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2019-08-10

女たち三百人の裏切りの書 : 古川日出男

『女たち三百人の裏切りの書』 古川日出男

 なんで『女の裏切り』にこだわったのか、そこんとこがよくわかんない。

 既存の物語を読み替え、語り直し・・・。語る者、聞く者、書く者、読む者たちを取り込み、巻き込んで、やがて物語は分裂し増殖する。物語は物語の外の世界に滲み出し、外の世界は自ら物語の一部となり・・・。

 物語の中で語られる物語、その外側にある物語、さらに外側でその物語を読む者への問いかけ・・・重層的な仕掛けで紫式部の『源氏物語』宇治十帖が次第にその姿を変えていくのだが・・・

 一番引き込まれたのは、物語が大きく動き変わっていく後半よりも、式部の宇治の物語をほんの少しだけずらして語り直す物語序盤の部分であって、さすが『人を惑わす物語を語った罪で地獄に堕ちた』といわれる紫式部の凄みを改めて感じさせられたのだった。



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2019-07-20

ののはな通信 : 三浦しをん

『ののはな通信』 三浦しをん

 無邪気でふわふわした(だけではない)はなと、クールで思索的な(もちろんそれだけではない)のの。文字には乗せきれない沢山の思いを込めて交わされる二十数年間にわたる往復書簡。

 先日、『あの家に暮らす四人の女』を読んだときには、もっと共感できても良いはずの登場人物たちを、いまひとつありありと感じられない自分に戸惑ったりしたのだが・・・。あれは、描かれているのが「大人の諸問題」~ほぼ頭で考えて処理しちゃうような事柄だったからなのかもしれない。しかし、こと青春時代のあれこれとなると、頭で考えることなど何ほどのものでもなくなるくらい圧倒的に吸引力が違うのだということを身をもって味わった。巻き込まれすぎてぐったりだ。

 第一章と第二章は、ののとはなの高校~大学時代。ああ、これは! 私が10代から20代の初めに過ごした時間そのもの。

 私が過ごした10代も、丘の上に建つカトリックの女子校に通い(作中同様、近くにはカトリックの男子校もあった)、休み時間の教室や自習中の図書室で、『日出処の天子』や、『ネバーエンディングストーリー』のおっさん顔のドラゴンや、『ミツバチのささやき』のアナ・トレントについて語り合う毎日だった。それに昭和六十三年、四月初めの東京に雪が降った日のことも鮮明に覚えている。あの日、私たちはお花見に行く予定で、手作りのお弁当なんか用意していたんだよなぁ。

 そして何より・・・、昭和が終わろうとするその頃、自分の中の愛すべき大切な何かをもうすぐ失うのだろうと感じていたこと。これから自分が失ってしまうものたちに、それでもいつか『また会えるといいね』と願っていたこと。ああ、あまりに似ている。


 第三章・第四章は第二章から二十年ほどが過ぎ、それぞれの場所で生きるののとはなの再会とその後。

 青春時代に育まれた自分の芯となるものをしっかりと抱いて、自分の居場所、在りよう、進むべき道を模索しながら生きていく二人の姿に、若かった頃の私にも、守り、支え、寄り添い、指針となってくれたものがあったことを思い出し、これまでも折に触れて頭をよぎることのあった問い~「私は少しでも良い大人になれているだろうか」ということを考えた。

 
 
 ところで、第二章の残酷なまでに無邪気なはなと、その無邪気な甘やかさに抗えないのの・・・。「なんだか甘ったれの蓑原くんにいいように振り回される諸戸道雄みたいだ」と思ってしまったのだけど、『孤島の鬼』はきっと二人も中学か高校の頃に読んでて、諸戸道雄の哀しい恋と献身について熱く語りあったことなんかもあっただろうね。




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2019-07-06

グッド・バイ : 太宰治

『グッド・バイ』 太宰治

 数年前に読んだ森見登美彦『四畳半王国見聞録』「グッド・バイ」で胸の奥に埋めた古傷から血の吹く思いをして以来、いつか本家太宰の「グッド・バイ」を読もうと思っていたんである。

 太宰最晩年の作品5篇が収録されたこの文庫、今更、あえて感想なんて言うのも何だ・・・という気もするけれど・・・。

 もうヤバさしかない「トカトントン」はおいといて、「パンドラの匣」「ヴィヨンの妻」「眉山」「グッド・バイ」・・・。災厄いっぱいの世の中で匣の隅にわずかに残された明るみの如き療養生活を送る青年や、酒に溺れてダメの極みを行く男、その傍で妙に逞しい女たち。「・・・もうダメだぁ」という叫びや、つぶやきや、呻き、視界の端に見え隠れどころか、がっつり姿現しちゃってる死の気配を、もう眉毛を困ったな~の形にして情けなく笑うしかない滑稽さでくるんだこれらの小説を、いったい私はどんな顔をして読んで、読んじゃったあとのこの気持ちをいったいどこに収めればいいんだろう?


 
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2019-06-22

シューマンの指 : 奥泉光

『シューマンの指』 奥泉光

 指を失ったはずのピアニストがシューマンの故郷の町の小さなホールでピアノを弾いていたことを報せる手紙と、それにつづいて綴られる「私」の手記。長いあいだ封印されていた天才ピアニスト永嶺修人をめぐる記憶が、何事かを秘めた言葉で語りだされる。

 何が語られようとしているのか、語られる言葉は何を隠しているのか・・・。懐かしさと愛しさと不吉さが混ざり合う(それは、手記に記される『永嶺修人の語るシューマン論』と並行するような)語りの先に仄見える決定的な出来事。何かがおかしい。その不穏さに緊張しながら、導かれるままに読み進める。

 シューマンが聴き、表現しようとしたもの、修人が奏でるビアノの音、この世に遍く存在する「音楽」の姿、その「音楽」に撃たれる体験 ~ 五感に触れてイメージを溢れさせる言葉の渦まく流れ。その流れに巻かれ陶然となりながら、「私」の体験と感覚を共有する。やがて静かに終息していく感覚の渦。最後の音の余韻の中で天才ピアニスト永嶺修人をめぐるミステリーのページを閉じた。


 歌人・穂村弘氏の読書日記『きっとあの人は眠っているんだよ』の中で、【天才ピアニストの悪魔的魅力】と題されて、永井するみの『大いなる聴衆』、飛浩隆の「デュオ」とともに紹介されていた一冊。


 

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2019-06-08

Self-Reference ENGINE : 円城塔

『Self-Reference ENGINE』 円城塔

 んんん~~・・・これ、私に感想書けるのかなぁ。正直、これらのお話が語られている世界(宇宙?)がどういうことになっているのかイメージできていやしないし、言葉の意味すらわからなくて、なんとなく読み飛ばすしかなかったとこもあるし。

 しかしなぁ、いまのこの、切ないような・・・寂しいような・・・ウェットな心持ちは何なんだろう?

 本を閉じて思い返してみると、お話を読むというより、次から次へと、それ自体誰かの見ている夢かもしれない夢を見ていたような・・・そんな感じがするのですよ。 

 時間がまっすぐ進むのをやめて、粉々に砕け散った時空間が好き勝手に増殖する中、自然現象なみの計算能力を誇る巨大知性体たちは、この事態をどうにかするべく休む間もなく計算を続けていて。無茶苦茶になってしまった時間と宇宙の中でも人間たちはいくらか健在で、あらゆる方向、あらゆる時に向かって何かを目指して走っていたりして。

 そんな、際限なく生み出されるお話 ~ 人間と巨大知性体たちのなんでもあり、なんにもなしの大冒険を、それこそ夢の中のような奇妙なリアリティで目の当たりにして・・・


 「あぁ、夢だったのか・・・」なんてちょっと虚脱しながら、夢の感触を追っかけたくなるってことは、見ていた夢の中に心惹かれるものがあったってことなんだろうなぁ。




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2019-05-25

高杉晋作を歩く : 一坂太郎/吉岡一生

『高杉晋作を歩く』 著:一坂太郎/写真:吉岡一生

 萩、江戸、京都、下関、山口、長府、長崎、小倉・・・晋作ゆかりの地に彼の足跡、痕跡をたどる。目に見える景色の先に歴史の一場面を思い、晋作の姿を偲ぶ。

 各地の観光施設や名物、土産物なんかの紹介もついていて、思ったより旅行ガイドブック色が強かった。もう少し史料的な要素も期待していたんだけどな。江戸藩邸にいたころの行動範囲とか、試撃行の足取りなんかを詳細に追ってくれると嬉しかったな。

 晋作好きとしては何度歩いても楽しい萩、下関、長府。まだ行ったことのない絵堂、太田にもぜひ足を運びたい。山口市内、湯田温泉近辺にもこれまでスルーしてしまっていた奇兵隊ゆかりの場所があるらしい・・・今度ゆっくり回らねば。また梅が咲く頃に東行庵に行けないものか。ページをめくりながら、以前旅したときに見た風景や、まだ未定の旅の計画がふわふわと頭のまわりに漂います。

 あと、本書にも写真が載ってる晋作がうのに贈ったっていう長崎土産のハンドバッグ! これ東行記念館に展示されてるのを見たけど(レプリカだったけど)、すっごく可愛かった! 晋作のプレゼント選びのセンス! 花柄を織り出したビロード地の丸っこいがま口バッグ。これ復刻されたら絶対買う!



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tag : 高杉晋作

2019-05-11

つぎはぎ仏教入門 再読 : 呉智英

『つぎはぎ仏教入門』 呉智英

 もう何度か書いていることだけども、若い頃に読んだ岡野玲子さんのマンガ『ファンシイダンス』や、独特のスタイルで仏教を実践するみうらじゅんさんのおかげで、仏教にうっすらと興味を持ち続けている。

 今はのほほんと暮らしている私だけど、いつかどうしようもない苦しみを抱える時が来るだろう。その時にもしも宗教的な何かにすがるとしたら、それは仏教に近いものかもしれないなぁ・・・とか思っている。
 
 なので、時々仏教についての本を読みたくなる。この本は何年か前に読んでいるのだけれど、再読。

 宗祖・釈迦が説いた最初の姿からは時を経るごとに大きく変容し、広まり、受容されていった仏教の現状、諸問題を、歴史や、他の宗教、思想、社会に関する知識を「つぎはぎ」しながら語る。

 一度読んでるからってこともあるのかもしれないけれど、とても読みやすく、わかりやすい。わかりやすい・・・ということは、沢山の複雑で難解な情報を著者が充分にかみ砕いて提示してくれている、ということだけども、かみ砕く段階で、当然著者による情報の解釈、取捨選択はされてるわけだよね。それってこの本に限ったことではないんだけれども、あんまり読みやすいんで、逆にというかなんというか、そういうとこが気になるっちゃ気になった。

 日本の仏教の現状って、解説書や謎解き本、二次創作の類が「原作」になりかわって広まっちゃってるっていうことなのかな。

 それぞれに「原作」である仏教に触れたひとたちの熱い想いで作られたものであっただろうし、二次創作を愛し、必要とするユーザーも大勢いたのだろうけど、ユーザーに迎合した、もしくは自分の願望をぶちこみすぎた二次創作を作りつづけ、さらには商業(もしくは政治)ベースにのっかった結果、原作とはかけ離れたものになった上にクオリティも低下し、それを求める人も、原作の素晴らしさを知る人も今となってはもう・・・というような。  
 



 

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2019-04-27

きっとあの人は眠っているんだよ : 穂村弘

『きっとあの人は眠っているんだよ  穂村弘の読書日記』 穂村弘

 歌人・穂村弘氏の読書日記。

 漫画、詩歌集、エッセイ、ミステリ、写真集、対談集、絵本、実用本・・・。古本屋めぐりで手に入れて・・・、装丁が気に入って・・・、友人、知人に勧められて・・・、風邪をひいて寝込んだ時に・・・、一切の゛ためになる本”が読みたくない時に・・・穂村氏が手に取り、読んだ本にまつわるあれこれ。

 やはりここでも突出して見えるのは穂村氏の異世界願望。「世界が反転する感覚」とか「日常生活とはレベルを異にするリアリティの現出」だとか「現実を突き抜けてしまう言葉や思い」への強い憧れ。読書によってもたらされるそういう体験や瞬間へのひりつくような期待、濃すぎる愛着。異世界を内包した書物と、それを読むことで束の間現れる、この世のものではないリアル。その硬質な美しさをいとおしむ手触りと、そこに漂う幸福な切なさ。



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2019-04-13

あの家に暮らす四人の女 : 三浦しをん

『あの家に暮らす四人の女』 三浦しをん

 しをんさんの小説を読むのは3年ぶり。読み始めて少しして思う・・・゛やっぱり読みやすい”。たしかエッセイに書かれていたと思うのだけど、しをんさんは何度も音読をして作品に手を入れるのだとか。そこから生まれるのであろう心地よいリズムにのった筆運び。思わずニヤニヤくすくすしてしまうひねった言葉、言い回し。滑るようにページが進む。

 ただ、スイスイとページは進むのに、なかなか「没入」が来ない。四人の女たちの暮らしぶり、キャラクター、関係性・・・などなどからして、以前ならもっと登場人物の誰かに共感したり、感情移入したり、杉並の木立を透かす日差しや、梢を吹く風、雨や土の匂いまで感じられるほど夢中になったり・・・容易に出来てたはずなのに。ページをめくりながら私はずっと本の外から四人の暮らしぶりを眺めてる。どうしたことだ。

 一体何が変わってしまったのか。私の中の何かを感じ、共感する力はこうも衰え、鈍ってしまったのか。この先、物語や小説に激しく心揺さぶられることはなくなっていくのか・・・と嘆かわしくなってきた。

 しばらくオロオロと考えていたのだけど、何もそんなに悪いことじゃない・・・の・かもしれない。鶴代と佐知母娘の関係や、穏やかな中にも細々とした問題や屈託をかかえて暮らす佐知、雪乃、多恵美の言動に、以前ならいちいち波立っていた私の中のコンプレックスやわだかまりは、いつのまにか大半が消化され凪いでいるということでもあるのだろう。ここまで来るあいだには、きっと色んなものに寄り添ってもらっていたんだろうなぁ、私。
 
 初めてしをんさんの小説を読んでから、もう15年近くたつんだなぁ。歳をとったんだなぁ、私。でも佐知たちは、10年後に本を開いたとしても今の歳のままで、四人(五人?)で一つ屋根の下に暮らしていて、そしてまた、本を開いた誰かに寄り添ったりするんだろうなぁ。

  

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2019-03-23

おらおらでひとりいぐも : 若竹千佐子

『おらおらでひとりいぐも 』 若竹千佐子

 ネズミのたてる物音を聞きながら居間で茶をすする桃子さん。病院の待合室でまわりの人たちの様子を眺める桃子さん。亡き夫の墓への短くはない道のりを痛む足で歩いていく桃子さん。傍からみればただそのようにしか見えない桃子さんの中では、たくさんの声や言葉がとめどなくあふれ語り合い渦巻いている。

 自身の身体的・生理的・精神的状況、地球46億年の歴史、論理的思考、経験的知恵や感覚、記憶の底から浮かんでくる過去の情景・・・東北弁、文語表現、日常的な口語体、境目もなく絡み合いながら、老いにさしかかった桃子さんの内側で言葉となってだだ漏れる様々なことども。

 言葉の渦巻くさまは町田康のようだなぁ、とも思った。町田康の言葉が狂騒的なビートやちゃかぽこいうお囃子のリズムにのって繰り出されるのに対し、桃子さんの言葉は何というかなぁ・・・ブーンと唸る低周波音の振動のようだけど。

 桃子さんの中で交わされる会話、桃子さんの中で溢れ渦巻く言葉、それらは良くも悪くも桃子さんただ独りのものでしかない・・・のかな。桃子さんの言葉は桃子さんの来し方から生まれているのであり、桃子さんは「経験しなければわからないことがある」と思うのであり、桃子さんは「ひとりでいく」と言っているのだから。




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