2012-04-21
鬼恋童 : 赤江瀑
『鬼恋童』 赤江瀑
講談社文庫から出ている赤江瀑作品の多くは表紙が辻村ジュサブローの人形で飾られていて、手に取るだけで妖しい気配がム~ンなのである。以前は講談社文庫版の赤江作品は『罪喰い』以外すべて(多分)持っていたのだけど、ある時期に訳あってすべて手放してしまって、今手元にあるのは『鬼恋童』含めて4冊だけである。何であの時手放してしまったのか・・・馬鹿なことをした。
久しぶりに読んだ『鬼恋童』だが・・・ああ、やっぱりやられた。冒頭の数行を読んだだけで、見事に、“あっ”という間に、なす術もなく、スコーンと赤江瀑の世界にハマってしまった。
この間、ワイドショーを見ていたら、「悪い霊が憑いている」などと言って、不安を煽り、悩みを抱える人の心の弱みにつけこんで怪しげな商品を買わせてしまう霊感商法の手口を紹介していた。「悪霊が・・・」なんて言われて何故信じてしまうのか。何かおかしいとどうして気づかないのか。傍から見れば、何でそんなことになるのか到底理解できない、ありえない話。
でも、世界にハマるってこういうことだよなぁ・・・と、読み終えたこの小説を手にして思う。
普通の日常生活をおくっている健全な(?)精神状態では見えるはずのない、闇、鬼、魔、妖しが姿をあらわすそんな世界。しかし、わたしたちの心は、漠然とした正体のわからない不安が芽生えるだけで、すっと日常を離れていく。
『鬼恋童』・・・毛利藩の御用窯としての開窯以来、萩焼の歴史のどの一角、一隅にも記されていないその文字(「鬼恋童」)。
六条御息所ゆかりの野宮神社への竹藪の路ですれちがった、ふと気にかかる女の顔(「阿修羅花伝」)。
「雉子も鳴かずば撃たれまいに・・・」 一声高く鳴いて飛び立つ雉子に自らを重ね幻想する男(「闇絵黒髪」)。
ニューヨークの街を歩きながら、中国古代の火の神『炎帝』の名を持つ一枚の絵~燃え上がる炎のような筋隈をひいた男の顔~を思う女(「炎帝よ叫べ」)。
左右両端に蕨型の背もたれ、アカンサスと忍冬模様のビロード張りのシート、インド産のサテンウッドに精妙優美な彫刻装飾を施した一台の寝椅子(「寝室のアダム」)。
収録された各短編冒頭の情景、記述。ほんの数行の言葉、描写で、赤江瀑は私たちの心に不安、不審、不穏の芽を植え付ける。もう世界にハマっている。芽はどんどん大きく育つ。じっとりと汗をかき、何か恐ろしいものが眼の端でうごめいているのを感じる。ああ、見ちゃあいけない。
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講談社文庫から出ている赤江瀑作品の多くは表紙が辻村ジュサブローの人形で飾られていて、手に取るだけで妖しい気配がム~ンなのである。以前は講談社文庫版の赤江作品は『罪喰い』以外すべて(多分)持っていたのだけど、ある時期に訳あってすべて手放してしまって、今手元にあるのは『鬼恋童』含めて4冊だけである。何であの時手放してしまったのか・・・馬鹿なことをした。
久しぶりに読んだ『鬼恋童』だが・・・ああ、やっぱりやられた。冒頭の数行を読んだだけで、見事に、“あっ”という間に、なす術もなく、スコーンと赤江瀑の世界にハマってしまった。
この間、ワイドショーを見ていたら、「悪い霊が憑いている」などと言って、不安を煽り、悩みを抱える人の心の弱みにつけこんで怪しげな商品を買わせてしまう霊感商法の手口を紹介していた。「悪霊が・・・」なんて言われて何故信じてしまうのか。何かおかしいとどうして気づかないのか。傍から見れば、何でそんなことになるのか到底理解できない、ありえない話。
でも、世界にハマるってこういうことだよなぁ・・・と、読み終えたこの小説を手にして思う。
普通の日常生活をおくっている健全な(?)精神状態では見えるはずのない、闇、鬼、魔、妖しが姿をあらわすそんな世界。しかし、わたしたちの心は、漠然とした正体のわからない不安が芽生えるだけで、すっと日常を離れていく。
『鬼恋童』・・・毛利藩の御用窯としての開窯以来、萩焼の歴史のどの一角、一隅にも記されていないその文字(「鬼恋童」)。
六条御息所ゆかりの野宮神社への竹藪の路ですれちがった、ふと気にかかる女の顔(「阿修羅花伝」)。
「雉子も鳴かずば撃たれまいに・・・」 一声高く鳴いて飛び立つ雉子に自らを重ね幻想する男(「闇絵黒髪」)。
ニューヨークの街を歩きながら、中国古代の火の神『炎帝』の名を持つ一枚の絵~燃え上がる炎のような筋隈をひいた男の顔~を思う女(「炎帝よ叫べ」)。
左右両端に蕨型の背もたれ、アカンサスと忍冬模様のビロード張りのシート、インド産のサテンウッドに精妙優美な彫刻装飾を施した一台の寝椅子(「寝室のアダム」)。
収録された各短編冒頭の情景、記述。ほんの数行の言葉、描写で、赤江瀑は私たちの心に不安、不審、不穏の芽を植え付ける。もう世界にハマっている。芽はどんどん大きく育つ。じっとりと汗をかき、何か恐ろしいものが眼の端でうごめいているのを感じる。ああ、見ちゃあいけない。
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2011-01-22
海贄考 : 赤江瀑
『海贄考』 赤江瀑
『門を出ると、外はなにやら騒然たる月のひかり』 (「月下殺生」)
これぞ赤江瀑が見せる妖し。
柝が入る。幕が切って落とされる。足もとがぐらりと揺れる。世界が…歪む。眩んだ目を開くと、そこには凄艶な青い月の光に照らされた舞台が出現している。
「厭な晩だ」・・・父を亡くし新盆を迎える友のもとを訪ねたものの、何か気の滅入る落ち着かなさを感じる哲夫。連れ立って歩き出した月光の中、哲夫が耳にした友の言葉、目にした友の姿・・・
目の前の光景が途切れ、呪縛が解ける。放心の後、ほっと息をついて気付く。騒然たる青い月の光がさした瞬間、この世ではない場所に連れ去られていたことに。そこで繰り広げられる、悪夢のように逃れ難く異様な出来事を見つめる間、息をすることも忘れていたことに。
その他、表題作「海贄考」含む全七篇の短編集。
終わりに向かう旅の途中で私と妻が行きついたある漁村。入り組んだ路地に阻まれすぐそこに見える海に辿り着けない、何か幻覚を誘うようなこの地には、水死者を神として祀る慣わしがあった。(「海贄考」)
四十代半ばにして真っ白な嬉子の頭髪。老婆のように生き、死までの時間を静かに暮らす彼女の心に棲み付いた硝子のライオン。(「硝子のライオン」)
鳥も通わぬ遥か海上・王島に、五年も姿を見せぬ鯨を追う男達(「幻鯨」)
・・・他
悲しみと諦めに覆われて静かに密かに、しかし激しく残酷にその身の内を焼き尽くす、またあるいは、抗い難く甘美で無慈悲な力を振るい人の心と世界を覆い尽くす狂気。
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『門を出ると、外はなにやら騒然たる月のひかり』 (「月下殺生」)
これぞ赤江瀑が見せる妖し。
柝が入る。幕が切って落とされる。足もとがぐらりと揺れる。世界が…歪む。眩んだ目を開くと、そこには凄艶な青い月の光に照らされた舞台が出現している。
「厭な晩だ」・・・父を亡くし新盆を迎える友のもとを訪ねたものの、何か気の滅入る落ち着かなさを感じる哲夫。連れ立って歩き出した月光の中、哲夫が耳にした友の言葉、目にした友の姿・・・
目の前の光景が途切れ、呪縛が解ける。放心の後、ほっと息をついて気付く。騒然たる青い月の光がさした瞬間、この世ではない場所に連れ去られていたことに。そこで繰り広げられる、悪夢のように逃れ難く異様な出来事を見つめる間、息をすることも忘れていたことに。
その他、表題作「海贄考」含む全七篇の短編集。
終わりに向かう旅の途中で私と妻が行きついたある漁村。入り組んだ路地に阻まれすぐそこに見える海に辿り着けない、何か幻覚を誘うようなこの地には、水死者を神として祀る慣わしがあった。(「海贄考」)
四十代半ばにして真っ白な嬉子の頭髪。老婆のように生き、死までの時間を静かに暮らす彼女の心に棲み付いた硝子のライオン。(「硝子のライオン」)
鳥も通わぬ遥か海上・王島に、五年も姿を見せぬ鯨を追う男達(「幻鯨」)
・・・他
悲しみと諦めに覆われて静かに密かに、しかし激しく残酷にその身の内を焼き尽くす、またあるいは、抗い難く甘美で無慈悲な力を振るい人の心と世界を覆い尽くす狂気。
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2010-09-29
光堂 : 赤江瀑
『光堂』 赤江瀑
燃えるような紅葉の美しい庭に潜むもの。現と幻の間を行き来する漆黒の馬。遠くへ去った者たちが一時その姿を垣間見せる、見知らぬ街の夜市。都会のビル群のただ中、一人の女にだけ見える黄泉平坂。恨み呪う相手が死に絶えても、尽きない瞋恚の炎に焼かれ続ける痩せさらばえた青き鬼。
自らの内に、静かにその暗い口を開いていた闇へと落ちていく男女。
赤江瀑の小説を読んでいると、ぐにゃりと世界が歪む瞬間がある。なす術も無くその空間に囚われている。暗く、重く、香気に満ちたその空間は、際限なく人を誘い、呑み込むかに見えて、しかし他者と溶け合うことを厳然と拒む。
突然断ち切られた妖しい夢の切れ端を手に、しばし茫然とする。
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燃えるような紅葉の美しい庭に潜むもの。現と幻の間を行き来する漆黒の馬。遠くへ去った者たちが一時その姿を垣間見せる、見知らぬ街の夜市。都会のビル群のただ中、一人の女にだけ見える黄泉平坂。恨み呪う相手が死に絶えても、尽きない瞋恚の炎に焼かれ続ける痩せさらばえた青き鬼。
自らの内に、静かにその暗い口を開いていた闇へと落ちていく男女。
赤江瀑の小説を読んでいると、ぐにゃりと世界が歪む瞬間がある。なす術も無くその空間に囚われている。暗く、重く、香気に満ちたその空間は、際限なく人を誘い、呑み込むかに見えて、しかし他者と溶け合うことを厳然と拒む。
突然断ち切られた妖しい夢の切れ端を手に、しばし茫然とする。
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2009-12-19
鬼会 : 赤江瀑
鬼会 / 赤江瀑
人の心に密かに棲みつき身を潜めているモノ。その姿を見てしまえば、その獰猛な力に巻かれ、絶望的なまでに強烈な官能に身を捧げつくさずにはいられない。
そういうモノの出現を、眩暈のするような墜落感とともに描く短篇集。心の内に広がる濃密な幻に、ひととき翻弄される。
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人の心に密かに棲みつき身を潜めているモノ。その姿を見てしまえば、その獰猛な力に巻かれ、絶望的なまでに強烈な官能に身を捧げつくさずにはいられない。
そういうモノの出現を、眩暈のするような墜落感とともに描く短篇集。心の内に広がる濃密な幻に、ひととき翻弄される。
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2009-04-15
狐の剃刀
狐の剃刀 / 赤江瀑
京都を舞台に描かれる、耽美、魔的、狂おしく怖ろしい短編集。粘度の高い、濃く匂う言葉。読み手を追い立て、巻き込む独特のリズム。これぞ赤江節。
「いさま まいる」と記された絵に、二条城の杉戸絵に描かれた鷺に、阿修羅像の姿に、象牙細工の扇に、十二星座を彫り込んだ緑青をふく銅の水鉢に、京の町に潜む幻めいたものに・・・ 深く、深く込められ、絡みついた人の想いが、その姿を現す出口を探すように蠢く。
赤江氏の筆は、人の心に忍び込み、とり付いた魔をじりじりと描いてみせるが、人の深い深い部分に秘された鬼の姿を、顕かにはしない。長く心の中に守り、閉じ込めてきたモノは、また深く、深く、沈み、秘される。
徹底して隠された情念、奥底に沈む真実の感触は、いつまでも離れない余韻として纏わり続ける。
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京都を舞台に描かれる、耽美、魔的、狂おしく怖ろしい短編集。粘度の高い、濃く匂う言葉。読み手を追い立て、巻き込む独特のリズム。これぞ赤江節。
「いさま まいる」と記された絵に、二条城の杉戸絵に描かれた鷺に、阿修羅像の姿に、象牙細工の扇に、十二星座を彫り込んだ緑青をふく銅の水鉢に、京の町に潜む幻めいたものに・・・ 深く、深く込められ、絡みついた人の想いが、その姿を現す出口を探すように蠢く。
赤江氏の筆は、人の心に忍び込み、とり付いた魔をじりじりと描いてみせるが、人の深い深い部分に秘された鬼の姿を、顕かにはしない。長く心の中に守り、閉じ込めてきたモノは、また深く、深く、沈み、秘される。
徹底して隠された情念、奥底に沈む真実の感触は、いつまでも離れない余韻として纏わり続ける。
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2009-03-21
弄月記 : 赤江瀑
弄月記 / 赤江瀑
ああ! 赤江瀑だ! この妖しさ! 狂おしさ! 説明のつかなさ!
人の行く道と一瞬交叉する、目に見えぬ魔の道。心の内に静かに醸される魔。
いつ何時、人をとらえてしまうのか、そこに立ち現れてくるのか・・・計り知れない、日常を生きる目には決して見えないはずの妖しい逢魔の時を、目の前に現出せしめる十二編の短編。
冒頭の情景だけで、いきなりこの世ならぬ世界へと攫い、続く言葉で更に深く深く・・・深淵へと導く。そして・・・引いていた手をいきなり離すかのような不意の幕切れ、身動きすらかなわない崖の突端に、あるいは真っ暗な闇の只中に立たされる。赤江瀑独特のリズム・うねりに思うさま翻弄される。
中でも表題作『弄月記』 ~ 亡き妻の言葉に従い、廃村の山に照る美しい月を訪ねた画家の懊悩と、死に場所を求めて月の美しい山を彷徨う老女形の姿- 月の光の印象があざやかで、その月の光の照らす世界が妖しい。
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ああ! 赤江瀑だ! この妖しさ! 狂おしさ! 説明のつかなさ!
人の行く道と一瞬交叉する、目に見えぬ魔の道。心の内に静かに醸される魔。
いつ何時、人をとらえてしまうのか、そこに立ち現れてくるのか・・・計り知れない、日常を生きる目には決して見えないはずの妖しい逢魔の時を、目の前に現出せしめる十二編の短編。
冒頭の情景だけで、いきなりこの世ならぬ世界へと攫い、続く言葉で更に深く深く・・・深淵へと導く。そして・・・引いていた手をいきなり離すかのような不意の幕切れ、身動きすらかなわない崖の突端に、あるいは真っ暗な闇の只中に立たされる。赤江瀑独特のリズム・うねりに思うさま翻弄される。
中でも表題作『弄月記』 ~ 亡き妻の言葉に従い、廃村の山に照る美しい月を訪ねた画家の懊悩と、死に場所を求めて月の美しい山を彷徨う老女形の姿- 月の光の印象があざやかで、その月の光の照らす世界が妖しい。
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2009-01-31
巨門星―小説菅原道真青春譜 : 赤江瀑
巨門星―小説菅原道真青春譜 / 赤江瀑
平安の宮廷において高位の官僚に上りつめたものの、後に無実の罪で流され、怨霊とまで化した菅原道真の生涯とともに、「表向きの歴史には登場しない平安京・夜の王朝支配者をも描き配したいと思っている」(作者の言葉より)という意気込みの下、新聞連載小説として発表された作品ということだが・・・あとがきでもらされている通り、どうもペース配分が上手くいかなかった作品のようである。むむむぅ・・・。
宮廷に渦巻く、貴族・皇族の思惑、謀略。それらに翻弄されながらも愛し合う貴公子と姫たちの官能。その中で栄華の道を進みつつある道真。そして、都に蠢く怨霊めいたもの。それらすべてをこってりと描き尽くさんという目論みだったようだが、いかんせん連載期間が足らなかった(のか?)。
道真の死までを描く予定が、結局青年期までしか書けていないという事はまあ置いておくとしても、まったり、こってりと思わせぶりに進んできたストーリーと妖しの事件は、最期の章になってばたばたと帳尻合わせをされることになってしまい、前半の匂いやかな世界に対し、この終盤の趣の無さは何だ!と残念に思われてならない。
序盤~前半にかけては先を期待させるに十分な展開なのだ。腹に一物呑み暗躍する怪物めいた藤原一門の貴族たち、官能的かつ悲劇に彩られた宮廷の愛が赤江氏の匂い立つ濃密な言葉で細やかに描かれ、同時に、人智の及ばないところで都に不吉な影を落とす妖しのものたちがちらりとその姿を垣間見せる。赤江ワールドにどっぷり浸って読み進める前半だが、話も中盤にさしかかるころから、ちょいちょいとある懸念が頭をよぎる。「この話、ちゃんと終わるの?」「着地点は見えてるの?」・・・そして、案の定・・・。
これは、個人的な好みの問題かもしれないが・・・ 短編作品において、人の情念をねっとり語るときには、あれほど妖しい魅力を放つ赤江瀑の粘度の高い言葉が、ストーリー運びで読ませて欲しいと思う長編では、時々くどくどしいとさえ思われる。
やはり赤江瀑の世界は短編でこそ存分に堪能できるのではないかと思う。
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平安の宮廷において高位の官僚に上りつめたものの、後に無実の罪で流され、怨霊とまで化した菅原道真の生涯とともに、「表向きの歴史には登場しない平安京・夜の王朝支配者をも描き配したいと思っている」(作者の言葉より)という意気込みの下、新聞連載小説として発表された作品ということだが・・・あとがきでもらされている通り、どうもペース配分が上手くいかなかった作品のようである。むむむぅ・・・。
宮廷に渦巻く、貴族・皇族の思惑、謀略。それらに翻弄されながらも愛し合う貴公子と姫たちの官能。その中で栄華の道を進みつつある道真。そして、都に蠢く怨霊めいたもの。それらすべてをこってりと描き尽くさんという目論みだったようだが、いかんせん連載期間が足らなかった(のか?)。
道真の死までを描く予定が、結局青年期までしか書けていないという事はまあ置いておくとしても、まったり、こってりと思わせぶりに進んできたストーリーと妖しの事件は、最期の章になってばたばたと帳尻合わせをされることになってしまい、前半の匂いやかな世界に対し、この終盤の趣の無さは何だ!と残念に思われてならない。
序盤~前半にかけては先を期待させるに十分な展開なのだ。腹に一物呑み暗躍する怪物めいた藤原一門の貴族たち、官能的かつ悲劇に彩られた宮廷の愛が赤江氏の匂い立つ濃密な言葉で細やかに描かれ、同時に、人智の及ばないところで都に不吉な影を落とす妖しのものたちがちらりとその姿を垣間見せる。赤江ワールドにどっぷり浸って読み進める前半だが、話も中盤にさしかかるころから、ちょいちょいとある懸念が頭をよぎる。「この話、ちゃんと終わるの?」「着地点は見えてるの?」・・・そして、案の定・・・。
これは、個人的な好みの問題かもしれないが・・・ 短編作品において、人の情念をねっとり語るときには、あれほど妖しい魅力を放つ赤江瀑の粘度の高い言葉が、ストーリー運びで読ませて欲しいと思う長編では、時々くどくどしいとさえ思われる。
やはり赤江瀑の世界は短編でこそ存分に堪能できるのではないかと思う。
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2008-08-13
赤江瀑の「平成」歌舞伎入門 : 赤江瀑
赤江瀑の「平成」歌舞伎入門 / 赤江瀑
伝統芸能の世界を舞台とした妖艶・絢爛たる作品を数々世に出しておられる赤江瀑氏が「平成」の歌舞伎を語る。
群雄割拠で盛況を呈する「平成」歌舞伎の現状について、当代の人気・実力派俳優の持つ花について、それぞれの芸に触れながらの解説。そしてその中から、歌舞伎の世界の側、観客の側にひそむ問題・・・懸念の種を示唆する内容になっているが、全体的に歯切れの悪い印象が残る。歌舞伎というものがそもそも歯切れよく語れるものではないのかもしれないが・・・。
赤江氏の情念的な文章が、新書の文字サイズ、ページレイアウトで配置されると、どこか色気と言葉のパワーを削がれてしまうように感じるのは気のせいだろうか? また、「入門書」という形で歌舞伎への入り口を読者に提示することへの疑問・抵抗を感じておれれるようにもお見受けする。「鑑賞教室」や「入門書」で入り口を示すことは、それぞれの体験・感性に従って無限にも拓かれるべき歌舞伎の楽しみ方、その世界へ踏み込んでいく道を狭めることになるとの思いが、赤江氏の筆を止めているのではないか?
やはり、赤江氏が歌舞伎について何かを書くなら小説で、その複雑怪奇で、なかなか正体を現さないその芸能が持つ魔力、美しさ、怖ろしさを存分に描いていただくのが最上ではないか。入門書で示す道よりはるかに険しくも誘惑に満ちた妖しの道を示してくれるのに・・・。
歌舞伎を語り始める導入部分で「野郎歌舞伎」と呼ばれた時代の歌舞伎に思いを馳せる赤江氏の言葉が感動的。歌舞伎の世界を見渡して解説する後の章の文章よりも、赤江氏の思い入れが一点濃く現れるこの件が、私を含め読者にとっては一番刺激的なのではないだろうか。
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伝統芸能の世界を舞台とした妖艶・絢爛たる作品を数々世に出しておられる赤江瀑氏が「平成」の歌舞伎を語る。
群雄割拠で盛況を呈する「平成」歌舞伎の現状について、当代の人気・実力派俳優の持つ花について、それぞれの芸に触れながらの解説。そしてその中から、歌舞伎の世界の側、観客の側にひそむ問題・・・懸念の種を示唆する内容になっているが、全体的に歯切れの悪い印象が残る。歌舞伎というものがそもそも歯切れよく語れるものではないのかもしれないが・・・。
赤江氏の情念的な文章が、新書の文字サイズ、ページレイアウトで配置されると、どこか色気と言葉のパワーを削がれてしまうように感じるのは気のせいだろうか? また、「入門書」という形で歌舞伎への入り口を読者に提示することへの疑問・抵抗を感じておれれるようにもお見受けする。「鑑賞教室」や「入門書」で入り口を示すことは、それぞれの体験・感性に従って無限にも拓かれるべき歌舞伎の楽しみ方、その世界へ踏み込んでいく道を狭めることになるとの思いが、赤江氏の筆を止めているのではないか?
やはり、赤江氏が歌舞伎について何かを書くなら小説で、その複雑怪奇で、なかなか正体を現さないその芸能が持つ魔力、美しさ、怖ろしさを存分に描いていただくのが最上ではないか。入門書で示す道よりはるかに険しくも誘惑に満ちた妖しの道を示してくれるのに・・・。
歌舞伎を語り始める導入部分で「野郎歌舞伎」と呼ばれた時代の歌舞伎に思いを馳せる赤江氏の言葉が感動的。歌舞伎の世界を見渡して解説する後の章の文章よりも、赤江氏の思い入れが一点濃く現れるこの件が、私を含め読者にとっては一番刺激的なのではないだろうか。
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2007-09-15
上空の城 : 赤江瀑
上空の城 / 赤江 瀑
記憶の中にまざまざと浮かび上がる大天守。絵に描けるほど細部まで見える、窓の無い黒々としたその姿はしかし、実在するどの天守閣とも異なっていた。黒い大天守は狂気の産物か、それとも歴史の謎を封じた鍵か。
謎を追う中で目にした「黒い姫路城」の絵図。天空高くそびえる天守閣は人ならぬ魔の領域のもの。天守に巣食う魔性や怪を封じ込めた「影の城」。
夏の日のめくるめく光の中に、過去と現在が、現と魔の刻が交叉する。
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記憶の中にまざまざと浮かび上がる大天守。絵に描けるほど細部まで見える、窓の無い黒々としたその姿はしかし、実在するどの天守閣とも異なっていた。黒い大天守は狂気の産物か、それとも歴史の謎を封じた鍵か。
謎を追う中で目にした「黒い姫路城」の絵図。天空高くそびえる天守閣は人ならぬ魔の領域のもの。天守に巣食う魔性や怪を封じ込めた「影の城」。
夏の日のめくるめく光の中に、過去と現在が、現と魔の刻が交叉する。
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2007-08-18
ポセイドン変幻 : 赤江瀑
ポセイドン変幻 / 赤江 瀑
「恋牛賦」
京都のとある寺院の杉戸に描かれた1頭の牡牛の絵。荒々しく踊り出さんとするようなその牛の躯を墨一色で杉戸に焼き付けた男は、鋭い牛の角で自らの腹を突き、その場で息絶えた。
「春猿」
初役の弁天小僧に臨む若手花形の歌舞伎役者・七之助。その側で床山・ヒカルはかつて七之助と見た、旅回りの役者・芳沢春猿の演じる弁天小僧を思い出していた。崩れかかった鬘に粗末な衣装、場末の小さな小屋で演じられる田舎芝居・・・その中に一瞬、身震いするような本物の弁天小僧の姿があった。
「ポセイドン変幻」
サメに恋人を奪われた女、サメに家族を殺された男。片頭のシュモクザメ=海魔に憑かれた男女の地獄。
「ホタル闇歌」
生まれて間もなく川に捨てられていた僕の身体にはホタルの幼虫がびっしりと群がりよせ、ぼうっと光を放っていた。
ホタルが飛ぶ季節になると妖しい衝動に身体が包まれる。肉を喰うホタルにとりつかれた青年の闇。
「行灯爛死行」
瀬戸内のある島でひとりの青年の焼け爛れた遺体が見つかった。遺体は私の同居人で従兄弟である憲春のものであった。父に疎まれて生まれた自分の出生の因縁から逃れることができなかった憲春。憲春とその父の死の謎を追い求める先には、火を抱いて生きているように動く織部の燈篭が・・・。
「八月は魑魅と戯れ」
奇妙な遺書を残してのひとりの人形作家の死。彼の作る人形は霊の世界とも通じると言われた。過去のある事情から人形に宿る霊の力を必要とし、四年半を人形作家と共に過ごした稔。その稔にも人形作家の死は謎だった。なぜ彼は死ななければならなかったのか。
この作品集に収められているものは、赤江作品の中ではちょっと間の悪いものが集まってしまったようです。
まず、赤江作品を読んだときに感じるあのうねるような独特の作品の流れ・律動のようなものが見えない。冒頭なら冒頭のリズム、中盤へ向かう追い込み、終盤へなだれ落ち、突然幕を切ってみせる潔さ・・・いつもならその流れに急き立てられるようにページを捲り、あっという間に読み終えているのに・・・今回の作品はずっと同じ調子で物語が進むようで、こんなに赤江作品を長いと感じたのは初めてでした。
また、赤江氏の作品といえば、芸能や芸術の美、または鳥獣などの生きものの美しさに魅入られ、余人の窺い知ることのできない恍惚と闇の世界に踏み込んでしまった人たちがよく描かれます。そしてその美の恍惚とともに肉体的官能が煌くように描きこまれ、読者はその耽美な世界にのみこまれていくのが常なんだけれど・・・。
本書の収録作では、登場人物たちの心に食い込んでいる美への執着、心を狂わすほどの妄執と分かちがたく結びついているはずの彼らの肉体的な官能が、どうもちぐはぐな感じがするのです。また、作中の男を女を虜にし、心を狂わせたもの達・・・「恋牛賦」の牛、「ポセイドン変幻」のサメ、「ホタル闇歌」のホタル・・・いずれも、それほどまでに彼らの心に食い込んだというには説得力が薄い・・・シチュエーションに無理があるような気がしてなりません。
濃密に絡み合って一つの妖しい世界を作り出すはずの糸が、こういうふうにどこか一つでも綻びていたら、赤江氏の作品は急にあの濃い香りも、どろどろとした肌触りも失って、伝奇小説とも官能小説ともつかない奇妙なものになってしまいます。
赤江氏の作品は非常に危険なギリギリのバランスの上に成り立っている・・・それを強く感じた作品集でした。
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「恋牛賦」
京都のとある寺院の杉戸に描かれた1頭の牡牛の絵。荒々しく踊り出さんとするようなその牛の躯を墨一色で杉戸に焼き付けた男は、鋭い牛の角で自らの腹を突き、その場で息絶えた。
「春猿」
初役の弁天小僧に臨む若手花形の歌舞伎役者・七之助。その側で床山・ヒカルはかつて七之助と見た、旅回りの役者・芳沢春猿の演じる弁天小僧を思い出していた。崩れかかった鬘に粗末な衣装、場末の小さな小屋で演じられる田舎芝居・・・その中に一瞬、身震いするような本物の弁天小僧の姿があった。
「ポセイドン変幻」
サメに恋人を奪われた女、サメに家族を殺された男。片頭のシュモクザメ=海魔に憑かれた男女の地獄。
「ホタル闇歌」
生まれて間もなく川に捨てられていた僕の身体にはホタルの幼虫がびっしりと群がりよせ、ぼうっと光を放っていた。
ホタルが飛ぶ季節になると妖しい衝動に身体が包まれる。肉を喰うホタルにとりつかれた青年の闇。
「行灯爛死行」
瀬戸内のある島でひとりの青年の焼け爛れた遺体が見つかった。遺体は私の同居人で従兄弟である憲春のものであった。父に疎まれて生まれた自分の出生の因縁から逃れることができなかった憲春。憲春とその父の死の謎を追い求める先には、火を抱いて生きているように動く織部の燈篭が・・・。
「八月は魑魅と戯れ」
奇妙な遺書を残してのひとりの人形作家の死。彼の作る人形は霊の世界とも通じると言われた。過去のある事情から人形に宿る霊の力を必要とし、四年半を人形作家と共に過ごした稔。その稔にも人形作家の死は謎だった。なぜ彼は死ななければならなかったのか。
この作品集に収められているものは、赤江作品の中ではちょっと間の悪いものが集まってしまったようです。
まず、赤江作品を読んだときに感じるあのうねるような独特の作品の流れ・律動のようなものが見えない。冒頭なら冒頭のリズム、中盤へ向かう追い込み、終盤へなだれ落ち、突然幕を切ってみせる潔さ・・・いつもならその流れに急き立てられるようにページを捲り、あっという間に読み終えているのに・・・今回の作品はずっと同じ調子で物語が進むようで、こんなに赤江作品を長いと感じたのは初めてでした。
また、赤江氏の作品といえば、芸能や芸術の美、または鳥獣などの生きものの美しさに魅入られ、余人の窺い知ることのできない恍惚と闇の世界に踏み込んでしまった人たちがよく描かれます。そしてその美の恍惚とともに肉体的官能が煌くように描きこまれ、読者はその耽美な世界にのみこまれていくのが常なんだけれど・・・。
本書の収録作では、登場人物たちの心に食い込んでいる美への執着、心を狂わすほどの妄執と分かちがたく結びついているはずの彼らの肉体的な官能が、どうもちぐはぐな感じがするのです。また、作中の男を女を虜にし、心を狂わせたもの達・・・「恋牛賦」の牛、「ポセイドン変幻」のサメ、「ホタル闇歌」のホタル・・・いずれも、それほどまでに彼らの心に食い込んだというには説得力が薄い・・・シチュエーションに無理があるような気がしてなりません。
濃密に絡み合って一つの妖しい世界を作り出すはずの糸が、こういうふうにどこか一つでも綻びていたら、赤江氏の作品は急にあの濃い香りも、どろどろとした肌触りも失って、伝奇小説とも官能小説ともつかない奇妙なものになってしまいます。
赤江氏の作品は非常に危険なギリギリのバランスの上に成り立っている・・・それを強く感じた作品集でした。
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