2010-03-13

光ってみえるもの、あれは : 川上弘美

 江戸家の家族は、高校一年生の僕・翠と母・愛子さんと祖母・匡子さんの三人。僕の「父親」は存在しないが、ちょくちょく家に上がり込んでくる“遺伝上の父”大鳥さんはいる。翠が通う学校には「親友」といってもいいような間柄の花田や、彼女である平山水絵や、やる気があるようなないような中年の国語教師・キタガーくんがいる。

 自由に見える人も、強く見える人も、飄々として見える人も、気難しく見える人も、賢く見える人も、おろおろしている人も・・・翠も、その周りの人たちも、与えられた場所でそれぞれ真摯に生きている。だけど、それぞれが、それぞれに、ちょっとだけ嫌な感じ。自分にこだわりすぎで、自分の正しさに関して頑なすぎで、その正しさが、自分の親しい者達に向けて発揮されるという内弁慶な感じ。

 どこか欠けてたり、どこか過剰だったりする人が寄り集まって営む微妙にかみ合わない日々は、小さいけれど、何か気にかかる不協和音を鳴らしている。いつも一緒に居たって、わかり合ってるわけじゃないし、面倒くさいし、不興をかうのは怖いし、嫌いだ!と強く思うこともあるし・・・それでも翠はそんな友人や家族達と、翠の日常を生きている。

 何だかとらえどころの無い不穏なことを含みつつも、日常というのはだいたいいつも「ふつう」。「ふつう」にはおさまりきらなかった色んな気持ちや、日々の軋みの集積は、「ふつうじゃない日」として小さな事件を日常にもたらすけれど、やがてそれをも呑み込んで、さらに大きな「ふつう」の日が始まる。そんな偉大な日常を翠は生きている。

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2008-06-11

東京日記~卵一個分のお祝い。 : 川上弘美

  雑誌「東京人」に連載された日記 ~ 川上氏曰く、「五分の四くらいはほんとう」の日記というが、どうなんだろう? どうせ、この人のほんとうは、ほんとうじゃないこととセロファン1枚くらいの薄い膜でしか隔てられていないんだ。

 良きにつけ悪しきにつけ曖昧な・・・、この世じゃないところで起きているのかもしれないことが、ひょろっと日常に侵入してくる感じ・・・。彼女の小説のそこここに感じられる、そんな「日常と非日常のあわい」が、「五分の四くらいはほんとう」だという日記にも顔を出す。川上氏はこんなにも境界のゆるい世界に暮らしているんだろうか?

 境界のゆるい世界をゆらゆらと漂うあの感じ・・・小説として読むには好きな感覚なんだけど、“作家の現実”として読むには、ちょっと“イラッ”とした気分を感じないでもない。

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2008-06-07

ざらざら : 川上弘美

 可愛いと思うものとか、恋とか、寂しいと思う気持ちとか、居心地のいいとことか、痛い経験とか・・・女の子・女の人のまわりにある、そういうものたち。

 ふわふわしてるかと思えば、人にぺったりとくっついてみたりもする女の子・女の人。でもね、基本的にみんなひとりで立ってる感じがするのが清々しい。

 “たった今、この時にも、こんなことを思いながら、こんな感じで暮らしてる女の子たちがどこかにいるのかな~” “いやいや、これは洒落た雑誌のコラムの中だけにいる女性なのかな~” ホントのとこ、どっちなのかな~って思う。

 どこの街にもひっそりと、ふんわりといる女性達という気もするし、一方で川上弘美さんのあの文体の中にしかいない人たちという気もするんだなぁ。

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2008-01-12

ハヅキさんのこと : 川上弘美

 あとがきによると・・・はじめは、エッセイを・・・という約束だったのだが、原稿用紙3枚分以上のエッセイはどうしても書けなくて、エッセイのような小説を書いた・・・のだそうだ。そんな10ページ程度の掌編が沢山つまってます。

 それぞれの作品で、それぞれの登場人物が、それぞれのことを想うわけですが、それがどれも“何ということもないこと”で・・・。

 随分昔のことや、ちょっと前のことや、つい最近のことや、今のことを想いながら(それは過去の恋愛だったり、子供の頃や青春時代の思い出だったり、割と最近の人とのふれあいだったり)、どことなく気持のゆらめくようなものを感じるのだけど、それは取り立てて、何か行動を起こそうと思わせるようなものではなく、昔を懐かしんでいるのでも、過去を悔やんでいるのでもなく・・・。

 どういう気持なのかはっきりと分別できない心の揺れ。別に不満もなく、順調でそれなりに忙しい日々の中では、殆ど気付くことも無い微かなゆらめき。

 こんな“何というのでもない”想いに、ほよんと覆われてるような時間が、時々はあるといいなぁ。

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2007-09-12

ニシノユキヒコの恋と冒険 : 川上弘美

 社会的生き物として欠落しているものがいっぱいあるくせに、何故か人をそらさない魅力を持っている。

 所謂世間の道理、ルールの外にあって、無自覚に周囲の人を散々かき乱し、他人をとことん傷つけることもあるくせに、悪意も下心も計算高さも全く持ち合わせない天然、純真無垢、天真爛漫。

 彼は決定的なことは口にしない。他人を悲しませることも言わない。彼に触れた人たちは、彼に心を寄せ、勝手に心を波立たせ、そしてやがて自分の幸せだった気持ちと悲しみに気付いてく。周囲の人たちの感情の渦の中に、彼はゆらゆら揺れながら漂っている。

 他人から愛され、許され、完全に受容されることを、幼児のように当然の権利としている大人子供。他人を必要とし、他人に愛されながら、その実、自分だけで充足した世界を持つやっかいな人。

 ニシノユキヒコはそんな男。

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2007-08-15

パレード : 川上弘美

 ツキコさんとセンセイにはこんな1日があった。~「センセイの鞄」のサイドストーリーとなる一冊。シンプルな挿絵の添えられた小さくて薄い本で、可愛いオマケって感じ。

 「昔の話をしてください」というセンセイの言葉に促されてツキコさんが語る子供の頃の話。
 

 ・・・なんですが

 川上氏の話にはどうしてこんなにも“人間以外のもの”が出てくるのかなぁ。

 「センセイの鞄」では、ツキコさんもセンセイも、そんな<“人間以外のもの”がいる世界を知ってる感>を漂わせてはいなかったのになぁ。

 ツキコさんは子供の頃、天狗(のようなもの)と生活を共にしていたと言い、センセイもそれをごく自然に受容する。

 「ああ・・・やっぱりこの話にも出てきたか、“人間以外のもの”・・・」(私の心の声)

 「センセイの鞄」の世界にそういうものが入り込んでくることが、どうしても私には馴染めなくて困惑してしまった。

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2007-08-11

センセイの鞄 : 川上弘美

 これまで読んだ川上氏の作品は、あの世とこの世、人間と人間じゃないものが当然のように・・・というか、奇妙な具合に・・・というか・・・まぁ、とにかく混在する、一筋縄ではいかない感じのものが多かったんですが、本作はなんとストレートな恋愛小説。30代後半のツキコさんと、彼女の高校時代の国語教師である「センセイ」の間には30歳ほどの歳の差がある・・・という状況ではあるけれども。

 自分に似ているところ・違うところ、理解できるところ・できないところを一つ一つ見つめながら、センセイとの距離を縮めていくツキコさん。自然にそばにいることができる、好ましいと思う人を求める気持ちが沁みてきます。一人でいる平穏もいいけど、好きな人といることで心に波が立ち、風が吹き・・・というのもいいなぁ。

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2007-04-14

古道具 中野商店 : 川上弘美

 おるお笑い芸人がテレビ番組で、合コンの席で女の子の気をひくためには「君って、変ってるってよく言われない?」って言うのが有効だって言ってました。これ言うと喜ぶ女の子が多いんだそうで・・・。

 
 自由人な中年古道具屋店主・中野さん、自分ルールでのライフスタイルを貫く中野さんの姉・マサヨさん、 “生きるのとか、苦手”で、“人間は、こわい”と思ってる中野商店の従業員・タケオ、そんな人たちと共に中野商店で働くひとみちゃん。

 “一般企業におつとめするんじゃなく、ちょっと浮世離れした人たちが寄り付く古道具屋で店番をしてる”とか、“「生きにくい」と思ってるわけじゃないけど、「生きていくのが苦手」なタケオが好き”・・・という位のちょっと変ってる感を持つひとみちゃんの、ちょっと地面から足が浮いているような現実臭さの無さは、“ちょっと変わってる”というポジションが好きな女の子にとっては憧れる境遇かも知れないな・・・。

 ちょっと変った子でいられる夢の空間・中野商店が閉店、いつもの面々も解散した後、“現実に引き戻される感じに困惑”しつつも、派遣社員として、正社員の女の子達とうまく距離を置きつつ企業のオフィスでお仕事をするようになったひとみちゃんに自分の姿を重ねて共感しちゃうなんてこともあるのかなぁ?

 “ちょっと変った女の子”より“叶恭子様”のほうがすごいと思うなぁ・・・憧れるなぁ・・・。 

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2007-02-07

おめでとう : 川上弘美

 12編の短編で綴られる、あったかいような、愛しいような、でも困っちゃうような、ずっとつづくような、すぐに終わっちゃうような二人の人たちの関係。

 それぞれ作品での二人の関係は、“公式でない”もの(つまり不倫や浮気)であったり、なんだか規格外なものだったり(片方が幽霊であったり、長いこと生きている間に水掻きや翼が生えてくるような何かであったり)・・・または、はっきりと名前をつけて定義できるような関係ではなかったり。

 そんな関係の中で登場人物たちはしばしば“なんだかなぁ”とか“どうにもこうにも”とか口にする。

 みんな“関係”がいつまでも変わらず続くものではないことを予感している。すでに“関係”が終わっている人もいる。そのことは残念ではあるけれども、不幸ではなくて、やっぱり今はこれでいい・・・というか、こうでしかない。そんな“なんだかなぁ”

 川上弘美さんの書くものには、時々ものすご~く虚をつかれてしまう。『恋人が桜の木のうろに住みついてしまった。』で物語を始めてしまったり・・・。で、これはももんがかなんかの恋人同士の話かと思ったら、この「恋人」はちゃんとストライプのワイシャツを着て会社に行くんだと書かれていたりする。

 「うらめしい」と言いながら主人公の女性の部屋に出てきたはいいが、相手のリアクションがないと見るとその沈黙の時間に耐えかねて消えようとする幽霊が出てくる作品もある。それがコメディとしてではなく、至極真剣に書かれていることに私は虚をつかれて“なんだそれ?”と思うと同時に不覚にもくすっとしてしまった。

 そういう風に虚をつかれた心は、掌の中で物語られる風変わりではあるがそれぞれに真剣で切実な関係の話をすぅ~っと受け入れていくようだ。

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2006-12-02

龍宮 : 川上弘美

 「おれはその昔蛸であった」と言い、イカカレーラーメンを食べる男。私の膝丈ほどしかない、少女の顔をした曾祖母。台所に潜み、居間を駆け回る顔が三つの荒神。7代前の御先祖に一目ぼれし恋仲になりたいと思う老女。昼は会社でパソコンに向かい、夜は“生きる精を無くした”人間たちを拾い集めて帰るモグラ。

 本の扉がそのまま世にも奇妙な物語への扉になっている。見えないものが見え、聞えないものが聞え、この世では常識的でないことが普通に起きる。淡々と語られるありえない物語・・・こういうのを異界と云うのだろうか。

 この奇妙な世界を近くに感じる人もいるだろうし、自分の中に抱えているという人もいるのだろうが、私にはとても遠く感じられる。多分、今の私の生活には関わってこないもの。だから、この本を読んで感じるのは、ちょっと扉を開けて旅行してきた感じ。見知らぬ場所だから見るもの、聞くもの珍しくて、軽くカルチャーショックを受ける。でも、あくまで観光気分だから、ちょっと歓声をあげながら通り過ぎる。ここは自分の場所じゃないと分かって楽しんでいる。本当は観光よろしく見・聞き流しちゃいけないこともあるような気がするが、深くは考えない。この妙な世界に長居はしちゃいけないから。

 本を閉じると異界への扉も閉まる。龍宮城から戻ってきた浦島のように、自分の住む世界に帰ってくる。
 
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