 京都の町を摩訶不思議な妄想空間に変えてしまうことにおいては当代随一ではないかと思われる森見氏の手によって溢れ出す奇天烈な「宵山空間」。めくるめく色彩、化け物めいたモノども、もがいても抜け出せない、美しくも怖ろしい夢を見ているような光景が眼前に繰り広げられる。ストーリーはさておき、この溢れ出るイメージに身を浸すのが良かろう。
 
 信楽焼の狸。招き猫。金太郎の張りぼて。空を泳ぐ巨大な鯉。生きた金魚を封じた金魚玉。羽子板を振り回す舞妓に髭もじゃの大坊主。雑居ビルや町屋の屋上を回廊がめぐり、「超金魚」を奉った「金魚鉾」が町を睥睨する「偽祇園祭」と、この世のどこかでいつまでもいつまでも“永遠に繰り返す宵山”。

 色とりどりに賑やかな祭りの喧騒の中の、どこか物悲しく怖ろしい薄闇。大切な人の手を放さないように、気をつけてお行きなさい。



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2010-04-03

新釈 走れメロス 他四篇 : 森見登美彦

 読む毎に“一筋縄じゃいかんなぁ”という思いが強くなる森見登美彦氏。

 『山月記』『薮の中』『走れメロス』『桜の森の満開の下』『百物語』・・・すべて、京都に住む腐れ大学生の話として書き直される。各話に登場する学生たちは互いにいくつかの出来事を共有する、うっすら顔見知りな間柄である。

 そんな学生達の極小の世界のふとした暗がりに、果てしない宇宙が口をあけているのがちらりと見えるような気にさせる。う~ん、森見マジック。

 自負と懐疑の中で大文字山へ走り、遂には天狗へと姿を変じた孤高の学生。自主制作映画「屋上」の真相は薮の中。二人の偏屈者の間の阿呆すぎる友情。満開の桜の下の何やら正体の定かでない怖ろしさ。百物語に集まった人々を見る血走った目。

 苦悩、絶望、焦燥、友情、滑稽、孤独、恐怖。

 文豪たちの短篇より森見氏が抽出したエッセンスが偏屈学生たちの七転八倒にまみれて、口あたりは優しいが味は濃厚。

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