2012-04-14

アンドロギュノスの裔 : 渡辺温

『アンドロギュノスの裔  渡辺温全集』 渡辺温

 渡辺温という青年のことを知ったのは久世光彦氏の著書『美の死―ぼくの感傷的読書』の中でだった。谷崎潤一郎への原稿依頼の帰り、踏切事故に遭い亡くなった夭逝の作家 ~ 久世氏の文章を満たしていた、その人物と作品への愛情と哀惜の想い。・・・とても気にかかり、いつか読もうと思っていた。


 眩い灯りと西洋風の文化に彩られながら、まだそこここに薄暗い路地や闇を残した東京の街。その街を洒落た身なりで歩く紳士。内気ではにかみ屋の青年。断髪のモダンガール。したたかで可愛らしい街の女。森や海辺のお邸に、また場末のみすぼらしい部屋に暮す病身の娘。

 都市の気分、時代の文化をふんだんに纏った男女が演じるドラマ。ユーモアと機智の中に少し効かせた悪意。都会風の感傷。新しい文化が次々と花咲く都会 ~渡辺温青年自身、その中を意気揚々と歩いたであろう、都市の空気を感じさせる作品群。中でも、人の内面を映像化したかのようなシュールで迷宮的な物語「父を失う話」の奇妙さが印象に残った。

 それにしても、これらの都会的で、若々しい才気と向う気を感じさせる作品を読むと、その作品に刻まれる永遠に青年のままの作者の姿は、何か残酷であるように思われる。


 

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2011-05-14

かくれさと苦界行 : 隆慶一郎

『かくれさと苦界行』 隆慶一郎

 神君家康公より吉原創設にあたって惣名主庄司甚右衛門に与えられた「神君御免状」をめぐる、吉原者と裏柳生の壮絶な闘いを描いた『吉原御免状』の後に続く物語。

 「御免状」に記された家康の秘密、中世の漂白の民~“無縁の徒”傀儡子族の“最後の砦”としての吉原という驚くべき道具立てを揃え、数奇な運命の下、吉原の未来を託されることとなった松永誠一郎の養父・宮本武蔵を継ぐ二天一流と、柳生義仙率いる裏柳生の暗殺剣の対決を描いた前作の一種の爽快さに比べ、本作にはかなり暗く陰惨な雰囲気が漂う。

 誠一郎との闘いに敗れ右腕を失い、復讐の鬼となった柳生義仙、「神君御免状」を奪わんと義仙を操り執拗に吉原を狙う老中酒井忠清と、吉原の惣名主となった誠一郎はじめ幻斎ら吉原者の果てしない暗闘に、柳生を守る怪物のごとき巨人・荒木又右衛門まで加わって、繰り返される闘いは、その意味さえ覚束ない、ただ無惨に多くの人が死ぬ泥沼の如きものとなる。

 そんな男たちの闘いを描く作者の言葉は、一つ一つがヘヴィメタルな肌触り。例えば、ズバンとストレートに使われる『身震いの出るような恐ろしさ』という言葉。その一撃が重い。その一言を叩きつけられると、本当に本の中から迫ってくる恐怖の感触に身震いがする。言葉の底に刻まれる、重機械が唸るような重く、強く、激しいリズムに、残酷な運命を美しく哀しく生きる女たちのドラマが絡む。

 私は、『花の慶次』を読んでいないのだが、隆慶一郎氏の小説が持つ感触に、原哲夫氏の絵はとてもよく合うのかもしれないと思った。


 前作を読んだ時、いくら人を斬っても曇らない野生の獣のような清々しさを保つ誠一郎を、未だ“人”にならない童子のようだと思ったのだが、本作では、“人”になっていく誠一郎の苦しみが胸を抉る。繰り返される戦闘の中で、一度は死んでしまう誠一郎の無垢な心。それでも、周囲の思いに守られながら、稀有な魂を持つ男として再生する誠一郎の姿に熱いものがこみ上げる。

 しかし、前作『吉原御免状』から、主人公・誠一郎以上に私の気にかかるのは裏柳生の総帥・義仙だったのだ。誠一郎の敵・仇として登場してしまったために、すべての悪を背負い、ことごとく貧乏くじを引かされた義仙が何か気の毒で、どうしても悪役として嫌うことができなかっただけに、誠一郎との長い闘いを経て義仙が到った境地に、そっと手を合わせたい気持ちになった。

『吉原御免状』感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-467.html


 

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2011-03-05

のぼうの城 : 和田竜

『のぼうの城』 和田竜

 石田三成率いる圧倒的大軍に小勢で立ち向かい唯一落ちなかった城~総大将はでくのぼうの“のぼう様”。

 “忍城は落ちない”と分ってるから安心して読める。ってこれ、いいことなんだかどうだかよく分らんけど。地の文も武将たちの話す言葉も、とても現代的にくだけているので、時代がかったトリップ感を味わうことはできないけれど、損得勘定なんて蹴っ飛ばして心のままに立ち上がる“も~、馬鹿ばっかり!”な男達の戦ぶりは爽快で格好良い。(“のぼうマジック”によって、武将たちの自己満足に、いいようにまきこまれてしまった領民は気の毒だが。)

 ストイックな猛将~“漆黒の魔人”・正木丹波、豪快で腕力先行な柴崎和泉、小生意気な若造だけど実は頑張り屋~毘沙門天の生まれ変わりな僕ちゃん・酒巻靭負。それぞれにキャラのいい忍城の武将たち。“漆黒の魔人”が咆哮し、朱槍を横殴りに一閃すると敵方の首が一気に五つも宙に飛ぶというアニメ的な見せ場も・・・嫌いじゃありません。

 これ、実写映画よりむしろアニメの方がいいんじゃない? 萬斎さんの“のぼう様”はもの凄く楽しみではあるけど。

 ・・・“のぼう様”・・・晴れ晴れと終わるお話の中で、彼だけが・・・最後まで得体が知れない、そんな一抹のどす黒さを残すのよねぇ。何事にも不器用で、ぼんやりとした顔をして、領民には迷惑がられながらも慕われ、自己主張の激しい武将たちをもなぜか惹きつける“のぼう様”。穏便に開城するという道もあったのに、彼の純粋すぎる一言が戦の口火を切ってしまう。

 ただ心のままに振舞う赤子なのか、人を人とも思わぬ悪魔なのか ~どちらでもあるし、どちらもあたらない・・・。誰も“のぼう様”を理解していないのに、誰もが“のぼう様”の思う通りに動いてしまう。到底、底の知れぬ男。


 

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2010-12-08

吉原御免状 : 隆慶一郎

『吉原御免状』 隆慶一郎

 赤子の頃より肥後の山中で宮本武蔵に育てられた剣士松永誠一郎。二十六になった年、養父武蔵の遺言に従い、江戸・吉原に辿り着いた誠一郎を、身に覚えの無い無数の殺気が取り囲む。

 「吉原御免状」なるものを巡る、吉原者と裏柳生の暗闘。奇抜な着想のもとに描き出された驚くべき吉原の姿もさることながら、何と言っても、二天一流の誠一郎と柳生義仙率いる裏柳生の一団との剣戟に興奮する。どんな手を使っても相手を斃す柳生の暗殺剣、人を斬っても陰りを帯びることのない誠一郎の清々しい剣、黒白はっきりとしたぶつかり合いに加えて、吉原で誠一郎を導く不思議な老人・幻斎の異形の刀術。豪華である。

 次に目を瞠るのは、世間の全ての縁から放れ、死と隣り合わせの自由を生きる「無縁」の徒、世俗の権力の及ばぬところで、かつては国々を自由に往来した漂白の民、諸芸に秀で、遊びに馴染んだ傀儡子族によって作られた、遊興の街にして、いざというときには戦闘も辞さない城塞となる異様な吉原の姿。  

 ところで、その吉原での数々のしきたりや、風俗、生活の様子などが語られる中で、男とのコトにあたっての、吉原の女たちの努力・工夫・技が礼賛されるのはいいとして、吉原の外の地女(素人)や現代の女たちの無造作・無頓着ぶりが苦々しげに書かれているのは余計なことではないか?

 話がずれかけたが・・・ その吉原の女たちに悉く惚れられる誠一郎・・・姿がよく、心は純粋で、しかも天才的な剣士であるが、“女”に対する“男”だという感じがしない。いや、“男”であるどころか、未だ“人”になっていないという気すらする。幼い頃より獣を相手に山中で育ち、寂しさ、辛さ、痛みや、自然の快さは知っていても、恨み、憎しみ、怒り、喜びといったものを未だ知らぬ、あまりににも無垢な童子。

 この童子の如き誠一郎の“きれいさ”を守るかのように、身を擲って誠一郎に尽くし、闘う吉原者。敵役の義仙ですら、物語の中で、誠一郎をあくまでもきれいなままに保つ為に、全ての悪と醜さを一身に背負わされてしまったようにも見えて、何だか気の毒である。

 柳生の手から「吉原御免状」を守った誠一郎は、この先も吉原を守り続ける為、自ら修羅に落ちる決心をする。修羅に落ちた無垢な童子は、どのように“人”になっていくのだろうか。続編『かくれさと苦界行』で味わえるだろうか。



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2009-07-22

茜新地花屋散華 : ルネッサンス吉田

 いずれも高評価なAmazonのレビューにひかれて読んでみたが、いやはやこれが私の手には余る子で・・・。


 架空の花街・茜新地。開高十三はその街の売春宿の店主であり、高校生である。

 開高十三と、十三の後輩・深沢、深沢の幼馴染・埴谷・・・不定形に漂う私~その存在すら未だ不確かな三人の魂。自分という存在をこの世に繋ぎとめてくれる何ものかを求めて交わされる濃密な想い。

 「俺って何?」「愛って何?」「愛を得られない孤独に俺は耐えられるの?」という、美しくも、ど~しようもない福永武彦的青少年の苦悶。

 活字量が非常に多い。観念的な言葉があちらこちらにずるりずるりと綴られる。

 そんならいっそ漫画じゃなく散文で書いてくれればいいものを・・・と、途中ページを捲る気持ちが萎えそうになることが無くもなかったが、それでも読後、開高、深沢、埴谷たちの魂の感触が、掌に残っているような気がして気にかかり、読み返してみようと思うのだが、もう一度手に取ろうとすると、奴は本棚の隅からピリピリとしたオーラを放ち「私に触れるな」と言ってくる。本当にムズカシイ子だ。

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