2012-03-17

生きても生きても : 西炯子

『生きても生きても―西炯子エッセイ集』 西炯子

 “私はその辺にいる人たちと同じではない” “私の本当の居場所は「ここではないどこか」にある”・・・自分は特別であるという思いを拠りどころとする一方で、たとえば肉親のような近しい人にさえ、自分の想いは正確に伝わるわけではないということを思い知らされ、その孤独に傷ついてもいた10代の頃、西炯子のマンガに出会った。椋本兄弟、嶽野義人・・・西炯子の描くお話しは私に寄添ってくれた。

 学生時代の終わり・・・“大人になる”ということが漠然と頭をよぎり始めた頃、やはり西炯子のマンガを読みながら、自分の中の愛しくて、悲しくて、残念な何かを、もうすぐ失ってしまうだろうということをぼんやりと予感していた。

 それから・・・気がつくと西炯子のマンガを読まない何年かが過ぎていた。西炯子のマンガがなくても、仕事をして、食べて、遊んで、生活できた。


 数年前、西炯子のマンガに再会した。以前より随分穏やかな気持ちで読んだ。それは、もしかしたら少しさびしいことかもしれないが。


 西炯子さんにはとてもお世話になった。せめて・・・少しは良い大人になれているだろうか、私は。





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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2011-04-02

三番町萩原屋の美人 : 西炯子

『三番町萩原屋の美人』 西炯子

 時は明治。三番町に店を構える萩原屋のご隠居は、離れに籠って惚れぬいた妻の面影を写したヒトガタ(ロボット)作りに精を出す、界隈でも評判の変人。

 ご隠居を師と仰ぐ工学少年・兼森とその親友の文学少年・島田、萩原屋の番頭・勘二さんに、当代店主の禅二郎さん、禅二郎の嫁きぬさん、ご町内の皆様や、兼森の学校の友人達、色街の姐さんたちや異人さん、やんごとなき方々まで巻き込んで萩原屋を騒がす事件の数々。

 最初の頃はホロ苦い程度だったお話が、終盤に向かってどんどん重くなっていくのにはちょっと参った。話がドラマチックになりすぎて、最初の頃と辻褄あってないような気もするし・・・。まぁ、その辺りには目をつむるけど。

 素っ気ないけれど、自分の身を捨てるほどの優しさで、傷つき、苦しみ、恨みや絶望の中にいる人たちを世の中の明るさの中に導いていくご隠居。どうもご隠居には、やはり西炯子さんがよく描いていたキャラクター ~私が若い頃大変な恋をした嶽野義人の姿がダブる。

 還暦をいくつか越えてるはずのご隠居は、着流しにした派手な着物姿も色っぽい、どう見ても妙齢の美青年。その若々しく美しい容姿、人生を楽しむ明るさや、素っ頓狂な振る舞いにすっぽりと覆い隠されてはいるけれど、ご隠居には死と別れの気配がうっすらと影のようにつきまとう。

 ご隠居に染みた死の気配は、私を不安に、悲しくさせるけれど、それは決して暗い影ではなくて、死と別れを刻みながらも変わらず流れていく時と、その中で生きる人の強さを思わせ、萩原屋のお話に清々しい切なさを添えている。



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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2010-07-28

電波の男よ : 西炯子

 海辺の中学校に赴任してきた地味でブスな新米教師・山下美樹とラーメン屋の訳ありバイト青年の恋(「波のむこうに」)。高校時代、唯一の楽しみだったアマチュア無線を通じて出会った“人生の中で最も長く会話をした女の子・マリン”を捜し求めるキモ冴えないサラリーマン・大河内寿三郎(「電波の男よ」)。表には見せない裏の顔を持った男女のお見合い(「海の満ちる音」)・・・ひとクセある恋愛漫画。

 「ごめん『わたしなんかいなくなればいいのに』だわ」 「…ふっ あいつら 死ね……」「…つか もう俺が死ねばいいのか…」

 そんな呪詛の言葉が普通に出てしまうほど、世の中への絶望と悪意を溜め込んだ冴えない男女がひょんなことから人生最大のモテ期を迎え、その狂騒の中で、彼らを見守り愛してくれる人の存在に気付き結ばれる。

 一般的に見てモテるタイプではない美樹や大河内を密かに恋の眼差しで見つめているのが、他所でもモテモテなイケメンや美女だったりするワケで、“フン! そんな都合のいい話あるわけないだろ。やっぱマンガだな!”と当然思ってしまう一方で・・・、決して華やかな青春時代を送ったわけではない私に突然訪れた一瞬のモテ期の中で、世の中への悪意を溶かしてくれる人に出会った自分自身の体験に照らして、妙なリアリティも感じたりする。

 多分、美樹や大河内の冴えない人生に変化をもたらしたのは、誰かに愛されるっていうことよりも、“モテ期を体験する”ってことだったんだと思う。

 人生にモテ期がもたらす影響は大きい。何も異性にモテるということでなくてもいいんだけど、何か成功体験が無くちゃ・・・ね。問題は、いかにして人生のモテ期を迎えるか? 普通、海辺に“美人になる薬”なんて転がっていないし、冴えない容姿だと思っていたが、ちょっと身なりを整えてみたらもの凄い美男(美女)だったということもまずあり得ない。

 「海の満ちる音」は、自分の生活を支えていけるだけの仕事をこなし、大切なもの・好きなことをちゃんと持ち、人の前では穏やかに笑っていられる、色んなものを背負うトシになってきた人たちにとっての「幸せ」って何だろう・・・?っていうお話。『娚の一生』に繋がるところがあるかもしれない。

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theme : 漫画の感想
genre : 本・雑誌

2010-05-19

さよならジュリエット : 西炯子

 '90年代後半頃の短編集。

 食品メーカー勤務の会社員・中野重彦が、生きていく為のあれやこれやを得る為に手放してきたもの・・・失ってきたものの愛しさを教えてくれたのは、上司の送別会で繰り出したゲイバーで会った“ジュリエット”=中島賢蔵だった。

 “ジュリエット”は、高校時代の中野を知っていて、その頃から好きだったと言うが・・・。

 その他収録作もピュアで不器用な男女たちの、少し滑稽で切ないお話。想い合う気持ちは少しずつすれ違い、埋らない溝を刻みながらも、大切なものの回りを優しく巡る。

 表題作「さよならジュリエット」ラストシーンの余韻は極上。

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theme : 漫画の感想
genre : 本・雑誌

2009-09-05

放課後の国 : 西炯子

 南風高校3年1組、クラスの吹き溜まり“微妙”班6名~数学フェチ、天文オタク、キス魔?、エロ小説を書く女、ロック小僧、三年間不登校のX氏~をめぐるオムニバス。

 不器用で、迷走してるけど、やっぱり青春している男子たち、女子たち。

 青春って・・・ むやみにじゃれあってもいいし、悶々も、ジタバタもハタから見ると何だか純粋で羨ましい光景だ。若さゆえの過ちで、誰かに酷い言葉を投げつけたとしても・・・リカバーできるチャンスが割りと沢山ある。

 年とってくると、酷い言葉なんてもの凄い覚悟決めないと言えないし、じゃれあったってキモチワルイだけだし。

 未熟さと可能性と、定まらない足元に危なっかしい足取りで、バタバタと走り回る男子、女子。その必死さは滑稽であり、痛々しくあり、微笑ましくあり、涙ぐましくあり、美しくあり・・・。決して湿っぽくはないけど、切なさに“きゅん”となる。


 それにしても、共学っていいなぁ~。10年間女子校漬けだった私 ~ 男子のいない教室じゃ、起きようの無いドラマだもの。

 
・・・

 数学フェチの藤崎君・・・眼鏡をとるとキラキラ光が輝く美青年・・・的なコマがあるけど、彼は眼鏡かけてた方がいいと思うけどなぁ。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2009-03-14

水が氷になるとき : 西炯子

 小学館文庫版。 ~年齢不詳。一本に結んだ、柔らかくウェーブする長い髪。まぁるい眼鏡。西炯子さんが一時期よく描いていた「嶽野義人」という魅力的なキャラクター。彼が登場する作品がまとめて読める。少年時代から30代まで、いろんな年齢の「嶽野義人」が登場。嬉しい。

 「嶽野義人」に出合ったのは、私もまだ結構多感な娘だった頃のことで、「寂しいから一人でいる。」 「本を読むのは自分の中に何もないからだ。」・・・彼が口にする言葉は、当時の私にはとても印象的だった。

 寂しさを不器用に滲ませる人たちの側にふわりと現れ、ひとときの温もりのように寄り添う「嶽野義人」 ~ 平気を装った外見の中で、震える心が周囲の寂しさと共鳴し惹かれあった少年時代の嶽野くん。孤独の中からおずおずと伸ばされる手をそっけなくも、大きく包みこむ大人なおタケさん。・・・彼自身も内に大きな欠落を抱えているのだ。 

 “忘れられない人、嶽野義人”・・・或るひとときを嶽野と共にすごした人たちにとって、彼が忘れられない想い人であるのと同じように、私にとっても、嶽野義人は恩人であり、想い人であり、忘れられない人なのだ。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2008-05-17

ひらひらひゅ~ん : 西炯子

 弓道の道着っていいなぁ~ 男子も女子も凛々しさ、可愛さが三割増し。

 県立開開高校(ひらひらこうこう)弓道部の男子たちが、むやみにじゃれあい、阿呆な妄想とどうすりゃいいの?な欲望に悶えまくる、恋と変と恥と純粋と自負と自爆の青春漫画。

 うんうん、高校時代ってそうだよね~。本人はけっこう大人なつもりで、色々真剣にやってるんだけど、後から振り返ってみると“い~~~~や~~~~っっっ!!!”って叫びながら走りまわっちゃう(心の中でね)ほど恥ずかしい。

 ・・・って! ちょっと待て!  ホントにこれは私も経験したあの高校時代か? いやそんな訳ないだろう。だって私の高校生活に男子なんていなかったんだから(ついでに言うなら、中学生活にも、大学生活にも!)。現実の男子高校生の質感がどんなもんで、どんなことに身悶えしてるのかなんてちっともわかんないんだから。

 男子高校生なんて私にとっちゃ異星人。その異星人が漫画という妄想のなかで、なんとな~く自分も経験したような気がする“い~~~~や~~~~っっっ!!!”ってな青春を演じてくれるんだから、現実のしょっぱさ八割減で、遠い日の甘酸っぱさ五割増し。

 ああ、なんだかみんなキラキラ・モワモワしちゃってコマの中から匂いまで漂ってきそうだけど、最近は青春の汗だって、ちゃんとデオドラントスプレーでニオイを抑えてあるのだ!

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theme : 漫画の感想
genre : 本・雑誌

2007-01-31

僕は鳥になりたい : 西炯子

 全寮制男子校で文芸部長をつとめる針間。彼は“俺は何にも縛られない、何かが足りない十七歳だ”とうそぶき、ただ無難に流されるばかりの仲間と同じように周囲に埋没することを嫌っている。

 彼は二人の特別な人に出会う。一人はミッションスクールに通い、“聖書はすべて暗誦できるがなにがかいてあるかさっぱりわからない”と言ってのける少女。もう一人は空を飛ぶための翼を自分で作っている少年。

 三人はとても幸せな関係を作れるはずだったのに、針間は一人疎外感に苛まれる。自分が一生懸命にポーズとして身につけている“なにものにも縛られない自由さ”が二人の中には自然に存在することを感じて・・・。

 少女は家族を失い遠い地へ去っていく。少年の飛行は失敗し、帰らぬ人となる。針間は社会の中の一人として(世間にしばられて)生きていく道を選ぶ。それは不幸なことではない。

 みんないろんなことに心乱れ、憧れをいだきながら過ごしてきた思春期の大切な時間・・・。過去を振り返りたくなったときに読む作品。

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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2006-08-04

西炯子を読んでいた青春時代

 昔読んでいた西炯子氏のコミックを、懐かしさのあまりブックオフで再び購入して以来、何度か読み返している。今手元にあるのは「僕は鳥になりたい」「9月-September」「もう一つの海」の三冊。昔はもっとたくさん持っていたのだけど・・・。

 「僕は鳥になりたい」には作家志望の高校生、「欲望という名の自転車」には漫画家志望の大学生が出てくるのだが、二人とも夢かなわず公務員になったり、会社の営業マンになったりしている。そして昔夢見たものと違った形で大人になっていることが不幸であるようにも見えない。愛しき日々の思い出は残してきているのだろうけれど。 

 「夢は強く願っていれば必ず叶う」「叶わない夢もある」どちらが本当なのだろう。夢が叶わないまま死ぬまで追い続けたとしたら、それは夢破れたのではなく、夢の途中だったことになるのかしら?

 最初から夢を持っていなかった、夢が終わったことに気づいていない、夢を見ていたことを忘れた、人間いろいろあるわけですが・・・。私の夢は何?と自問してみると・・・何も無い。がっくりである。不幸を味わうことなく一生を終わりたいってのは夢じゃないしなぁ。

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theme : 感想
genre : アニメ・コミック

2006-08-01

一人で暮らす理由 : 西炯子

『9月―september』  西 炯子 収録 「一人で暮らす理由」

佐々木「四六時中読書されているんですね。」「どうしてそんなに読むんですか?」

嶽野「自分の中になんにもないからだろうね」

佐々木「何千冊もよんでらっしゃるのに? 仄聞してますよ先輩方から」

嶽野「逆・・・読めば読んだだけ自分はからっぽになるね


 読書を趣味としていますが、本を読みながらいつも頭の片隅にあるのが、西炯子さんの「一人で暮らす理由」の中で交わされる上記の会話。

theme : 本の中にあるいい言葉
genre : 本・雑誌

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