2009-05-13

ごくらくちんみ : 杉浦日向子

 たたみいわし、とうふよう、にがうるか、じゅんさい、にこごり、ひずなます・・・数々の珍味と、それに合わせる種々の酒、酒器。そこに添えられる短いストーリーは、どれも少し辛口だ。

 時は否応無く流れる。“ずっとこのままで”と願ったものも、ゆっくりと形を変えていく。やがて動くことを止め、手の届かない所に行ってしまうもののある中で、生きているものは『それでも腹が空き、排泄し、眠くなる。』

さまざまの事思ひ出す桜かな(芭蕉)。
つまらん句だ。どこでも毎年桜は咲く。


 自分の為の肴と酒を選ぶことができるのと同じように、苦い時間を過ごす術を知っている人たち。

 ちょっぴり寂しいけれど、しっかり強い。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2008-11-01

風流江戸雀 : 杉浦日向子

 頭と最期に江戸川柳を配して、日向子さんが点描する泰平の江戸の風景。

 かい巻を被って火鉢を抱えてたり、裾を端折って春雨の中を走ったり、浴衣の袖をまくって団扇を使ったり、一人所帯の長屋に転がって“ぷー”と屁をひってみたり。暑い日、寒い日、温い日の人々の暮らしが、ほんの数コマの中に微笑ましく描かれる。

 ちっちゃな波風を立てながらも、だいたい幸せ。わびしい、やるせない時もあるけど、まぁ何とか苦笑いでやり過ごす。

 何かその“苦笑い”な感じがいい。私もそんな、苦笑いな感じで世の中渡っていきたいもの。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2008-08-02

杉浦日向子の食・道・楽 : 杉浦日向子

 日向子さんが語る「食について」「酒について」「生について」。そこここに日向子さんの「わがまま」が見える。

 『私たちの世界は、個々の都合に、おかまいなしに刻まれる~』

 日向子さんの「わがまま」は、そんな世界の中で自分だけの時間を刻むためのこだわりか。

 愛用の酒器に小物を配して撮った写真がゆったりと刻む時間を感じさせてくれる。撮影余話に「時を知らせるものが好きで、時計もたくさん持っている。」という一文がある。そういえば、日頃、仕事や誰かとの約束で時間を気にすることはあるけど、自分一人の時にゆっくりと「時間」を意識したことが無いような気がする。

 日向子さんが自分の時を過ごす時に手にした酒器を見ていると、私も流れる時間を感じながら豊かに過ごすひとときを持ちたくなってくる。そんな時に、少しお酒を頂いてみるのもいいなぁ。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2008-05-24

百日紅 : 杉浦日向子

 浮世絵の巨人・葛飾北斎と娘・お栄、居候の善次郎(浮世絵師・渓斎英泉)たちが過ごしたであろう江戸の日々を、江戸の記憶を持って生まれてきたとしか思えない杉浦日向子氏が描く。

 ボロくて汚いが、住み慣れた感溢れる長屋の様子。橋を渡る人の往来、湯屋の賑わい。火事・酒・喧嘩。夏の金魚、行水に冬の火鉢、かいまき布団。したたかに生きる人のすぐ側に、摩訶不思議な怪異だって息づいている江戸。風の音、砂埃、うだるような空気に木陰の涼しさ、虫の声、雪の手触りまで感じられるような街の暮らしの点描。

 日向子さんの愛しい相手・善次郎は、ここではまだ名が売れる前のハンパな若者(と言っても23歳ですから、もういい大人?)ですが、これが実に可愛らしく描かれてます。鬢がバサバサにほつれた汚い頭で、ペラペラの単を尻っ端折り。負けん気は強いものの、下手な絵描きといわれてしょっちゅうくさってる。それでも女の子にはよくモテるし、何となく色気もあって・・・。ホントに日向子さんは善ちゃんが好きなんだなぁ。

 通して読むと、北斎たちを見る日向子さんの視点が少しずつ変わっていくのが感じられる。

 最初、日向子さんの視線は、北斎父娘とそこに集まるバイタリティー溢れる人たちのすぐ側にあって、彼らが関わるあれこれの出来事を、見ていたように生き生きと面白く、時にしんみりと描くのだけど、そのうち彼女の視点はす~と江戸の上空へひいて行く。そうやって見ると、江戸という雑多な人・モノが暮らす場所の一角に北斎やお栄という変わりモンで面白い人たちがいるんだなぁ・・・って感じられる。


 この「百日紅」、先日読んだ皆川博子の「みだら英泉」とはホントに裏表というか、姉妹のような作品だなぁと思う。片方しか読んでいない方は、ぜひ合わせて読んでみてください。両方の世界がより一層生き生きと楽しめます。

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theme : 漫画の感想
genre : 本・雑誌

2008-01-26

うつくしく、やさしく、おろかなり-私の惚れた「江戸」 : 杉浦日向子

 「江戸」を深く愛した身ではあるが、「江戸に住みたかったろう」という問いかけに対しては、「自分は今が良い。昨日でも明日でもない、今日この日の、ここが良い。」と答える、杉浦日向子氏のはっきりと、強く「現在」を肯定する言葉が綴られた一編の文章からこの本は始まる。この“今が一番いい”と言える姿勢、大好きです。自分も胸を張ってそう言いたい。

 少し硬めの刊行物やシンポジウムなどで発表されたものが多いのか、他のエッセイ集などで見れる、つい今見てきた江戸の路地や長屋の様子を語ってくれるようなはずむ口調とは違い、この本に収められた言葉はちょっと硬め。

 「『江戸』の知恵に学ぶ」などということが言われるが、現代人のほうが余程つよくて、ゆたかでかしこいんですよ、ということを前提においた上で、江戸のスリムで合理的な生活様式とか、用をなさない「無駄」を楽しむ精神的な幅といったことなどに、今改めて目を向けてみるのも面白いですよ、と噛んで含めるように語ってくれる。

 「江戸」はうつくしく、やさしいばかりの世界じゃない。芯のある言葉で、ことさらに江戸を美化した「江戸ブーム」への違和感を表明し、封建で未開でおろかな「江戸」という情夫に、“死なばもろとも”と惚れてしまったと心中立て。熱い熱い日向子氏の恋文を読ませてもらった。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2007-11-28

大江戸観光 : 杉浦日向子

 色々な雑誌に書かれた、江戸エッセイを集めたもの。浮世絵、歌舞伎、江戸の読み物、花魁、陰間、美形列伝、狐狸妖怪、江戸のアヤシゲなものたち、時代考証と時代劇・・・知っていると、ちょっと嬉しい気持ちになれる、江戸の美味しいところをつまみ食いさせてくれます。20代の頃に書かれたものが多いのかなぁ? 文章が若々しい気がします。

 杉浦日向子さんの書かれたものを読んでいると、「なるほど! そういう見方もあるんだね。」って気付かされることがよくあります。

 今回は歌舞伎について書かれた部分に、“ナルホドナ~”と深々とうなずくと共に、杉浦氏の眼力に脱帽。

 江戸の歌舞伎の血肉であった「滑稽・卑猥・残酷・乱雑」を捨て、きれいな舎利骨として転生し、お上のお墨付きの「伝承芸能」となった歌舞伎。今頃になって、「歌舞伎の活性化」とか「民衆の娯楽としての歌舞伎を云々」ということが言われるが、それを言うのはゼイタクってもんだと。

 そもそも、民衆劇を脱却して高尚化するという選択をしていなければ、あまた出てきた同時代の演劇、エンターテインメントに押されて、歌舞伎は消えていってしまっていただろう。この明治期の大英断のおかげで、兎にも角にも「今も歌舞伎を観ることができる」ことを感謝しなけりゃいかん。

 そういうことを杉浦氏はおっしゃってます。

 その上で杉浦氏が提案する歌舞伎の楽しみ方・・・「伝承の型」として高められ、洗練され、観るものの日常から遠ざかることで、舞台と客席の間に生じた独特の「ひずみ」を体験すること。前衛的な舞台などでは意図的につくり出されるこの呪術的な空間が、伝承芸能の中には、長い年月の繰り返しによって、自然発生的に生まれている。その「異次元」を楽しむことが、現代の歌舞伎の効率的な楽しみ方ではないか・・・と。

 私としては、歌舞伎の「異次元」感覚って、呪術的というよりも、マンガやアニメにも共通する、ファンの嗜好・欲望に過剰気味に適応した超日常的甘い罠・・・のように思えるんだけどなぁ。 

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2007-11-17

その日ぐらしー江戸っ子人生のすすめ : 高橋克彦・杉浦日向子

 江戸っ子の生活感覚ってどうだったの?を語る高橋克彦氏・杉浦日向子氏の対談集です。会話の中からお二人のベースになる感覚の違いなんかも覗えて興味深い。

 さて、江戸っ子といっても江戸に暮らす人の大半は単身赴任の武士と地方出身のお店者で、つまり現代のサラリーマンのような暮らし。所謂“江戸っ子”っていうのはごく一部の人たちだったそうですね。


 責任ばっかり重くなっちゃう出世なんて望まない・・・曰く「親方なんて呼ばれるようになっちゃ人間おしまいよ」。真面目に働けばすぐに一財産くらい築けるようなご時世なのに、その日の米がなくなるまではふらふらして過ごす。チマチマ働いて長持ちする家を建てるなんてケチくせぇ。小さな借家暮らしで、食べる米がなくなればちょっと稼ぎに行って来る。財産はないけど、ローンもない。尻っぱしょりでどこへでも駆け出せる身軽さが身上。

「人間一生糞袋、食って寝て糞して、それでいいよ」

 個人の自我とか個性とか・・・そういう観念が希薄だったこの時代、江戸っ子の価値観ってこんなもんだったそうで。この価値観を現代の私達がどう思うか? 色々分かれるとこだとは思うけど、こういう風に考えて生きてる人が多ければ、こまかい争いとか競争とかなくて、かなり穏やかな社会にはなると思いますね。

 人間を一個の生き物と考えたとき、将来の安定のために日々財産を蓄え、夢や目標をもってきりきり自分を鍛え上げて輝かしい未来へ進んで行くのが良いのか、ただ“糞袋”とわりきってその日その日をなんとなく楽に暮らすのが良いのか・・・。自分なりの幸せを考えてみるきっかけにもなる一冊ではないでしょうか。

 ただね~、今の日本社会じゃ“その日ぐらし”は不当に低くみられてるとこもあって、すぐにその日さえ暮らせない状況に転落してしまう可能性があるからね~。江戸の世よりは生きにくいでしょう。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2007-10-13

合葬 : 杉浦日向子

 江戸終焉の時・・・彰義隊に参加した少年達の「上野の戦争」前後を描いた作品。

 初めてこの漫画を読んだ時は、彰義隊といってもピンとこなくて、“時代が変わる大きな流れの前に、あたら若い命を散らした青・少年たち”という括りで、新撰組や白虎隊といっしょくたになった曖昧な認識しか持っていなかったんです。

 彰義隊のことをあまり分かってないのは今もあいかわらずですが、あの頃よりは多少の予備知識というか、イメージのようなものができていたので、今回は初めて読んだ時とはちょっと違う感慨を持って読めました。(以前読んだ、島村匠氏の「芳年冥府彷徨」で描かれていた、同じ時期の江戸の町の空気が私のイメージを膨らませてくれています。彰義隊が江戸の町で、また江戸の人にとってどういう存在だったのか等々)

 「合葬」は、たまたま時代の転換期に生きてしまった江戸の若者達の群像劇であり、杉浦氏の愛する「江戸」の葬送のための作品でもあるのですね。

 のびのびと咲き誇った「江戸」の花は、薩長という地方からの新しく激しい風に意外なほどあっけなく散らされていく。愛する江戸が葬られていく様を、杉浦氏はどんな気持ちで見つめられたのでしょう?

 物語前半で描かれる賑やかな宿場の様子と、終盤の上野の戦場の惨状を見比べると何だか胸が塞ぎます。

 
 勤勉で、真面目で我慢強く、力を蓄えてきた地方の勢力に破れてしまった江戸っ子の精一杯のへらず口。

 「上方のぜいろく共がやって来て
  とんきやう(東京)などと江戸をなしけり

  うえからは明治だなどと云ふけれど
  治明(オサマルメイ)と下からは読む」

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genre : 本・雑誌

2007-09-29

隠居のひなたぼっこ : 杉浦日向子

 江戸から割と最近まで・・・日本人の生活に溶け込んできた道具やモノへの愛着や想いを、春夏秋冬の季節毎に綴ったエッセイ。

 杉浦日向子さんの著作を読むと、江戸の生活への憧れをかきたてられずにはいられない。もちろん、がっちり身分制度に縛られた時代だし、衛生状態は今に比べれば劣悪だろうし、電気も高速移動の手段もない生活は、今の私に耐えられるものじゃないに決まってる。でも、「耳掻き屋」なんて生業が成立する・暑い夏は無理せずサボる・季節によって一刻の長さまで変わる不定時法の時間の中で暮らす江戸の生活への憧れの気持ちは止め難い。

 ボロボロに穴の空いた蚊帳を「蓬莱蚊帳」と呼ぶ-【「鶴と亀が(吊ると蚊めが)舞い遊ぶ」から】-やけっぱちなユーモアとエスプリ。

 お洒落へのこだわりも非常にハイレベル。男は尻っ端折りした時に褌からはみ出すとみっともないからとムダ毛の処理に気を遣い、女は着物からのぞいて見える踵の手入れに余念が無い。

 長い泰平の世の中で熟していったこの都市文化はどこへ消えてしまったんでしょう?


 このエッセイの中に登場するもので、できることなら生活に取り入れたいと思ったのは、行灯と屏風(二つ折のがいいな)。

 行灯・・・電気の灯りでは、たとえほたる電球だって部屋の隅まで照らしてしまい闇ができることがない。行灯の灯りとともに現れてくる「闇」というのを見てみたい。(でも、街で暮らしてると、部屋の電気を全部消したって、一晩中窓の外が明るい。)

 屏風・・・独りが好きなくせに、誰かに見守っていて欲しい私には屏風で仕切られたくらいのプライベートスペースがちょうどいいかもしれない。 

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2007-06-20

一日江戸人 : 杉浦日向子

 昨年、久しぶりに歌舞伎を見て以来、私の歌舞伎熱は高まる一方。歌舞伎といえば江戸の一大娯楽、そんならお江戸の人々の様子も見てみようじゃないか、と手にとってみたのが杉浦日向子氏描くところの江戸の人々。何しろ小難しくなくて、楽しく読めるのがいい。

 真面目に働くなんて辛気臭い(江戸でしっかり働いてる職人や商人は地方出身者が多かったそうな)。その時のこたぁその時に考える。野暮や気障が嫌いで洒落と粋が身上。遊びとファッションの追求には余念が無い。

 日本という国にこんなに自信に溢れ、エネルギッシュな人たちがいたっていうのが、今となっては驚き!

 語って聞かせるような杉浦女史の文章も良いですが、やはり漫画家、挿絵や図解が効果的。江戸っ子版「あなたにピッタリのバイトはコレだ!!」ゲーム(よく女性誌なんかにある「YES」「NO」で進んでいくやつ)では、すべてのルートでどこかに「あきた」っていう選択肢が出てきて、小さく笑いのツボを押されてしまった。ぷっ。

 江戸のナンパ・・・お坊ちゃまの場合と一般少年の場合図解も良い。お坊ちゃまは恋煩いで寝込むと番頭が何とかしてくれるのね~。この図解でのお坊ちゃまと一般少年のファッション!! 歌舞伎の舞台でも観たことあるよ~~~! お坊ちゃまは長めに仕立てた羽織に、着物もかかとが隠れるくらい長く着て、必須アイテムは銀無垢のキセル。一般少年は縦縞の着物をこざっぱりと着て、腕まくり、裾まくりで色気をアピール!! これだよこれ~~!

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