2015-08-16

フランケンシュタイン : メアリー・シェリー

『フランケンシュタイン』 メアリー・シェリー

 暑い夏には怖い話。今年は『屍者の帝国』からのつながりで、メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』です、が・・・

 ・・・いかん、感想が全部ヴィクター・フランケンシュタインの悪口になってしまう。

 家族や身内、親しい人たちに対しては善良で誠実で愛情深いが、自分が愛する価値ナシと見なしたもの(貧しい人々や容貌の醜いもの)に対しては態度を一変させて恥じるところがない。自分が何か大きなことを成し遂げ、名誉を受けるにふさわしい人物であると無根拠に信じていて、自分が賞賛に値する何事かを成すことができないという現実を受け入れられない。自尊心と自己評価は高いが、問題解決能力はからっきし。しかし、自分のダメさ、不甲斐なさを、自己欺瞞でもってロマンティックな悲劇に仕立て美しく飾り立てる言葉力だけは持ってる。

 現代であれば10代半ばで卒業してなくちゃいけない精神状態の人であると思うんだが・・・。19世紀頃にはこういう男が紳士と呼ばれていたんだろうか? 

 副題には「あるいは現代のプロメテウス」とあり、ヴィクターを人間の幸福のために禁忌を犯し、罪を負い、罰を受けたプロメテウス(プロメテウスには「人間を創造した」という話もあるらしい)になぞらえているが、彼はプロメテウスというよりもむしろ、科学の力の誘惑に負けて自らの情熱のままに行動し、結果として災厄を招いたエピメテウスではないかと思うのだけど・・・。

 作者メアリー・シェリーの中で、ヴィクター・フランケンシュタインとはどういう男だったのかな。こんな酷い災厄、痛ましい運命に見舞われるのがまったく理不尽に思われるような立派な心ばえの男だったのか、それとも周囲の人々を不幸にしてしまうダメな男だったのか、それとも・・・。

 その醜さゆえにヴィクターが忌み嫌い見捨てた怪物に繊細な心と知性があったことを怪物自身が告白する言葉の哀切さには、ヴィクター(のような男)の傲慢さ、無情さを告発する作者の気持ちがうかがえるのだけど、同時に、故郷と家族と友人と恋人と自然の美しさを愛し、夢と情熱に溢れた若者に対する尊敬と愛情も作中にたっぷりと溢れてる気がするし・・・。

 そしてまた、彼女にとっての「怖ろしいこと」とは何だったのだろう。人の情熱がはらむ狂気。自分が生み出したものがおぞましい姿で動きだすこと。怪物をこの世に生み出してしまった罪の意識。醜い怪物という存在そのもの。その怪物がどこまでも追ってくること。憎しみ合う創造主と被造物。次々と愛する者を奪われる苦痛。誰にも愛されず、理解されることもない孤独。絶望のあまりの憎悪。人間の分限をこえた行いと、そのことがもたらす災厄。科学の行き着く先。等等等・・・。

 この物語を書いた彼女は、何を「怖ろしい」と思ったのだろう。




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2014-11-15

伊東忠太を知っていますか : 鈴木博之編著

『伊東忠太を知っていますか』 鈴木博之編著

 今思えば随分貴重な体験なのだけど、学生時代に所属していたクラブの催しで伊東忠太の設計による兼松講堂を何度か使わせていただいたことがある。講堂内を一人でうろついているときに、内階段のあたりで視界の隅に何だか変な鳥がいるのにギョッとして振り返った・・・というのが伊東忠太の怪物との出会いだったのだ。以来、忠太の怪物が気にかかる。(しかし、以前のエントリーにも書いたと思うけど、このあたりの記憶は多分にファンタジー化してしまっていて、「夢だったのかも知れない」と思うこともある。もう一度、兼松講堂を訪ねて事実を確認したいものである。)

 本書は2003年に開催された展覧会『建築家・伊東忠太の世界展』を記念して出版されたもの。明治期に国家の要請を受けて建築史を体系化し、美術としての建築の概念を構築した建築史家であり、玄人はだしの腕を持つ絵師であり、アジアからインド~中東~欧州と建築を調査しながらの大旅行を敢行し、妖怪の棲みついた奇妙な建物を造った建築家・伊東忠太の多様で多面的で奇怪な全体像に近づくべく色々なアプローチがなされている。その学者としての思想や個人的嗜好について、建築作品について、妖怪趣味について、世界旅行の記録、手書きのフィールドノートや受講ノート、設計図の図版など。

 近代化する日本の建築をひっぱっていく立場にあって、合理性や機能性では割り切れなかった伊東忠太の「私的全体性」を象徴するのがあの「妖怪」なのか・・・。

 残念ながら、建築の知識が全くない私には内容をちゃんと理解するのが難しく、「妖怪」+「調査の為の世界旅行」で、どうしてもインディ・ジョーンズ的な姿を想像してしまう。もっぱら忠太の怪物が見たい私には、怪物たちの写真がいっぱいの『伊東忠太動物園』の方が面白い。


『伊東忠太動物園』感想・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-521.html



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2014-11-01

柴錬立川文庫 : 柴田錬三郎

『柴錬立川文庫』 柴田錬三郎

 せっかくだから、も少し真田モノを読もう。続いては幸村の下で猿飛佐助に霧隠才蔵、三好清海入道らが活躍する『柴錬立川文庫』を。

 「猿飛佐助」「淀君」「真田大助」「後藤又兵衛」「木村重成」「山田長政」等のタイトルで語られる小話がつながり、モザイク画のように「大坂の陣」に至るドラマが描かれていく。

 霧隠才蔵や三好青海の、主に忠誠を尽くすなんてのには程遠い自己主張の激しいはねっかえりぶりが愉快。大坂城中の女を夢中にさせたという幸村の美丈夫ぶりや、古今に冠絶という木村重成の秀麗な容姿、異国人である才蔵の蒼い瞳に、三好青海のこれまたきれいに整った顔。忍、荒武者、兵法家たちの死闘、激闘に、裏の裏をかく化かし合い、多少悪趣味なエロティシズム。劇画的な面白さ満載の上に、話と話の隙間にさらに妄想をたくましくする余地もありそうで楽しい。

 ひとクセもふたクセもある猛者たち~真田十勇士を従える幸村はしかし、智謀に長け、鬼神の如き戦いぶりを見せる名将というよりも、戦の行く末、世のなりゆきを冷たい目で見つめる虚無的な男で・・・。

 この虚無的な幸村と、心優しく善良な気性の佐助というとりあわせが絶妙で、絶対に明るい結末には向かわないドラマの中で、さらさらとした佐助の明るさが無性に切なくなります。人を殺すことを嫌う佐助が大坂夏の陣の激戦の中で何十もの人を斬ってめずらしく興奮の面持ち・・・という、ほんの数行の描写は切なさの極み!


 ところで、私は子供の頃、この『柴錬立川文庫』を原作としたNHKの人形劇『真田十勇士』をけっこう楽しみに見ていたらしい。「山川草木敵味方~」「空は輝く南無八幡」等、小児のボキャブラリーには無いはずの主題歌の歌詞を部分的に覚えている。ストーリーの方はほとんど記憶にないのだけど、なぜか幸村の嫁選びのエピソードだけは良く覚えている(といっても、これが本当に『真田十勇士』の記憶なのかどうかビミョウなんだけど)。

 花嫁候補として集まった女たちに「笑ってみせろ」という幸村。一人は面白くもないのに笑えぬと言い、一人は咲きこぼれる花のように艶やかに笑い、もう一人は上手く笑えず涙を浮かべながらも健気に笑顔をつくってみせる。幸村は華やかに笑ってみせた美女に心惹かれながらも、一生懸命笑顔を作ったあまり美しくない女を妻に選ぶ。
 
 このエピソードを見て私は子供ながらに「幸村ってすごく嫌な男だ」と思ったのだった。男に対する嗅覚は子供の頃の方が今よりも確かだったかもしれない。




 ここでも、やっぱり後藤又兵衛はかっこ良かった。

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2014-07-12

文系のための理系読書術 : 齋藤孝

『文系のための理系読書術』 齋藤孝

 大学卒業後の2年間、プログラマーとして働いていたことがある。大学での勉強も、その年頃のうちにやっておくべき自分探しも、就職活動も真面目にやらなかったために、卒業後に食べてくための仕事がない!ってことになりかけてたところ、当時大量採用のあったソフトウェア開発の会社になんとか拾ってもらったのだ。

 文系出身のなんちゃってプログラマーである私が組むプログラムは、自分でも嫌になるほど日本語の文章に直訳可能なモタモタした代物だったのだけど、理系出身の先輩社員が書いたプログラムはあまりにシャープで、私の頭では日本語に翻訳できなかった。(つまり、日本語の文章で物事を考えちゃう私にはそのプログラムを読むことができなかった。)学生時代には「苦手科目」として目をそらし続けてきた理系の凄さを実生活で味わった瞬間だった。

 そんな「理系」へのコンプレックスに凝り固まった頭に『文系の人のアドバンテージは「本が読めること」』という一言で風穴をあけてくれる本書。文系の人だって「本を読む」という形でなら理系の知識に触れることができる。たしかに著者のこの一言がもたらしてくれた気づきと希望は大きい。

 しかし・・・読み進めるうちに理系の世界に触れられるかもしれないワクワク感よりも、打ちのめされ感の方が強くなってきたのも事実。理系分野で成果を出しつつ文系の人にも解りやすくその世界を文章で解説できる才能の存在を思い知らされたり、「文系の人にもとっつきやすい著者おすすめの理系本」からの引用文がすでに理解できなかったり・・・。

 教科としての数学が苦手だった人でも日常の思考様式として数学を活用することはできると言うけれども・・・ 最近、九九がちゃんと言えなくなってきたんだけど、それでも大丈夫ですか?




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2014-01-18

十~忍法魔界転生~ : せがわまさき

『十 ~忍法魔界転生~』 せがわまさき

 冒頭~死屍累々たる原城での天草四郎の魔界転生シーンから、“この人までが?!”と思われた名だたる剣士、剣豪たちが次々と魔界に堕ち、2巻までで敵の編成が完了。3巻~ついに主人公・柳生十兵衛の登場である!

 完全に妖怪化している森宗意軒にはちょっと脱力してしまったのだが(しかし、あの「指」の造形には“ううむ、ナルホド!”と唸らされた)、山田風太郎『魔界転生』の漫画化作品としての完成度、原作の再現度の高さは、ほぼ完璧なのではなかろうか。原作よりもやや強調された四郎の稚気、アクマっぷりや、紀州の三人娘の三者三様になんかこう・・・たまらん!感じも原作の世界に華を添えて・・・。

 しかし逆に、その原作再現度の高さが唯一の不満でもあるんだよなぁ。いかに原作が『魔界転生』という偉大な作品であるとはいえ、漫画は漫画で独立した別の作品としても楽しみたいという気持ちがあって、原作から逸脱した何かを期待してしまう。




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2013-10-12

犬狼都市 : 澁澤龍彦

『犬狼都市(キュノポリス)』 澁澤龍彦

 大学生の頃、街をぶらぶらしていて、『犬狼都市』と大きく書かれた映画だか芝居だかのポスターを見かけたのだ。一緒にいた友人はそれを見てやけに鼻息を荒くしていたようだったが、私はその時はあまり興味をひかれず、“荒廃した町でギラギラした流れ者たちが牙を剥きあうヴァイオレントな作品なんだろう”とかぼんやり思っただけだったのだ。ただ、「原作:澁澤龍彦」という文字は目について、“澁澤龍彦がヴァイオレンス小説を???”と、以来、ず~っと何だか喉に小骨がささったような感じで、気にはなっていた。

 「犬狼都市(キュノポリス)」は、ファキイル(断食僧=常に空腹を満たされない者)と名付けたコヨーテを愛し、硬質な宝石の内部でアヌビス神の血をひく犬狼貴族との聖なる交合を果たす美しい少女の幻想譚であり、もちろんヴァイオレンス小説などではなかった。三カラットものダイヤの輝きをくすませてしまうほどの美少女、魚類学者の父、若く豊麗な継母、淫靡で残酷な食事・・・。どこにも「日常」というものが見当たらない・・・何か絶対的な世界。

 その他、陽物崇拝の甚だしい少年皇帝の熱狂が描かれる「陽物神譚」、生きた女の肉体を前にした幽霊船の亡者たちのプライドと苦悩が哀れで滑稽な「マドンナの真珠」

 10代の後半、日常を遠く離れた世界に魅せられ、澁澤龍彦を読み耽った時期があったけれども、日常性の一切を排除した、あまりに純粋で強い文体は、今となっては読み続けるのがちょっとしんどい。でも、この絶対的な幻想世界を語る文体の強さは、気負いや衒いとはまったく無縁であって、そこにあるのはただ自然な「確信」。澁澤氏にとっては、むしろ「日常」の方こそ、不自然なものだったのだろうか。

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2012-08-18

明治開化 安吾捕物帳 : 坂口安吾

『明治開化 安吾捕物帖』 坂口安吾

 作品紹介や解説を読むと、「文明批評をきかせた」とか、「(小説の舞台である)維新後と(小説が発表された)敗戦後の世相を対比させ・・・云々」という言葉が出てくるのだけど、勝海舟の台詞にそれらしいものをチラと感じるくらいで、私にはどのあたりが「文明批評」で「戦後の世相」なんだかよくわからなかった。

 でも、そういうこと抜きに読んでも、本命の探偵・結城新十郎による事件解決の前に、今は氷川で隠居暮らしの勝海舟が正解をちょっぴり外した推理を披露するというのが面白いし、新十郎に勝手にくっついて出かけては事件に首をつっこむ両隣の住人、剣術使い・泉山虎之介と戯作者・花廼屋因果のうざったさと憎めなさの加減も絶妙で、何だかほっこりする。みんなどんだけ心眼をはたらかせたいんだか。そして勝海舟はあんなに瀉血ばかりしていて大丈夫なのか?

 新十郎はじめ、虎之介、因果、海舟ら探偵側の人物たちが、何かしらの屈託は感じさせるものの、さらりと明るいのに対して、事件はどれも陰鬱で、真相が明かされるほどに重苦しさ、物悲しさが増す。その気分を、しめくくりの勝海舟の負け惜しみとそれを神妙に拝聴する虎之介のちょっと微笑ましい姿が救ってくれるのだが。




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2012-07-07

新選組始末記 : 子母澤寛

『新選組始末記』 子母澤寛

 今年は、これまで敬遠してきた新選組モノを読む!と決めたのだけど、いきなり異色作品『サンクチュアリーTHE幕狼異新ー』でスタートを切ってしまったので、改めて大定番で仕切り直し。

 これまで真っ白だった私の頭の中の『新選組』の項にやっと、ざっくりしたあらましが書きこまれました。浪士隊の京入り~壬生での新選組誕生。寄集めの男たちが幕府の一組織として存在を大きくしていく過程、その活躍の数々と血なまぐさい内紛。鳥羽伏見の戦に敗れて江戸に逃れ、甲陽鎮撫隊として甲州城制圧に向かうがそれもならず、遂に下総流山で近藤が捕えられ、板橋にて斬首される。その顛末が数々の史料や書簡、当時生存していた関係者たちの話を交えて、わかりやすく構成、記述されている。

 実は『燃えよ剣』と『新選組始末記』のどっちを先に読もうかと迷っていたんだけど、こちらを先にして正解。

 
 幕末という時代や、新選組の存在自体がすでにドラマチックなのだし、ここに収められた関係者たちからの聞き書きも、繰り返し語られるうちに多少の演出が加わったりしたかもしれないが・・・ 新選組に屋敷を貸していた八木源之丞氏の次男・八木為三郎翁の思い出ばなしは、まさに小説や芝居以上に・・・。

 八木家の餅つきにひょっこりとやってきた副長助勤・安藤早太郎。「餅の合取りはうまいもんだぞ」と羽織を脱ぎ、股立ちをとって餅の合取りをする安藤を見ていた伍長の林が「八木さん、安藤は手をよく洗いましたか」というくだり・・・ 実は安藤は、芹沢鴨一派・野口健司の介錯をしたところ。

 「この男がね、今、野口さんの介錯をしましてね・・・」
 「林、よけいな事をいうな、折角忘れているものを―――」

 
 新選組の光と影をひとつのフレームに切りとったような・・・これがドラマや芝居のワンシーンとして演じられたものではないなんて・・・ むしろそんな風にさえ思ってしまう。




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2011-11-26

須永朝彦小説全集 : 須永朝彦

『須永朝彦小説全集』 須永朝彦

 10代の頃に出会えばよかった。今となっては、長い時を生き続ける美貌の吸血鬼や、長い睫の美少年などというものへの感受性なんてすっかり磨耗してしまっているよ・・・と茶化してみたが、読み始めた最初の夜の夢には吸血鬼が現れ、そういうものに触れて何やら平静でいられなくなるような何某かがまだ心の中にあることを認めざるを得なくなった。

 “10代の頃に出会えばよかった”というのは、吸血鬼や美少年など似合いはしない残念な自分を直視しないための言い訳だけども、それでもやはり、出会うのは10代の頃がよかった。あの独特の気配を発する本屋の奥まった場所にある棚で、函入りの吸血鬼小説集『就眠儀式』に出会ったのだったら、きっとそれはもっと特別なものになっていただろう。


 東欧の暗がりに住む吸血鬼、人を喰う天使、若い闘牛士の死、森の悪魔・・・怖ろしくも圧倒的に美しい異形のものたちへの傾倒と憧れを、繰り返し繰り返し書き綴った物語は、ありふれた人の生活を反転させるような危険なものであるにもかかわらず、暗黒や陰惨さを少しも感じさせず、ただただつよく、純粋な・・・美しい誘惑者への憧れ。

 物語を綴る青年はきっと、女嫌いで潔癖で自惚れ屋で、でも臆病で・・・。いつか彼のもとを黒衣に身を包んだ美貌の吸血鬼が訪れ、彼を攫ってあげればいいのに。




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2011-10-15

ゴシックとは何か―大聖堂の精神史 : 酒井健

『ゴシックとは何か―大聖堂の精神史』 酒井健

 中世~深い森が次々と伐り拓かれ農地となり、農村の急激な人口増加により都市へと人々が流入する。聖なる森を侵し、旧い土地との繋がりを失い、不安を抱え、聖なるものとの交わりを求める都市住民たちの宗教的感情を背景に、ヨーロッパ各地で競うように建築が進められ広まっていったゴシックの大聖堂。

 多様性を受け入れ、絶えず変化し、繁殖をつづける、完成し停止することのない運動。産み、滅ぼし、再生する大地の旺盛な生命力。「清純で吉なる聖性」と、それよりもさらに深く根源的な「不浄で不吉なる聖性」。

 ニョキニョキと突き出した尖塔。森に枝を広げる木々のように立ち並び天井を覆う柱や梁、過剰で無秩序にも思える装飾。キリスト教の教導の場でありながら、異教的なものをも内包する、不吉さを湛え異様な姿をした大聖堂が体現する精神。

 そして・・・世界を一元化しようとするキリスト教の精神に沿った単旋律のグレゴリオ聖歌に替わって、聖堂内で奏でられたポリフォニーの宗教音楽。一元化しえない広大なる世界の音~時に絡み合い、溶け合い、膨らみ、また離れ広がっていく、それぞれに独立した複数の旋律。湧き出し、降りそそぎ、溢れ満ちる音に全身を包まれる。ゴシックの大聖堂を満たすその音を想像して、一瞬、鼻の穴から魂が抜け出していってしまうような恍惚を味わった。




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