fc2ブログ
2023-03-12

豆腐小僧双六道中 おやすみ : 京極夏彦

『豆腐小僧双六道中 おやすみ』 京極夏彦

 なんかもう、京極さんがやりたい放題である。

 時は幕末。前作『豆腐小僧双六道中 ふりだし』で自分探しの旅の途上、武州の妖怪騒動?を治めた豆腐小僧。なんだかちょっと自信と向上心を身に着けた小僧、この度は、立派な化け物にならんと武者修行を思い立ち、達磨先生と共に甲州の裏街道を行きますが・・・。

 前作からお馴染みの狸に狐、達磨、化け猫に加えて、蟹や鴉や河童のカンチキ、その他ローカルな化け物どもも加わって、悪党の狙う信玄の隠し金をめぐっての大騒動。人間の世界では鈍感男に憑き物使い、霊感娘に村の衆、幕府の草やら勤皇浪人、武田の遺臣に隠し金を狙う三悪党~強欲商人、外道坊主、やさぐれ旗本が上を下へと入り乱れるわけですが、人間も化け物も京極さんの筆で踊れ!踊れ! 面白いように踊らされとる。さすが、手練れの妖怪使い京極夏彦!


 概念としての妖怪。キャラクターとしての妖怪。その振り幅の中で、今回はキャラクター寄りの妖怪の活躍と相成るわけだけども、『概念としての妖怪』のありようを想像する方がスリリングであるよなぁ・・・とも思う。しかし素人の私が『概念としての妖怪』を見るためには、やはり熟練の妖怪師・京極夏彦の力が要るんだけれども。


 ・・・ところで、信玄の隠し金を狙う三悪党の一人・甲府勤番のやさぐれ旗本猪狩虎五郎の個性的な容貌が、作中さまざまに形容されて、ちょっとした選手権状態になっているんだけれども。その悪意ゼロではないにしろ、とぼけた可笑し味を誘う場面を、ただ可笑しいと笑えない、そのあけっぴろげで素朴な残酷さにちょっと怯んでしまうのは・・・この小説が出てから十年あまりの年月が経ってるってこと。その間に世間や私の心にも色んな変化が起きてるってことなんだな。

 
スポンサーサイト



theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2023-02-25

豆腐小僧双六道中 ふりだし : 京極夏彦

『豆腐小僧双六道中 ふりだし』 京極夏彦

 江戸郊外の廃屋に棲みつく一匹の妖怪。ある夕暮れ、ふと「自分」という存在に気づいてしまったこの妖怪 ~ 大きな頭に笠をかぶり、豆腐を乗せた盆を手にただ立っているだけの「豆腐小僧」。自分はいつから此処にいるのか? 豆腐の盆から手を放してしまったら果たして自分はどうなってしまうのか? ただの「小僧」か? はたまた、豆腐もろとも消えてなくなるのか?

 「私はいったい何者なのか? どこから生まれて、どこに行くのか?」問題を胸に、「私」の消滅に怯えながらも、達磨に導かれ、狸に誑かされながらのほほんと行く豆腐小僧の旅は即ち、「妖怪って何だ?」を明かす蘊蓄語り。


 京極氏の妖怪論、もちろんふむふむと面白く読んだのだけど、それ以上に気になることが・・・。

 なぜ豆腐小僧は「消えてしまう」ことを怖がるんだろう? 他の妖怪たちは「自分たちは元から無いものなんだから」と達観しているというのに。いや、豆腐小僧ではなく、人はなぜ(皆が皆じゃないにしても)「消えてしまう」ことを怖がるんだろう? 消えてしまえば、それを怖がる「私」自体がいないというのに。妖怪が「人間が何ごとかを思った時にだけ現れる、元々存在しないもの」であるように、「私」も「生命」という何事かが起きている間の存在であるのに。
 

 ところで、豆腐小僧が「消えない」のは、「今まさにこのお話しが読まれている」からだと思ってたんだけど、違う・・・のか。豆腐小僧が妖怪の完成形だから・・・なのか? ちょっと、わからん。


theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2023-02-11

鳥獣戯画 : 磯﨑憲一郎

『鳥獣戯画』 磯﨑憲一郎

 何というか、まぁ・・・、今までの読書生活の中で一、二を争うくらいしんどい本だった。理解不能の理系本よりもしんどかった。

 のっけから語り手のおじさんは、私には関係ない、というか私にはわからない理由で何だか怒っていて、たまたま行き会ってしまった私に八つ当たり的に半ギレしてくるのだ。

 「ええ~っ?! 私はただ小説を読もうと思ってページを開いただけなんですけど?」と思いながらも、もしかしたら私にこのおじさんをイラつかせてしまうような非があったのかもしれないと思い、まあ、おじさんの言い分を聞いてみようとしばらく拝聴していたのだが、おじさんが語るのは、京都で密会した女優の生い立ちや結婚生活であったり、これまたキレ気味に生きてる明恵上人や文覚上人のことだったり、自分が父親になったときのことや三十年ほど昔の青春時代の思い出話であったり、私にしてみれば関係もなければ興味もない話が、それこそ絵巻物のように続くのだ。

 あまりのしんどさに途中で止めようかとも思ったし、何度か気が遠くなりかけたりもしたけど、最後のページまでめくった。

 わたしのあずかり知らんことで何かイラついてるおじさんに、ちょいキレ気味にとめどない話を一方的に聞かされるっていう体験。これも小説によってもたらされる一つの体験・・・なんだよな。

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2023-01-28

散歩する侵略者 : 前川知大

『散歩する侵略者』 前川知大

 猿之助さんのスーパー歌舞伎Ⅱ第一作『空ヲ刻ム者』の脚本家として気になる存在である前川知大氏。ホラーアンソロジー『だから見るなといったのに』に収録されていた「ヤブ蚊と母の血」のキレの良い文体とリズム感が印象に残っている。


 隣国との戦争の戦略拠点となっている海辺の小さな町に3人の「宇宙人」がやってくる、昨日までよく見知っていた人の姿で。彼らは毎日散歩に出かけ、町の日常を漁る。


 「ぅわ、こんな終わり方するんだ」

 残りのページ数が少なくなってきたのを見て、そろそろ終わりだな~ と思いながら読んでたらいきなり終わった。え? そんな終わり方? とびっくりしたっていうか、ちょっとがっかりした・・・かもしれない。でも、なんというか・・・噛みしめる毎に鮮やかで、後を引く幕切れ。

 「宇宙人」による「地球侵略」がいよいよ加速してきたぁ! 対する地球人の抵抗やいかに? さあさあ、どんな結末が待っているのか! とドキドキしながら読み進めるうちに、いつのまにか二人の男女が見つめ合うラブホテルの一室が視界いっぱいに大映しになっていたのだ。そこで繰り広げられ始めたドラマチックな出来事に、「お? お、おぅ・・・」と何か気圧されてるうちに、終わった。「ぅわ、こんな終わり方するんだ」

 んで・・・しばらく呆気にとられたままボヤッとしてると、だんだんと視界の端にじわっと見えてきたのだ。この部屋の窓の外の世界 ~ 隣国との戦争、宇宙人に侵略される町、パトカーの灯り、野次馬の喧騒、地球を救わんと闘う男の顔 ~ 大きな崩壊、あるいは劇的な変化に向かって静かに沸騰する世界が。


 

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2023-01-14

この人の閾 : 保坂和志

『この人の閾』 保坂和志

  仕事相手に約束をすっぽかされた「ぼく」が、近くに住む学生時代の先輩「真紀さん」のことを思い出し会いに行く、 『「小田原、一時」という約束の時間に着いて駅前から電話を入れると』という語りだしから、十年ぶりに会う、想像とはどこか違っていた「真紀さん」に『「おばさんになったねえ」と言ってしまった。』というところまで、文章の一息が長いのが印象的で、その長い一息にこちらの呼吸をあわせて読むと、行ったことはないけど、小田原って場所や真紀さんの家の庭の様子が身体に馴染んでくる。

 缶ビールを飲み、庭の雑草をむしりながら「真紀さん」と過ごす数時間。「ぼく」が思考する言葉は植物が蔓を伸ばすようにするするうねうねと伸びていく。その言葉の蔓は、私の血流滞りがちな血管や、普段きちんと使っていない神経の管の中に入り込んで行き渡っていく。

 4編読み終えて、それぞれの中で描かれる「時間」のことを思った。 

 「この人の閾」「夢のあと」では、思い出の過去までの時間、記憶の中の時間と、今、目の前で過ぎる時間。「東京画」では街を変えていく時間や、街を取り残していく時間、変化を止めてしまったものの上に流れる時間。「夏の終わりの林の中」には、場所に堆積する時間、森林を形成していく植物が刻む時間と、人の刻む時間。

 さまざまな「時間」との関連の中で生起し、変化していく人の心情。


theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2022-12-24

身体は幻 : 渡辺保

『身体は幻』 渡辺保

 一皮剥けたい。

 『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』『ちゃぶ台返しの歌舞伎入門』を読んで、「踊りをより楽しむ為には詞章を聞き取れるようにならなきゃ」などと言ってた割に、何の努力も取り組みも始めていなかったのだ、私は。歌舞伎舞踊を観てもあいかわらずただ表面的な華やかさ、美しさを眺めていただけだ。そんなとこしか観てないくせに、感想なんぞ書いていた自分が恥ずかしい。いたたまれない。詞章を聞き、理解することは「踊りをより楽しむ」ために必要なんじゃなくて、それが出来なきゃ舞踊を観る最初の一歩すら踏み出せてないんだった。


 能の舞や歌舞伎舞踊、地唄舞・・・日本の舞踊がどのように成り立っているか、日本文化全般に通底するその方法論。そして日本の舞踊における身体とは、そのような身体を生み出す日本人の身体観とはいかなるものか。

 とても刺激的な評論であるが、エッセイの形式で書かれているため易しく読める。易しく読めるが、著者の目にしているものを見ることはとんでもなく難しい。
 『舞踊も音楽も自分の内なる体験としてしか存在していない』

 私には舞踊を「内なる体験」として感受するだけの土壌ができてなさすぎる。

 私を分厚く包む愚鈍と怠惰の皮をほんの少しずつでも脱いでいきたい・・・。

『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』感想・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-869.html

『ちゃぶ台返しの歌舞伎入門』感想・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-898.html

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2022-12-10

「忠臣蔵」の決算書 : 山本博文

『「忠臣蔵」の決算書』  山本博文

 城明け渡し後から吉良邸討入まで、大石内蔵助の手元にあった藩の残り金の使途と金額をつぶさに記した『預置候金銀請払帳』。この史料を中心に同時代に遺された記録と照らし合わせながら、討入に至る赤穂浪士の行動を金銭的な側面から検証する。

 浪士たちの行動を支えた金銭の動きが見えることで、大石たちが事を運んだ道筋がより現実的な計画として見えてくるようだ。そして、吉良邸への討ち入りが、もはやそれ以上先延ばしのしようのない、手元の金が底をつくタイミングで行われたこともわかってくる。

 「忠義」「武士道」「仇討」の世界に「金」が絡んで、さまざまに人を縛り悩ますのは何も芝居の中だけではなくて、現実の世界であればもちろん、息をするにもお金がかかるわけではあるが、何某の借宅宿代、何某の飯料、何某勝手不如意ニ付・・・の名目での結構な額の支出が並んでいるのを見ると、「忠臣蔵」好きの私であっても、「・・・何をしとんねん」と溜息が漏れた。

 「忠義」だの「家中の一分」だの言いながら、自分の生活費すらどうにもできない、そして結局、藩のお金で借金の始末をつけてもらう浪士の多いことよ。少しは郊外で家庭菜園でもこしらえてみるとか、内職するとかして生活をどうにかしようとかしなかったのか・・・って、そういう生活者としてちゃんとしようと思う人たちは次々と脱盟していったのか・・・。

 そして、生活者としてはちゃんとできなかった「忠義バカ」たちの義挙(暴挙)に、私たちは何故か胸をうたれてしまうわけか。

 それにしても、いかに物価の高い江戸暮らしとはいえ、食費が一人ひと月6万円って、ちょっと高すぎじゃな~い?

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2022-11-26

実朝の首 : 葉室麟

『実朝の首』 葉室麟

 宇月原晴明『安徳天皇漂海記』を読んで「実朝ォォォォォォ~!!!」と号泣したあの日から、鎌倉三代将軍源実朝は「なんかもう・・・たまらん人」として私の胸に棲みついている。

 明日の大河を見終えた時、いったいどんな感情になっていることやら。そして大河ドラマはどういう結末を見せるのか。嗚呼!


 雪の鶴岡八幡宮。石段にさしかかった将軍・実朝を頼家の遺児・公暁が襲う。公暁から託された実朝の首を抱えて走る弥源太。公暁とは別の意図で実朝の首を利用することを考えていた弥源太だが・・・ 

 鎌倉、朝廷、源氏の血を継ぐもの、弥源太から首を奪った一派 ~ 実朝の首の所在と将軍の座をめぐって幾重にもからむ陰謀。権力の腐臭と我欲にまみれた闘争が陰湿に繰り広げられる中、実朝の首を護る一派~己の義に従い権力に逆らう好漢が寡勢ながらに鎌倉を掻き回し、北条や三浦を翻弄する様に胸がすく。

 そして終盤に明かされる実朝の真の想い。『安徳天皇漂海記』で自らの首を以て安徳帝の荒ぶる魂を鎮めんとしたのと同じように、力を持たぬ孤独な将軍・実朝は首となることで苦しみの中にある、ある方の心を安んじようとしたのだ。嗚呼! その哀しく健気な将軍の姿を想うにつけ、実朝に心を寄せる者の手で、その首が護られたことはせめても慰め。


 

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2022-11-12

銀橋 : 中山可穂

『銀橋』 中山可穂

「こんなときだからこそ食べて、こんなときだからこそ笑うんや!」

「さあみんな、胸を張れ。顔を上げろ。誇りを持て。宝塚の舞台が美しいのは、私たちの生命力が輝いているからだ。スタッフの才能と裏方さんの献身とファンの方々の熱い想いが私たちの生命力とまじりあって、舞台に魔法がかかっているからだ。」

 ああもう、本当にそれ。舞台に立つ人たちっていうのは・・・ 皆が泣いている時に共に泣くのではなく、強く美しく笑っていてくれるあの人達は・・・ 「ああ、この人たちは、私たちの為に何と辛く酷な使命を引き受けてくれているんだろう・・・」と、その尊さにが胸にこたえて・・・本当に有難いの。

 舞台人たちの愛と献身と稀有な才能によって生み出される舞台 ~ それは人が持つ最も崇高で美しいものが結晶した姿で・・・「ああ、美しいなぁ・・・」と、ただもうなんだか泣けてくるのだ。

 
 『男役』『娘役』で、溢れ出る色気とチャラさに隠した細やかな愛情を誰彼へと振り撒いていたモテ男レオンこと花瀬レオが、ついにその大輪を花開かせて宙組に落下傘でトップ就任。レオンを見守り、レオンを支え、レオンに憧れ、ひたむきに舞台にその身を捧げるジェンヌさんたち。愛を、夢を、天上的な美しさを、ありがとう~~~~と叫びたい。

 
・・・大劇場は難しいと思うけど、宝塚の博多座公演、観に行きたいな。


theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2022-10-29

娘役 : 中山可穂

『娘役』 中山可穂

 「娘役」の話だと思って読み始めたら、プロローグに続いて始まったのは、敵対する組長の命を狙う鉄砲玉の物語で、なおかつ命のやりとりが行われているその舞台が宝塚大劇場という・・・「なんという力業」と呆気にとられると同時にページをめくる手が止まらなくなった。

 目の前の席に座る標的の首に手をかけようとしたその瞬間、鉄砲玉・片桐と、初舞台生として踊る野火ほたるの人生が交差する。

 娘役としての歓びもそれに倍する痛みも苦悩も味わいながら、憧れの男役・薔薇木涼が差し出す手に支えられ、この上なく美しい、しかし限りなく細く険しい娘役の道を竦みそうな足で一歩一歩進んで行くほたる。

 バラキとほたる。繋いだ手を通じて交わされる想い、おののき、信頼、哀しみ、敬愛は、静謐で神秘的なビジョンとして描かれる。

 それは・・・広大なサバンナで迷子になりながら寄り添って生きて行く決意をした二頭のキリンの寄る辺なさだったり、どんなに目を凝らし耳をすましてみても通じ合う言葉を持たないライオンとキリンを隔てる絶望であったり、長い首を真っ直ぐにのばし、月明りに煌々と照らされたサバンナと、そこで優雅に踊るライオンの姿を静かに見つめ立ち尽くすキリンの気高さと孤独であったり・・・。

 多分にファンタジーではあるけれども、それは現実以上の真実なのだと信じられる。人はこんなにも汚れなく純粋で尊い夢を、純情を抱くことができるのだと、胸が切なさに泣く。

 そして、もう一つのファンタジー ~ 密かにほたるを見守り続けた男・片桐。恩ある組長・ムッシュに教えられた「品格・行儀・謙虚」という美学に洗い上げられ、彼を照らす光であったほたるに純情を貫いた片桐という男の生き様を、私たちは「美しい」と惜しみ、胸を熱くするのだ。

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

プロフィール

やぶからねこ

Author:やぶからねこ

FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

ブログランキング
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村 漫画ブログへ
カテゴリー
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
検索フォーム
カレンダー
02 | 2023/03 | 04
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
魂に喰い込んでます
月別アーカイブ
Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ