2018-07-14

酔ひもせず ~ 其角と一蝶 : 田牧大和

『酔ひもせず ~ 其角と一蝶』 田牧大和

 屏風に描かれた子犬が動くのを見た遊女が次々と姿を消す・・・。

 吉原で一、二を争う妓楼「大黒屋」で起こる遊女消失の謎を、蕉門一の俳諧師・其角とその友である暁雲こと絵師・多賀朝湖~後の英一蝶のコンビが解き明かすミステリー仕立ての時代もの・・・ということだけども・・・。ぐいぐいと引き込まれるほどの筋ではなく、吃驚仰天の展開があるわけでなく、謎解きが鮮やか!なわけでもなく、屏風に描かれた子犬が動くという妖しの要素も何だかとってつけたようで・・・。

 と、いうわけで、ミステリーとか時代小説としてはあまり「読んだぁ~」という満足感はなかった。・・・とはいえ、実のところ私の興味は表紙イラストを目にしたときから別のところにあったわけで。つまり、主人公の男二人~其角と一蝶。

 松尾芭蕉随一の弟子として名も成し、一門をまとめる一廉の大人でありながら、本当の自分と世間との折り合いをうまくつけられず、心に引け目と屈託を抱えている其角。そんな其角には眩しくもある友・暁雲~情味豊かで豪放磊落、よく食い、よく飲み、よく泣き、笑い、何ものにも縛られず好き勝手に振る舞っていながら人を惹きつけ、人に好かれ、それでいて心にどこか暗闇を抱えている男。

 世間には秘している屈託や心の闇を、互いにうっすら隠しつつ、互いにうっすら覚りつつ・・・本当の自分の姿で側にいることのできる無二の友。この小説の眼目ってきっとミステリーとか江戸の風情とかいうことじゃなくて、この其角と暁雲、二人の男の心持ちというか、関係性・・・。これは時代小説というより、むしろあの・・・

 『泣き菩薩』を読んだ時にも思ったんだけど、やっぱり、この作者の読者層がどのあたりなのか気になる~~~


『泣き菩薩』感想・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-747.html



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2018-06-23

関ヶ原 : 司馬遼太郎

『関ヶ原』 司馬遼太郎

 昨年、岡田准一の三成、役所広司の家康で映画化された『関ヶ原』。その宣伝文句に『正義vs.野望』と大書されていたのだけど、映画を観たあとも、「関ヶ原の戦いって『正義』と『野望』の対決なんて単純に割り切れるのか?」って喉に小骨が刺さったような心地がしていたもので、原作ではどう描かれているのか確認しなくては! と思っていたのだ。

 読み始めた動機が↑のようなことだったので、純粋に小説を味わうというよりも、小説を通して映画を思い出し反芻するっていう読み方になってしまった(主に島左近の渋かっこ良さとか、福島正則の破落戸ぶりとか・・・この二人は原作のイメージを見事に体現)。

 日本史に残る一大合戦の裏に作者がみた人間悲劇、もしくは喜劇。三成と家康を大将とした対決は『正義vs.野望』というよりも『(三成なりの)正論vs.正論では動いていない現実』という様相。映画の三成は演じる岡田准一くんのカッコ良さでなんとか一方の大将の押し出しを保っていたけど、岡田くんのルックスを持たない小説の三成はどうやっても家康の敵ではない残念感が濃いのが愛嬌。

 日本を二分した合戦に向けて様々な人の行動、思惑が行き交い、渦巻くダイナミックな群像劇。自分の都合で好き勝手に動く人の群れがいつのまにか東軍、西軍の流れをつくっていくさま、あまり悲愴になることなく、どこかさばさばと明るさすら感じさせる力強さで描かれるこの小説の雰囲気は映画の中にもよく再現されていたのではないかと感じた。


  

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2018-06-09

春琴抄 : 谷崎潤一郎

『春琴抄』 谷崎潤一郎

 大阪の旧い商家に生まれ九歳で盲目となった少女~類稀れな音曲の才と優艶な容姿に恵まれ、誇り高く、またその驕慢さは時に嗜虐的ですらあった春琴と、幼少の頃よりその生涯を通じて春琴に僕のように付き添った佐助。

 肉体の交わりを持ち、子までなした仲でありながら、主従あるいは師弟の別で厳しく間を隔てて暮らす二人。あるとき、 春琴の容貌が何者かによって傷つけられる事件が起こると、佐助は変わり果てた春琴の貌を見ぬために、迷いもなく自ら目を突き盲目となって春琴の傍に侍ることを選び・・・。

 春琴と佐助の二人のみが知る陶酔境。読者としてその世界に感応し耽るには、それなりの素質と才能が必要であって、そういう意味ではとっても敷居の高い読み物だなぁと思う。

 春琴と佐助の間の陶酔境・・・そこに分け入っていきたい・・・とは、まぁ正直なとここれっぽっちも思わないのだけど、春琴の奏でる琴、三絃の音や、彼女が愛玩する鶯や雲雀の声・・・それらは聴いてみたいと思った。ああ、私にそれを聴く力があればなぁ。




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2018-05-26

ヒトごろし : 京極夏彦

『ヒトごろし』 京極夏彦

 幼き日、煌めく刀に切り裂かれ鮮やかな血柱を噴き上げる女の姿を見て以来、己が許されることのない大罪である「ヒトごろし」を欲して止まない人外のものであることを知った歳三。

 ものがたる言葉は、起きている現実と歳三の胸の内を、目の前の出来事と記憶の中の光景を、ゆるゆると往還する。

 異形の土方の魅力満載。鬼の副長・土方歳三を「ヒトごろし」という人外のモノとしてとらえ再構築された「新選組」の物語。熱っぽくゆらめきながらも冷え冷えと醒めた人外の眼。歳三のその人外の眼が視た幕末日本の有り様、事ども。



 内容はまったく異なるけれど、「新選組」「人外」というキーワードの組み合わせから、木下昌輝の『人魚ノ肉』が思い出される。こちらは、人魚の肉を喰った新選組隊士らが文字通り人外のもの~妖異に変じる物語。

『人魚ノ肉』感想・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-753.html

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2018-05-12

誰よりも美しい妻 : 井上荒野

『誰よりも美しい妻』 井上荒野

 先日読んだ書評集『熱い読書 冷たい読書』の中で気になった作品の一つなんだけど・・・ひとくちで感想を言うのが難しい。

 ヴァイオリニストの安海惣介とその美しい妻・園子を中心に、息子の深、惣介の前妻や愛人たち、惣介の友人で園子に想いを寄せる広渡、深が恋をしているクラスメイトの岩崎みくとその家族・・・つながっては離れ、離れてはからまるそれぞれの想いや関係性がモザイク模様のように描かれる。

 ある意味とても純粋な・・・欲求や生理や想いがそのまま言動として表現されてしまう惣介は、小説の登場人物として読めば、そのいちいちの言葉や行動に「は?」と眉を顰め、「無理無理無理無理」と全力で拒絶してしまいそうな人物なのだが、もし惣介と一緒に暮らしているのだとしたら・・・私も園子のように~園子がいないと生きていけない惣介の「誰よりも美しい妻」に~なってしまうのかもしれない。何となくそれは皮膚感覚のようなもので感じるというか、わかる・・・というか・・・。

 妻の中の自分が消えてしまうことを何よりも恐れる夫と、自分の中の夫が消えてしまうことを何よりも恐れる妻。自分の存在のためには相手の存在が絶対に必要な~失ってしまったら命にかかわるほどのもの・・・そういうもので結びついた二人は確かに・・・幸福なのか不幸なのか・・・。  

 

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2018-04-28

泣き虫弱虫諸葛孔明 第伍部 : 酒見賢一

『泣き虫弱虫諸葛孔明 第伍部』 酒見賢一

 曹操・劉備・関羽・張飛・周瑜・夏侯淵・夏侯惇・・・錚々たる英雄、猛将たちが逝き、後に残された孔明。託されたのは蜀の国と劉備の子~暗愚とも評される皇帝・劉禅。

 孔明を信頼し昔と同じ爽やかな笑顔を見せるのは老年にさしかかった趙雲将軍だけであり、どこかぎくしゃくとした宮廷の人間関係の中、劉禅を抱え、蜀の国を切り盛りすべく独り奮闘する孔明。

 人材に恵まれているとは言えない蜀の国で、周囲の人たちに(至らぬながら)気を遣い、国家の命運を我が身に負い、内政に軍事に大忙し。・・・ああ、登場の時から変質者扱いをされつづけ、不気味な機械と奇策ばかり繰り出してきた孔明が、今や責任ある「大人の仕事」をしているのだ。何かしんみりする。

 孔明の大人な仕事ぶりを見ていると、惨敗と敗走の連続の中でそれでも劉備の傍らで無茶と悪巧みを重ねていたあの頃~もう随分前に読んだ第一部、第二部に描かれた出来事どもが「ああ、あれは孔明の青春の日々だったのだ」とキラキラ輝いて思い出される。シリーズ完結を前に懐かしきあれこれが走馬灯のように蘇るニクい筆運び。

 大人の仕事をせざるを得ない孔明だが、本当の心は常に「宇宙」を思う。さて、南を平らげ、いよいよ五度におよぶ北伐。孔明、最後の大仕事!



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2018-04-14

小川洋子の陶酔短篇箱 : 小川洋子編著

『小川洋子の陶酔短篇箱』 小川洋子編著

 人にはその人にしか見えぬそれぞれの世界がある。

 世界とは、

 ノートに書いたばかりの文字が吸取紙に吸い取られる瞬間の形態を想像し、石油を喰うという微生物の名『プシュウドモナス・デスモリチカ』を呪文のように唱えつつ「俺は早く土星に行かなくちゃ」と思う青年の頭の中であったり(「牧神の春」中井英夫)、

 『ひとつひとつはただ意味なく狂奔しているように見えるけれど、誰がなんでそんなことをするのか知らないが、どこかで牛耳っているものがあって、それで全体が一糸乱れず狂奔している』ような電車たちの世界に魅入られた生活であったり(「雀」色川武大)、

 友人から贈られた一匹の真っ白な鯉であったり(「鯉」井伏鱒二)、

 あるいは一人の女が〝たいてい午前零時をまわったころに帰ってくる夫”を待ち続けるマンションの一室(「流山寺」小池真理子)だったり。

 世界の箱庭のような作品たちを小川洋子氏がまた丹念に箱詰めしたアンソロジー。それぞれの世界に感応し滲みだした小川氏の世界がエッセイとして作品ごとに添えられている。



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2018-03-31

我等、同じ船に乗り 心に残る物語―日本文学秀作選 : 桐野夏生編

『我等、同じ船に乗り 心に残る物語―日本文学秀作選』 桐野夏生編

 アンソロジーを読む場合は、自分の好みに合うテーマに沿って編まれたものや、好きな作家が編んだものを選ぶことがほとんどなのだけど、作品を読んだことのない桐野夏生氏の編んだものを今回手に取ったのは、どこか共犯関係を感じさせるタイトル~『我等、同じ船に乗り』~が気になったから。

 アンソロジーを読む楽しみは、これまで触れる機会のなかった、そしてこれからもなかなか手に取ることはないかも知れない作品や作家に出会うことだったり、自分とは異なる編者の視点を知ることだったりしたのだが、本アンソロジーの収穫は、他の収録作品を交えて読むことで、これまで何度も読んできた作品の今まで感じたことのない味わいを知ったことであった。

 乱歩の「芋虫」・・・これまで何回も読んだ作品ではあるが、須永中尉が柱に刻んだ「ユルス」という文字がこれまでになく哀しく、美しく見えたのは、前後に配された作品~島尾敏雄の「孤島夢」、島尾ミホの「その夜」、林芙美子の「骨」、坂口安吾の「戦争と一人の女」など戦争の中の人の生を描いた小説~があったからであろう。

 その他・・・ 

 編者が「忠直卿行状記」の本歌取りのような作品と紹介した太宰治の「水仙」。滑稽味を漂わせながらもグルグルと渦巻く感情を描きつくす太宰治の凄まじさったらない。どうしても血まみれの(もしくは紫色に腫れ上がった)笑顔を連想してしまう。

 それぞれの思惑と計略を秘めて認められる夫婦の日記~谷崎潤一郎「鍵」。私にとってはさして興味も関心もなく、むしろ退屈に感じられる家族の粘っこい駆け引きが執拗につづられていて・・・辟易した。

【収録作品】
島尾敏雄「孤島夢」
島尾ミホ「その夜」
松本清張「菊枕」
林芙美子「骨」
江戸川乱歩「芋虫」
菊地寛「忠直卿行状記」
太宰治「水仙」
澁澤龍彦「ねむり姫」
坂口安吾「戦争と一人の女」「続戦争と一人の女」
谷崎潤一郎「鍵」 



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2018-03-17

人形たちの夜 : 中井英夫

『人形たちの夜』 中井英夫

 ひとくちに情念といっても近頃のものはどこか作り物っぽくプラスチックな肌触りがするのだが、いまでは様々な事情で目や耳にすることのなくなった言葉をふんだんに用いて語られる昭和の情念はまるで土か泥でも胃の中に詰め込んだかのようにズ~ンと重くこたえる。

 ・・・というような感想を書きかけていたのだけど・・・。最後まで読み通してみるとこれはただ情念のみで語られた物語ではなく、冴えた眼と感性で世の有様を見通し、その上で自分が一人の人間として世の中に在る為に生み出された物語であった。


 とある寺に所蔵された職人尽絵の屏風。その屏風を前にした主人公の中で醸されていた想いを源に物語は生まれ出る。
 ひどく不気味なことがいまにも起るのではないか。~略~ こうして職業がとめどもなく分化してゆくにつれ、人間は少しずつ互いに疎遠になり、ついには他人のしていることがまったく理解出来なくなって、とうとう人形のように言葉も交わさず、表情も動かさなくなるのではないか~

 職人尽しの古い屏風絵から、あまりに細分化された現代の職業を思い、さらにそこに時代が孕む不気味なものの気配を感じ取る感性はあまりにナイーブで鋭い。

 そのようなナイーブで鋭い心をもつ主人公が必要とした物語~もう一つの現実。やがて目にする結末は、読者である私たちにとっても、強靭な意志で独り孤独に物語を語ってきた主人公自身にとっても意外な、そして尊いものであった。

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2018-03-03

バンドネオンの豹 : 高橋克彦

『バンドネオンの豹』 高橋克彦

 1980年代・・・当時は月に何冊かの音楽雑誌を読んでいて、あがた森魚氏の名前も『バンドネオンの豹』というアルバムタイトルもそれらの雑誌で目にしたのだった。

 そのロマン溢れる世界への憧れとノスタルジーを掻きたてるタイトルに誘われてライブを聴きに出かけた。情けないことに、その時聴いた音楽のことは殆ど忘れてしまったのだけど、何度か足を運んだライブ会場の居心地の良さは今でもほんのりと覚えている。

 物語はあがた森魚の音楽とも微かに連動する、私たちにとってはあらかじめ失われた場所~見たこともないのに懐かしい心の奥の感傷を掻き立ててやまぬ魂の故郷ともいうべき世界をめぐる冒険譚。

 選ばれし少年たちはあたりまえの日常を抜けだし物語の世界の住人となって、謎のヒーローや怪人たちと丁々発止の冒険を繰り広げるのだけれど、「ひょっとすれば・・・」と作者が記しているとおり、この物語自体が登場人物である藤村少年の生み出した妄想であるのかもしれない。しかし、もしもこの物語が少年の妄想だとしても、いや少年の妄想であればこそ私たちの胸は切なさに絞られるのだ。

 

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