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2023-07-08

ひどい民話を語る会 : 京極夏彦・多田克己・村上健司・黒史郎

『ひどい民話を語る会』 京極夏彦・多田克己・村上健司・黒史郎

 絵本になったり昔話集などの書物に収められる「ちゃんとした昔話」の陰にはあまり人に知られない「ひどい民話」の数々がある。ネタが大いにシモ寄りのもの。あまりに理不尽、非道なもの。尻切れトンボで結末のない話。

 沢山の人に語り継がれブラッシュアップされた昔話と違い、テレビやゲームのない時代の子供の為の娯楽として囲炉裏端で爺ちゃん婆ちゃんがライブで語った民話は、話の仕上がりがかなり荒い。お下品極まりない、話を盛りすぎて着地点が行方不明、理不尽がすぎる、あまりの意味不明さに恐怖すら覚えたり、ちょっと哀しい気持ちになったりする。そんな「ひどい民話」を持ち寄り、大いに語る。

 持ち寄った「ひどい民話」をまんま紹介する企画ではないし、まんま紹介したとして、「ちゃんとした昔話」ほどの完成度はのぞむべくもないお話しであろうから、この本の見どころ(聴きどころ)は「ひどい民話」そのものではなく、「ひどい民話」について「いかにひどく語るか」っていう参加者の話術にこそある。その語りぶり、まさに、目を輝かせて話に聞き入る子供たちを前にした囲炉裏端の爺婆のサービス精神もかくや、である。

 無限に話を催促してくる子供たちと、もういいかげんしんどくなってる爺ちゃん、婆ちゃんの攻防がうかがえる話など、それが語られている場を想像してみるとなかなかに生々しい。
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2022-08-06

年刊日本SF傑作選 おうむの夢と操り人形 : 大森望・日下三蔵 編

『年刊日本SF傑作選 おうむの夢と操り人形』 大森望・日下三蔵 編

 タイトルの「おうむ」という文字を見た時、頭の中に3羽のオウムの姿が浮かんだ。

 ひとつは我が家の愛娘・オカメインコのほっぺちゃん。もう一つは、いとうせいこうの解体屋外伝を浅田寅ヲが描いたウルトラバロック・デプログラマー~オウムの姿をした゛解析者”ディアブロ。さらにもう一つが、恒川光太郎竜が最後に帰る場所に収録された一編「鸚鵡幻想曲」に描かれる「偽装集合体」である鸚鵡。

 もちろん、どのオウムもこのアンソロジーには関係ないんだけど、この愛しいオウムたちの姿がなかったら、この本を手に取ることはなかったかもしれない。シリーズ最終巻とのことだが、私はこのシリーズを追っかけていたわけでもなく、オウムに導かれた偶然の出会いだった。

 2018年に発表された『バラエティ豊かな現代のSF最前線の傑作』を詰め込んだ、とあるが、SFに疎い私ではにわかにSFとは気づかないような(それは、ファンタジーだったり、ミステリーだったり、歴史伝奇だったり、パロディだったり)、「S」の在り処を捻った作品が多く、「なるほどこれがSF最前線か!」と思うが、なんだかどうも随分と内輪を向いているように感じる作品もある。

 私が今暮らしている現代社会と作品世界の両方に「S」の在り処を探しながら読む。そんな読書だった。

 収録作の中では、一時期TVでも騒がれた「謎の生物」が登場する斉藤直子の「リヴァイアさん」と、歴史ロマンと音楽の神秘に「S」を埋め込んだ水見稜「アルモニカ」が印象に残った。



 

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2022-07-23

妖怪馬鹿 : 京極夏彦・多田克己・村上健司

『妖怪馬鹿』 京極夏彦・多田克己・村上健司

 「妖怪馬鹿」とは一体いかなる人か? あまりに潔い漢字四文字を見ながら、そう思ったのだ。

 妖怪を研究する? 妖怪を語る? 妖怪を蒐集する? 妖怪を好む? 妖怪を愛する?  「妖怪小説家」「妖怪研究家」「妖怪探訪家」という肩書を持つこの人たちは一体何なのか? 何がどうなれば「妖怪馬鹿」なの? そもそも「妖怪」って何だっけ? 「妖怪」で食えてるっぽいこの人たちって? なんかすごくないか? ん? 妖怪で食うってどゆこと? そこには何か深淵な・・・?

 ぐるぐるとつまらぬことを考えそうになり「これはイカン」と自分を諫める。ふぅ、と息をついて手にした本を弄んでいたところ、裏表紙に書かれた文字が目に入った。「妖怪馬鹿 ―― 妖怪のことばかり考えている人のこと。」シンプルだ。

 妖怪話と馬鹿話の間を行ったり来たり。この本はその「妖怪馬鹿」の生態記録(ほんの数時間分の・・・ではあるが)のようなものだと思った。

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2021-11-06

源氏物語 九つの変奏

『源氏物語 九つの変奏』

 現代の人気作家による『源氏物語』の新たな現代語訳。

 どれも源氏や女君の心理、人間像を際立たせる訳になっているが、設定ごと読み替えた大胆な意訳とでも言うべき角田光代氏の「若紫」、金原ひとみ氏の「葵」には大いに驚く。

 江國香織氏の「夕顔」に描かれる光君は、あきらかに「かかわるとヤバいやつ」であるのに、やっぱりその御姿、人柄はこの上なく優しく、美しく、抗いようのない魅力をたたえる。しかし、どれほど女を愛してみても、彼が抱えているのは満たされない自己愛なのであり、搦めとられた夕顔の命を奪ったのは六条御息所の生霊などではなく、源氏の胸に開いた大きな穴に棲む何ものか・・・なのではないかと思わせる。

 町田康氏が「末摘花」に描く光源氏は、春の朧な空気に漂う『生きるということの根元にあるぐにゃぐにゃしたもの』を感知してしまうほど鋭敏な感覚の持ち主であり、その感得したものを歌や音楽に昇華しうるアーティストであり、真の美と愛の希求者。その研ぎ澄まされすぎた美意識と、鋭敏すぎる感覚で感知してしまうにはあまりに酷な状況を、それでも感知してしまう光君の精神的な狂騒状態。滑稽な文体で笑いにまぶしてはいるけど、かなり怖い。

 島田雅彦氏の「須磨」。配流先での源氏の暮らしを淡々と、しかし重ね塗りをするようにみっしりと描いていく中に、『前庭の花が咲き乱れる夕暮れ時、海の見える廊下に出て佇んでいる源氏』の「ぞっとするような美しさ」が浮かび上がってくる。

 桐野夏生氏の「柏木」、小池昌代氏の「浮舟」、原作では自ら語ることの少ない女たちが語り手になることで、物語の新たな姿を見ることができる。


 全編通して印象に残るのは、決して満たされない自己愛に苛まれて生きる源氏の業の深さ・・・でしょうか。




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2021-04-10

小説集 明智光秀

『小説集 明智光秀』

  『麒麟がくる』・・・先日ついに公式HPも閉鎖され、ブックマークしていた道三様=もっくんのインタビューページも撮影用セットの画像も消えてしまいました。寂しい。


 錚々たる作家たちがそれぞれの想像力と持ち味で描く謎多き戦国武将・明智光秀。収められた十二作品のうち光秀の八上城攻めを描いた二作品・・・新田次郎の「明智光秀の母」と岡本綺堂の「明智光秀」には異様な迫力がある。

 殊に、岡本綺堂の戯曲は、騙し討ちに討たれた波多野の妻や妹、また人質として囚われた光秀の母皐月、無念の思いを抱く女たちの恨みの一念凄まじく、攻め手の武将たちを怯ませるほどの女たちの鬼気迫るこの姿、舞台で観たらどれほど背筋を凍らせるだろうとブルブルする。

 あとの十編は『本能寺』前後を描いたもの。

 南條範夫の「光秀と二人の友」は、ふと、魔が通り過ぎるような感触。

 柴田錬三郎「本能寺」は短いスケッチのようなものながら、ほんのり伝奇の香り。

 山田風太郎「明智太閤」は、光秀が天下をとり太閤となった『本能寺』後のパラレルもの?だが、山田風太郎が語るのだから、ただの光秀生存IFではないだろう、どんな意想外のオチが待っているのか?! とページを繰る手ももどかしく読んだのだが・・・。まさか、そのオチとは。一周回って予想を裏切られてしまった。



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2020-10-17

池澤夏樹 個人編集 日本文学全集 10 ~ 能・狂言 説教節 浄瑠璃 その2

『池澤夏樹個人編集 日本文学全集10 能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 』
 
先週に続いて・・・

『義経千本桜』 いしいしんじ訳

 いしいしんじ氏の言葉のリズムが心地よく読める。

 義経千本桜は以前『歌舞伎オンステージ』で戯曲を読んだ。その時も思ったのだけど、さすがの名作。バラエティに富んだ場面、ストーリーが、義経を狂言回しにドラマティックに構成された物語。

 で、これ、役者が演じるのではなく文字だけで読むと、義経けっこうヒドイ男なのがむき出しになるような・・・。これまで、「義経、ちょっと酷くない?」って思うことありつつ、歌舞伎で観る分には演じる役者の美しさや儚げな佇まいとかで中和されてたんだけども。

 『伏見稲荷の段』とか、一緒につれていってくれと縋る静を「足手まといで面倒だな~ 勘弁してほしいな~」って思ってるのありありだし、忠臣・佐藤忠信に『そうだ、おれの姓名をゆずろう』『まさかのときはこの判官になりかわって、敵をあざむき、後代に名をとどめてくれ。』って・・・それ、「俺、逃げるから、お前身代わりよろしく」ってことだよね~ その上、足手まといの静のことも『万事よろしくはからってくれ』っておしつけて。

 『河連法眼館の段』じゃ、遙々追ってきた忠信に疑心暗鬼でヒステリーを爆発させ暴言の数々、その上、自分は様子見を決め込んで静に手を汚させるようなことを・・・。義経、ほんっと残念だな・・・。

 義経って、知盛や、権太や、源九郎狐や、教経の物語をつなぐ役回りで、がっつり物語の中心ではないけれど、それにしてもこの物語の作者たちは、義経をどんな人として書こうとしたのかなぁ。

 う~ん、う~ん・・・

 でも・・・、別れ際に静にかけるひと言が『手紙、送れたら送るぞ、じゃ、またな! 元気でな!』って・・・やっぱり、いしいしんじ氏は、義経ってヒドイ男だって意図して書いてるよねぇ。


『仮名手本忠臣蔵』 松井今朝子訳

 現代語の読み物として読みやすく訳されてる。ただ、丁寧に訳されると逆に何か違和感感じるとこもあったり。『幅広の刀を目立たせぬよう、腰から下へ縦に差しております。』・・・ん? あ、落とし差し? とか。

 これもやっぱり役者が演じ、太夫が語るのでなく、文章だけで読むと、忠義の仇討というよりグロテスクな復讐譚っていう側面が気になってくる。(お芝居で観ても、六段目の勘平の精神的追い詰められ感とか、七段目の由良之助のヤバさなんて充分ホラーだけど)。忠義だ、義理だと言いながら必ず誰かが無惨に死ぬ。そして、その無惨な死に美しい名が冠せられる。

 どんな理屈があったとしても、どんな真情が隠されていたとしても、由良之助のやってることはかなりエグい。臥薪嘗胆、堅忍不抜、深謀遠慮などというよりも、もう、サイコな復讐鬼といったほうがしっくるほど。山田風太郎の描くような不気味で複雑な内蔵助が生まれるのも道理だなぁ。 




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2020-10-10

池澤夏樹 個人編集 日本文学全集 10 ~ 能・狂言 説教節 浄瑠璃 その1

『池澤夏樹個人編集 日本文学全集10 能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 』
 
 浄瑠璃の訳者に好きな作家の名がずらりと並んでいたので興味をひかれた。特に『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』『仮名手本忠臣蔵』の三大名作は、歌舞伎や文楽でバラバラと観たことはあるけど、通してストーリーを追ったことはないので、まとめて読む良い機会。


『曽根崎心中』 いとうせいこう訳

 いとうせいこう氏、技術的に凝った訳をされているのだと思うけど、それについては私はしっかり読み取ったり、体感したりはできていない・・・と思う。ただ、どういう加減か、歌舞伎で観た時よりも美しい物語だと感じた。(歌舞伎で観たのは一回きりだから、これも大層なことは言えないのだけど)

 私は心中ものがどうも苦手で、五年前に歌舞伎で観たときはこんな感想を書いてる。
実社会での失敗や不運や自分自身のダメさが高じていくのにしたがって、ずぶずぶとより深く恋情に絡めとられていく恋人たちを見ていると、何だか引くというか冷えるというか・・・

 それが、このたびは、恋にしか生き場所を見つけられなくなった二人の最期の姿は、神話的といってもいいほど美しいなと思えてしまったのだ。お芝居で観るよりも文学として読んだ方が抽象的に捉えられるのかもしれない。文楽で観るとまた印象がかわるのかも。
 

『女殺油地獄』 桜庭一樹訳

 あらためて、凄まじいお話しだなぁ~と思う。からみあう人の情の濃密さ、与兵衛の内の深い闇。そして、これは桜庭一樹さんが訳出することで現れてきたものなのか・・・遊女小菊の闇も深い。

 そして、これも訳者のアイデアによるものなのか・・・与兵衛の特徴的な歩き方。これ一つで与兵衛という男のあやうさ、行く先の不吉さがうっすら昏くゆらめくように立ち昇る。
 
色友達を左右に従え。いかにもよくいる遊び人の風情だが、まるで油でつるつる滑る床を歩くような、一度見たら忘れられないおかしな歩き方でもって近づいてくる。

 人で賑わう明るい土手を、仲間と騒ぎながらやってくる与兵衛の『ゆぅらりゆらり、つるつるつる』としたおかしな歩き方。なんだか、ぞっとした。


『菅原伝授手習鑑』 三浦しをん訳

 三浦しをんさんの訳。古文を直訳したような四角い言葉づかいと、場面によっては大きくくだけるセリフや言い回しがガチャついて見えるとこがある。お芝居で見ると、場面によってまったく色合いが違ったりもするので(私には加茂堤と車引の桜丸が同一人物だってのがどうもすんなり飲み込めない)、そういうとこ意識した訳なのかしらん、と思ったりする。

 通して読んで改めて思うんだけど、場面によって物語の色合いも登場人物のキャラも随分変わる、こんな振り幅の大きなお話しを、よくぞまぁ、一つのストーリーにまとめ上げたよなぁ(まとまってるのか?) かなり強引な力業だよなぁ。

 時平の悪逆ぶりも、道真公の堅い人柄も、三兄弟のファンタスティックさも、斎世親王と刈屋姫の恋する若者っぷりも、「せまじきものは宮仕え」の悲劇も、「最後は怨霊登場かいっ」ていう展開も、何かもうすべてが極端なんだけど、中でも何が凄いって、それまでずっと謹厳実直、志操堅固な姿を見せてきた道真公が怒り心頭、怨念凄まじく雷神に変ずる場面のブッ飛よう。極端だよなぁ。・・・ちょっとひく。

 ああ、それから・・・今さら知った、言われてみれば納得の事実。松王丸、梅王丸、桜丸は姿形がまったく同じな三つ子であること。一卵性だもんなぁ・・・姿はそっくりだよねぇ。歌舞伎の舞台だと桜丸は三人の中ではしなやかで優しげな姿をしているので、そういうもんだと思ってた。そうかぁ、桜丸も梅王や松王みたいに筋肉隆々のゴツい男か。



長くなるので続きは後日・・・




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2018-09-08

きみに贈る本

『きみに贈る本』

 ここ数年でとみに感じるようになったんだけど、面白い本を探して読むための気力、体力の衰えがひどい。何より、当たりを引き当てる勘がすっかり鈍っている。と、いうわけで一旦、人のオススメに頼ってみようと思って。

 中村文則、佐川光晴、山崎ナオコーラ、窪三澄、朝井リョウ、円城塔。6人の作家がそれぞれ10冊の本を紹介。1作品あたり38文字×30行ほどの短い紹介文に、ご自身の人生の中に何らかの跡を残している作品への想いが凝縮されて、とりあげられたそれぞれの作品がキラキラと光って見える。

 紹介者の言葉や感想にひきずられないように、気になったものはとりあえずタイトルだけ控えておいて、ここに書かれていることを忘れて、このキラキラが薄れてきたころに読んでみようと思う。

 作品へのアプローチの仕方、読むときの視点をどこに置くかという側面から10作品を選んだ円城塔氏。電子書籍で読む『陰翳礼讃』。谷崎がそれを見たら・・・という一文、なるほど。




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2018-04-14

小川洋子の陶酔短篇箱 : 小川洋子編著

『小川洋子の陶酔短篇箱』 小川洋子編著

 人にはその人にしか見えぬそれぞれの世界がある。

 世界とは、

 ノートに書いたばかりの文字が吸取紙に吸い取られる瞬間の形態を想像し、石油を喰うという微生物の名『プシュウドモナス・デスモリチカ』を呪文のように唱えつつ「俺は早く土星に行かなくちゃ」と思う青年の頭の中であったり(「牧神の春」中井英夫)、

 『ひとつひとつはただ意味なく狂奔しているように見えるけれど、誰がなんでそんなことをするのか知らないが、どこかで牛耳っているものがあって、それで全体が一糸乱れず狂奔している』ような電車たちの世界に魅入られた生活であったり(「雀」色川武大)、

 友人から贈られた一匹の真っ白な鯉であったり(「鯉」井伏鱒二)、

 あるいは一人の女が〝たいてい午前零時をまわったころに帰ってくる夫”を待ち続けるマンションの一室(「流山寺」小池真理子)だったり。

 世界の箱庭のような作品たちを小川洋子氏がまた丹念に箱詰めしたアンソロジー。それぞれの世界に感応し滲みだした小川氏の世界がエッセイとして作品ごとに添えられている。



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2018-03-31

我等、同じ船に乗り 心に残る物語―日本文学秀作選 : 桐野夏生編

『我等、同じ船に乗り 心に残る物語―日本文学秀作選』 桐野夏生編

 アンソロジーを読む場合は、自分の好みに合うテーマに沿って編まれたものや、好きな作家が編んだものを選ぶことがほとんどなのだけど、作品を読んだことのない桐野夏生氏の編んだものを今回手に取ったのは、どこか共犯関係を感じさせるタイトル~『我等、同じ船に乗り』~が気になったから。

 アンソロジーを読む楽しみは、これまで触れる機会のなかった、そしてこれからもなかなか手に取ることはないかも知れない作品や作家に出会うことだったり、自分とは異なる編者の視点を知ることだったりしたのだが、本アンソロジーの収穫は、他の収録作品を交えて読むことで、これまで何度も読んできた作品の今まで感じたことのない味わいを知ったことであった。

 乱歩の「芋虫」・・・これまで何回も読んだ作品ではあるが、須永中尉が柱に刻んだ「ユルス」という文字がこれまでになく哀しく、美しく見えたのは、前後に配された作品~島尾敏雄の「孤島夢」、島尾ミホの「その夜」、林芙美子の「骨」、坂口安吾の「戦争と一人の女」など戦争の中の人の生を描いた小説~があったからであろう。

 その他・・・ 

 編者が「忠直卿行状記」の本歌取りのような作品と紹介した太宰治の「水仙」。滑稽味を漂わせながらもグルグルと渦巻く感情を描きつくす太宰治の凄まじさったらない。どうしても血まみれの(もしくは紫色に腫れ上がった)笑顔を連想してしまう。

 それぞれの思惑と計略を秘めて認められる夫婦の日記~谷崎潤一郎「鍵」。私にとってはさして興味も関心もなく、むしろ退屈に感じられる家族の粘っこい駆け引きが執拗につづられていて・・・辟易した。

【収録作品】
島尾敏雄「孤島夢」
島尾ミホ「その夜」
松本清張「菊枕」
林芙美子「骨」
江戸川乱歩「芋虫」
菊地寛「忠直卿行状記」
太宰治「水仙」
澁澤龍彦「ねむり姫」
坂口安吾「戦争と一人の女」「続戦争と一人の女」
谷崎潤一郎「鍵」 



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