2017-11-18

アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風 : 神林長平

『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』 神林長平

 正体不明の敵・ジャムの大規模な攻撃により文字通りの「混沌」と化した世界。その中にあって人間は・・・。

 登場人物たちの一人称による哲学的思考の記述が大半を占める。混沌の中から自らの世界を掬い上げる言葉。自分と世界を回復するための戦い。

 困難で苛酷な戦いなんだけど、その戦いの中、戦闘機・雪風に手を引かれて人として生きていく術を身につけていく深井零大尉の姿は少し微笑ましくもあってな~




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2017-11-04

グッドラック-戦闘妖精・雪風 : 神林長平

『グッドラック-戦闘妖精・雪風』 神林長平

 ある日突然、地球に侵攻してきた正体不明の敵・ジャム。その意図はおろか実体の有無さえ不確かな敵を相手に異星の戦場で戦う地球防衛の実戦組織・FAFの中にあって、戦場の情報収集を任務とする深井零は、仲間を見殺しにしても情報を持ち帰るという使命を負い、愛機・雪風とともに戦場を飛ぶ。

 他の人間に関しては無関心を貫き、戦闘機である雪風との全き一体感の中に自分の居場所を見出していた~謂わば幼児的な充足感の中に閉じこもっていた深井零中尉(本作では大尉)は、前作ラストで極限状態の中、自分を置き去りにして飛び去っていく雪風の姿を見た。雪風からの手酷い拒絶。

 自分の半身のように思っていた雪風が実は自分とは違う意志を持つ「他者」であったという現実をつきつけられた零は否応なく「他者」のいる現実の中に引き出され、かつて自分の一部だと思っていた雪風とも「意志を持つ戦闘機」と「それに乗る人間」として関係を再構築していくことになるのだが・・・。

 混迷の度を深め激化していく戦いの中で、雪風が零を唯一無二の相手として認め、求めるありさまは、あまりに甘やかな零の夢・願望でもあるような気がして、「まさかこの話、『すべては深井大尉の夢(または精神世界)の中の出来事』っていうオチになるんじゃ・・・」っていう思いがよぎる。まさかそんなことはないと思うけど。

 読み切れないジャムの意図、独自の意識を形成するコンピュータ群の意志、人間たちの思惑が交錯する本作ラスト、登場人物の口から「愛」という言葉が出た。茶化すわけではないけど、この作者が書く「愛」って何だか「水戸黄門の印籠」的だなって・・・。理屈や説明ぬきで信じることができるものっていうか・・・。これまで神林作品は他に二作しか読んでいないんだけども、そのどちらにも直接的な言葉として、あるいは間接的に感じさせるものとして「愛」が登場していて、「作者は『愛』というものにとても大きな信頼と希望を寄せているのだなぁ・・・」と思うわけです。

 しかし、戦いはこれからさらに苛酷なものとなっていく様子。はたしてそこに「愛」はありつづけるのか。


『戦闘妖精・雪風(改)』感想・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-766.html


 

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2017-10-21

謎の物語 : 紀田順一郎編

『謎の物語』 紀田順一郎編

 結末が語られる前にプツリと断ち切られる物語。何故? 何が? 不条理、不可思議、不可解・・・様々な謎を含んだ物語。

 物語の中で起こるべき「もっとも怖ろしい出来事」「想像を絶する災難」、「断ち切られた物語の結末」「謎の答え」をそれぞれの読者の心の中に求めるスタイルの物語群。しっかりとその効果を計算して書かれたと思しき緊迫感溢れるものから、作者が自らの着想に振り回されたまま放り出したような印象の作品まで、色んなタイプの物語が並ぶ。海外作品については翻訳文体にも味があって、その部分でも楽しめる。

 収録作の中では、木々高太郎「新月」の古風とモダンの混ざりあった香りの高さと、ザワザワするような余韻が印象に残る。稲垣足穂の「チョコレット」は「謎の物語」というのとは趣が違うが、ユーモラスかつ硬質な幻想世界が心地良い。

【収録作品】
「女か虎か」 F.R.ストックトン
「謎のカード」 C.モフェット
「穴のあいた記憶」 B.ペロウン
「なにかが起こった」 D.ブッツァーティ
「茶わんのなか」 小泉八雲
「ヒギンボタム氏の災難」 N.ホーソーン
「新月」 木々高太郎
「青頭巾」 上田秋成
「なぞ」 W.デ・ラ・メア
「チョコレット」 稲垣足穂
「おもちゃ」 H.ジェイコブズ



文庫版は収録作品にかなりの変更があるようです。



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2017-10-07

戦国24時 さいごの刻 : 木下昌輝

『戦国24時 さいごの刻』 木下昌輝

 豊臣秀頼、伊達輝宗、今川義元、山本勘助、足利義輝、徳川家康・・・六人の男たちの死の直前の24時間~「さいごの刻」を奇想を織り交ぜて描く。

 刻まれる時の緊迫感、周知の歴史の一場面によりダークな色合いを加える作者の奇想を味わうだけでも充分なのだが、「最期の24時間」しか描かれていないことで、妄想力豊かな読者には事ここに至るまでのドラマをあれこれと思い描く楽しみもあるだろう。

 いやむしろ、ここに到るまでの時間を妄想させるためにこそ、最期のときの24時間だけが書かれたのか。

 六篇の中では足利十三代将軍・義輝の最期の姿が美しい「公方様の一ノ太刀」がいちばん好き。





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2017-09-23

存在しない小説 : いとうせいこう編

『存在しない小説』 いとうせいこう編

 「『存在しない小説』っつったって、実際ここに印刷されて存在してるし、今わたしそれを読んでるし・・・」と思ったのだけど、まさに「そういうこと」を云々する作品だったようだ。

 目次には、どうも怪しい作者とどうも怪しい翻訳者の名前が記された作品が並ぶ。それぞれの作品の後には「編者解説」が付され、つい今まで読み、味わっていた小説の「存在」を問うてくる。

 そういえば、いとう氏と奥泉光氏が文学について語り合った『文芸漫談』の中に、〝形としては紙に印刷された文字様のシミの集合である「小説」って何なんだ?”っていうような話があったと思うけど(随分前に読んだものなので記憶が曖昧)、この作品はその問いを読者として体感するための仕掛け。

 「小説」はどんな次元に存在するのか・・・?

 紙に印刷されたシミを小説たらしめる読者の中の翻訳者。一昨年、伊藤計劃・円城塔の『屍者の帝国』を読んだときにこんなことを感じて以来、「読者としての私」の前にいる「翻訳者としての私」の存在を多少意識するようになっていたので、そのあたりの感覚を刺激されつつ興味深く読んだ。

 でも、そういうコト抜きにしても、それぞれの作品は一つ一つ味わいの濃い短篇小説として楽しめました。


  

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2017-09-09

関ヶ原

『関ヶ原』 監督:原田 眞人

 とにかく平岳大さんの島左近がカッコ良すぎた。渋すぎた。美しすぎた。

 この映画の何が見たかったかって、「岳大さんの島左近っ!」だったので、期待どおりの素敵っぷりに大満足。胸いっぱい。


 ・・・で、島左近はおいといて映画としてどうだったかというと・・・・・・一人一人の俳優の演技はいいし、関ヶ原で激突する武将たちの人物像もいろいろと作りこまれているんだけど、その人物たちが集まって生まれるべき大きなドラマの流れというかうねりが弱い。細部にいろいろ詰め込んだ結果、全体が散漫になってしまってる気がする。

 西軍を率いる石田三成~岡田くんが丁寧に演じれば演じるほど「やっぱり家康と天下を争う器じゃない人」になる気がする。個人的な理想と誠をつらぬく「義」の人ではあるけれど、大勢の人に向かって「正義」をぶち上げるほどの曲者ではないもの、三成。関ヶ原の戦いってきっと「正義」vs「野望」なんて単純な構図ではないんだろうに、そういうフレーズを宣伝文句にしてしまったのはせっかくの作品の質を損ねているような気がする。

 あと、皆さんお国訛りが凄すぎる上にしゃべりがマシンガンなんで何言ってんのかわかんない=何が起こってんのかわかんない。この映画観に来てるのは殆どが歴史好きの方であろうから、少々台詞が聞き取れなくてもどういう場面なのかは了解しておられるのだろうが、私は加藤清正ら七人党と三成のいざこざのくだりなんて、去年『真田丸』観てなかったらわかんなかったと思う。

 ・・・てな感じで、多少の不完全燃焼感はあるんだけど、もう一回、島左近を見たいなぁ~。あと、近いうちに原作も読みたい。

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2017-08-26

大江戸国芳よしづくし : 崗田屋愉一

『大江戸国芳よしづくし』 崗田屋愉一 

 武者絵で名を馳せる浮世絵師・歌川国芳。その国芳の若かりし頃~兄弟子たちの下でその腕をもてあまし気味に暮らす鬱屈した日々と、やがて迎えるブレイク前夜まで。

 国芳の支援者・プロデューサーとして長く友情を結ぶことになる遠州屋佐吉との邂逅。同時代のヒーロー七代目團十郎や鼠小僧次郎吉が絡んだ切ない人情話の中に、江戸の人々の思いをとりこんで次第に生き生きと力強く花開いていく国芳の絵と才能が、勢いある筆致で気持ちよく熱く描かれる。

 ちょんまげ男たちが色っぽくて困る。特に佐吉さん。迫力ある三白眼に大ぶりな鼻と口、引き締まった全身の肌に彫った九紋龍の刺青。凄いくらいの滴る色気。参った。




 こちらもよかった↓
 『ひらひら 国芳一門浮世譚』・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-650.html



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2017-08-12

生きるとは、自分の物語をつくること : 河合隼雄・小川洋子

『生きるとは、自分の物語をつくること』 河合隼雄・小川洋子

 「人が生きている」ことの周辺にあるもの、そこで起こることについて、臨床心理学者・河合隼雄氏と作家・小川洋子氏が語りあう。

 「物語」というものを意識しながら交わされる対話。臨床心理の仕事の現場や小説を書くという行為の中に身をおかれているお二人の間には、対話の中でおそらく互いにスパークするように瞬時に何事かが了解される瞬間が幾度かあったのだろう。書き起こされた文字だけを読んでいるとなんだか急に言葉と言葉の間が途切れ、話が飛躍しているように見えるところがある。

 一見、言葉が飛んでいるように見えることで、逆にそこに言葉にならないお二人の間の瞬時の了解、共感、通じあう何かが生まれていたことが感じられるのだ。

 二度目の対談で交わされた「ブラフマンというのはユングが大好きな言葉ですよ。」「今度はあの作品(『ブラフマンの埋葬』)の話からしましょう。」という約束の後、河合氏が倒れられ、そのあとには小川氏による「長いあとがき」が収められている。寂しさ、喪失感とともに、いまも河合氏の笑顔に見守られているかのような穏やかさの感じられるあとがきだった。



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2017-07-22

僕らの歌舞伎 先取り! 新・花形世代15人に聞く : 葛西聖司

『僕らの歌舞伎  先取り!  新・花形世代15人に聞く 』 葛西聖司

 読みながら、「長生きしたいな」と思う。

 尾上松也、中村梅枝、中村歌昇、中村萬太郎、坂東巳之助、中村壱太郎、坂東新悟、尾上右近、大谷廣太郎、中村種之助、中村米吉、大谷廣松、中村隼人、中村児太郎、中村橋之助。現在20代から30代前半の彼らの20年、30年後・・・40代、50代になっていく彼らをみていたい。

 今まさにほころび始めた歌舞伎の若手花形15人の「今」の言葉を聞くインタビュー。中でも印象的だったのは、歌昇さんの覚悟と男気、巳之助さんの硬骨ぶり、壱太郎さんの身の内に持って生まれているかのような華やかさ、右近さんの情熱的かつクレバーに役に取り組んでおられる姿勢、ストイックすぎるくらいに自分を追い込んでいるように見える児太郎さん、種之助さん、廣松さんの「弟」っぽさ(笑)。

 特に種之助さんってホント「弟」キャラ。兄の姿を見ているのである意味要領が良くて、兄の領域には侵入せず、かといって兄とかぶらない隙間を探しているような窮屈さはなく、割とのびのびと自分の世界を探っていっている感じ。

 種之助さん、廣松さんの「弟」っぽさにニヤニヤしながら、ふと七之助さんのことを思った。やはりかつては中村屋兄弟の「弟」キャラであった七之助さん。いつのまにか「弟」的立ち位置を脱却して、中村屋を背負う一人の男として大きく、逞しく、美しくなられたよなぁ。

 もひとつ最後に、「ワンピース歌舞伎」で大興奮させてもらった隼人さん。イケメンすぎる容貌からイマドキのスマートで優しげな青年をイメージしていたのだけど、意外にもインタビューから感じるのは骨太で獰猛なまでに前のめりな若者の姿。そう思ってみると、サンジって中身もふくめて隼人さんにぴったりの役だったんだなぁ。



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2017-07-08

ゆるりと江戸へ-遠眼鏡戯場観察 : 大原雄

『ゆるりと江戸へ-遠眼鏡戯場観察』 大原雄

 タイトルが良かった。

 『「歌舞伎の幾何学の勧め」-ひと味違う歌舞伎の見方』という口上で始まる本書。歌舞伎役者・中村時枝が舞台裏や楽屋から描いた役者絵を見たことで得た「違う場所から観れば違うものが見えるはず」という気付きをもとに、著者流の「幾何学」を使った歌舞伎「観察」指南書といったところを目指しているようだが・・・。

 「幾何学」というほど大層なものではなく、大道具・小道具といった舞台上に配された「点」、観客と役者を結ぶ「線」、舞台上の人物の関係性と観客を繫ぐ「多角形」、舞台上の時空を分ける幕という「面」・・・などの図形にことよせて、著者自身の歌舞伎の楽しみ方や気づきを思いつくままに記した雑記という感じ。

 一歌舞伎ファンの観劇雑記としては、劇場内の音や、色彩や、仕掛けに触れてこみ上げるワクワク感など、ふむふむと共感を寄せながら読むことができるが、読み漁っておられるらしい歌舞伎関係の書籍からの知識がそのまま透けてみえるような部分はあまり良い感じはしない。

 「鑑賞」への一助として、著者は双眼鏡などをつかって舞台上の細部を「観察」することを勧めておられるのだが、私は「好きな役者の顔がど~しても見たい!」という場合以外、オペラグラスなどは使わずに観ることにしている。オペラグラスなどを使うとどうしても視野が限られてしまって、舞台全体を観て楽しむことができない。毎月歌舞伎座通いができるならいざ知らず、年数回博多座での公演を観る機会しか持てない私は、双眼鏡で細部を観察するよりもやはり舞台全体を観たいと思ってしまう。

 観劇初心者といえども、好きで芝居を見ているものにはそれぞれ自分なりの見方、楽しみ方というものがあるんであって、正しい知識というものは必要だろうと思うけども、何をどう見るかについてまで色々意見されるのは・・・まぁ、余計なお世話っちゃあ、余計なお世話。

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