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2019-11-09

きつねのはなし(再読) : 森見登美彦

『きつねのはなし』 森見登美彦

 再読。

 数年前に読んだときのイメージとして残っていたのは、お話しの背景となる京都の町の暗闇と、説明のつかない出来事の不気味さばかりだったのだが・・・

 古道具屋、きつねの面、幻燈、妙に胴の長いケモノ…夢か現か曖昧な、そういうものたちの存在と共に語られる4つの話は、改めて読んでみると、胸に深く刻まれた今はもういない人、人生の中で過ごした最も忘れがたい時間を思って綴られる恋文のようでもあって、とても切ない。



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2019-06-22

シューマンの指 : 奥泉光

『シューマンの指』 奥泉光

 指を失ったはずのピアニストがシューマンの故郷の町の小さなホールでピアノを弾いていたことを報せる手紙と、それにつづいて綴られる「私」の手記。長いあいだ封印されていた天才ピアニスト永嶺修人をめぐる記憶が、何事かを秘めた言葉で語りだされる。

 何が語られようとしているのか、語られる言葉は何を隠しているのか・・・。懐かしさと愛しさと不吉さが混ざり合う(それは、手記に記される『永嶺修人の語るシューマン論』と並行するような)語りの先に仄見える決定的な出来事。何かがおかしい。その不穏さに緊張しながら、導かれるままに読み進める。

 シューマンが聴き、表現しようとしたもの、修人が奏でるビアノの音、この世に遍く存在する「音楽」の姿、その「音楽」に撃たれる体験 ~ 五感に触れてイメージを溢れさせる言葉の渦まく流れ。その流れに巻かれ陶然となりながら、「私」の体験と感覚を共有する。やがて静かに終息していく感覚の渦。最後の音の余韻の中で天才ピアニスト永嶺修人をめぐるミステリーのページを閉じた。


 歌人・穂村弘氏の読書日記『きっとあの人は眠っているんだよ』の中で、【天才ピアニストの悪魔的魅力】と題されて、永井するみの『大いなる聴衆』、飛浩隆の「デュオ」とともに紹介されていた一冊。


 

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2016-01-23

海峡―この水の無明の真秀ろば : 赤江瀑

『海峡―この水の無明の真秀ろば』 赤江瀑

 海峡-陸と陸を隔てる潮の流れ。往来する人の渡る通り道であると同時に全くの異界でもある海の世界。こちら側とあちら側を分けて流れる水。

 海峡の町に暮らした赤江氏が幻視する「海峡」の姿。「海峡」のもたらす様々な想念や妖しく人を誘い込む幻の光景の断片。

 赤江氏の小説は魔的なもの、逢魔の感覚に満ちている。その魔の精髄、その在り処が赤江氏には「海峡」として目にうつり、耳に聞こえるのだろうか。

 夜、無人の磯を歩くと海峡が得体のしれない生き物の気配を帯び、指先にその搏動を伝える肉体を持ったと感じる瞬間があるという。

 その(海峡の)肉体の一端にわたしもわが肉体の一端で直接触れていると感じるこの奇妙な現実下の一刹那は、不意の感応現象がもたらす理解であるだけに、常ならぬ、怪奇なる昂奮を呼び起こす。

 流れる水が肉体を持ったと感じる一刹那は深夜の磯の無人の時間と闇が与えてくれるほんのわずかな間に消える神秘な幻想体験にすぎないけれども、わが人体とは異なった怪奇なる生体と肌を接しているという鮮やかな自覚はしばらく消えない。


 赤江氏自身の逢魔の体験を生々しく感じさせる文章である。

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2012-10-20

星踊る綺羅の鳴く川 : 赤江瀑

『星踊る綺羅の鳴く川』 赤江瀑

 天蓋と旛とを上部に飾り、縄をかけられ中空に吊るされた棺の下、濃く深く垂れ込める暗闇の中に聞こえる密やかな音色。銀の小花を無数に飾った花櫛が闇に煌めき、涼やかな音をたてる。

 文化・文政の江戸、大南北の血みどろで凄惨な情念の世界を演じて江戸中を熱狂させた役者たち・・・舞台の上で演じ、演じられたものたちの魂と精が凝った妖しのものたちの住む櫓。この世のどこにあるとも知れぬ、剣の林、鬼火の森、地獄野の果ての闇の中の住まい。

 闇夜の空を泳ぐ鯉幟。満開の桜の精を吸い尽して立ち現れる宴の舞台に、闇の中から太夫たちが絢爛たるその姿をあらわし、戯れる。

 
 芝居に憑かれ、思いに思った一念の為とはいえ、時空を隔てたこの世の生身の女たちが、この妖しの精霊たちの住まいにたどりついたとは何て事!(なんと妬ましい) 凄艶な太夫たちの姿を見、言葉を交わした四人の女優たちは皆、この夢幻の闇に棲む美しい魔物の贄になればいい。




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2012-04-21

鬼恋童 : 赤江瀑

『鬼恋童』 赤江瀑

 講談社文庫から出ている赤江瀑作品の多くは表紙が辻村ジュサブローの人形で飾られていて、手に取るだけで妖しい気配がム~ンなのである。以前は講談社文庫版の赤江作品は『罪喰い』以外すべて(多分)持っていたのだけど、ある時期に訳あってすべて手放してしまって、今手元にあるのは『鬼恋童』含めて4冊だけである。何であの時手放してしまったのか・・・馬鹿なことをした。

 久しぶりに読んだ『鬼恋童』だが・・・ああ、やっぱりやられた。冒頭の数行を読んだだけで、見事に、“あっ”という間に、なす術もなく、スコーンと赤江瀑の世界にハマってしまった。

 
 この間、ワイドショーを見ていたら、「悪い霊が憑いている」などと言って、不安を煽り、悩みを抱える人の心の弱みにつけこんで怪しげな商品を買わせてしまう霊感商法の手口を紹介していた。「悪霊が・・・」なんて言われて何故信じてしまうのか。何かおかしいとどうして気づかないのか。傍から見れば、何でそんなことになるのか到底理解できない、ありえない話。

 でも、世界にハマるってこういうことだよなぁ・・・と、読み終えたこの小説を手にして思う。

 普通の日常生活をおくっている健全な(?)精神状態では見えるはずのない、闇、鬼、魔、妖しが姿をあらわすそんな世界。しかし、わたしたちの心は、漠然とした正体のわからない不安が芽生えるだけで、すっと日常を離れていく。

 『鬼恋童』・・・毛利藩の御用窯としての開窯以来、萩焼の歴史のどの一角、一隅にも記されていないその文字(「鬼恋童」)。

 六条御息所ゆかりの野宮神社への竹藪の路ですれちがった、ふと気にかかる女の顔(「阿修羅花伝」)。

 「雉子も鳴かずば撃たれまいに・・・」 一声高く鳴いて飛び立つ雉子に自らを重ね幻想する男(「闇絵黒髪」)。

 ニューヨークの街を歩きながら、中国古代の火の神『炎帝』の名を持つ一枚の絵~燃え上がる炎のような筋隈をひいた男の顔~を思う女(「炎帝よ叫べ」)。

 左右両端に蕨型の背もたれ、アカンサスと忍冬模様のビロード張りのシート、インド産のサテンウッドに精妙優美な彫刻装飾を施した一台の寝椅子(「寝室のアダム」)。

 収録された各短編冒頭の情景、記述。ほんの数行の言葉、描写で、赤江瀑は私たちの心に不安、不審、不穏の芽を植え付ける。もう世界にハマっている。芽はどんどん大きく育つ。じっとりと汗をかき、何か恐ろしいものが眼の端でうごめいているのを感じる。ああ、見ちゃあいけない。


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2011-01-22

海贄考 : 赤江瀑

『海贄考』 赤江瀑

 『門を出ると、外はなにやら騒然たる月のひかり』  (「月下殺生」)

 これぞ赤江瀑が見せる妖し。

 柝が入る。幕が切って落とされる。足もとがぐらりと揺れる。世界が…歪む。眩んだ目を開くと、そこには凄艶な青い月の光に照らされた舞台が出現している。

 「厭な晩だ」・・・父を亡くし新盆を迎える友のもとを訪ねたものの、何か気の滅入る落ち着かなさを感じる哲夫。連れ立って歩き出した月光の中、哲夫が耳にした友の言葉、目にした友の姿・・・

 目の前の光景が途切れ、呪縛が解ける。放心の後、ほっと息をついて気付く。騒然たる青い月の光がさした瞬間、この世ではない場所に連れ去られていたことに。そこで繰り広げられる、悪夢のように逃れ難く異様な出来事を見つめる間、息をすることも忘れていたことに。

 その他、表題作「海贄考」含む全七篇の短編集。 

 終わりに向かう旅の途中で私と妻が行きついたある漁村。入り組んだ路地に阻まれすぐそこに見える海に辿り着けない、何か幻覚を誘うようなこの地には、水死者を神として祀る慣わしがあった。(「海贄考」)

 四十代半ばにして真っ白な嬉子の頭髪。老婆のように生き、死までの時間を静かに暮らす彼女の心に棲み付いた硝子のライオン。(「硝子のライオン」)

 鳥も通わぬ遥か海上・王島に、五年も姿を見せぬ鯨を追う男達(「幻鯨」)

 ・・・他

 悲しみと諦めに覆われて静かに密かに、しかし激しく残酷にその身の内を焼き尽くす、またあるいは、抗い難く甘美で無慈悲な力を振るい人の心と世界を覆い尽くす狂気。

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2010-09-29

光堂 : 赤江瀑

『光堂』 赤江瀑

 燃えるような紅葉の美しい庭に潜むもの。現と幻の間を行き来する漆黒の馬。遠くへ去った者たちが一時その姿を垣間見せる、見知らぬ街の夜市。都会のビル群のただ中、一人の女にだけ見える黄泉平坂。恨み呪う相手が死に絶えても、尽きない瞋恚の炎に焼かれ続ける痩せさらばえた青き鬼。

 自らの内に、静かにその暗い口を開いていた闇へと落ちていく男女。


 赤江瀑の小説を読んでいると、ぐにゃりと世界が歪む瞬間がある。なす術も無くその空間に囚われている。暗く、重く、香気に満ちたその空間は、際限なく人を誘い、呑み込むかに見えて、しかし他者と溶け合うことを厳然と拒む。

 突然断ち切られた妖しい夢の切れ端を手に、しばし茫然とする。

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2009-12-19

鬼会 : 赤江瀑

 人の心に密かに棲みつき身を潜めているモノ。その姿を見てしまえば、その獰猛な力に巻かれ、絶望的なまでに強烈な官能に身を捧げつくさずにはいられない。

 そういうモノの出現を、眩暈のするような墜落感とともに描く短篇集。心の内に広がる濃密な幻に、ひととき翻弄される。

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2009-04-15

狐の剃刀

 京都を舞台に描かれる、耽美、魔的、狂おしく怖ろしい短編集。粘度の高い、濃く匂う言葉。読み手を追い立て、巻き込む独特のリズム。これぞ赤江節。

 「いさま まいる」と記された絵に、二条城の杉戸絵に描かれた鷺に、阿修羅像の姿に、象牙細工の扇に、十二星座を彫り込んだ緑青をふく銅の水鉢に、京の町に潜む幻めいたものに・・・ 深く、深く込められ、絡みついた人の想いが、その姿を現す出口を探すように蠢く。


 赤江氏の筆は、人の心に忍び込み、とり付いた魔をじりじりと描いてみせるが、人の深い深い部分に秘された鬼の姿を、顕かにはしない。長く心の中に守り、閉じ込めてきたモノは、また深く、深く、沈み、秘される。

 徹底して隠された情念、奥底に沈む真実の感触は、いつまでも離れない余韻として纏わり続ける。

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2009-03-21

弄月記 : 赤江瀑

 ああ! 赤江瀑だ! この妖しさ! 狂おしさ! 説明のつかなさ!

 人の行く道と一瞬交叉する、目に見えぬ魔の道。心の内に静かに醸される魔。

 いつ何時、人をとらえてしまうのか、そこに立ち現れてくるのか・・・計り知れない、日常を生きる目には決して見えないはずの妖しい逢魔の時を、目の前に現出せしめる十二編の短編。

 冒頭の情景だけで、いきなりこの世ならぬ世界へと攫い、続く言葉で更に深く深く・・・深淵へと導く。そして・・・引いていた手をいきなり離すかのような不意の幕切れ、身動きすらかなわない崖の突端に、あるいは真っ暗な闇の只中に立たされる。赤江瀑独特のリズム・うねりに思うさま翻弄される。

 中でも表題作『弄月記』 ~ 亡き妻の言葉に従い、廃村の山に照る美しい月を訪ねた画家の懊悩と、死に場所を求めて月の美しい山を彷徨う老女形の姿- 月の光の印象があざやかで、その月の光の照らす世界が妖しい。

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