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2022-06-25

大江山異聞 鬼童子 : 菊池秀行

『大江山異聞 鬼童子』 菊池秀行

  「鬼狩り」に心惹かれて手に取ってしまったわけだが・・・。作品そのものへの関心じゃない所で読む本を選ぶと、あまりよくない結果になることがままあって、そこがちょっと気になるといえば気になっていたのだ。

 でも、「酒呑童子vs. 平安の鬼狩り」だし、「菊池秀行」だし、面白くないわけないと。妖しくて、ヴァイオレントで、哀しくて、艶やかな世界に酔わせてくれるだろうと、期待したの。

 果たして・・・心が別な「鬼狩り」にあったのが、やはりいけなかったのか、期待ほどの愉しみは無かった。

 美しい鬼・酒吞、心優しい異形のヒーロー・金時、異国の幻術、製鉄と錬金術、土蜘蛛の悲劇、紫式部の心に棲みついた物語。ドラマティックな要素に満ちているのに、あまりにスピーディーな展開が物足らなく思えた。何だか、宣伝用カットを繋ぎ合わせたダイジェスト版?な感じがするのよ。もっとじっくり、長い長い物語を読みたかったなぁ。
  

 
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2022-06-11

水晶萬年筆 : 吉田篤弘

『水晶萬年筆』 吉田篤弘

 いわゆる現実だとか日常だとかいうものは、確固として存在しているわけではなくて、音やら色やら光やら時間やらの有相無相の混沌に知覚の網をかけて掬いだしたものに与えられた便宜上の姿でしかない・・・っていうようなことを何かの本で読んだ。

 混沌を掬う網の目が変われば、現実はいくらでも姿を変える。虫には虫の、鳥には鳥の、獣には獣の、魚には魚の、人には人の・・・その数と同じだけの知覚の網の目。

 「S」の文字と水の気配に満ちた町。半分だけの絵。繁茂して人を惑わす「道草」。月夜に「人知れぬ植物」を育てる人。言葉に導かれて変身する男。怪盗が街に落とした片目。六篇の物語に描かれる十字路のある風景。

 奇妙なことが起こる街で主人公たちが歩き、出会い、彷徨う十字路の連なりは、混沌の中から何かを掬いとる「網の目」みたいなものだったのじゃないかしらん? なんてことが思い浮かんで頭から離れなかったんだけども。

 なんだか小賢しげにいらんことを考えてしまった自分を苦々しく思う。もっと虚心に物語を楽しめば良かったのに・・・と。


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genre : 本・雑誌

2022-05-28

火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 : 今村翔吾

『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』 今村翔吾

 『我ら、羽州のぼろ鳶組でござる!』

 あちこちと読書ブログを拝見していて出会った胸高鳴るエンタメ時代小説。

 かつて「定火消御役 松平隼人家中に火喰鳥あり」と謳われた江戸随一の火消・松永源吾。

 ある事件をきっかけに松平家を辞し、今は火を恐れ、見る影もなく落ちぶれた浪人生活をおくる源吾のもとに、一人の侍が訪れる。出羽新庄藩戸沢家から壊滅状態にある藩の火消の立て直しを託された源吾は・・・。折しも、江戸市中には火つけと思われる不審な火事が頻発していた。

 源吾のもとに集まってくる、ほろ苦い過去を抱えた仲間たち。何よりも命を守るとの想いを胸に、ぼろぼろの装束で火事場の炎に挑む「ぼろ鳶組」。興奮を煽る大仰な語りとアツい台詞は、読んでるこちらも相当に気分が乗っていないと、ちょっと気恥ずかしくなってしまう。

 火消羽織を鳳凰の羽の如く翻し、炎に向かって走る源吾。風のように屋根を駆け、大銀杏の纏を揚げる彦弥。気の優しい力持ち、頼りになる寅次郎の大きな体躯。火と風を読む星十郎の横顔。源吾の背を追う新之助の眼差し。

 そういうものを眼に浮かべながら、一気呵成に読むのが良い。

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genre : 本・雑誌

2022-05-14

11 eleven : 津原泰水

『11 eleven』 津原泰水

 ちょっとだけ現実から逃避したい。此処のじゃない空気を吸いたい。そんな気持ちで縋った一冊。

 異様に変質する世界とつながる人。その有様を描く小編には後味の悪いものもあったけれども・・・

 川に舫った舟で暮らす見世物一座の「僕ら」。その悲惨の中にも多様で深い色合を持つ生と、未来を予言する怪物「くだん」との邂逅によってもたらされる世界の転換を語る『五色の舟』には、どこか遠い魂の在り処からの呼び声が聞こえてくるような切ない美しさがあって、しばし言葉を失った。

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genre : 本・雑誌

2022-04-23

江戸時代の歌舞伎役者 : 田口章子

『江戸時代の歌舞伎役者』 田口章子

 頁を捲るうち、江戸時代の歌舞伎と歌舞伎役者たちが生き生きと動き出すような一冊だった。導入部となる序章に描かれた初代中村仲蔵の役者人生は一篇の歴史小説を読むような面白さ。

 表方、裏方含めた興行や劇場の仕組み、役者たちの給料事情、修行の様子や舞台での工夫、師弟関係、ライバル関係、妻や妾の評判に私生活のゴシップまで、役者自身が遺した日記や芝居関係者たちの書き記した記録、様々な史料から拾い上げた逸話の数々は、まさに『芸能界』とそこに生きるスターの生活を覗き見する楽しさいっぱい(といっても、苛烈な競争社会と身分制度の中を生きる役者たちの姿には強かさとともにドロドロした醜さもあって楽しいばかりではないのだけど)。

 役者の浮世絵も多数掲載されているが、中でも際立つ七代目団十郎の美貌と華やかな役者ぶり。スッキリと整った面長な顔にこれまたスッと通った鼻筋、クッキリとして力のある大きな目、自負心の強そうな表情。その上、奢侈の咎で江戸を追放されるほどのド派手好き。このゴージャスな美男に江戸の観客たちがどれほどドキドキ、ゾクゾク、ワナワナと心震わせたことか。そんなことを考えながら、「これ、どうにか3Dになってくれないもんかなぁ」と描かれた絵姿を見つめるんである。

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2022-04-09

歌舞伎、「花」のある話 : 小山觀翁

『歌舞伎、「花」のある話』 小山觀翁 

 歌舞伎の歴史に造詣深く、明治・大正生まれの名優たちが舞台を彩った昭和初~中期の歌舞伎界の空気、香気を知る著者が、役者の人、芸、芝居のそこここにある「花」の愉しみを豊かに語る。

 懐かしき良き時代~其処に想いを馳せることしばし。しかし、同時に頭をよぎるのは否応ない時の流れの早さ。今の時代に、ここに語られるような「花」を何の心のざわつきもなく「美しい」と受け止められる人はどのくらいいるのだろうか。

 たとえば、それぞれの職掌にある人が「分」を守って仕事をするということ ~ それぞれが「分」を守って演じ、働くことで生まれる舞台の風格、素晴らしさがあるとして、「分」という概念が生きていることを私たちはどう感じるんだろうか? 

 この本の出版当時(平成十六年)には、「失われつつある花」の美しさとして愛でられたのかもしれない。しかし「花」を眺める私たちの心が、時の流れとともに変わっていく・・・。決して、優しいんだか息苦しいんだかわからない今の風潮に馴染んでいるつもりはないのだが・・・。


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2022-03-26

黒のコスモス少女団 : 朱川湊人

『黒のコスモス少女団 薄紅雪華紋様』 朱川湊人

 懐古的な気分を漂わせるタイトルと表紙デザインにくすぐられて思わず手にとったのだけども、先行するシリーズ作品があることに読み始めてから気づいた。迂闊だった。

 それにしても、懐古的は良いとして「薄紅雪華文様」とはちょっとあざとすぎないか? と、手にとった時点では「読むのよそうかな」という気持ちもあったのだ。でも、試しに最初の数行を目で追ってみたところで、なんかもう、ひとたまりもなかった。

 駿河台ニコライ堂の鐘の音を耳にするたびに、思い出される顔がいくつもある。

 特に正教に帰依しているということもないが ―あの鐘の響きが、愛すべき友・穂村江雪華と共にあった若き日々と、老境を過ごす現在とを結びつける鎖の一つであることは確かだ。

 私はこういう感傷に滅法弱い。

 
 画家を志す「風波」こと槇島巧次郎という主人公の青年、『講道館の槇島と言えば、それなりに知れた名だった』なんて言葉が出てくるくらいだから、「腕っぷしが強く情に厚い熱血漢」を勝手にイメージしていたのだが、友達思いではあるものの、関係の薄い人、事柄に対しては割と冷淡なところもあって、なんというか・・・謂わば「普通の人」なんである。

 そんな「普通の人」風波の傍らにいた、美しく、風がわりな友人、持て余すほどの情熱を抱えた仲間たち。怪異に出会い、理不尽と悲しみを知ることも多かった青春の時。

 夢見たものとは違うかたちであれ、それなりに納得して人生を生き、決して不幸でもない今を過ごす彼が、かつて共にあった愛しいもの、今は自分の手から失われてしまったものたちを想う。幸せな喪失感。そういう感傷に私は滅法弱い。


 

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2022-03-12

マークスの山 : 高村薫

『マークスの山』 高村薫

 昭和五十一年秋~南アルプス。吹雪の吹き荒れる未明の山で起きた、模糊として陰鬱な殺人事件。違和感を残したまま終わったその事件が何を意味するのかわからないままに、頁を捲るしかなかったのだが、しばらくは、ただ姿のよくわからない登場人物が増えていくばかりで困惑した。

 平成四年十月~東京。長い間、深く闇の底に埋められていた何ものかが、凄惨な連続殺人事件としてこの世に姿を現す。何事かを隠蔽する関係者と各方面からの捜査妨害に手こずりながら、正体の見えない殺人者を追う警視庁捜査一課の合田雄一郎ら捜査員が目にするのは、事件の背後に浮かび上がる山の幻影。

 犯人(や関係者)と警察の攻防、事件の真相や結末への興味もさることながら、より心を惹かれるのは、合田をはじめ、事件を追う捜査員たちの撒き散らす《生き物の匂い》。正義、保身、性癖、好悪、愛惜、反骨、諦念、信義、憤懣、挺身、煙草、寝不足・・・何だかひと口に言えないこんがらがって込み入ったものを互いに抱きあい、身に纏わりつかせて事件を追う警察官であり、ひとりの生活者として生きる人間である合田たちの匂い。

 読み終えたあとも、何だか彼らと別れがたい・・・と、また本を手に取って頁を捲りなおしては反芻してたのだけど、合田刑事が登場するシリーズが他に何作もあると! また彼らに会えると! 読むのに体力がいるんで、すぐに再会!とはいかないけれども、なるべく早い再会を期して、体調整えて行こう!

 あ~、でも、私の胸を疼かせるのは、合田刑事よりも森《お蘭》や広田《雪之丞》、吾妻《ポルフィーリィ》だったりするのだけど、彼らにもまた会えるんだろうか?

 

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2022-02-26

ちゃぶ台返しの歌舞伎入門 : 矢内賢二

『ちゃぶ台返しの歌舞伎入門』 矢内賢二

 以前読んだ『明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎』がとても刺激的だったので、こちらもとても楽しみに読んだ。

 歌舞伎を観て「面白い」と感じたなら、「もう少し歌舞伎のことを知りたい」と、いわゆる初心者向けの入門書・解説書を手に取ってみるというのはよくあること。でも、歌舞伎を「面白い」と思えばこそ、そういった入門書・解説書を読んでいると『靴ごしに足を掻くような、なんだかもどかしい気持ち』になる・・・というのは、私もモヤモヤと感じていることだった。

 著者の『「<歌舞伎入門>的なるもの」への、そういういわく言いがたいもどかしさから書かれた』という本書。多くの入門書にある「難しいことを考えず、まずは気楽に観て楽しんでください」というアドバイスの言葉に待ったをかけ、歌舞伎を存分に体感し、楽しむために必要な見方、知識、基本姿勢を示してくれる。

 「隈取」、「見得」、「型」、「世界」と「趣向」、「時代」と「世話」、「女方」、「踊り」・・・取り上げられるトピックは一般的な入門書・解説書にもあるようなものなのだけど、他の入門書などよりも、歌舞伎の「わかりにくさ」も含めて、より舞台を観ているときの生な感覚に寄り添った書きぶりで、読んでいると、身体に歌舞伎を観ているときの感覚が再現されてくる。

 また、歌舞伎に描かれる世界と私たちが暮らす現代は『異世界』であることを意識し、『安易な共感にブレーキをかけておかないと ~略~ とんた見当違いをしてしまう。』という指摘に、心中物だったり、『魚屋宗五郎』だったりを観たときに感じてきた「なんか、わかんない」「すっきりしない」っていう感覚は大事にしてもいいのかもなぁ~と、ちょっと自分の見方に自信を持ったり・・・。もちろん、その「わからない」を、演目に対する理解を深めるためのとっかかりにしていかなきゃいけないんだけど。

 そして本書にも書かれている、舞台の上に何かが『ありありと見えてしまう』ことがあるという、その瞬間。『役者の顔や体から放射される気の固まりのようなものが、眼から脳まで電極を差し込むようにして食い入ってくる』まさにそのような体験。歌舞伎を観ていて稀に訪れる、そういう何ものにも代えがたい瞬間を味わいたいがために、劇場通いはやめられないのだ。

 
 さて、さしあたって私にとっての急務は、舞踊をより楽しむために、長唄や清元の詞章を聞き取れるようになること(これは、三津五郎さんの『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』を読んだ時にも感じたのよね)なのだけど、どこからどう手をつけたら良いものか。まずは「歌舞伎オン・ステージ」シリーズの『舞踊集』を入手しようかと思うのだけど、私にとってはけっこう高価な買い物なのだよねぇ・・・。


『明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎』感想・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-474.html

  

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2022-02-05

今昔百鬼拾遺 月 : 京極夏彦

『今昔百鬼拾遺 月』 京極夏彦

鬼の因縁か、河童の呪いか、天狗攫いか──
昭和二十九年。連続する怪事件の残酷な真相。


 『鬼』・・・ 「昭和の辻斬り」と呼ばれる日本刀による連続殺傷事件と、代々「刀で斬り殺される」という因縁を持つ家の女。

 『河童』・・・次々とあがる「尻を出した水死体」とその背後に見え隠れする宝石略奪事件。

 『天狗』・・・高尾山に登ったまま姿を消した是枝美智栄。二か月後、美智栄の衣服を身につけた遺体が迦葉山で発見され・・・


 不可解な謎に彩られた怪事件。「鬼」や「河童」「天狗」になぞらえられるのは、人の抱えた妄念や、旧態依然として頑迷固陋な人の行状、有り様であり、それに相対し、事件を捌くのは、開明的で理性的で(まだまだ途上ながら)独立自尊の心意気を持つ「稀譚月報」記者・中禅寺敦子と女学生・呉美由紀の二人。

 敦子や美由紀や「天狗」の登場人物であるお嬢様・篠村美弥子の啓蒙的な語りが過ぎて、多少興が醒める部分もあるのだけれど、まだまだ理不尽な事どもに屈しなくてはいけないことも多い今の世の中、理不尽を粉砕する美弥子の弁舌、美由紀の説教は一服の清涼剤のようだ。

 しかし・・・合理的であることに取り憑かれているようにも見える敦子さんが、この先、妖怪化(もしくは、パワハラ上司化)していかないか・・・ちょっと心配ではある。まあ、その時は兄さんが憑き物落としをしてくれるのか。




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