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2020-01-11

彼女は一人で歩くのか? Dose She Walk Alone ? : 森博嗣

『彼女は一人で歩くのか? Dose She Walk Alone ?』 森博嗣

 長いシリーズものを読み通す根気に自信がなくて、これまで敬遠してきたのだけれど、この後に続くらしいWWシリーズが面白そうだし、これから読もうと思っている『赤目姫の潮解』をより楽しむためにも、このシリーズは読んでおいた方がいいのかな・・・と思い、意を決してとりかかりました。読み始めてみるとページがどんどん進んで、意外と早くシリーズ読み通せそう。

 人間の細胞から培養した人工細胞の身体に人工知能をインストールし、すでに人間との判別も困難になった『ウォーカロン』が人口のかなりの部分を占める世の中。科学者ハギリは突然命を狙われる・・・。

 世の中の現状を提示し、そして事件が起こる・・・これ一冊がシリーズのイントロダクションのような印象。

 頭の中から思考の糸をぐるぐる引き出してくれるのは、森作品の常のことだが、これまでのように架空の世界の中で純粋に思考するという感覚とは少し違って、本作では思考がかなり現実に引き寄せられる感じ。

 森作品を読んでいてゾワゾワするのは、リアルとは少し質感の違う夢の中のような視覚が開かれていくこと。それ以上にゾクリとするのが、その視覚が裏切られる、または更新される瞬間があること。さあ、この作品はこれから何を見せるのか・・・。



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2019-12-14

謎手本忠臣蔵 : 加藤廣

『謎手本忠臣蔵』 加藤廣

 赤穂浪士の吉良邸討入りの裏には「ある筋」の思惑が動いていた。

 討入り計画の最初から最後まで、その裏に潜み動いていたにもかかわらず、大石初め赤穂の浪人たちにも、また世間にも覚られることのなかったその秘められた思惑を「謎手本」と洒落て、『忠臣蔵』の物語の様相を書き換えようとした作品なのだろうが・・・。そんな作者の作意&作為が見えてしまって物語としては弱い。

 「謎」のネタとして投入された「幕府と朝廷間の確執」とか「福島正則が秘蔵したといわれる家康の密書」についても十分に描き切れておらず、『忠臣蔵』を書き換えるどころか、庶民が愛する従来の『忠臣蔵』の物語を御しきれず呑み込まれてしまっているように見える(その「庶民の愛する『忠臣蔵』こそ、作中の“ある筋”の意図によるもの・・・といいたいようだが)。

 また、内蔵助たちのあまりに現代的な口調はおいておくとしても、明々快々と開陳される登場人物たちの思考や言動ばかりを連ねてドラマを展開する語り口には時代味がなく、巨大権力 vs. 窮地に立った中小企業!的な企業小説でも読んでいるような気分になる。

 『忠臣蔵』を書き換えようというなら、それなりの圧力のある物語を読みたかった。


  

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2019-12-07

決算! 忠臣蔵

『決算! 忠臣蔵』 監督:中村義洋

 なによりまず、この時期に『忠臣蔵』の映画を見られるのが嬉しい。

 今朝ちょうど、三田村鳶魚翁の本で、火消しの演習に際して『一つ間違えば手討ちにでもしそうな様子』で薙刀の抜き身を携え号令をかける長矩公の話を読んだとこで、冒頭から「あははぁ、これはまさに」とニヤニヤできたのも良いめぐりあわせだった。

 「病身の老父」のイメージしかない矢頭長助(岡村隆史)が算盤と帳面を手にイキイキと働いていて、何かもうそれだけで不思議に可笑しい。でも、お父さんがそんなに元気じゃ、右衛門七は?とか心配したけど、やっぱりお父さん、討ち入りを前に無念の死を遂げるのね。その長助の死にざま・・・しまり屋でいつも徒歩の長助があの時ばかりは駕籠を呼んだ、その心を思うと泣ける。

 堤さんの内蔵助、軽みと重みのバランス、ユルさと熱さの塩梅が絶妙。そして、山田風太郎の短編「俺も四十七士」では、「どうやってもスポットライトから外れてしまう男」だった貝賀弥左衛門が、算盤のできる男として時に頼もしく見えてしまうのも味わい深い。

 気持ちよく泣き笑い、身も心もスッキリと清々しく映画館を出た。が、どんな紆余曲折があったとしても、この後起こることは決まっているわけで、私も含めて帰途につく人たちの目や胸には、きっとそれぞれに討ち入り当夜の光景が浮かんでいる。やっぱり『忠臣蔵』 強いよなぁ・・・。


 ところで、内蔵助が吉良邸で打ち鳴らしたのは山鹿流の陣太鼓じゃなくて銅鑼だったの?


 

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genre : 映画

2019-11-23

夜行 : 森見登美彦

『夜行』 森見登美彦

 『春風の花を散らすとみる夢は
     さめても胸の騒ぐなりけり』

 夜行・・・永遠に続く夜。


 森見登美彦の物語は風景の中から生まれる。

 森見登美彦が語る怖い話は、忘れ難い大切な人、過ぎ去ってしまった時間、ここではない何処か、目を背けつづけてきた胸をざわめかせるもの、本来共にあるべきはずなのに私たちが生まれながらに失ってしまった何か・・・そういった手の届かないものたちへの憧れ、怖れ、愛しさ、悲しみ、喪失感を湛えて、ひどく切ない。

 森見氏の中にはそういう想いを掻き立てる風景が、夢も現実も含めて沢山、沢山、しまわれているのだろう。

 そして、森見登美彦の物語は、実際に見たこともないのに胸をしめつけるように懐かしい私の中の風景に根をおろし棲みつく。




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2019-11-09

きつねのはなし(再読) : 森見登美彦

『きつねのはなし』 森見登美彦

 再読。

 数年前に読んだときのイメージとして残っていたのは、お話しの背景となる京都の町の暗闇と、説明のつかない出来事の不気味さばかりだったのだが・・・

 古道具屋、きつねの面、幻燈、妙に胴の長いケモノ…夢か現か曖昧な、そういうものたちの存在と共に語られる4つの話は、改めて読んでみると、胸に深く刻まれた今はもういない人、人生の中で過ごした最も忘れがたい時間を思って綴られる恋文のようでもあって、とても切ない。



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2019-10-26

十蘭万華鏡 : 久生十蘭

『十蘭万華鏡』 久生十蘭

 久生十蘭初読み。

 欧州の街を舞台にした冒頭2篇を読んだところで、そに漂う躁的とも感じる高揚感は、渡辺温の作品に感じた都市の気分と似通っている気がして、「・・・時代、なのかなぁ・・・」と思う。

 ただ、渡辺温の小説には、都市の光と共にある闇や陰鬱さを描く暗いトーンがあったのだけど、十蘭の方は情愛、悲しみ、奇妙、不可解、滑稽、恐怖・・・何を書くにしても、ずっと目を見開きっぱなしでいるような異様なハイテンションと緊張感が続いていて、いったい何が起きているのか・・・と眩暈がしてくる。そして、ぐるぐると目を回している私を振り落として語りは終わる。


渡辺温『アンドロギュノスの裔』感想・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-561.html


 

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2019-10-13

葵の残葉 : 奥山景布子

『葵の残葉』 奥山景布子

 尾張徳川家の分家である高須松平家に生まれ、『葵の末葉』として幕末を生き抜いた兄弟たち。

 尾張徳川家を継いだ慶勝。政局に翻弄されながら一橋家当主となった茂栄。会津松平家を継ぎ京都守護職となった容保。桑名松平家当主となり京都所司代に任じられた定敬。

 佐幕、勤皇、開国、攘夷・・・思惑や立場を違え、それぞれの役目と運命を担うことになる四兄弟。

 一つの現実が、見る者、聞く者、話す者の立場、思惑の違いによっていくらでも姿を変える世の中にあって、そこにあるものをそのままに写し記録する写真鏡がどこか悲しくも清々しさを感じさせるアイテムとして登場し、同時に、その写真鏡を愛する慶勝の想い、人となりを印象付ける。

 兄弟たちに襲いかかる運命を静かに写し取る筆致が切なく染み入ってくる。

・・・・・・

 以前、友人が徳川美術館でお殿様の撮った写真の展覧会を観たといっていたなぁ。また機会があれば、私もお殿様の写真を観てみたい。



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2019-09-28

歌右衛門伝説 : 渡辺保

『歌右衛門伝説』 渡辺保

 六代目歌右衛門の名は、いつからといくことはなく昭和の名女形の名前として頭にあったが、私はその舞台での姿を観たことはなく、私の中にある六代目歌右衛門イメージといえば、橋本治の描いた役者絵の姿なのである(『橋本治歌舞伎画文集―かぶきのよう分からん』)。描かれた歌右衛門は物語の住人そのままの、どこか現実離れした異様さを漂わせて見えた。

 そんなイメージが頭の中にあったから、著者の本書に先立つ歌右衛門論『女形の運命』を読んだ時には、著者の言う「歌右衛門の近代性」ということを半ば無視していたような気がする。

 本書は改めて、「歌右衛門が近代的な役者である」ということからスタートする。歌右衛門の「近代性」をもって演じられてきた役が、歌右衛門の老いていく身体と共にどのように変化を遂げていったか。精神性を深め、不自由になっていく身体と向き合って生み出された役が、合理性も物理的な存在も超えた「幻想」へと昇華されていく様を、著者は自らの見てきた歌右衛門の中にかみしめる。


 観劇経験の浅い私でさえも、歌舞伎を観ていると、理屈や言葉を超えて、まるで雷に撃たれるように、あるいは肌から染み入るように何かが「わかる」瞬間や、物理的には見えないはずのものが、舞台の上に幻のように、またはありありと「見える」瞬間がある。

私は、その陶酔感のなかで、不思議なものを見た。

 本書は、長く舞台をみてきた著者の、言葉を超えて「わかる」、見えないものが「見える」感覚に満ちている。著者が歌右衛門に「見た」ものとの長い時間をかけた真摯な対話である。


  

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2019-09-14

太陽と乙女 : 森見登美彦

『太陽と乙女』 森見登美彦

 酷い暑さと大雨の波状攻撃に削られた体力、鈍く痛んで重たい頭。そんな状態でもゆるゆるとやさしく読めて、読み終わった時には少し良い心持ちになれるような読み物を求めていた。これは、そんな時にうってつけの一冊。

 読み進めることしばし・・・、現れた『使いすぎると、みなカレーになってしまう』というパワーフレーズに、ランチ時のドトール店内であるにもかかわらず堪らず「ブッ」と吹き出す。吹き出すと同時に身体と頭を覆うモヤモヤが少し晴れた。

 そして、これは意外にもというか、ちょっとした驚きだったのだけど・・・。収録されたエッセイの中に、東京都内の廃駅跡をめぐる1日を記したものと、姫路から益田まで単行列車を乗り継ぐ旅の顛末について書いたもの、鉄道にまつわる文章が2つあるのだが、これがあまり面白くない・・・。本書の中にも登美彦氏が内田百閒を愛読する様が書かれており、さぞかし『阿房列車』ばりの面白くかつ不思議な味わいの鉄道エッセイが・・・と思っていたところが・・・。ワクワクも、微笑ましい偏屈さも、煙に巻かれるような詭弁もない。何だか大人しい文章が綴られているのに拍子抜けするのだが、「やはり登美彦氏の本領は、外の世界にではなく四畳半に据えた机上にあるのか・・・?」と思うと、その面白くなさも、少し面白い。

 一方で、登美彦氏の妄想世界と地続きであるような馴染みの町の様子、風景を語る文章には不思議な生命力がある。そういう妄想だか現実だかわからない登美彦氏の描く風景を読んでいると、ときにふわっと、ときにザワザワと風が吹き抜けていくんだよなぁ~。  



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2019-08-24

オリガ・モリソヴナの反語法 : 米原万里

『オリガ・モリソヴナの反語法』 米原万里

 1960年~64年少女時代の数年間をプラハのソビエト大使館付属学校で過ごした志摩。志摩が通うソビエト学校には殊に印象深い二人の女教師がいた。派手な1920年代ファッションに身を包み独特の反語法を駆使して厳しく巧みに生徒を指導する舞踊教師オリガ・モリソヴナと、19世紀風の古風なドレスを身に着け、志摩を見つける度に「中国の方?」と尋ねてくるフランス語教師エレオノーラ・ミハイロヴナ。二人はソビエト学校の中で飛び抜けて個性的であると同時に多くの謎を秘めた女性だった。

 志摩は敬愛するオリガとその友人エレオノーラの謎を解くべく、ソ連崩壊後のロシアに赴く。

 資料をあたり、当時を知る人をたどり、話をつなぐうち明らかになっていく二人の波乱に満ちた過去とソビエトの暗い歴史、残酷な事実。謎を追うごとに明らかになっていくのは耐え難い暴力と不条理に満ちた現実と、それにさらされた人たちの痛苦、悲嘆なのだが・・・。

 それでも行間に溢れるのは、その地に息づく文化の豊かさであり、そこに生きる人々の暮らしの微笑ましさや愛しさである。そして、それらを凝縮したものこそオリガ・モリソヴナの反語法であり、オリガの生き方だったのだ。 




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